TOP一般口演
 
ストレス/気分障害
O7-1
カナビノイドCB2受容体と環境ストレスによる精神疾患発症メカニズムの解明
田畑 光一1,石黒 浩毅1,2,曽我部 博文1,中山 桜1,Onaivi Emmanuel2,Buckley Nancy3,久保田 健夫4,本橋 伸高1
山梨大学医学部精神神経医学臨床倫理学講座1,ウィリアムパターソン大学生物学分野2,カリフォルニア工科大学3,山梨大学大学院医学工学総合研究部環境遺伝医学講座4

【目的】カナビノイドシステムは大麻が作用する受容体を含むシステムであり、感情や認知機能などの精神機能において重要な役割を果たす。中枢神経に豊富に分布する1型受容体は機能変化をもたらす遺伝子多型が存在しないが、末梢組織に主に分布する2型受容体の遺伝子(CNR2)にはアミノ酸および遺伝子発現を変化させる遺伝子多型が存在し、遺伝子関連解析では統合失調症とうつ病の両疾患に関連を認める。本研究では多因子疾患である精神疾患の病態解明を目的に、体質要因をカナビノイド2型受容体の機能低下とし、発症トリガーとなる環境要因を明らかにする。【方法】CNR2遺伝子の遺伝子多型はGiタイプの受容体機能と脳内発現を低下させるものであり、Cnr2ノックアウトマウスや受容体のインバースアゴニストを投与されたC57B/6マウスはこれら精神疾患の良いモデルとなる。これらのモデルマウスを用いて、覚せい剤(2mg/kg ip)投与による薬剤性ストレス、軽度慢性ストレスなど物理的ストレス、PolyI;C(6mg/kg ip)投与による免疫ストレス、の各種トリガーを負荷した時の行動変化を解析する。行動解析は行動量測定、ゼロ迷路テスト、Prepulse Inhibitionテストを行い、野生型およびヘテロ(ノックアウト)型マウスの表現型の比較を行った。【成績】ヘテロ型ノックアウトマウスは通常の飼育環境(ナイーブ群)において野生型に比して不安が強い。軽度慢性ストレスはC57B/6マウスの不安を増強させるが、インバースアゴニストはこの反応を増悪しアンタゴニストは軽減する。ヘテロ型ノックアウトマウスはナイーブ群において活動性やPPIについて野生型との差を認めないが、覚せい剤投与により活動性の増加とPPIの障害が大きくなり、PolyI:C投与により活動性低下と不安が大きくなる。【結論】カナビノイド2型受容体は、様々なストレッサーに反応して異なる精神行動の変化を引き起こすことが示唆された。つまり本研究は、統合失調症とうつ病に共通する脳の脆弱性には遺伝要因として少なくとも一部にカナビノイドシステムが関与しており、その遺伝要因に環境要因の付加があることにより異なる疾患が発病するメカニズムを示唆している。
O7-2
うつ様行動を示すラット小脳にてGh1の発現が減少する
山本 悠太,伊藤 隆雄,上山 敬司,鶴尾 吉宏
和医大・医・第一解剖

げっ歯類のうつ様行動は強制水泳試験などの行動解析試験で評価されるが、うつ様行動を示すモデル動物等を用いた解析では群内の個体差があるため、分子生物学的な解析に比べより多くの個体を用いる必要がある。しかし、作製したうつ様行動モデル動物の各個体が、どの程度のうつ様行動を示したかを判断する基準がなく、各個体のうつ様行動の度合いを反映した遺伝子発現解析が行えなかった。今までの検討では個体差の影響を排除できないまま、うつ様行動モデル動物群と正常群間で遺伝子発現解析を行い、うつ様行動との関連のある遺伝子群を探索していため、うつ様行動に関与する遺伝子群だけでなく、個体差による影響で発現変化した遺伝子群も同定している可能性があり、うつ様行動の責任遺伝子の十分な特定には至っていない。また、うつ様行動に関連する脳部位として一般的に海馬、扁桃体、視床下部といった大脳辺縁系が注目されているが、運動活動を制御する小脳も精神活動も制御する可能性が示唆されるようになり、小脳から前頭前野への投射による精神活動の制御が注目されている。本研究では、106匹の正常雄ラットに強制水泳試験を行い、不動時間が平均値より1 S.D.から2 S.D.延長した、うつ様行動群と不動時間が平均値±1 S.D.のコントロール群で小脳および前頭前野における遺伝子発現解析を行い、うつ様行動に関連する遺伝子の探索を行った。小脳および前頭前野のmRNAサンプルをマイクロアレイにより発現解析したところ、両脳部位で発現変化した遺伝子はわずか11遺伝子(Alas2、Gh1、Hba-a2、Hbb、Hbb-b1、Hbe2、LOC689064、Mrps10、Mybpc、Olf6415、and Pfkb1)であった。各脳部位で発現変化した遺伝子群のパスウェイ解析を行ったところ、Gh1遺伝子をハブ遺伝子とするネットワークが各脳部位で発現変化した遺伝子群から見出せた。またGh1遺伝子の発現減少はマイクロアレイおよびリアルタイムPCRにより確認できたため、本研究より、うつ様行動の増加に、小脳―前頭前野における遺伝子発現の減少が関与している可能性が示唆された。
O7-3
脳脊髄液fibrinogen上昇は大うつ病性障害の亜型を反映している
服部 功太郎1,2,篠山 大明1,太田 深秀1,吉田 寿美子3,横田 悠季2,松村 亮2,宮川 友子2,野田 隆正3,功刀 浩1
国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第三部1,国立精神・神経医療研究センタートランスレーショナル・メディカル・センター2,国立精神・神経医療研究センター病院3

【目的】大うつ病性障害(MDD)は単一の疾患ではなく複数の病態を含む可能性が高い。より良い診断・治療法を開発するためには各々の病態を反映するバイオマーカーが必要である。脳脊髄液(CSF)は血液に比較して脳由来の物質を多く含んでおり、他の臓器の影響を受けにくいため脳疾患の分子病態を、より良く反映していると考えられる。そこで我々は患者CSFを用いたプロテオーム解析によりMDDのバイオマーカーの探索を行った。
【対象と方法】国立精神・神経医療研究センター倫理委員会の承認を受け、研究同意の得られたMDD、統合失調症および健常対照を対象に腰痛穿刺を行いCSFを得た。年齢と性をマッチさせた大うつ病性障害30例、健常対照30例に対しアプタマーを用いたプロテオーム解析(SOMAscan;1128分子の測定)を米Somalogic社に委託して行った。候補分子fibrinogenについては、独立した症例(MDD28例、統合失調症31例、健常対照30例)のCSF・血漿を用いてELISAで解析を行った。
【結果】各分子について健常例より「正常値」を定め、うつ病で異常高値を示す症例数を検索したところ、最上位群に3つのfibrin関連分子が含まれていた。それらの分子に対する特異的ELISAを用いて解析したところ、プロテオーム解析で最上位であった分子の測定値とfibrinogenの測定値が最も強く相関していた。独立した症例を用いてCSF中fibrinogenの解析をELISAで行ったところ、MDDで異常高値を示す症例が増加していた。一方、血漿とCSFのfibrinogen値は相関せず、また疾患群間のfibrinogen値の平均や分布は同等であった。
【結論】血漿fibrinogenは、これまでにも、うつ状態との相関が報告されてきたが、脳脊髄液で調べた報告は見当たらない。髄液中fibrinogenの測定は、大うつ病の少なくとも一部を反映するマーカーとして利用できる可能性が示唆された。また、動物実験でfibrinogenがミクログリアや軸索に与えるダメージも報告されており、本研究により、うつ病でfibrinogenが脳の病態に影響している可能性が示唆された。
O7-4
精神科領域における脳刺激療法及びニューロモデュレーションの最新技術
野田 賀大
Centre for Addiction and Mental Health, Department of Psychiatry, University of Toronto

【背景】1985年に経頭蓋磁気刺激法(Transcranial Magnetic Stimulation;TMS)が開発されて以降、脳神経機能を非侵襲的に調べる方法として、TMSを応用した神経生理学的研究が進められてきた。その後、TMS技術の進歩により1993年からは反復性TMS(repetitive TMS:rTMS)を用いたうつ病を対象とした臨床研究が報告されてきている。2002年にはカナダ保健局で主にうつ病を対象としたrTMSの臨床使用が認可され、2008年にはアメリカ食品医薬品局FDAからも薬物治療抵抗性うつ病に対するrTMSの治療応用が認められた。現在は、北米以外にもヨーロッパ、オーストラリアをはじめとした先進諸国にて、難治性うつ病に対する治療オプションの一つとして積極的に臨床研究・臨床応用されてきている。【目的】本口演では主に北米におけるrTMS治療技術や臨床研究の紹介を行うことを目的としている。【方法】演者の数年間に亘る日本とカナダにおけるrTMS臨床研究の経験を踏まえ、主に北米におけるrTMS治療技術の現状を説明する。本発表では関連人物のプライバシー保護に配慮し、演者に関連企業との利益相反はない。【結果】現在、臨床使用されている主なrTMSマシンには、MagStim社Super Rapid2(イギリス)、MagVenture社MagPro(デンマーク)、Neuronetics社NeuroStar(アメリカ)、Brainsway社Deep TMS System(イスラエル)の4種類があり、それぞれの機器に特徴がある。またrTMSのプロトコルには様々なものがあり、各疾患及び被験者の特性に適したパラメータが世界中の研究機関で模索されてきている。他方、近年は治療抵抗性うつ病以外にも、双極性障害、統合失調症、PTSD、OCD、薬物/アルコール依存を対象とした臨床研究も徐々に行われてきており、それぞれ効果が認められてきている。さらに通常のrTMS治療以外にもより侵襲的ではあるがより強力なBrain Stimulation and Neuromodulation技術も開発されてきており、主に重症難治性うつ病を対象とした磁気痙攣療法(Magnetic Seizure Therapy;MST)や深部脳刺激療法(Deep Brain Stimulation;DBS)等も臨床研究されてきている。
O7-5
うつ病に対する経頭蓋磁気刺激療法による安静覚醒脳波のガンマパワー及びシータガンマカップリング増強
野田 賀大1,2,Reza Zomorrodi1,Jeff Daskalakis1,中村 元昭2
Centre for Addiction and Mental Health, University of Toronto, Toronto, Canada1,神奈川県立精神医療センター芹香病院2

【目的】うつ病に対する経頭蓋磁気刺激療法による治療効果は、その病的なネットワークの神経可塑性変化と関連していると考えられている。今回我々はそれらを反映した指標であるガンマパワーとシータガンマカップリングの経頭蓋磁気刺激治療前後での変化を評価し、両指標の臨床相関の有無を調べることを研究目的とした。【方法】うつ病患者に対する経頭蓋磁気刺激治療(計10回)の前後で安静覚醒脳波を計測した。それらの脳波に対してパワースペクトラム解析によるガンマパワー計測とシーターガンマカップリング解析によるシータ位相とガンマ振幅のカップリング強度を計算した。さらにハミルトンうつ病尺度によるうつ症状スコアとウィスコンシンカードソーティングテストによる認知機能スコアを評価し、治療前後でのそれらの変化と上述の指標との間の相関解析も行った。本研究は倫理審査委員会による承認を得て、被験者から書面による同意を得た。【結果】うつ病患者に対する経頭蓋磁気刺激療法前後の安静覚醒脳波において左前頭部(t30=-3.090、p=0.004)・左頭頂側頭部(t30=-3.155、p=0.004)・ミッドライン領域(t30=-3.137、p=0.004)にガンマパワーの有意な増加を認めた。またシーターガンマカップリグ強度は、左頭頂側頭部(t30=-2.475、p=0.019)において有意な増加を認めた。さらにうつ症状スコアの改善と左頭頂側頭部のガンマパワー増加との間に有意な相関(ρ=-0.396、p=0.027)を認め、認知機能スコアの改善と全平均シーターガンマカップリグ強度の増加との間に有意な相関(ρ=-0.562、p=0.001)を認めた。他方、上述のガンマパワー増加とシータガンマカップリング強度増加との間には有意な相関は見られなかった。【結論】うつ病患者に対する経頭蓋磁気刺激療法による安静覚醒脳波のガンマパワー及びシーターガンマカップリング強度の有意な増加は、それぞれ独立にその治療効果と関連した神経生理学的指標である可能性が示唆された。