TOP一般口演
 
細胞機能制御
O1-1
Cdk5は移動神経細胞に特異的な"dilation"の形成と核の形態変化を制御する
西村 嘉晃1,2,3,鹿内 弥磨1,4,星野 幹雄5,大島 登志男6,鍋島 陽一7,水谷 健一2,永田 浩一3,仲嶋 一範1,川内 健史1,4,8
慶應大・医・解剖1,同志社大院・脳科学・神経分化再生2,愛知県心身障害者コロニー・発達障害研・神経制御3,慶應大・医・生理4,国立精神・神経医療研究センター・神経研・病態生化5,早稲田大・先進理工・分子脳神経科学6,先端医療センター・医薬品開発研究7,JST・さきがけ8

神経細胞移動は大脳皮質形成に必須な発生段階であり、異常が生じると精神遅滞やてんかんなどの脳神経疾患が惹起されることが知られている。神経細胞移動は多段階の様式で行われるが、そのうち「ロコモーション様式」は最も長い移動距離を占めており、大脳皮質形成において重要な役割を担っていると考えられる。このロコモーション移動は、先導突起の根元の"dilation"と呼ばれる特徴的な構造物の形成、核の形態変化、細胞体の移動といった現象が連続的に起こることによりなされている。しかし、従来の実験系では移動の初期段階の影響を排してロコモーション移動を制御する分子機構を直接解析することは困難であったため、dilationの形成、核の形態変化を制御する分子機構はほとんど分かっていなかった。我々は、マウス胎仔大脳皮質のスライス培養組織のタイムラプス解析と阻害剤スクリーニングを組み合わせることにより、ロコモーション様式の移動の制御機構を直接的に解析する方法を確立し(Nishimura et al. JBC, 2010)、これを用いてPKCδの阻害剤として広く用いられているrottlerinがロコモーション移動を阻害することを見出した。しかし、PKCδをノックダウンしてもロコモーション移動には影響がなかったことから、我々はrottlerinの新たな標的分子を探索し、rottlerin添加によりJNKおよびCdk5の活性が低下することを見いだした。阻害剤もしくはノックダウンによりCdk5の機能を抑制すると、ロコモーション移動およびdilation形成と核の形態変化が阻害されたのに対して、JNKの機能阻害は、核の形態変化およびロコモーション移動のみが抑制された。さらに、Cdk5の主要な基質であるDCXおよびp27kip1の機能阻害を行った場合も、dilation形成と核の形態変化が阻害されることが分かった。以上より、Cdk5とJNKは、少なくとも一部は異なる下流経路を介して、ロコモーション様式の移動を制御していることが示唆された。
O1-2
新たに同定されたストレスホルモン感受性分子、FAM107Bの機能解析
小泉 惠太1,中尾 啓子2,中島 日出夫3,4
金沢大学・子どものこころの発達研究センター1,埼玉医大・生理学教室2,熊本大学・エイズ研究センター3,上尾中央総合病院・腫瘍内科4

 Maternal stress during pregnancy increases secretion of stress hornones such as glucocorticoid(GC). A numbers of studies indicate exposure to GC during prenatal period affects neural development and causes abnormal behaviors in animals. In human, the long-term GC exposure may cause psychiatric disorders such as depression(Neurosci Biobehav Rev. 43:137-162)and autism(Neuroscience and Biobehavioral Reviews 32:1519-1532, 2008).
 Here, we show a newly identidied GC responsive molecule, FAM107B. Treatment with GC agonist, DEX, or restraint stress on pregnant mice resulted in reduction of FAM107B in the brain of their embryos.
 To figure out its function, we study effects of FAM107B RNAi on neuron-like PC12 cells and mouse neural cells. Similar to DEX treatment, long term RNAi(4 days)suppressed proliferation of PC12. This suppression effect was canceled by an inhibitor of SGK1(serum/glucocorticoid kinase 1)that is recently reported to be up-regulated in depressed patients.
 Transwell assay indicated FAM107B RNAi showed a positive effect on PC12 cells migration induced by NGF, which was also cancelled by the SGK1 inhibitor. In utero over expression in the mouse cortex confirmed the FAM107B effect on migration. Co-localization of F-actin and FAM107B were observed in outer membrane ruffles after NGF induction. FAM107B may have some roles in actin assembly and affect neural.
 Our data suggest FAM107B is one of the key molecules that responds to GC and gives critical effects on neural development in the embryonic brain that cause psychiatric disorders after birth.
O1-3
ミクログリア細胞における骨形成マスターレギュレーターRunx2の機能解析
中里 亮太,宝田 剛志,米田 幸雄
金沢大院・薬・薬物学

【目的】Runt-related transcription factor-2(Runx2)は、骨関節系組織形成のマスターレギュレーターとしての役割が知られているが、我々はこれまでに脳内ミクログリア細胞にRunx2が高発現すること、およびその発現が高濃度ATP曝露に伴って一過性に上昇することを報告した。今回は、このミクログリア細胞に発現するRunx2の機能的役割についてさらに解析を行った。【方法】Runx2遺伝子をコードするレンチウイルスを作成し、マウスミクログリア細胞株であるBV-2細胞へ遺伝子導入を行い、Runx2過剰発現BV-2細胞の作製を行った。また、この細胞における各種ミクログリア関連因子の発現について、real time RT-PCR法を用いて検討を行った。さらに、phagocytosisまたはpinocytosisへの影響について検討するために、このRunx2過剰発現細胞における蛍光ビーズ取り込み能をflow cytometry法により解析した。【結果】Runx2遺伝子をコードするレンチウイルスをBV-2細胞に感染させると、Runx2のmRNA発現と核内Runx2タンパク質発現がともに著明に上昇した。この過剰発現細胞では、骨芽細胞でRunx2により制御される遺伝子群のうち、Matrix metallopeptidase-13(MMP13)のmRNA発現が有意に上昇したのに対して、オステオポンチンやvascular endothelial growth factor(VEGF)のmRNA発現量に著明な変化は認められなかった。また、ミクログリア細胞に機能的に発現する各種受容体群のうち、ケモカイン受容体であるCX3C chemokine receptor-1(CX3CR1)およびchemokine receptor type-2(CCR2)のmRNA発現には、Runx2遺伝子導入に伴う有意な上昇が確認された。一方、Runx2遺伝子導入BV-2細胞群では、対照細胞群に比べて、蛍光ビーズ取り込み能を示す細胞の割合が有意に増加することが判明した。【考察】以上の結果から、ミクログリア細胞に発現するRunx2は、転写因子として各種ミクログリア関連因子の発現を制御することで、phagocytosisやpinocytosisなどのミクログリア細胞機能を調節する可能性が示唆される。
O1-4
ErbB4/パルブアルブミン陽性インターニューロンを介したニューロプシンによる海馬興奮性神経細胞の制御
鈴木 春満1,金河 大1,中澤 瞳1,清水 千草2,高山 千利2,塩坂 貞夫1
奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 神経機能科学1,琉球大学 医学研究科 分子解剖学講座2

The secretory serine protease neuropisn is associated with activity-dependent neural plasticity. Neuropsin cleaves a neurotrophic factor, neuregulin-1(NRG-1)to remove heparin-binding domain at the neural activity-dependent manner and liberates the ligand moiety(EGF domain)from full-length NRG-1(Tamura et al. 2012, J. Neurosci.). This process happens at LTP-dependent manner, triggers the phosphorylation of the NRG-1 receptor(ErbB4)in the parvalbumin(PV)-positive neurons, and consequently, strengthens GABA neurotransmission. Therefore, it is suggested that release of NRG-1 ligand by neuropsin drives ErbB4 and PV-expressed neurons to inhibit the pyramidal or granular neurons through PV-positive basket terminals. In the present study, we studied an interaction between PV-immunoreactive axons and excitatory neurons in the hippocampus and the dentate gyrus(DG). In neuropsin deficient mice, intensities of PV-immunoreactive axon terminals decreased in the CA1/CA2 and CA3 pyramidal layer and in the granule cell layer of the DG compared with wild type mice. However, inhibitory presynaptic marker VGAT was not changed between wild type and neuropsin deficient mice. These results suggested that neuropsin-NRG1-ErbB4 signaling regulates PV-immunoreactive presynaptic terminals and efficiency of GABA transmission to excitatory neurons. A possible involvement of the neural effect on the voluntary running and environmental enrichment was explored.
O1-5
マウス新生仔海馬介在神経のGAD67の発現は母仔分離によって抑制される
片平 立矢1,元山 純2
同志社大学高等研究教育機構1,同志社大学大学院脳科学研究科2

【目的】幼児期のストレスは成人となってからの統合失調症発症の原因といわれているが、ストレスが脳発達に影響し、発症に至る過程は不明である。ヒト統合失調症では海馬介在神経で、GABA合成酵素GAD67の発現が低いことが報告されている。そこで幼児期のストレスが海馬介在神経のGAD67の発現に影響しているかマウスモデルを用いて解析した。またヒト統合失調症では海馬介在神経サブタイプ特異的な影響が報告されていることから、介在神経サブタイプを発生的由来によって終脳腹側の内側基底核隆起(MGE)由来細胞と外側基底核隆起(CGE)由来の2群に分けて解析した。【方法】生後4日目のマウスを母獣から24時間隔離をしてストレス(母仔分離ストレス)を与えた直後に脳を回収した。Nkx2.1cre;beta-geoEGFPマウスを使用することでMGE由来介在神経とCGE由来介在神経をGFP陽性とGFP陰性として区別し、それぞれの細胞群でGAD67発現への影響を免疫染色によって、海馬で解析した。【成績】生後4日目から5日目にかけての正常発生では、MGE由来介在神経、CGE由来介在神経ともにGAD67陽性の細胞密度に変化が無かった。分離すると、GAD67陽性MGE由来介在神経の細胞密度には有意差がなかったが、GAD67陽性CGE由来介在神経の細胞密度が下がっていた。一方正常発生では、MGE由来介在神経全体の中でGAD67陽性である細胞の割合が上昇することがわかったが、分離すると、その割合は上昇せずに生後4日目での割合と同程度であった。またGAD67陽性細胞数の減少は細胞死によらないことがわかった。【結論】母仔分離のストレスによって、MGE由来介在神経では、GAD67を発現していない細胞がGAD67を発現する開始時期が遅れる可能性、CGE由来介在神経ではすでに発現しているGAD67発現が抑制される可能性が考えられた。それぞれの介在神経で分離ストレスがGAD67発現調節に異なる反応を誘導したことは、分離ストレスが介在神経サブタイプ特異的な影響を与える可能性を示唆していると考えられる。