TOP一般口演
 
受容体の動態と機能
O8-1
周産期における呼吸リズム形成に対するGABA応答性の変化
清水 千草,岡部 明仁,高山 千利
琉球大学大学院医学研究科

GABAは正常成熟動物の中枢神経系において、主要な抑制性神経伝達物質である。しかし、幼若期には細胞内Cl-濃度([Cl-]i)が高いため、GABAは興奮性に働くことが報告されている。これまでの研究から、周産期においてGABAの抑制性応答は呼吸リズム形成に重要な役割を担っていると考えられているが、抑制性GABAシナプスの構築と呼吸リズム形成の関連について未解明な点が多い。胎齢(E)16日から生後(P)7日までの延髄領域より急性スライス標本を作製し、人工脳脊髄液のK+濃度を8mMと高くすることで、呼吸様リズム性の自発発火を誘導できる。この呼吸様リズム性発火を舌下神経核より記録し、解析した。その結果、E16からP0まで呼吸様リズム性発火数は発達とともに増加したが、その後は変化しなかった。このことから、出生時に必要な呼吸リズムは胎生期に既に形成されていると考えられる。このスライス標本にGABAを添加したところ、呼吸様リズム性発火数は胎生期において添加前と比較して有意に減少した。P0からP2までは添加前と変わらず、逆にP3からP7ではGABAの添加により増加に転じた。このようなGABAに対する応答性の変化が、[Cl-]iよってもたらされているのかを検討した。そこで、細胞外にCl-を排出し、[Cl-]iを低下させ、GABAを抑制性に導くK+-Cl-共輸送体(KCC2)の阻害剤であるDIOAを添加したところ、呼吸様リズム性発火数はE16では添加前と比較して有意に増加したが、その後P0まで変化は認められなかった。しかし、P1からP7ではDIOA添加により呼吸様リズム性発火数は有意に減少した。一方、細胞内にCl-を取り込むNa+-K+-2Cl-共輸送体(NKCC1)の阻害剤であるブメタニドの添加ではどの日齢においてもほとんど変化は見られなかった。舌下神経核におけるKCC2の発現を免疫組織化学法により調べたところ、KCC2はE18で舌下神経核全体に広がり、P3から上縦舌筋を支配する領域(SL)でその発現は特に増加することがわかった。これらの結果から、[Cl-]iの減少によるGABA応答性の変化が、胎生期から出産を経て幼若期へと至る過程の呼吸リズム形成に関与している可能性が示唆された。
O8-2
グルタミン酸トランスポーターの局在制御と構造的役割
林 真理子,安井 正人
慶應義塾大学医学部薬理学教室

グルタミン酸トランスポーターは、神経シナプスに放出された興奮性神経伝達物質グルタミン酸を回収することで、シナプス伝達を終了させ、過剰な興奮に伴う神経細胞死から神経細胞を保護する役割を持つ。アストロサイトは複雑に分岐した微細な突起で神経細胞にアプローチし、このグルタミン酸の大部分を回収する。EAAT1とEAAT2はアストロサイトに発現する主要なグルタミン酸トランスポーターである。両者にGFPを融合してCOS細胞における局在を調べたところ、EAAT1は主に小胞体に留まったのに対し、EAAT2は細胞表面、特にフィロポディアの先端によく局在する傾向があった。既知の足場蛋白質との相互作用部位であるN末端、C末端の細胞内配列を除去し、トランスポータードメインのみのGFP融合体を作製したところ、EAAT1、EAAT2ともフィロポディアの先端に強く局在した。更に、同じSDFトランスポーターファミリーに属する中性アミノ酸トランスポーターASCT1のトランスポータードメイン断片もフィロポディア先端に対する局在を示した。この結果は、SDFファミリートランスポータードメインそのものがフィロポディア先端への局在因子としての性質を持つことを意味する。また、これらのトランスポーターをもつフィロポディアの動きは抑えられ、フィロポディアの構造を安定化する性質もみられた。三量体を形成するSDFファミリートランスポーターの細胞外側中心部に位置するループを除去したところ、フィロポディア先端に対する局在が失われたことから、このループがフィロポディア先端への局在と安定化に関与していると考えられる。ヒトに見られるEAAT1のC186S変異は、運動失調症に関連するとされ、トランスポーター活性が若干低下することが報告されている。この残基はフィロポディア先端への局在に必要な細胞外ループの近傍にあるため、この変異の影響を評価したところ、フィロポディア先端に対する局在が有意に失われていた。
O8-3
Delta型グルタミン酸受容体の細胞内局在と結合分子群
中本 千尋1,吉田 豊2,渡辺 和泉1,渡辺 雅彦3,木下 専4,山本 格2,崎村 建司1
新潟大学脳研究所細胞神経生物学分野1,新潟大学院医歯学総合研究科 腎研究施設 構造病理学分野2,北海道大学大学院医学研究科 解剖発生学分野3,名古屋大学大学院 理学研究科 情報機構学講座 細胞制御学グループ4

Delta型グルタミン酸受容体はGluD1とGluD2サブユニットが存在し、アミノ酸の相同性からイオン透過型グルタミン酸受容体に分類されているが、イオン透過能がなくその機能は長い間不明であった。GluD2は小脳プルキンエ細胞に非常に多く発現し、ノックアウトマウスは重篤な運動失調を引き起す。最近、この分子が小脳平行線維-プルキンエ細胞シナプスにおけるシナプス接着因子としてその形成と維持に関与することが明らかにされた。GluD2の細胞内ドメインは種々の結合分子を介しLTDに関与することも示唆されている。本研究の目的は、未だ機能が不明なGluD1および小脳以外でのGluD2の荷なう役割を解明するために、脳部位ごとの各サブユニットと結合する分子群を同定することである。このために、両サブユニットが発現する皮質や海馬領域においてGluD1、GluD2に結合する分子を免疫沈降法により単離し、マススペクトロメトリーにより解析をおこなった。検出された分子群の結合性を培養細胞での発現実験と脳サンプルを用いて当該分子に対する抗体を使った免疫沈降法で確認した。その結果、大脳皮質・海馬シナプトソームにおいてセプチンなど複数の新規の結合分子を同定した。さらに、GluDサブユニット間の結合の有無についても検討し、大部分がホモメリックな結合であることが明らかになった。また、各脳領域によってGluD1とGluD2の細胞内局在が異なることを確認した。上記の結果から、脳領域におけるGluD1およびGluD2が異なる役割を有している可能性が示唆された。
O8-4
神経細胞におけるGs共役型受容体GPR3の細胞内動態と機能
宮城 達博,田中 茂,秀 和泉,白藤 俊彦,酒井 規雄
広島大学院・医・神経薬理

G-protein coupled receptor(GPR)3 is a member of GPRs that constitutively activates the alpha subunit of the adenylate cyclase-stimulating G protein(Gs). We have previously reported that developmental expression of GPR3 in rodent cerebellar granule neurons is associated with neurite outgrowth and cell survival. In the present study, we focused on the subcellular dynamics and local function of GPR3. We applied monomeric green fluorescent protein tagged GPR3 to neuronal cells for visualizing time-dependent distributions of GPR3. GFP fluorescence was distributed along the plasma membrane and in the cytoplasm, such as endoplasmic reticulum and goldi body. Furthermore, fluorescent punctae of GFP-GPR3 were translocated along the neurite in both directions. Besides, translocation of GPR3 punctae was blocked with either blebbistatin or latrunculin B, which are the potential inhibitors of actin-based cell motility. Movement of GPR3 punctae was also abrogated by administration of nocodazole, which is the inhibitor of microtubule polymerization. We further asked if migration of GFP-GPR3 punctae is associated with local activation of PKA. Application of PKA FRET indictor(AKAR3EV)to the GPR3 transfected cells revealed that the activity of PKA was relatively higher in neurite than in cell body, especially highly elevated at tips of neurite. Moreover, administration of blebbistatin to the GPR3 transfected cells resulted in significant reduction of PKA activity in adjacent areas. These results thus indicated that local dynamics of GPR3 is correlated with local PKA activation, thereby might affect neuronal functions.
O8-5
GPCR活性化によるNMDAR/カルシニューリン/CRTC1経路の選択的活性化を介した遺伝子発現誘導
福地 守1,前畑 陽祐1,和泉 宏謙2,田中 亜由美2,井上 蘭2,森 寿2,田渕 明子1,津田 正明1
富山大院・医薬・分子神経生物1,富山大院・医薬・分子神経科学2

モノアミンや神経ペプチド等の神経調節性伝達物質は、一般的にGタンパク質共役型受容体(GPCR)を介してその作用を発揮する。また、神経調節性伝達物質によるGPCR活性化が、NMDAレセプター(NMDAR)の機能を調節することが知られており、神経調節性伝達物質の機能発現に関わることが示唆されている。しかし、これら受容体活性化の下流で引き起こされる細胞内情報伝達経路の詳細については、不明な点も多い。そこで本研究では、GPCR活性化による情報伝達・遺伝子発現制御に着目し、解析を行った。本研究では、培養大脳皮質神経細胞を用いて、GsおよびGq共役型受容体PAC1を活性化する神経ペプチドである下垂体細胞アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)により誘導される遺伝子発現制御機構について解析した。その結果、PACAPにより誘導される転写産物の半数以上は、NMDARのアンタゴニストAPVにより少なくとも一部は抑制されたことから、この誘導にはNMDARの活性が必要であることが示唆された。各種阻害剤を用いた解析の結果、特に脳由来神経栄養因子(BDNF)発現誘導は、NMDARを介したCa2+/カルシニューリン(CN)経路の活性化が必要であった。さらに、CN経路の下流では、転写制御因子CREBのコアクチベーターであるCRTC1の核内移行が起こり、これがBDNFを含むCN経路依存的な遺伝子転写活性化に寄与することが明らかとなった。また、NMDAR/Ca2+/CN経路を介したBDNF発現誘導は、PACAP以外のGs、Gq共役型受容体のリガンドにおいても同様に認められた。したがって、この遺伝子発現制御は、GPCRの種類によらず共通に認められることが示唆された。GPCRによる神経調節性の神経伝達は、長期記憶や薬物依存等の長期的な神経機能の変化に関与する。したがって、GPCR活性化によるCa2+/CN/CRTC1/CREBを介した遺伝子発現制御系は、高次脳・神経機能発現に重要であり、この経路の破綻は、神経精神疾患等の原因となる可能性が考えられた。
O8-6
DCP-LAは5-HT1A受容体の細胞表面輸送を促進し抑うつ関連行動を改善する
菅野 武史,西崎 知之
兵庫医大・医・生理学

セロトニン神経伝達の障害はうつ病の主要な原因因子であり、またグリコーゲン合成酵素キナーゼ-3β(GSK-3β)は精神障害に関するシグナル伝達に関与している。うつ病関連行動の評価に用いられる強制水泳試験において、拘束ストレスを与えられたうつ病モデルマウスでは、対照マウスに比べ不動時間の延長が見られた。このうつ病モデルマウスにおいて、視床下部シナプス後細胞表面の5-HT1A受容体発現が減少していた。この5-HT1A受容体の細胞表面発現レベルと強制水泳試験における不動時間には比較的強い相関があった。リノール酸誘導体DCP-LAは、うつ病モデルマウス視床下部における5-HT1A受容体の細胞表面発現レベルの低下を回復させ、うつ病モデルマウスにおける不動時間を短縮させた。また、DCP-LAによりうつ病モデルマウスに見られたGSK-3βのSer9のリン酸化レベルの亢進が抑制された。これらの結果から、DCP-LAは5-HT1A受容体の細胞表面発現を促進し、GSK-3βを不活性化することにより抑うつ関連行動を改善することが示唆された。