タイトル
2010年度 最優秀奨励賞 小西 慶幸
概要

神経細胞の形態制御に関わる細胞内在的分子機構

Intracellular molecular mechanisms involved in the neuronal morphogenesis

小西 慶幸   Yoshiyuki Konishi



<研究概要>
神経細胞がいかにして複雑な形態を構築するかを理解するためには、細胞外因子による制御に加え、神経細胞に内在するシステムの理解が重要だと考えられる。神経分化に伴い、神経特異的な転写因子が誘導されると共に、細胞周期の制御因子の多くはその発現が抑制される。これらの因子には神経細胞の成熟の過程において継続して発現し、細胞周期や分化とは異なった細胞機能を制御するものも存在する。

私は、細胞周期の制御因子1-3)と神経特異的な転写調節因子4, 5)の両面から神経細胞における機能を解析してきた。これらの研究の過程で、軸索・樹状突起をそれぞれ特異的に制御する分子ネットワークを明らかにした。また、これらの分子ネットワークとは別に、軸索-樹状突起の識別に関わる新しいシステムを明らかにした。本研究により神経細胞の形態を制御するシステムについて分子レベルでの理解が深まったと考えられる。

まず、細胞周期制御に関わるユビキチン化酵素、APC複合体(Anaphase promoting complex/cyclosome)とその調節サブユニットであるCdh1/Fzr1が分化後の神経細胞に発現することに着目し、その機能を解析した結果、Cdh1-APCが転写因子SnoNのユビキチン化を介して軸索伸長を特異的に阻害すること、小脳において軸索のパターニングに関わることを明らかにした6-8)。 一方で、電位依存性カルシウムチャネルを介した細胞内へのカルシウムイオン流入、CaMK2の活性化、NeuroD1のリン酸化という分子ネットワークを介して樹状突起の伸長が特異的に制御されることを明らかにした9)。

これらの研究の過程で、細胞内で軸索-樹状突起を識別する機構は何かという疑問が生じた。神経突起の主要な構成要素である微小管に着目して研究を行った結果、チロシン化というチュブリンの翻訳後修飾が樹状突起と軸索の識別に重要な役割を担うことを明らかにした。樹状突起の微小管は軸索の微小管と比較してチロシン化される割合が高く、これがキネシンの微小管への結合を阻害することで、細胞内輸送の方向性を制御する。この分子機構が極性を持った神経細胞の形態を維持することに必要であることが示唆された10)。



図 本研究で明らかにした神経細胞の形態制御機構
(上)軸索・樹状突起の伸長を制御する細胞内分子機構(下)微小管の修飾による軸索-樹状突起の識別機構

1.Konishi et al., Mol Cell 9, 1005-1016 (2002).
2.Konishi and Bonni, J Neurosci. 23, 1649-1658 (2003).
3.Yuan et al., Science 319, 1665-1668 (2008).
4.Konishi et al., J Neurochem. 72:1717-1724 (1999).
5.Konishi et al., Nucleic Acids Res. 28:2406-2412 (2000).
6.Konishi et al., Science 303, 1026-1030 (2004).
7.Stegmuller et al., Neuron 50, 389-400 (2006).
8.Stegmuller et al., J Neurosci. 28, 1961-1969 (2008).
9.Gaudilliere et al., Neuron 41, 229-241 (2004).
10.Konishi and Setou, Nat Neurosci. 12, 559-567 (2009).