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精神疾患・ゲノム
O2-1
日本人におけるセロトニン神経系とノルアドレナリン神経系遺伝子多型のパニック障害への影響
青木 顕子1,林 有希1,石黒 慎2,渡邊 崇1,下田 和孝1
獨協医科大学精神神経医学講座1,山形県立鶴岡病院2

日本人のパニック障害患者119名を対象にセロトニン・トランスポータープロモーター領域(5-HTTLPR)遺伝子多型、5-HT1A受容体C1019G多型(rs6295)、Catechol-O-mthyltransferase(COMT)遺伝子多型(rs4680)に関して、患者群と健常対照者群との遺伝子頻度の比較を行い、また、多重ロジスティック回帰分析による相互作用も含めたパニック障害に影響する遺伝子多型の特定を行った。本研究計画の内容は獨協医科大学倫理委員会の承認を受けており、患者からは文書による研究協力の同意を得ている。5-HTTLPR、COMT遺伝子多型に関して、患者群と対照群の遺伝子頻度に有意差はなかった。性別、サブタイプ別毎の分析でも有意な影響はなかった。一方、5-HT1A受容体C1019G遺伝子多型においては、患者群と対照群の間に有意差がなかったが、広場恐怖を伴わないパニック障害患者においては、対照群よりもG/G遺伝子型の比率が有意に高かった。遺伝子多型の相互作用による有意な影響は認められなかった。これまでに、白人を対象とした研究では、パニック障害の出現に5-HT1A受容体C1019G遺伝子多型とCOMT遺伝子多型との相互作用が影響することや、パニック障害女性患者におけるCOMT遺伝子多型の関与が報告されている。今回の結果から、白人と日本人との人種の違いにより、パニック障害出現に関与するセロトニン神経系とノルアドレナリン神経系遺伝子多型が異なる可能性が示唆された。
O2-2
双極性障害患者末梢血を用いたセロトニントランスポータープロモーター領域における大規模DNAメチル化解析
池亀 天平1,2,文東 美紀1,村田 唯1,菅原 裕子3,近藤 健治4,池田 匡志4,岩田 仲生4,加藤 忠史5,笠井 清登2,岩本 和也1
東京大学大学院医学系研究科分子精神医学講座1,東京大学大学院医学系研究科精神医学2,東京女子医科大学大学院医学系研究科精神医学分野3,藤田保健衛生大学医学部精神科4,理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チーム5

うつ病や不安障害に用いられている抗うつ薬が、脳内のセロトニン(HT)の再取込みに関わるセロトニントランスポーター(HTT)を阻害する作用を持つことから、HTTは精神疾患メカニズムの解明における重要な分子と考えられている。我々は以前、双極性障害(BD)一卵性双生児不一致例のリンパ芽球を用いたDNAメチル化解析により、HTTをコードする遺伝子(SLC6A4)のプロモーター領域に患者で有意な高メチル化を示す領域を同定した。またこの所見を、独立した患者リンパ芽球や死後脳試料を用いた解析からも確認した。本研究では、大規模末梢血サンプルを用い先行研究の検証を行い、更にSLC6A4の遺伝子多型とメチル化状態の関連についても解析を行った。年齢・性別を適合させた合計910例(健常者460例、BD患者450例)の末梢血DNA試料を用い、先行研究で最も顕著にメチル化率の差異が認められた、2ヶ所のCpG(CpG3、4)についてパイロシークエンシング法を用いた患者対照者関連解析を行った。HTTLPRのgenotypingは、遺伝子多型領域をPCR増幅し、電気泳動およびサンガーシークエンス法を用いて決定した。検証した2ヶ所のCpGは男性健常者と比較し女性健常者で顕著にメチル化が高かった。そのため解析を性別毎に行ったところ、男性患者のCpG3でのみ男性対照群に比して有意な高メチル化が認められ、女性患者と女性対照群の間に有意差は認めなかった。患者群を双極性障害のサブタイプであるI型とII型に分類した解析でも、男性I型/II型患者共にCpG3で有意な(p<.05)高メチル化を認めた。S型およびL型に分類されるHTTLPRとメチル化状態の関連解析からは、特定のL型サブタイプを持つ男性患者群で有意な高メチル化が認められた。なお、試料提供者に対しては、事前に研究の意義、目的、方法、不利益とそれに対する配慮を十分に説明し、書面による同意を得たうえで、個人情報は厳重に管理している。本研究は東京大学医学部倫理委員会による承認を得ている。
O2-3
統合失調症でのドパミンD2受容体遺伝子多型による線条体ドパミンシステムへの影響
松本 純弥1,國井 泰人1,三浦 至1,日野 瑞城1,和田 明1,丹羽 真一2,那波 宏之3,坂井 美和子3,染矢 俊幸4,高橋 均5,柿田 明美5,矢部 博興1
福島県立医科大学 医学部 神経精神医学講座1,福島県立医科大学 会津医療センター 精神医学講座2,新潟大学 脳研究所 基礎神経科学部門 分子神経生物学3,新潟大学大学院 医歯学総合研究科 精神医学分野4,新潟大学 脳研究所 生命科学リソース研究センター 脳疾患標本資源解析学5

 統合失調症の治療にはドパミン遮断薬を中心とした抗精神病薬による薬物療法が必須と考えられており、その病態にはドパミン系の他、グルタミン酸系の神経伝達の異常が関連していることが示されている。Dopamine- and cAMP-regulated phosphoprotein of molecular weight 32 kDa(DARPP-32)とCalcineurin(CaN)は、ドパミン系とグルタミン酸系シグナル経路の調節因子であるので、これらの分子は統合失調症の病態に重要な役割を果たしていると考えられる。そこで我々は、DARPP-32とCaNの線条体における発現とドパミンD2受容体遺伝子(DRD2)多型との関連を解析した。

 我々は、福島精神疾患死後脳バンクの統合失調症死後脳12例と、新潟大学脳研究所の健常対照死後脳12例を用いて、DARPP-32の主なisoformであるfull-length DARPP-32(FL-DARPP)とtruncated DARPP-32(t-DARPP)、及びCaNの線条体における発現量をウェスタンブロット法で測定し、PCR法にて検出した-141C Ins/Del DRD2受容体遺伝子多型との関連を解析した。なお、本研究は福島県立医科大学、新潟大学の倫理委員会の承認を得て実施した。

 その結果、Del alleleキャリアの統合失調症群では、t-DARPPの発現量が被殻で低下(p=0.042)しており、尾状核でCaNが低下している傾向(p=0.050)が認められた。また、健常対照群のDel/Del genotypeでは、尾状核においてFL-DARPPの発現量も、t-DARPPの発現量も低下(p=0.040、p=0.001)していた。

 本研究によって、統合失調症の線条体ではDel alleleがt-DARPPの発現量低下に関連しており、CaNにも同様の傾向をもつ可能性が示された。Del alleleキャリアは統合失調症の薬物療法で治療抵抗性であることが最近のメタ解析でも示されており(Am J Psychiatry 2010;167, 763-772)、本研究の結果が治療抵抗性の分子機序の一端を説明する可能性がある。
O2-4
統合失調症様症状発現薬に発達依存的応答を示す遺伝子WDR3およびALG1と統合失調症との関連解析
小林 桃子1,山本 直樹1,治徳 大介1,岩山 佳美2,吉川 武男2,西川 徹1
東京医科歯科大学大学院1,理化学研究所脳科学総合研究センター2

統合失調症は約0.8%の高頻度で発症する重篤な精神疾患であり、一般に思春期以降に発症する。また、ドーパミン作動薬であるmethamphetamineおよびNMDA型グルタミン酸受容体遮断薬であるphencyclidineなどによる本症様の症状も同時期から出現し、動物においても統合失調症モデルと考えられる異常行動が特定の発達段階(臨界期)以降に出現する。そこで本研究では、ラット大脳新皮質において、この臨界期以降に統合失調症様症状発現薬に応答する遺伝子WD repeat domain 3(WDR3)およびasparagine-linked glycosylation 1(ALG1)に着目し、これらの遺伝子と統合失調症との関連解析を行った。ヒトWDR3遺伝子において16部位、ALG1遺伝子において10部位の一塩基多型(SNPs)をそれぞれ選択し、症例対象研究では本症患者1808人と健常対照者2170人、家系解析では本症患者204人とその両親の末梢血由来DNAを比較解析した。その結果、両群間で遺伝子型頻度またはアリル頻度にnominalな有意差が見られるSNPsがそれぞれ確認された。さらに、発症年齢階層別・性別に解析したところ、WDR3のSNPsの中に女性群において多重比較後も有意差が認められ、特定の発症年齢階層群においてもnominalな有意差が見られた。また、連鎖不平衡の検定より、両群でハプロタイプブロックが形成されている可能性が示唆された。ハプロタイプ分析では、WDR3の一つのブロックに本症とのnominalな相関が見られ、女性では多重比較後も有意差が認められた。これらの結果から、疾患感受性には発症年齢や性別の要因が関与すると推察され、とりわけWDR3遺伝子が、ある共通の発症機構を有する一群の統合失調症にかかわっている可能性が示唆された。WDR3は、細胞周期進行やシグナル伝達、アポトーシス、遺伝子制御などの多様な機能をもつWD repeatファミリーの一つであることから、これらの機能障害が本症の脳病態分子基盤に関与している可能性が考えられる。本研究は、ヘルシンキ宣言に則り、東京医科歯科大学医学部および理化学研究所の遺伝子解析研究に関する倫理審査委員会の承認を受けた後、対象者に本研究に関して十分な説明を行い、書面による同意を得て実施した。
O2-5
ポストGWAS:SLC12A5と統合失調症との関連解析
石黒 浩毅1,田畑 光一1,2,曽我部 博文1,中山 桜1,稲田 俊也2,染谷 俊幸3,渡部 雄一郎3,氏家 寛4,岩田 仲生5,尾崎 紀夫6,佐々木 司7,有波 忠雄8,本橋 伸高1
山梨大学医学部精神神経医学・臨床倫理学講座1,清和病院2,新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野3,うじけ西口クリニック4,藤田保健衛生大学医学部精神科5,名古屋大学大学院精神医学6,東京大学保健管理センター7,筑波大学大学院人間総合科学研究科遺伝医学8

【目的】統合失調症の網羅的ゲノム解析(GWAS)は統計学的に多くの候補遺伝子マーカーをリストアップしたものの、未だそれら遺伝子変異の統合失調症病態における機能的な役割は一部しか解明されていない。本研究では、関連が示唆された遺伝子マーカーの1つに着目して、マーカーが存在する遺伝子機能の行動・表現型への影響について明らかとする。【方法】多施設共同にて集積された日本人の統合失調症DNAならびに健常対照者DNAを用いてGWASを行い、SLC12A5遺伝子座に着目した。ヒト死後脳を用いて関連が示唆された遺伝子多型と遺伝子発現量との相関を解析した。さらに、Slc12a5ノックアウトマウスの野生型とヘテロ型の2遺伝子型間で、ナイーブ群あるいはメタンフェタミン投与群について、行動量測定、ゼロ迷路テスト、Prepulse Inhibitionテストにて薬理行動学的解析を行った。本研究はヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針に基づいて山梨大学医学部倫理委員会にて審査を受け、学長の承認を得た。試料は「共同研究としてゲノムDNAの一部を他機関に匿名化して提供され解析されることに同意された」連結不可能匿名化DNAである。死後脳は各倫理審査を受けた国外脳バンクより供与された。動物研究は山梨大学遺伝子組み換え実験安全管理規定に基づいて山梨大学動物実験委員会の審議を経て、学長承認を得た。【成績】SLC12A5遺伝子座における8つのTag SNPのうち3SNPが個々にp<0.05水準の統計解析結果を示し、Permutation testでもこの遺伝子座と統合失調症との関連が示唆された。Slc12a5ノックアウトマウスはナイーブ群では目立った表現型の相違を示さなかったものの、メタンフェタミン影響下においては直接反応としての活動量および逆耐性形成における活動量の変化を示し、ゼロ迷路における不安ならびにPPI障害の変化が確認された。【結論】SLC12A5は脳内に存在するイオンチャネルを規定する。統合失調症の発症にはSLC12A5遺伝子機能の変化を基盤としてメタンフェタミンなど後天的なトリガーが関与して発症するメカニズムがあることが示唆された。
O2-6
プレパルス抑制関連遺伝子の探索
近藤 健治1,橋本 亮太2,3,池田 匡志1,高橋 秀俊3,山森 英長3,4,岸 太郎1,安田 由華3,島崎 愛夕1,藤本 美智子3,大井 一高3,斉藤 竹生1,武田 雅俊2,3,岩田 仲生1
藤田保健衛生大学 医学部 精神神経科学1,大阪大学 大学院連合小児発達学研究科子どものこころの分子統御機構研究センター2,大阪大学 大学院医学系研究科情報統合医学講座精神医学教室3,大阪大学 大学院医学系研究科分子精神神経学4

【目的】統合失調症の病態に迫るアプローチとして画像所見や生理学的検査を用い、その結果を中間表現型(エンドフェノタイプ)として病態解明につなげるという試みがなされている。先行する刺激により驚愕反応が弱まるプレパルス抑制(prepulse inhibition:PPI)は代表的なエンドフェノタイプの一つであり、認知機能の低下を示唆しているものと考えられている。PPI自体は、遺伝要因と強く関連すると想定され、統合失調症とPPIとに共通する遺伝的要因の研究からは、GRID2GRIN2ARELAなど、関連する遺伝子として報告されている。しかし、全ゲノム関連解析(GWAS)の手法を用いて遺伝子を報告したものはいまだ存在しない。
【方法】対象者には研究計画について書面をもって説明し同意を得た。スクリーニングとしてPPIデータを具備する統合失調症群132例、対照群243例を、追試群として各々86例、83例を用いた。スクリーニング群で施行したGWASでは、PPIとSNPの関連性を、全例、統合失調症群、対照群のそれぞれにおいて算出、P<10-5を示すSNPを選出した。次に、それらSNPを、追試群で関連性を確認、最終的には、両データのメタ解析での評価を行った。解析は線形解析モデルを用いた。なお、研究計画は各々参加施設における倫理審査委員会によって承認を得ている。
【結果】スクリーニング群においてP<10-5を示したSNPは75個であり、このうち7 SNPについてはgenome-wide significanceを超えるP値を示した。しかし、これらはすべて追試されず(P>0.05)、メタ解析においても有意な関連を示すものは存在しなかった(best P=5.5×10-5)。
また、スクリーニング群の結果をもとに計算したPPIの遺伝率は82-89%であった。
【考察】本研究ではPPIと有意に関連する遺伝子多型は同定されなかった。しかし、SNPから算出されるPPIの遺伝率は、既報の統合失調症のそれよりも大きいことが推定された。従ってindividual SNP関連解析の結果は、サンプル数が少ないことによる検出力不足がその原因としてあげられ、今後はサンプル数を拡大したさらなる研究が望まれる。