理事長便り No.13
2018年7月5日 13時13分日本神経化学会
会員 各位
今年も半分が過ぎましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
東京では入谷の朝顔市、浅草のほおずき市の季節となりました。いよいよ夏本番です。
すでにご案内していますように、日本神経化学会では子育て支援篤志基金を設けました。お子様を帯同しないと年次大会に出席出来ないという会員の方も居られます。そのような会員のために、少しでもお子様の帯同に要する費用を支援したいと思って設けました基金です。既に募集が始まっていますので、該当される方はご遠慮なくご応募ください。
https://www.neurochemistry.jp/jo9mwtt26-12/#_12
今回も少し四方山話をいたします。皆さまは「ダーウィンの海」という言葉をご存じでしょうか?
基礎研究と臨床応用の間に横たわる「死の谷」という言葉はかなりポピュラーになりましたので、ご存じの方も多いと思います。「ダーウィンの海」はいわば「死の谷」の後ろに控える大きな海と言えます。医薬品開発に限った用語ではなく、製品化・事業化と産業化・量産化の間に横たわる大きなギャップという意味での経済用語です。「ダーウィンの海」を渡ったところに消費者がいます。消費者に受け入れられない製品はダーウィンの海を渡りきることが出来ず自然淘汰されていく、ということです。
消費者という言葉を会員さらには国民という言葉で置き換えた場合どうなるでしょうか?
開かれた学会とよく言いますが、会員の皆さまはもちろん一般の方々に受け入れられないと真の意味で開かれたことにはならないと言うことではないでしょうか。これからも「ダーウィンの海」を渡る努力をしていきたいと考えています。会員の皆さまにおかれましては、いつでもご遠慮なくご要望を理事会までお伝えください。
さて、生命系研究で、「ダーウィンの海」を渡って国民の皆さまに受け入れられると言うことはどういうことでしょうか?
生命系研究の向かうところは、一つには生命の神秘に迫ることであり、一つには疾病の克服を通してしあわせな社会を実現することかと思います。
では、しあわせな社会とは何でしょうか?
実は定義はまちまちです。経済の世界では、産業化において、ダーウィンの海の向こうに居る消費者のニーズを調査しておくことは当たり前かと思います。
これに対しまして、生命系研究、医学系研究ではどうだったでしょうか?
例えば、これまでの疾患研究は「克服の先にしあわせがある」と考えてきたように思います。私個人の考えにはなりますが、「しあわせとは何か」をあらかじめ考えてスタートする研究もあっても良いような気がします。
個人的な話で恐縮ですが、20から30年近くも昔、従来の医学に対して逆向きのベクトルを有する「逆医学(リバースメディシン)」ということを真剣に考えたことがありました。病気でなく病人というように「人間」を前面に出して考えることで、いま、少しその答えが見つかった気がいたします。医学の場合は患者さん、学会の場合は会員になりますが、患者さんであれ会員であれ国民であれ、個人や社会のしあわせを出発点にしたいわば逆向きの「神経化学研究」から未来型科学を生み出せないかと考えています。
暑さが厳しくなりますが、熱中症などにお気を付けください。
平成30年7月2日
理事長
和田圭司