TOP一般口演
 
精神疾患の知覚機能
O5-1
疼痛性障害の情動によって修飾される痛み刺激時の脳活動;fMRI研究
吉野 敦雄1,岡本 泰昌1,土井 充2,大鶴 直史3,吉村 晋平4,田中 圭介5,山脇 成人1
広島大学大学院 精神神経医科学1,広島大学大学院 歯科麻酔科2,広島大学大学院 理学療法学専攻3,追手門学院大学 心理学部4,広島大学大学院 総合科学研究科5

【背景】疼痛性障害はアメリカ精神医学会の診断基準(DSM-IV-TR)では、疼痛が臨床像の中心を占め、心理的要因や情動が密接に関連する疾患とされている。これまでの疼痛性障害のfMRI研究は単純な痛み刺激に対する健常者との比較に留まっている。そこでわれわれは疼痛性障害に対してfMRIを用いて情動が主観的評価や脳活動にどのように影響を与えているか検討を行った。【方法】11例(女性6例、平均40.9才)の疼痛性障害患者ならびに年齢・性を一致させた11例の健常者を対象とした。脳画像の解析はSPM8を用いた。情動誘発刺激として顔表情(悲しみ、中性)を使用した。ランダムに選択された1種類の顔表情を呈示し、呈示中に痛み刺激(強もしくは弱)を与える試行を繰り返し行い、情動によって修飾された痛み刺激時の脳活動を測定した。ブロック毎にMRI内で痛み刺激時の主観的評価も行った。また安静時脳活動を測定した(9例の疼痛性障害患者と20例の健常者)。本研究は広島大学倫理委員会にて承認されたプロトコールに従い、書面にて説明同意を行っている。プライバシーに関する守秘義務を遵守し、匿名性の保持に十分な配慮をした。【結果】痛み刺激時(弱)にて中性条件と比べた悲しみ条件の痛み刺激時主観的評価の強さが患者群で有意に高かった。脳機能画像では悲しみ条件の痛み刺激時(弱)にて右島皮質において有意な活動上昇が患者群で認められた。安静時脳活動では疼痛課題遂行時に活動していた脳領域において群間で差はみられなかったが、領域外においては左中心前回にて患者群で有意な活動上昇が認められた。【考察】島皮質は疼痛や情動の情報処理に関連する脳領域として多数報告されている。疼痛性障害患者では悲しみなどのネガティブ情動下では健常者よりも疼痛をより強く感じる傾向があることが示唆された。一般に課題遂行中に賦活する脳領域は、安静時に賦活する脳領域とは異なる領域を観測しているといわれている。今回の結果もふまえ、相補的に両測定法を用いることによって詳細な病態把握が可能となると考えられた。
O5-2
うつ病患者における自殺傾性と脳機能の関連:a near-infrared spectroscopy study
辻井 農亜1,三川 和歌子1,辻本 江美1,2,安達 融1,川久保 善宏1,阪中 聡一郎1,小野 久江2,白川 治1
近畿大学医学部精神神経科学教室1,関西学院大学大学院文学研究科総合心理科学専攻心理科学領域2

【目的】近年、自殺の病態には生物学的脆弱性の存在が想定されている。本研究の目的は、うつ病患者における自殺企図歴の有無による実行機能課題中の脳機能の差異をnear-infrared spectroscopy(NIRS)により評価し、自殺傾性と関連する脳部位と機能失調を明らかにすることである。
【方法】対象は67名のうつ病患者(suicide attempter[SA群]25名、non-attempter[NA群]42名)ならびに46名の健常対照者(HC群)。過去に1度以上の死を意識した自己破壊的行動の既往のあるものをSA群と定義した。臨床評価にはHamilton rating scale for depression17項目(HAM-D17)ならびにBeck Depression Inventory-Second Edition(BDI-II)、Beck Hopelessness Scale(BHS)を使用した。脳機能の評価には日立メディコ製光トポグラフィ装置ETG-4000を使用し、実行機能課題による賦活検査としてverbal fluency task(VFT)用い、課題負荷による酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)の変化量を求めた。本研究は近畿大学医学部倫理委員会において承認を得ている。
【結果】3群間で年齢、性別、教育年数に有意差はみられなかった。臨床評価をみると、SA群とNA群間でうつ症状の重症度指標であるHAM-D17得点に有意差はみられなかった。また、BDI-II得点、BHS得点ではSA群とNA群で有意差はみられなかったが、SA群、NA群ともにHC群よりも有意に高かった(all p<0.01)。さらに、SA群はHC群よりもVFT想起語数が有意に低かった(p=0.002)。脳機能をみると、SA群、NA群ともにHC群よりも前頭側頭部における課題負荷中のoxy-Hb平均変化量は有意に小さかった。さらに、前頭部の4つのchannelにおいて、SA群はNA群よりもoxy-Hb平均変化量が有意に小さかった(p=0.014-0.048)。また、SA群では両側頭部を中心とした17のchannelにおいて、oxy-Hb平均変化量とHAM-D17得点に有意な負の相関を認めた(ρ=-0.76 to -0.50、p=0.000-0.010)。
【考察】自殺企図歴のないうつ病患者に比べて自殺企図歴のあるうつ病患者では、前頭部の賦活反応性がtraitとしてより障害されていることが示唆され、両側頭部の賦活反応性は状態(state)依存性であると考えられた。
O5-3
functional MRIを用いた発揚気質と明るさの嗜好性に関する研究
牧野 麻友1,寺尾 岳1,秦野 浩司1,河野 健太郎1,荒木 康夫1,溝上 義則1,児玉 健介1,帆秋 伸彦1,新崎 雅乃1,下村 剛2,藤木 稔2,河内山 隆紀3
大分大学医学部精神神経医学講座1,大分大学医学部脳神経外科学講座2,株式会社ATR Promotions脳科学イメージングセンタ3

【目的】双極性障害の病前気質として、Kraepelinの時代から所謂基底状態として発揚気質や循環気質が注目されている。我々はこれまでの研究で、発揚気質の傾向が強いほど光曝露量が多いこと(Hoaki et al, Psychopharmacology, 2012)、循環気質の傾向が強いほど光曝露量が少ないこと(Araki et al, J Affect Disord, 2012)、日照量と発揚気質の程度が有意な正の相関を示すこと(Kohno et al, J Affect Disord, 2012, 2014)などを示しており、光と気質の関係に関する研究を蓄積している。さらに、発揚者の光曝露量が多い理由は、同じ明るさを見ても発揚者は非発揚者よりも暗く知覚する(ので、光曝露が多い)という仮説のもとに、発揚者と非発揚者の明暗弁別の閾値を調べたが有意差はなかった(Harada et al, J Affect Disord, 2013)。この時fMRIの結果から、発揚気質と左下部眼窩前頭皮質の関連が示唆された。今回は、明暗弁別閾から嗜好性の問題へ発展させ、発揚者は非発揚者よりも明るさを好むという仮説についてfMRIを用いて検討を行った。尚、本研究は大分大学医学部倫理委員会の承認を得ている。【方法】対象は右利きの健常者34名(男性18名、女性16名)で、Temperament Scale of Memphis、Pisa、Paris and San Diego Autoquestionnarie(TEMPSA)を用いて発揚気質得点を調べ、発揚群と非発揚群に分けた。fMRI撮像中に11段階の明るさをランダムに見せ、提示された明るさが好きかどうかを判断する課題、嫌いかどうかを判断する課題、好き嫌いの判断をせずにボタン押しのみ行うコントロール課題を設定した。課題中fMRIにてブロックデザインでBOLD signal効果を測定した。さらに、下部眼窩前頭皮質の%シグナルチェンジの結果とスピアマンの相関係数を用いて検討した。【結果と考察】発揚群は非発揚群と比較して有意に暗さを嫌い、明るさを好んだ。コントロール課題中の左下部眼窩前頭皮質の%シグナルチェンジと発揚気質得点は、有意な負の相関を示した。発揚者は非発揚者よりも明るさを好むという仮説は支持され、双極性障害と関連があるとされている部位の一つである下部眼窩前頭皮質は発揚気質の神経基盤である可能性が示唆された。
O5-4
絵画の審美判断と循環気質
溝上 義則1,寺尾 岳1,児玉 健介1,秦野 浩司1,帆秋 伸彦1,河野 健太郎1,荒木 康夫1,牧野 麻友1,泉 寿彦1,下村 剛2,藤木 稔2,河内山 隆紀3
大分大学医学部精神神経医学講座1,大分大学医学部脳神経外科学講座2,株式会社 ART-Promotions 脳活動イメージングセンタ3

【背景】我々は具象絵画の審美判断と関連する神経基盤が左の舌状回と両側の楔部である可能性を示唆した。さて、精神科の絵画療法は作業療法やデイ・ケアの一環として行われることが多いが、その作用機序は明らかにされていない。今回の研究においては、絵画における創造性と双極性障害との関連あるいは循環気質との関連を考慮し、循環気質の程度と絵画の審美判断時の左舌状回の賦活の程度の関連を検討することにした。【方法】44名の被験者が実験に参加したが、5名をアーチファクトのために除外とし、39名のデータを解析に用いた。すべての被験者は右効きで、正常な視力または正常視力に矯正した後に撮影を行った。また、Temperament Evaluation of Memphis、Pisa、Paris and San Diego-auto questionnaire version(TEMPS-A)によって被験者の循環気質を同定した。循環気質の得点と絵画の審美判断中の左舌状回の賦活程度(%シグナルチェンジ)との関連についてはピアソンの相関係数にて解析を行った。なお、本研究は大分大学倫理委員会の承認を得ており、被験者には書面により同意を得ている。【結果】循環気質得点は左の舌状回の賦活程度と有意な負の相関を示した。【考察】今回の結果には二つの可能性が考えられる。一つは、循環気質得点の高い被験者ほど左舌状回をあまり使っていない可能性である。もう一つは、絵画の審美判断中の左舌状回の賦活程度が高いほど循環気質の得点が低いということで、絵画療法中の審美行為が気分変動性の安定化に有効である可能性を示唆する。二つ目の可能性については、絵画療法の作用機序を部分的に解明することになるかも知れず、興味深いと考えられる。
O5-5
光の脳機能への影響:FDG-PETを用いて
河野 健太郎,秦野 浩司,帆秋 有里子,牧野 麻友,児玉 健介,溝上 義則,片山 陽介,亀井 公惠,寺尾 岳
大分大学医学部精神神経医学講座

【目的】
環境光が気分や気分障害と関係していることは広く認められている。また様々な論文において、高照度光療法は季節性感情障害のみならず、非季節性うつ病も改善する事が示されている。この様に光は気分と密接に関連しているが、そのメカニズムについては解明されていない。今回、我々は光照射が健常者の脳に及ぼす影響を、18F-fluorodeoxyglucose(FDG)-PETにて撮像した脳機能画像を用いて検討した。
【方法】
対象は健常成人55名である。男性は37名、女性は18名であった。年齢は平均31.0±8.9歳である。全ての被験者で現在および過去の精神障害のスクリーニングをMini-International Neuropsychiatric Interview(M.I.N.I.)にて行ったところ、精神障害は否定された。撮像直後の精神状態は、Hamilton Rating Scale for Depression(HAMD)、Young Mania Rating Scale(YMRS)、Beck Depression Inventory(BDI)を用いて評価された。被験者は、光照射を行う光照射群27名と、光照射を行わない対照群28名とに封筒法を用いて無作為に振り分けられた。光照射群は、5日間の10000Luxの光照射を受けた後にFDG-PET撮像を行った。対照群は光照射を行わずに、FDG-PET撮像のみを行った。FDG-PETの脳機能画像解析には、SPM(Statistical Parametric Mapping software)8および、PMOD softwareが使用された。全ての被験者から研究の目的や方法、副作用などを文書で説明した後に、書面で同意が得られた。本研究は、大分大学医学部臨床研究審査委員会の承認を得ている。
【結果・考察】
撮像直後の精神状態評価については、HAMDは光照射群において1.0±1.3点、対照群において0.96±1.5点で2群に有意差は無かった。YMRSは光照射群において0.44±1.1点、対照群において0.18±0.55点で2群に有意差は無かった。BDIは光照射群において1.1±2.0点、対照群において1.7±2.4点で2群に有意差は無かった。SPM8を使用し、光照射群と対照群を全脳で比較したところ、2群に有意差は認めなかった。さらに、PMOD softwareを用いて、先行研究を参照した各関心領域におけるSUV(Standardized uptake value)の2群比較を行った。その結果については当日示す予定である。
O5-6
「Fragrance Jet II」を用いた自閉症スペクトラム症における嗅覚検知閾値の測定
熊崎 博一1,2,友田 明美1,岡田 謙一3,村松 太郎2,三村 將2
福井大学子どものこころの発達研究センター1,慶應義塾大学医学部精神神経科学教室2,慶應義塾大学理工学部情報工学科3

【背景】DSM-5では自閉症スペクトラム症(Autism spectrum disorder:ASD)の感覚の問題が診断基準に取り入れられた。感覚の問題の中でも嗅覚は他の五感と比べて注目されてこなかった。一方でASD児はにおいに対し思いがけない反応をすることも多く、ある種の環境や人を避けるのも異常な嗅覚認知による可能性がある(Gillberg, 2002)。嗅覚過敏の強いことがコミュニケーションの予後を示唆する(Lane et al, 2010)、母親のにおいがASD児の自発的模倣に関与する(Parma et al, 2013)との報告があり、ASD児の嗅覚特性を把握し、特性に基づいて支援する意義は大きい。現在までにASD児の嗅覚検知閾値を測定した研究は少数存在するが、既存の検査器具を用いた報告では残り香が室内に充満する、嗅覚の順応効果などの課題があった。【対象と方法】「香り発生デバイス」を使用し高機能ASD児とTD児の酢酸イソアミル・酪酸エチルについての嗅覚検知閾値を測定した。尚「香り発生デバイス」は射出量を微細に制御することができるインクジェット方式を用いて、時間軸での細かな射出制御が可能な装置であり、既存の検査器具による実験の問題点を改善した。香料の提示においてアルコール不使用であり、三叉神経を刺激せずに嗅覚特性を測定できる。7~16歳の高機能ASD児15名とTD児15名(ASD児・TD児各々6名は上行法、ASD児・TD児各々9名は下降法で測定した)を対象とした。【結果】酢酸イソアミルの検知閾値はASD児で82.7±52.8、TD児で18.6±13.6であった。酪酸エチルの嗅覚検知閾値はASD児で61.3±50.7、TD児で23.3±24.4であり、共にASD児において嗅覚検知閾値は高いとの結果となった。【考察】ASD児ではTD児と比べて嗅覚検知閾値が大きく異なることが示された。嗅覚は食事や危険の認知に加えて社会性コミュニケーションに大きな役割を果たす(Stevenson, 2010)。今後多くの香料、さらに幅広い年齢におけるASD児の嗅覚特性を明らかにし支援へとつなげていきたい。【倫理】本発表にあたっては本人及び保護者からインフォームド・コンセントを得て、プライバシーに関する守秘義務を遵守し、匿名性の保持に十分な配慮をした。