TOP特別プログラム
 
臨床精神医学VS神経化学
朝から生討論 我が国の発達障害研究はトランスレーショナルとなりうるか?臨床精神vs神経化学
ES-1
イントロダクション
橋本 亮太1,2,安田 由華2,山森 英長2,3,大井 一高2,藤本 美智子2,梅田 知美3,武田 雅俊1,2
大阪大院・連合小児発達学・子どものこころ1,大阪大院・医・精神医学2,大阪大院・医・分子神経精神医学3

 トランスレーショナルの概念において、臨床的な知見を基礎研究に落とし込んで病態を解明し、診断法・治療法を開発するという臨床→基礎の側面と、基礎的な知見からスタートして診断法・治療法を開発し、臨床でその有用性を確認するという基礎→臨床の側面の2面性が存在する。実際には、どちらかから一方通行で行われるわけではなく、作業仮説に基づいて、両方向を行ったり来たりしながら、最終的に、診断法・治療法の開発へと進む。統合失調症においては、作業仮説の成功によって既にいくつもの治療薬が存在しているが、発達障害の中でも中心的な自閉症スペクトラム障害や知的障害については、未だ中核症状に効果のある薬剤は開発されていない。イントロダクションにおいて、トランスレーショナル研究が盛んになされている統合失調症におけるスキームを紹介し、3名の臨床・基礎研究者による講演にて発達障害における現状を俯瞰した上で、発達障害の基礎・臨床のトランスレーションについて激論を交わす教育講演としたい。
ES-2
自閉症スペクトラム臨床において生物学的研究がどう利用されるのか
辻井 正次
中京大学

 自閉症スペクトラム(ASD)のある人たちへの生物学的研究は非常に重要なものである。将来的な治療モデルの確立に向けた基礎研究が進められる一方で、今ここに生きるASDの人にとって、そうした研究がどういう意味を持つのかの検討も重要である。私の話題提供においては、生物学的研究がもたらした、ASDの生物学的基盤に関する社会的理解の促進(偏見の軽減)や、ASDのある人の自己理解における意義などをご報告したうえで、わが国において基礎研究を推進していく上で当事者や家族の協力をどのように得ていくのかを考えていく上での課題について討論したいと思う。
ES-3
自閉症スペクトラム障害関連の遺伝的な変異や多様性をもった動物モデル
古市 貞一
東京理科大・理工・応用生物科学

発達障害は遺伝要因の関与が強いとされている。これまでにゲノム関連研究などによって感受性遺伝子の候補が数多く報告されている。この中にはシナプスや神経回路の発達や機能の制御に関係する遺伝子が多く含まれている。しかし、これらの候補遺伝子の変異と発達障害の発症機序との関連性については不明な点が多い。社会行動は動物個体間でみられる相互作用の行動表現である。従って、関連遺伝子変異をもつ動物モデルなどを利用した総合的な基礎研究と発達障害の臨床研究が相乗的に補完し合うことで、発達障害の理解や応用へつながる基礎基盤の創出になると期待される。
ES-4
発達障害橋渡し研究の展望
松崎 秀夫
福井大学子どものこころの発達研究センター

医学研究における「橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)」とは、基礎研究に基づいて新しい診療技術を開発し、臨床の現場で有効性と安全性を確認して、日常医療へ応用していくまでの一連の研究過程をさす。精神疾患の中でも、とりわけ発達障害は病態メカニズムが明らかでないためか、その橋渡し研究の進捗は、世界レベルで他疾患に比して遅れていると断ぜざるを得ない。本シンポジウムでは発達障害の一つである自閉症スペクトラムに焦点を当て、近年の橋渡し研究について我が国の主な取り組みと海外諸国の現状を紹介し、同研究の展望について論点を提供する。