TOP一般口演
 
アルツハイマー病
O6-1
アルツハイマー前駆体タンパク質C末断片の細胞内蓄積によるホスホジエステラーゼの増加
亀谷 富由樹,羽賀 誠一
公益財団法人東京都医学総合研究所 認知症・高次脳機能研究分野

<目的>アルツハイマー病(AD)では原因遺伝子産物APPがプロセシングされ、生じたAβがアミロイド線維や重合体を形成し、発症するというAβアミロイド仮説が提唱されている。しかし、Aβをターゲットとした免疫治療等の臨床試験において、Aβアミロイド仮説を支持するような結果は得られていない。最近、APPおよびその代謝産物(c末断片C99/89およびC83)と神経障害との関係が研究され、βセクレターゼでプロセシングされて生じたC99の産生増加や蓄積が軸索輸送障害、異常エンドサイトーシス、神経毒性、記憶障害等を起こすことが報告された。私たちは従来よりAPPC末断片のプロセシング、代謝とADとの関係を中心に解析してきた。本研究では、C99/89およびC83の産生増加・蓄積が培養細胞及ぼす影響をプロテオミクスの手法を用いて解析した。<方法>CHO細胞に、Aβ産生の影響が無いようにAPPC83および89を発現させ、APP C末断片蓄積の影響をiTRAQ標識を行い、質量分析器で網羅的に解析した。<結果および考察>APPC83およびC89を過剰(5-6倍)に発現させた細胞において、共通してホスホジエステラーゼ8b(PDE8b)産生が増加(5-7倍)していることを見いだした。APPC83およびC89蓄積によるストレス応答はほとんど見られなかった。このことからAPPC末断片の蓄積している細胞ではPDE8b増加によるcAMP減少が推定された。
O6-2
アルツハイマー病におけるAPP遺伝子プロモーター領域のDNAメチル化解析
森 蓉子,越智 紳一郎,吉野 祐太,安部 賢郎,山崎 聖弘,吉田 卓,森 崇明,上野 修一
愛媛大学大学院医学系研究科精神神経科学

【背景】アルツハイマー病(AD)は認知症の原因疾患の第一位であるが、未だ生物学的マーカーには乏しい。一部の家族性AD以外ではDNA配列の異常は指摘されず、DNA配列に影響を与えないエピジェネティックな変化が発症に起因する可能性が報告されている。本研究では発症原因となる異常蛋白・アミロイドβ蛋白の前駆蛋白であるアミロイド前駆蛋白(APP)をコードするAPP遺伝子のメチル化解析を行った。【対象】AD群はNIA-AAの診断基準でprobable AD dementiaを満たす、65歳以上で発症した26名(平均年齢80.6±0.8歳 男性7名、女性19名)を対象とした。コントロール群は、精神科医が診察し、認知機能障害が明らかでなく、かつMinimental State Examination(MMSE)が30点、またはMMSEが28点以上で脳画像検査において異常を認めない20名(平均年齢79.1歳±0.7歳 男性13名、女性7名)を対象とした。【方法】末梢血白血より抽出したDNAをバイサルファイト変換し、APP遺伝子のプロモーター領域のうち、21ヵ所のCpG siteのメチル化シトシンの割合をパイロシークエンス法にて解析した。また、各群のAPP遺伝子のmRNAの発現との関連や、ApoEε4 allele保有の有無との関連、MMSEの得点との関連についても検討した。なお、本研究は愛媛大学医学部ヒトゲノム遺伝子解析研究倫理委員会の承認を得ている。対象者には研究発表に関する項目も含め、口頭での十分な説明と書面を用いたインフォームドコンセントにより同意を得た。【結果と考察】両群において、解析した全てのCpG siteにおいてメチル化シトシンの割合に有意差はみられなかった。しかし、各群からAD群17名、コントロール群9名の79歳以上を抽出し比較したところ、複数のCpG siteにおいてAD群で有意にメチル化割合が高かった。これらの結果よりメチル化割合の変化がADの発症や進行に関与している可能性が考えられた。
O6-3
アルツハイマー病治療薬としてのT型カルシウムチャネル活性化薬の創製
福永 浩司,矢吹 悌,森口 茂樹,塩田 倫史
東北大院・薬・薬理

【目的】T型(Cav3)は低電位(-60mV)で活性される電位依存性カルシウムチャネルである。中枢神経系に高発現して、睡眠、てんかん、痛みの発現に関与している。私たちはT型カルシウムチャネルを活性化する低分子化合物ST101(アルツハイマー病治験第二相)が認知機能の改善作用を有することを発見した(J Neuochem 2012;121:44053)。本研究では新規T型カルシウムチャネル活性化薬としてスピロイミダゾピリジン誘導体SAK3を創製し、その認知機能改善作用について検討した。【方法】神経芽種細胞neuro2A細胞にT型カルシウムチャネル(Cav3.1)を発現させ、パッチクランプ法でスピロイミダゾピリジン誘導体をスクリーニングして、最も活性の強いSAK3を創製した。次に、マウス海馬シナプス伝達長期増強(LTP)に対する効果を検討した。嗅球摘出マウスの認知・空間学習機能障害に対する改善効果を、Y字迷路試験、新規物体認識試験により確認した。【結果】-30~-40mVにピークを示すT型currentに対して、100pMのST101は10%、SAK3は約20%の増強効果を示し、SAK3は有意に強い活性化作用を示した。マウス海馬LTPに対して、ST101(100pM)は促進効果を示さないのに対して、SAK3(100pM)はLTPの誘導と維持相において150%以上の促進効果を示した。この時、海馬でのLTPの発現に関与するCa2+/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)の活性化作用もSAK3で確認された。急性投与で嗅球摘出マウスの認知・空間学習機能障害に対する改善効果を検討したところ、SAK3は1mg/kgで有意に認知機能および空間学習機能を改善した。【考察】T型カルシウムチャネルを活性化する低分子化合物ST101は、T型カルシウムチャネルの活性化能を有しているが、海馬におけるLTP増強作用はなかった。一方、新たに創製したT型カルシウムチャネル活性化薬SAK3は明らかな海馬LTP増強作用を有し、動物実験においても認知機能改善効果が観察された。ST101にはアミロイドβ産生抑制効果が報告されていることから、今後はSAK3のアミロイドβ産生抑制効果とそのメカニズムについて追究する。
O6-4
糖尿病はGM1ガングリオシド結合型Abetaの産生増加を介してAbeta病理を加速する
木村 展之1,2,岡林 佐知2,3,下澤 律浩2,保富 康宏2,柳澤 勝彦1
国立長寿医療研究センター 認知症先進医療開発センター アルツハイマー病研究部 病因遺伝子研究室1,医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター2,予防衛生協会3

【目的】近年の疫学調査により、II型糖尿病はアルツハイマー病(AD)発症リスクを増大させることが明らかとなったが、その詳細なメカニズムについては不明な部分が多い。そこで本研究では、ヒトと同様に老人斑や神経原線維変化が老年性に形成されるカニクイザルを用いて、糖尿病がAD病変の形成にもたらす影響を病理学的に解析した。【方法】II型糖尿病を自然発症したカニクイザルの脳組織を用いてAD病変関連蛋白(Aβ、APP、tauなど)について免疫組織化学的検索を行った。さらに、若齢から老齢、および糖尿病発症カニクイザルの脳組織を用いて生化学的にAD病変関連蛋白の解析を行った。全ての動物実験は所属機関の規定を遵守して実施された。【結果と考察】通常、カニクイザルの脳組織では20歳以上の個体においてのみ老人斑の形成が確認されるが、糖尿病発症個体の脳内では18歳齢で既に老人斑の形成が確認され、老齢期にはより強い脳血管アミロイド症の存在が確認された。また、糖尿病発症カニクイザルの脳内ではAβ凝集のシード分子であるGM1ガングリオシド結合型Aβ(GAβ)の著しい増加が確認された。これらの結果から、糖尿病は脳内でのGAβ産生を増加させ(=Aβ凝集を促進させ)Aβ病理を加速することでAD発症リスクを高める可能性が示唆された。
O6-5
聴覚細胞を用いた新規アルツハイマー病解析モデルマウスの作製
津田 玲生1,小又 尉広2,山崎 泰豊1,林 永美1
国立長寿研・CAMD・創薬モデル動物開発研究PT1,名大・医・衛生学2

アルツハイマー病(AD)の発症には数十年という長い時間を要することから、短時間で発症を解析する目的で多くのモデルマウスが作製され、治療薬の開発が進められている。しかし、これまでのところADの進行そのものを修正できる疾患修飾薬の開発には成功していない。既存のマウスモデルではADの発症を経時的かつ定量的に評価するのにはあまり適していないことから、より創薬開発に適したモデル系の確立が必要だと思われる。今回、我々は創薬開発に資するモデル系を構築するため、新しい視点にたった新規AD解析モデルマウスの作製を試みた。神経細胞と内耳有毛細胞との共通性に着目して、ADの原因因子であるアミロイドベータ(Aβ)を内耳有毛細胞で過剰発現する系統を作製した。このTgマウスは内耳有毛細胞にAβの発現が確認されたことから、聴性脳幹反応(ABR)を用いて聴力をモニターしたところ、生後4ヶ月で高音域に対する聴覚の低下が認められた。このAβによる聴覚異常はヒトTauとの共発現により増強されることから、我々が確立したTgマウスはAβによる神経毒性効果を反映していることが示唆され、Aβ治療薬を経時的かつ定量的に評価する良いモデルになることが期待される。本会では、この新規AD解析モデルマウスを用いた創薬開発について議論したい。
O6-6
微小管結合タンパク質タウのGSK3bによるリン酸化のPhos-tag法を用いた検証
米澤 遼,網本 紫,木村 妙子,斎藤 太郎,久永 眞市
首都大・生命科学科・神経分子機能

微小管結合タンパク質タウはアルツハイマー病の病理として知られる神経原繊維変化の主要構成成分である。前頭側頭型認知症(FTDP-17)、皮質基底核変性症、ピック病などでもタウの凝集体形成が見つかっており、総称してタウオパチーと呼ばれる。タウオパチーで凝集体を形成しているタウは高リン酸化されている。リン酸化と凝集体形成との関連は未解決だが、高リン酸化の仕組みを明らかにすることは、タウオパチーでの神経細胞の病的環境を明らかにする上で重要である。これまでタウのリン酸化に関して多くの研究がされており、Ser/Thr-Pro配列のリン酸化部位が特徴的であることが知られている。リン酸化酵素としては、GSK3βやCdk5、ERKなどのプロリン指向性キナーゼが候補に挙げられている。中でも異常リン酸化を引き起こすキナーゼとしてGSK3βが注目されている。最近の総説によれば、GSK3βのタウリン酸化部位は28ヶ所となっている。しかし、これらの多くはリン酸化抗体で検出されたものであり、定量的、機能的観点からは検証されていない。本研究では、GSK3βによるタウのリン酸化を、近年リン酸化研究で用いられるようになってきたPhos-tag法で再検証した。アミノ酸シークエンス法で求められたGSK3βのリン酸化部位はSer199、Thr231、Ser396、Ser400(最長のヒトタウのアミノ酸配列を基に)である。それらのAla変異体を作製して、COS-7細胞に発現させ、内在性キナーゼによるリン酸化をPhos-tag法で解析した所、COS-7細胞は内在性のGSK3βがかなり発現しているにも関わらず、Ser199、Ser396、Ser400のAla変異体ではリン酸化パターンに変化が見られず、Thr231のみが内在性キナーゼによりリン酸化されていることが示された。理由として、Ser199、Thr231、Ser396、Ser400はCdk5によるプライミングリン酸化が必要であると考えられる。現在、それら変異体をCdk5-p35と共発現させて、リン酸化を調べている。また、Thr231が本当にGSK3βによってリン酸化されているのかを検証するため、GSK3βの阻害剤を用いた実験も行っている。大会ではGSK3βによるタウリン酸化の部位特異的及び定量的な結果を、Phos-tagを用いて示したいと考えている。