TOP一般口演
 
パーキンソン病
O10-1
オキシカム系NSAIDsはERストレス抑制を介してMPP+毒性を軽減する
笹岡 美和1,大村 友博1,田崎 嘉一2,松田 裕貴1,小山 智志1,中川 俊作1,今井 哲司1,米澤 淳1,中川 貴之1,松原 和夫1
京都大学医学部付属病院薬剤部1,旭川医科大学病院薬剤部2

Endoplasmic reticulum stress(ER stress)is believed to be involved in the pathogenesis of neurodegenerative disorders such as Parkinson's disease(PD). We have previously reported that a series of oxicam non-steroidal anti-inflammatory drugs(NSAIDs)are neuroprotective against 1-methyl-4-phenyl pyridinium(MPP+)in dopaminergic neurons via the PI3K/Akt pathway independent of cyclooxygenase inhibition. In this study, we investigated whether the cell protection effect of oxicam-NSAIDs arises thorough the suppression of ER stress response. We confirmed that oxicam-NSAIDs protected against cell death caused by tunicamycin, an ER stress-inducer, in neuroblastoma SH-SY5Y cells, as shown in the study with MPP+. MPP+ increased mRNA and protein expression levels of CHOP, which is a hallmark of ER stress response and a related molecule involved in apoptosis. On the other hand, oxicam-NSAIDs protected the increase of CHOP mRNA and protein levels by the treatment of MPP+. In addition, oxicam-NSAIDs suppressed the activation of eIF2α and ATF4 caused by the MPP+ exposure. Since CHOP expression is activated via the PERK-eIF2α-ATF4 pathway, these results indicated that oxicam-NSAIDs suppressed CHOP expression via the inhibition of PERK-eIF2α-ATF4 pathway. We also confirmed that oxicam-NSAIDs suppressed caspase-3 activation elicited by MPP+, suggesting that the suppression of ER stress response by the oxicam-NSAIDs is one of the cell protection mechanisms against MPP+ toxicity.
O10-2
神経毒MPTPによるin vivoチロシン水酸化酵素活性の低下に対するテトラヒドロビオプテリン投与の効果
黒崎 宏貴,本間 大悟,徳岡 宏文,一瀬 宏
東工大院・生命理工・分子生命

パーキンソン病発症神経毒1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine(MPTP)は中脳黒質のドーパミンニューロンを変性させ、パーキンソン病症状を引き起こす。MPTPの作用メカニズムとして、ミトコンドリア機能を障害し、酸化ストレスを増加させることが知られている。一方、MPTPはin situの系でドーパミン生合成の律速酵素であるチロシン水酸化酵素(TH)の活性を低下させることが報告されている。この活性低下の原因を解明することはMPTPの作用機序を明らかにし、パーキンソン病の発症メカニズムを解明するうえで重要と考えられる。そこで、本研究ではMPTPがドーパミン生合成に与える影響をTHの補酵素であるテトラヒドロビオプテリン(BH4)代謝に注目して解析した。
20mg/kgのMPTPを1回腹腔内投与し、DOPAの蓄積により調べたin vivo TH活性の1、3、6時間後の経時変化を解析した。その結果、MPTP投与から3時間後にin vivoのTH活性は24%に減少することがわかった。この時、補酵素BH4量はPBS投与群の83%であった。この結果は、変性が起こらないMPTPの一回投与でも、MPTPはドーパミン生合成を障害することを示した。in vivo TH活性低下の原因として、MPTPが直接THタンパク質を不可逆的に変性させている可能性を調べるため、in vivo TH活性が低下していたMPTP投与後の線条体を取り出し、in vitroでTH活性を測定した。結果、PBS投与群とMPTP投与群でin vitroでのTH活性に差はなかった。そこで、BH4がTH活性の低下に影響している可能性を調べるため、50mg/kgのBH4を腹腔内投与し、in vivo TH活性の変化を解析した。その結果、PBSとBH4を投与してもin vivo TH活性は変化しないが、MPTPとBH4を投与した場合、MPTPにより低下したin vivo TH活性が2.1倍に増加した。さらに、ドーパミン量の回復も見られた。これらの結果から、MPTPによるin vivo TH活性の低下は、BH4投与で部分的に回復することが明らかになった。今後は、なぜBH4投与でin vivo TH活性が増加したのかを解析し、MPTPの作用機序におけるBH4の関わりを解明する。
O10-3
パーキンソンモデル動物に対する天然物由来タンパクキナーゼCδ抑制薬投与によるカタレプシー改善作用
福井 裕行1,縄田 萌2,水口 博之2,原井川 晶悟2,笠原 二郎3
徳島大学・院・難治性疾患1,徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部分子情報薬理学分野2,徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部神経病態解析学分野3

【背景】アレルギー疾患症状が、ヒスタミンH1受容体(H1R)刺激によるPKCδ活性化とH1R遺伝子発現亢進を介するH1Rアップレギュレーションにより悪化することを明らかにした。一方、パーキンソン病(PD)における、黒質ドーパミン神経細胞変性のメカニズムの一つとして、酸化ストレスなどにより活性化された蛋白キナーゼCδ(PKCδ)がカスパーゼ3を活性化させ、神経細胞にアポトーシスを引き起こすことが明らかにされつつある。そこで、天然物由来PKCδ抑制化合物であるケルセチンを用いて、PD症状に対する効果を検討した。【方法】C57BL/6マウス(♂、8週令)に20 mg/kgのMPTPを2時間おきに4回腹腔内投与し、PDモデルマウスを作成した。ケルセチン(50及び200 mg/kg)をMPTP初回投与前、最終投与1日、及び、2日後に経口投与した。MPTP最終投与3日後にBeam-Walking試験、Catalepsy試験、Rota-rod試験を行い、ケルセチンの運動障害回復効果を検討した。行動試験後、線条体を採取し、チロシンハイドロキシラーゼ(TH)発現量、DA含量、DA代謝産物含量を定量した。【結果】MPTP処理により、線条体TH発現、DA・DA代謝産物含量が有意に減少した。ケルセチン投与により、TH発現量は回復傾向を示したが、DA及びDA代謝産物含量には変化は無かった。行動試験において、Beam-walking試験、Rota-rod試験に対して影響はなかったが、Catalepsy試験において有意な行動の回復が認められた。線条体グルタミン酸(Glu)含量はケルセチン処理によりMPTP処置群より減少傾向を示した。【考察】PDでは、MPTP処置により線条体Glu含量が増加すること、過度なGlu神経系の活動とPD症状が関連することから、ケルセチン投与により減少したGluがカタレプシーの改善に寄与する可能性が考えられた。また、グルタミン酸トランスポーター1のエンドサイトーシスにPKCδが関与するためケルセチンはエンドサイトーシスを抑制し、Glu含量の減少を引き起こす可能性が考えられた。
O10-4
Necdinによるニューロン内ミトコンドリア機能の促進:パーキンソン病モデルにおける神経保護作用
長谷川 孝一1,安田 徹2,白石 千夏1,藤原 一志郎1,望月 秀樹3,吉川 和明1
阪大・蛋白研・神経発生制御1,国立成育医療研究センター研究所・成育遺伝研究部2,阪大・医・神経内科学3

ニューロンにおけるミトコンドリアの生合成や活性の制御機構については不明の点が多い。我々は昨年の本学会において、ニューロンの分化や生存を促進する多機能蛋白質であるnecdinが、ミトコンドリア機能の主要な調節因子であるPGC-1αを安定化することによって、ミトコンドリアの生合成を促進することを報告した。今回、ミトコンドリアの機能異常によって起こる神経変性に及ぼすnecdinの作用について検討した。PGC-1αは抗酸化作用を有する遺伝子群の発現を促進するが、necdin遺伝子欠損マウス胎仔由来の初代培養大脳皮質ニューロンでは、ミトコンドリア由来の活性酸素種(ROS)の量が顕著に増加していた。また、これらのニューロンでは、ミトコンドリア産生ROS増加作用をもつオリゴマイシンによる細胞死も亢進していた。このことは、necdinがミトコンドリア機能を増強してROS誘発性ニューロン変性を抑制することを示唆する。そこで、ヒト神経芽細胞腫由来SH-SY5Y細胞を、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの阻害剤MPPで処理することにより、パーキンソン病培養細胞モデル系を作製してnecdinの作用を検討した。レンチウイルスによってnecdinを過剰発現させると、SH-SY5Y内のPGC-1αとミトコンドリアの構成因子MTCO1の発現が増加し、MPPによって誘発されるSH-SY5Y細胞の変性が抑制された。次に、MPTPを投与したパーキンソン病モデルマウスを用いてin vivoにおけるニューロン変性に及ぼすnecdinの影響を調べた。アデノ随伴性ウイルスベクターによって中脳黒質領域にnecdinを遺伝子導入すると、PGC-1αレベルとミトコンドリア数の増加が見られた。これらのnecdin遺伝子導入マウスでは、MPTPによる黒質ドーパミン作動性ニューロンの脱落がほぼ完全に阻止された。以上の結果から、necdinはPGC-1αを安定化してミトコンドリアの生合成と機能を促進することにより、神経保護作用を示すものと考えられる。
O10-5
α-synuclein分解におけるミクログリア-LRRK2の機能解析
前川 達則1,市川 尊文1,小幡 文弥2
北里大学 医療衛生学部 病態生化学1,北里大学 医療衛生学部 免疫学2

【目的】家族性パーキンソン病(PD)原因分子Leucine-rich repeat kinase 2(LRRK2)が、ミクログリアにおけるα-synuclein(αSYN)分解にどのように関与するかを明らかにする。【背景】LRRK2は家族性パーキンソン病(PARK8)の原因分子として報告され、現在までに細胞死や軸索伸長、小胞輸送などへの関与が報告されている。LRRK2は発見以来、神経細胞での機能に焦点が当てられてきた。しかし近年、我々が免疫細胞においても発現が高いことを見出したことで、ミクログリアでの機能に注目が集まっている。本研究では、ミクログリアの機能の中でも特にαSYNの分解に着目し、LRRK2とαSYN分解の関連について解析した。【方法】LRRK2ノックアウト(KO)マウスと野生型(WT)マウスから初代培養ミクログリアを作製した。αSYNを培養液に添加し、24時間培養後、細胞内のαSYN量を抗αSYN抗体を用いたウエスタンブロットで確認した。また、培養液中の残存αSYN量をαSYN ELISA Kit(ANASPEC)で測定した。【結果】KOミクログリアでは細胞内に取り込んだαSYNの量がWTよりも増加していた。培養液中のαSYN残存量は、KOミクログリアで減少していた。また、KOミクログリアでは初期エンドサイトーシス関連分子であるDynamin1とRab5の相関がより高くみられた。【結論】KOミクログリアではαSYNの分解が亢進しており、その原因が初期エンドサイトーシスの異常な活性化であることが示唆された。すなわち、LRRK2は初期エンドサイトーシスを負に制御し、αSYN分解においては、抑制的に働いていることが明らかになった。αSYNの蓄積はPD発症要因の一つとして考えられており、LRRK2がミクログリアにおけるαSYN分解を制御しているという本研究成果は、PD研究に新たな展開をもたらすものと考えられる。
O10-6
TDP-17の原因遺伝子MAPTの新規挿入変異の同定と生化学的解析
川上 秀史1,森野 豊之1,松田 由喜子1,大澤 亮介1,平木 啓子1,倉重 毅志2,和泉 唯信3,山崎 雄2,高橋 哲也2,高島 明彦4,添田 義行4,宮坂 知宏5,樋口 真人6,佐原 成彦6,須原 哲也6,島田 斉6,伊東 秀文7,丸山 博文2
広島大学・原医研・分子疫学1,広島大院・医・脳神経内科2,徳島大院・医・臨床神経科学3,国立長寿研医療研究センター・分子基盤研究部4,同志社大・医生命システム・神経病理5,放射線医学総合研究所・分子イメージング研究センター6,和歌山県立医大・医・神経内科7

【目的】同一家系内にパーキンソン病(PD)や進行性核上性麻痺(PSP)といったパーキンソニズムと前頭側頭型認知症(FTD)の発症者が認められる遺伝性神経疾患の原因遺伝子としてMAPTLRRK2GRNC9orf72が知られている。われわれは2世代にわたりPSPとPD、FTDの発症者を認める家系において、病因変異を同定するために遺伝的解析を行った。【方法】対象は本家系の発症者3名(PSP、PD、FTD各1名)と非罹患同胞2名で、全員に高密度SNPタイピングを行い、発症者3名にexome sequencingを行った。SNPタイピングの結果から連鎖解析とHomozygosity Haplotypingを行い、exome sequnecingの結果をBWA、Samtools、GATKなどで解析し、公開されているデータベースなどと照合することによりフィルタリングを行った。得られたvariantによる分離はcapillary sequencingによって確認した。また、同様の症状を認める他の症例に対して候補変異のスクリーニングを行った。【結果】連鎖解析では6、9、14、17、20番染色体にLODが1程度の長い領域を認め、Homozygosity Haplotypingでは13、17番染色体に発症者のみでハプロタイプが共通する領域を認めた。Exome sequencingでは発症者に共通する特異的なvariantが50個得られ、機能変化予測や家系内分離などを行うことで2個に絞り込まれた。そのうちの1つが17番染色体上のMAPTに存在し、2番目の微小管結合ドメインに位置していた。この変異は別のPD1家系2名においても認められ、その周囲12.6 Mbpにわたり発端家系と共通のハプロタイプを有していた。生化学的解析から変異MAPTは微小管重合能が低下し、凝集体形成を促進することが明らかになった。臨床的にFTDを呈した患者の病理所見では特徴的な封入体を認めた。【結論】今回同定したMAPTの新規変異はパーキンソニズムを主体とする2つの家系で確認されたことから病因変異と考えられる。既報の変異が集簇する場所に位置していたが、挿入により1アミノ酸追加される変異はこれまでにない特徴的なものだった。今後、変異による病態メカニズムをさらに解析していく予定である。