理事長便り No.12
2018年5月30日 15時05分日本神経化学会
会員 各位
夏を思わせるような日が続いた5月でしたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか? 東京では初夏の風物詩として三社祭りが有名ですが、今年も多くの人で賑わったようです。今年も暑い夏になりそうです。
さて、理事長を務めますと、科学関係の賞あるいは研究助成の授賞式にお招き頂くことがあります。多くの授賞式が東京で行われますが、幸い東京に在住しておりますので、時間が許す限り出席をしております。日本神経化学会の会員の中から一人でも多くの受賞者が出ることを願っておりますので、私が会に出席することで少しでも知己を得、日本神経化学会の名を浸透させることができればと考えております。
生命科学系だけでなく、いろいろな分野のいろいろな方々との交流は楽しいものです。授賞式だけでなく、前回の理事長便りに書きましたような展示会や講演会、あるいはいろいろな会社のインキュベーション・カフェなどで行われているクリエイティブなトークの会、いずれにおいても新たな発見と驚きがあります。
例えば、セルフ・アーカイブという言葉はご存じでしょうか? セルフ・アーカイブの発展型と言えるかもしれませんが、コンピューターサイエンスの世界では、論文になる前のプレプリントをどんどん積極的に自社なら自社のホームページに公表することが当たり前のようになってきています。論文になる前のプレプリントが「価値」を持つようになってきています。このような波は生命科学の世界にも押し寄せてきているかと思います。すでに、そのようなweb上のサイトも立ち上がってきています。
つまり、そう遠くない将来、論文の定義が変わってくるのではないかと思われます。私たちはいま論文といいますと、査読を受けて確立した科学専門誌に掲載されているものを想定しますが、いずれの日か、今私たちがプレプリントと読んでいるものも「論文」になる時が来るのではないでしょうか。論文の定義も変われば査読の定義も変わることになるかと思います。書く側も、読む側も一層の自己責任が問われるような日が来るのではないでしょうか。
そうしますと、業績評価とは何をもってすることになるのでしょうか。今流行のインパクトファクターという物差しは時代遅れになる可能性があります。科学誌に掲載されるものだけが論文ではなくなるからです。専門誌に掲載された論文数と言っても意味を持たなくなる可能性すら有ります。
生命科学系では、学会発表よりも科学誌に論文をいち早く掲載することがプライオリティにおいて重要視されますが、今後は他分野のように、方法は何であれ、いち早く公表することが重要になってくるのではないでしょうか。AIの進展は、プレプリントに対して、今と異なった第三者評価を可能にするかと思います。
神経化学会の年次大会ではその昔抄録は1演題に付き4ページの分量でした。いわゆるproceedingsの形式を取っていました。生命科学の世界も、論文の定義が変化し学会発表がより重要になるとしますと、神経化学会は60年も昔に未来世界を先取りしていたのではないかとすら思えてきます。
今日私が書きましたことは、私個人の予測ですので、そうなるとは限りませんが、いろいろな世界に触れることでいろいろな考え方を持てるようになるのは確かなことかと思います。会員の皆さまにおかれましても普段接する環境だけでなく、知の冒険旅行をされてみてはいかがでしょうか。
梅雨も近づいてきております。どうぞご自愛ください。
平成30年5月28日
理事長
和田圭司