タイトル
2010年度 奨励賞 森口 茂樹
概要

認知機能調節における
CaMキナーゼIIの分子基盤


Molecular basis of CaM kinase II on cognitive function

森口 茂樹 Shigeki Moriguchi
東北大学大学院薬学研究科薬理学分野


Department of Pharmacology, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Tohoku University


<研究概要>
小胞体はNMDA受容体および電位依存性Ca2+チャネルより細胞内へ流入するカルシウムの取り込み、貯蔵、リアノジン受容体およびIP3受容体を介して放出するカルシウム誘発性カルシウム放出(CICR)を担い、放出されたCa2+により細胞内のCa2+濃度が上昇し、イオンチャネルの調節、またカルモデュリンと結合してCa2+/カルモデュリン依存性酵素を介して様々な生理機能を担うことが考えられています。 我々は、興奮性細胞において細胞表層膜と小胞体膜が近接した結合膜組織の一つであるジャンクトフィリン(JP)に注目し、中枢特異的JPサブタイプであるJP3およびJP4の両者を同時欠損するマウス(JP-DKO)を作製し、細胞内カルシウム恒常性の調節・維持と認知機能調節におけるJPの役割について検討しました。 Y迷路試験、受動的回避試験による行動解析の結果、JP-DKOでは対照群と比較して有意な認知機能障害が確認され、電気生理学的手法による海馬CA1領域における長期増強現象(LTP)の顕著な減弱が確認されました。 次に、抗リン酸化抗体を用いて免疫ブロット法を行った結果、JP-DKOでは対照群と比較してCaMキナーゼII自己リン酸化の顕著な恒常的活性亢進が確認され、後シナプスにおけるリン酸化基質であるAMPA受容体GluR1(Ser-831)のリン酸化レベルの亢進も確認されました。 また、パッチクランプ法により海馬CA1錐体細胞における電流固定測定において、脱分極性の後シナプス電位(EPSP)に引き続き発生する過分極電位(afterhyperpolarization: AHP)の消失、さらに、SKチャネルの機能異常がJP-DKOにおいて惹起していることを明らかにしました(Moriguchi et al., PNAS,2006)。 我々の研究により、これまで神経興奮性の制御に関与すると考えられてきたAHPの形成が、可塑性形成にも密接に関与していることが強く示唆されます。 また、CaMキナーゼIIの恒常的活性亢進が認知機能障害に強く関与していることから、CaMキナーゼIIの活性調節により認知症などの病態解明や治療法の確立に向けた成果が期待できます。