TOP特別プログラム
 
Interactive Case Conference1
新たな病態理解と治療戦略に向けて「レビー小体型認知症・パーキンソン病と神経回路障害」
ICC1-1
病理からみたレビー小体病の症状発生機序
新井 哲明
筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学

 レビー小体病(Lewy body disease:LBD)は、1980年に小阪により提唱された進行性の神経精神疾患である。病理学的には、中枢神経系および自律神経系におけるレビー小体の出現によって特徴づけられる。レビー小体の分布によって、脳幹型、辺縁型、びまん・新皮質型、大脳優位型の4型に分けられ、脳幹型がパーキンソン病に相当し、後3者が認知症を伴うパーキンソン病あるいはレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)に相当する。DLBの認知症は、海馬領域を含む大脳皮質におけるレビー病理とそれに伴う神経細胞脱落によると考えられている。ただし、DLBは、アルツハイマー病変を伴う例が多いため、症状形成にアルツハイマー病理が少なからず影響する。パーキンソン症状には黒質・線条体ドパミン系、認知機能の変動には脳幹網様体や青斑核、REM睡眠行動障害には脳幹網様体のレビー病理が関与すると考えられている。幻視については、ドパミン系あるいはアセチルコリン系の異常、側頭葉あるいは補足視覚野のレビー病理などの関与が推定されているが、未だ一致した見解は得られていない。レビー小体の進展様式として、延髄から始まり脳幹を上行して大脳に至る経路と、嗅球から始まり扁桃核を経て大脳皮質および脳幹に広がる経路が想定されている。レビー小体の主要構成成分はα-シヌクレインであるが、このようなα-シヌクレイン病変の規則的な広がり方の機序として、α-シヌクレインとプリオンとの類似性を示唆する知見が集積してきている。すなわち、疾患患者脳からの抽出物をマウス脳に接種することによりLBDの病理像を再現できることが示されており、その機序としてα-シヌクレインのコンフォメーションの変化が想定されている。これらの知見は、LBDの病態解明に寄与するとともに、ワクチン療法や凝集阻害剤などのα-シヌクレインを標的とした根本的な治療法の理論的基盤として重要と思われる。本研究は筑波大学臨床研究倫理審査委員会および東京都医学総合研究所倫理委員会の承認を受けて実施した。
ICC1-2
パーキンソン病治療経過中に発症した幻覚妄想状態に対してdonepezilが著効した一症例
治徳 大介1,佐藤 友紀2,山本 直樹1,車地 暁生1,西川 徹1
東京医科歯科大学大学院・医歯学総合研究科・精神行動医科学分野1,東京都立広尾病院・神経科2

パーキンソン病(Parkinson's disease、以下、PD)に合併する精神病症状(以下、PD Psychosis)は、患者のQOLを急激に悪化させ、周囲の支援者の負担を増大させるため、早期の介入が必要である。しかしながら、PD Psychosisに対する薬物療法はまだ確立されたとは言えず、手探りに治療しているというのが現状である。今回、筆者らは、抗パーキンソン病薬減薬と抗精神病薬投与が無効で、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬であるdonepezilが奏功したPD Psychosisの一例を経験したので、若干の考察を加え報告した。なお、発表にあたっては口頭および書面にて十分なインフォームド・コンセントを得た。また、プライバシーに関する守秘義務を遵守し、匿名性の保持に十分な配慮をした。
症例は12年来のPDの67歳女性。ドパミンアゴニスト増量後約1ヶ月で幻視や「家族が入れ替わっている」などの替え玉妄想が出現したため、当科に入院となった。抗パーキンソン病薬の減量、非定型抗精神病薬であるquetiapineやaripiprazoleをはじめとした薬物療法、電気けいれん療法などを行ったが、いずれも著効しなかった。さらにREM睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder、以下、RBD)を疑わせるような、睡眠中の大声や「山を登る夢を見て」階段を上るように足を動かすなど睡眠中の異常行動を認めた。そこで、donepezilを投与したところ、睡眠中の行動異常の改善だけでなく10日ほどで幻覚妄想状態が改善した。その後、ADL改善目的にドパミンアゴニストであるrotigotineを追加したところ、6日後より再び幻覚妄想状態となった。rotigotine中止後も症状持続したためdonepezilを8mgまで増量したところ、約3週間で軽快した。その後、donepezil 5mgまで漸減したが、幻覚妄想状態の再燃なく、退院となった。
PD Psychosisの原因を一つに特定することは難しいが、本症例では、内因性のアセチルコリン神経系をはじめとした種々の神経系の機能不全に加えて、ドパミンアゴニストの慢性投与によって生じたドパミン神経系の過活動が複雑に絡まりあって精神病症状を誘発した可能性が示唆された。