TOP一般口演
 
精神疾患の情動・認知機能
O12-1
集団式認知機能検査「ファイブ・コブ」を用いた地域高齢者における軽度の認知機能低下の評価
田中 悠二1,東間 正人1,高橋 哲也1,上野 幹二1,川口 めぐみ2,中村 巳早都3,水上 喜美子4,田中 佑佳5,鳥羽 愛乃5,大森 晶夫5,和田 有司1
福井大学医学部精神医学領域1,福井大学医学部看護学科地域看護学講座精神看護学2,福井大学医学部附属病院地域医療連携部3,仁愛大学人間学部心理学科4,福井県立大学看護福祉学部5

【目的】認知症の予防対策として、発症前段階の認知機能低下を検出し、早期介入を行うシステムの構築が急務である。このため、地域住民の認知機能を効率的かつ正確に評価する検査法の開発が必要である。我々は、いわゆる健常高齢者を対象に、東京都老人総合研究所で開発された集団認知機能検査ファイブ・コグの有用性を検証している。特に今回は、早期介入を決定するための指標となるファイブ・コグの下位項目を明らかにすることを目的に、早期に機能の低下する下位項目の同定と心理社会的背景との関連について報告する。【方法】福井県永平寺町において地域活動に参加する65歳以上の男性54名と女性145名(76.7±7.2歳)を対象とした。ファイブ・コグの下位項目 文字位置照合、手がかり再生、時計描画、動物名想起、類似課題の各課題を行い、全般的指標rankを算出した(rank=1-15、15:正常機能と推定)。更に、心理社会的背景として、うつ症状評価(QIDS-SR)、老研式活動能力指標、生活習慣尺度を評価し、ファイブ・コグ下位項目成績との関連を偏相関(制御変数:年齢、教育年数)により検討した。なお本研究手順は、福井大学倫理委員会の承認を得て行われた。対象者に対しては説明を行い、文書による同意を得た。【結果】地域活動に参加する199名のうち、94名(47%)に何からの認知機能低下(rank≦14)がみられた。早期に低下するファイブ・コグ下位項目を明らかにするため、105名の正常機能群(rank=15)と軽度機能低下群(rank=13-14)で群間差を検討した。その結果、動物名想起課題と類似課題が、他の下位項目と比較して軽度機能低下群で有意に低下した。さらに動物名想起および類似課題の粗点が知的ADLと正の相関を認めた。【考察】本研究の結果より、ファイブ・コグ検査の下位項目のうち、言語流暢性を反映する動物名想起課題と抽象的思考能力を反映する類似課題の成績が早期に低下し、知的ADL悪化の自覚に関連することが示唆された。これらの下位項目の成績低下が、早期介入を決める重要な指標となる可能性が期待される。
O12-2
22q11.222q12.1領域と統合失調症の認知機能障害との関連解析
秋山 一文1,齋藤 淳1,2,倉冨 剛1,尾関 祐二3,渡邊 崇3,藤井 久彌子3,齋藤 聡1,3,5,高野 有美子3,4,本田 暁4,加藤 和子4,下田 和孝3,大森 健一5,森 玄房4
獨協医科大学精神生物学1,ジョンズ・ホプキンズ大学医学部精神医学部門2,獨協医科大学精神神経医学3,生々堂厚生会森病院4,至誠会滝澤病院5

【背景・目的】先行研究によると染色体上の22q11.2領域が欠失すると25%という高率で統合失調症を発症し、その認知機能障害も高度であることが報告されている。さらに我々は22q12.1領域に位置するHPS4遺伝子と統合失調症の関連(Saito et al 2013)、及び統合失調症認知機能簡易評価尺度日本語版(BACS-J)を用い、HPS4遺伝子について認知機能の成績との有意な関連を報告してきた(Kuratomi et al. 2013)。【対象と方法】統合失調症の患者240名、及び健常対照者240名を対象として、BACS-Jを実施し、その各項目(言語性記憶、ワーキングメモリー、運動機能、言語流暢性、注意、遂行機能)の健常対照者における成績を基に、z-scoreを算出した。病前の知能指数はJapanese Adult Reading Test(JART)を用いて推定した。22q11.2-22q12.1領域の127個の一塩基多型(SNP)について網羅的解析を実施した。群別に、性、年齢、JARTによる病前知能指数、教育年数を共変数にして、3つのSNPからなるハプロタイプとz-scoreとの関係をPLINK 1.07によって解析した。本研究は獨協医科大学生命倫理委員会の承認と全ての対象者から書面による同意を得ている。【成績】22q11.2領域にあるTBX1遺伝子のrs737868-rs2238777-rs4819522が統合失調症群では注意と有意な関連を示した(Omnibus P=0.0002)。22q11.2領域にあるUFD1L遺伝子のrs11744-rs2238769-rs5746742が統合失調症群では注意と有意な関連を示した(Omnibus P=0.0049)。健常対照者ではこの2つのハプロタイプとも注意と関連性はなかった。22q12.1領域にあるHPS4遺伝子のrs16982145-rs9608491-rs4822724が健常対照者群ではワーキングメモリーと有意な関連を示した(Omnibus P=0.0009)。【結論】本研究によりTBX1遺伝子、UFD1L遺伝子が統合失調症の注意と関連すること、先行研究と一致して健常対照者におけるHPS4遺伝子とワーキングメモリーとの関連が示唆された。
O12-3
統合失調症患者の認知機能障害とHPS4遺伝子多型の関連解析
倉冨 剛1,齋藤 淳1,尾関 祐二2,渡邊 崇2,藤井 久彌子2,下田 和孝2,秋山 一文1
獨協医科大学医学部精神生物学講座1,獨協医科大学医学部精神神経医学講座2

【背景・目的】統合失調症患者の社会機能や生活の質に影響を与える認知機能障害は、陽性症状や陰性症状と並び統合失調症の主要な症状の一つとして扱われている。我々は症例対照関連解析により、小胞輸送関連遺伝子HPS4のハプロタイプと統合失調症に有意な関連があることを示した。HPS4は、dysbindinと同様に眼皮膚白皮症等を特徴とするヘルマンスキー・パドラック症候群の原因遺伝子の一つであり、初期エンドソームを介した細胞内輸送に関わる。本研究はHPS4遺伝子多型と統合失調症の認知機能障害及び臨床症状との関連を解析する事を目的とした。【対象と方法】240名の統合失調症患者(平均年齢48.1歳、男性139名)と、年齢・性別を群間でマッチングさせた240名の健常者(平均年齢48.0歳、男性143名)を対象とした。認知機能は、統合失調症認知機能簡易評価尺度日本語版(BACS-J)を用い、言語記憶、ワーキングメモリ、運動機能、言語流暢性、注意、遂行機能について評価を行った。統合失調症患者の臨床症状については陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)を用いて評価した。HPS4遺伝子の5つの遺伝子多型(rs4822724、rs61276843、rs9608491、rs713998、rs2014410)を解析対象とし、関連解析は性別、年齢、教育年数、病前IQを共変量としてPLINKの線形回帰モデルを用いて行った。本研究は獨協医科大学生命倫理委員会の承認のもと被験者からインフォームドコンセントを取得し、匿名を遵守して行った。【結果】統合失調症患者と健常者について、HPS4の遺伝子多型とBACS-Jサブテストとの関連を、3種類の遺伝モデル(優性・劣性・相加)に基づき解析した。統合失調症患者においては、優性遺伝モデルでrs713998多型と遂行機能の間に有意な関連が認められた(P=0.0073)。健常者においては、劣性遺伝モデルでワーキングメモリとrs9608491(P=0.001)及びrs713998(P=0.0065)の間に関連が認められた。遺伝子多型と病前IQおよびPANSSスコア(陽性尺度、陰性尺度、総合精神病理尺度)の間には有意な関連は認められなかった。本研究により、HPS4遺伝子が統合失調症患者の遂行機能、および健常者のワーキングメモリと関連することが示された。
O12-4
社会的経験の強度が前頭前野ミエリン形成とその機能に与える効果についての考察
牧之段 学,山室 和彦,井川 大輔,山下 泰徳,鳥塚 通弘,深見 伸一,芳野 浩樹,岸本 年史
奈良県立医科大学・医・精神医学講座

生後21日目から生後35日目(臨界期)まで1匹飼いされたマウスの前頭前野ミエリン形成は障害され、たとえ生後36日目から1匹飼いされたマウス同士で4匹飼いとし(低強度社会的経験)、社会的経験を与えてもその前頭前野のミエリン形成障害は残存し、かつ社会性は低下したままであった(Makinodan et al., 2012)。しかしながら、臨界期に1匹飼いされたマウスらをその後に同居させても、それらの社会性はすでに障害され、あたかも社会性の乏しい発達障害患者同士が接する程度の社会的経験しか得られていない可能性は否定できない。そこで我々は、臨界期に1匹飼いされたマウスと、同時期に別で3匹飼いされた健常マウスとを生後36日目より同居させ4匹飼いとし(高強度社会的経験)、臨界期に1匹飼いされたマウスと3匹飼いされたマウスの生後65日目における前頭前野ミエリン形成と同部位の機能を比較・検討した。臨界期後の低強度社会的経験では変化のなかった前頭前野ミエリン形成障害は、高強度社会的経験により概ね回復し、また驚くべきことに、その社会性は逆に亢進する傾向がみられた。さらにimmediate early genesを用いた分子生物学的解析によりその前頭前野機能を評価したところ、低強度社会的経験によっては臨界期の1匹飼いによる前頭前野機能障害は回復しなかったが、高強度社会的経験により対照群と同等の機能を獲得した。現在、前頭前野深部脳波測定による機能評価を行っており、当日その結果を提示する予定である。これらの結果から、臨界期後であっても高強度の社会的経験を得ることで、前頭前野のミエリン形成障害及び同部位の機能は回復することが明らかとなった。幼少期の虐待等により形成されてしまった脳機能障害も、その後の適切なリハビリテーションにより回復する可能性が示された。
O12-5
異なる手法による統合失調症の脳機能の情報処理的検討―カオス的神経回路網異常の視点より―
瀧川 守國,今村 圭介
医療法人 公盡会 出水病院 精神科

統合失調症(S)の症状を、汎発性非特異的な高次脳機能の異常すなわちカオス的ダイナミカルな神経回路網の異常という視点から検討した。すなわち以下に述べる同一症例の同一関心領域をカオス的非線形の解析手法で検討した。
【方法】対象としては統合失調症(ICD-10)の症例で、奇異な言動が長期間存在し、不完全寛解ではあるが、通院治療中の症例である。対照は健康成人とした。症例の脳波の関心領域を4つの手法で情報処理的にカオス的視点から解析した。1脳波紋 2有向コヒーレンス 3引き込み(同期)現象 4脳波のアトラクターから それぞれ解析した。尚、被験者にインフォームドコンセントをして発表の了解を得た。【結果】統合失調症(S)では、1脳波紋では対照の健康成人にみられる安定したα帯域のホルマントは崩れ、複雑なホルマントが網状にみられた。2有向コヒーレンス法では、Sでは優位半球の左大脳半球における双方向性の前頭葉(F3)と後頭葉(F9)間における情報の流れは混線した多周波数として見られ、周辺周波数との弁別が悪い傾向がみられた。3引き込み(同期)現象は、非線形現象のカオスに特徴とされるが、Sでは対照のそれに比べて引き込みの鋭さを欠き、また周辺の周波数との弁別が弱かった。4脳波のストレンジアトラクターでは、Sでは対照に比べてカオス的動的機能が弱い傾向がみられた。【考察】時間分解能に優れかつ非侵襲的で、日常の臨床でルーチンに実施可能な脳波を用いて、Sの脳における情報処理異常をカオス的非線形のニューロネットワークの情報処理異常から検討した。このことはSの病態生理理解につながると考える。上記の1から4の解析結果よりSの脳機能は対照の健康成人に比べて情報処理機能不全であり、情報の制御能力を欠き、そのため脳内ニューロン間のネットワークの情報異常をきたしている。このことが、Sの臨床における陽性および陰性症状の異常な精神症状と対応していることを示唆している。
O12-6
人の声に選択的な脳賦活部位に対するCNTNAP2多型の影響:機能的MRI研究
肥田 道彦1,渡辺 淳2,3,池田 裕美子4,キム ウーチャン1,舘野 周1,苅部 洋行5,鈴木 秀典4,松浦 雅人6,大久保 善朗1
日本医科大学大学院 精神・行動医学1,日本医科大学付属病院 遺伝診療科・ゲノム先端医療部2,日本医科大学 生化学・分子生物学(分子遺伝学)3,日本医科大学大学院 薬理学4,日本歯科大学 生命歯学部 小児歯科学5,東京医科歯科大学 生命情報機能解析学6

【目的】Contactin-associated protein-like2(CNTNAP2)は、自閉症スペクトラム障害や統合失調症の危険因子の1つと考えられている。近年の脳機能画像・遺伝子研究は、CNTNAP2多型が健常人においても言語処理時の左半球の機能に影響を与えると報告している。一方、人の声に選択的な脳賦活部位が右上側頭回を中心に存在するといわれているが、CNTNAP2多型が人の声認知時の右半球の機能にどのような影響を与えるかは未だに検証されていない。そこで我々は、CNTNAP2多型が人の声に選択的な脳賦活部位に与える影響について検証した。【方法】日本医科大学遺伝子研究倫理委員会に承認された研究内容に基づき説明と同意の得られた108名の健常被験者に対して採血を行った。得られた検体から抽出されたDNAをもとに、自閉症スペクトラム障害や統合失調症のリスク因子として報告されているCNTNAP2多型(rs7794745とrs2710102)における遺伝型を調べた。rs7794745の遺伝型はA/AもしくはA/Tであり、rs2710102の遺伝型はG/GまたはA型保因者(A/GまたはA/A)であった。さらに、functional MRIを用いて各被験者の音声と非音声聴取時の脳賦活を検証し、人の声に選択的な脳賦活部位を検証した。画像はspm8を用いて解析した。CNTNAP2の2つの多型と脳賦活を合わせた3要因(1:rs7794745(A/AまたはA/T)、2:rs27010102(G/GまたはA型保因者(A/GとA/A)、3:人の声に選択的な脳賦活(音声または非音声聴取時の賦活))に対する分散分析(full factorial design解析)が行われた。【結果・まとめ】rs7794745(A/AまたはA/T)に対する有意な主効果が、右中前頭回と両側上側頭回で確認された(p<0.05、FWE-corrected)。この結果から、CNTNAP2多型の1つであるrs7794745の遺伝型(A/AまたはA/T)は、健常被験者において人の声に選択的な右上側頭回を中心とした賦活に影響を与えることが示唆された。