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神経疾患の分子機構
O16-1
経口グルコース負荷後の脳内ERKの変化
中島 進吾,沼川 忠広,安達 直樹,功刀 浩
(独)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第三部

It has been recognized that hyperglycemia is a cause of obesity and diabetes. Importantly, evidence has showed possible relationship between metabolic diseases and psychiatric diseases although how the glycemic status affects development of psychiatric diseases including depression is still unclear. Here, using rats, we demonstrated that the dynamic change of neuronal activity-dependent signaling molecule such as extracellular signal-regulated kinase(ERK)1/2 in several regions of brain following the oral glucose application. Plasma glucose and insulin levels were clearly increased by the glucose administration(2 g/kg body weight). We found that such a glucose application rapidly decreased the phosphorylation of ERK(pERK)1/2 in prefrontal cortex, and slowly decreased pERK1 in hippocampus. Because the concentration of plasma active glucagon-like peptide-1(GLP-1)was increased prior to decrease of pERK1/2 levels in prefrontal cortex, we also determined effect of GLP-1 on neuronal activity using cultured neurons. As expected, GLP-1 receptor agonist(Exendin-4)immediately decreased pERK1/2 levels in cultured cortical neurons, implying possible contribution of GLP-1 to neuronal activity during the elevation of blood glucose levels. This research was supported by Grant-in-Aid for Scientific Research(B)(24300139)and for Exploratory Research(25640019).
O16-2
アムホテリシンBによるラット脳でのグリア細胞由来神経栄養因子の発現上昇
高野 桂,山城(本吉) 晃子,河辺 憲司,森山 光章,中村 洋一
大阪府立大学大学院生命環境科学研究科獣医学専攻統合生理学教室

アムホテリシンB(AmB)はポリエン系の抗真菌薬である。当研究室においてこれまで、ラット培養ミクログリアおよびアストロサイトにAmBを添加することにより、一酸化窒素(NO)産生および炎症性サイトカインの発現上昇や、神経栄養因子の発現変化が起こることを見出しており、Neuro2007とNeuro2010にて報告してきた。本研究では、ラットの線条体にAmBを直接投与することにより、培養細胞で見られた神経栄養因子の発現変化がラット脳内で起こるのかどうかを検討した。まず、ラットの右線条体に5 μgのAmBを投与し、72時間後の神経栄養因子の発現を免疫染色により検出したところ、AmB投与群ではvehicle投与群と比較して、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)の発現が有意に上昇し、脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現に上昇傾向が認められた。同時に、ミクログリアのマーカーであるCD11bおよびアストロサイトのマーカーであるGFAPの抗体を用いて免疫染色したところ、AmB投与によりCD11b、GFAPともに有意な発現上昇が見られた。AmB投与後のGDNFおよびBDNFの発現細胞を特定するため、AmB投与24時間後の脳切片を用いて、神経栄養因子とグリア細胞マーカーの抗体を用いて2重蛍光免疫染色を行ったところ、vehicle投与群では、GFAPまたはCD11bをBDNFと共発現している細胞がほとんど見られないのに対し、AmB投与群では、GFAPまたはCD11bをBDNFと共発現している細胞が、それぞれ検出された。一方GDNFの場合は、vehicle投与群においてもGFAPとGDNFを共発現している細胞が見られた。AmB投与群では、GFAPだけでなく、CD11bもGDNFと共発現している細胞が検出された。したがって、AmBは、培養細胞においてのみならず、生体においても、ミクログリアおよびアストロサイトを活性化させ、神経栄養因子の発現を増加させることが示唆された。グリア細胞から産生される神経栄養因子の増加は、種々の中枢疾患において、神経保護的に作用する可能性が示唆される。
O16-3
脳虚血におけるグルタチオンの動態と脳保護作用
矢吹 悌,福永 浩司
東北大・院・薬・薬理学

【目的】グルタチオン(GSH)は生体内で合成される抗酸化物質の一つであり、一過性脳虚血発作後のマウス脳内ではGSH濃度が低下する。本研究では一過性脳虚血発作に伴うGSH濃度の低下を防ぎ、神経細胞死を抑制する目的で、GSH経口投与による脳保護作用を検討した。【方法】C57BL6マウスの両総頸動脈を20分間閉塞後再開通させて、一過性脳虚血モデル(BCCAO)を作成した。脳虚血後24時間後からGSH(50、100または500 mg/kg)を1日1回経口投与した。8日目から、Y字型迷路試験、新規物体認識試験及び受動回避試験により記憶学習能力を評価した。行動試験終了後、免疫ブロット法及び免疫組織化学染色法を用いて、GSHの神経保護作用と抗酸化作用を検討した。また、GSH急性経口投与による脳内移行性と、GSH慢性経口投与後の脳内GSH濃度と酸化型GSH(GSSG)濃度を測定した。【結果】無処置マウスではGSH経口投与後、1時間で脳内GSH濃度が有意に上昇した。BCCAO虚血後11日目のマウス脳では、GSH濃度が低下し、GSSG濃度の増加が認められた(Neuroscience 2013;250:3984-407)。GSH慢性経口投与によりBCCAO虚血によるGSH濃度低下及びGSSG濃度の増加は改善していた。さらに、GSH投与によりBCCAOマウス海馬CA1領域において虚血に伴う酸化ストレスが低下し、神経細胞死も有意に抑制された。その結果、BCCAOマウスの記憶・学習機能障害も改善された。【結論】本研究により、GSH経口投与は脳内GSH濃度を上昇させることが明らかとなった。脳内GSH濃度が上昇することで、虚血に伴う酸化ストレスが低下し、一過性脳虚血に伴う脳機能障害を改善することが明らかとなった。よって、GSH経口投与は脳梗塞発症後、急性期・亜急性期における投与は脳における酸化ストレスを軽減し、予後を改善すると考えられる。
O16-4
グルタミン輸送担体Slc38a1コンディショナル欠損マウスの脳梗塞抵抗性
中村 早希,宝田 剛志,中里 亮太,藤川 晃一,高 巳奇,檜井 栄一,米田 幸雄
金沢大院・薬・薬物学

【目的】グルタミン輸送担体であるSlc38a1は、神経細胞における細胞外グルタミン取り込みに関与するアミノ酸輸送担体の一つである。当研究室では、部位特異的な遺伝子欠損を可能とするCre/loxPシステムを利用して、このSlc38a1のコンディショナル欠損マウスの作製に世界に先駆けて成功した。本研究では、同コンディショナル欠損マウスを用いて、脳梗塞発症時に観察される遅発性神経細胞死の出現メカニズムにおけるSlc38a1の病態生理学的意義を解析した。【方法】神経細胞でSlc38a1が欠損するSynapsinI-CreSlc38a1flox/flox(Slc38a1synI-/-)マウスの作製後、7週齡の同雄性マウスを麻酔下に中大脳動脈結紮術(MCAO)を施し、MCAO負荷2時間後に再灌流を行った。その24時間後に脳を摘出してTTC染色を行って脳梗塞巣の評価を行った。2時間のMCAO処置後再灌流4日目において、Bregma±1 mm領域にて脳冠状切片を等間隔に8枚作成し、NeuNおよびMAP2による免疫染色を実施して染色陰性部位面積を測定した。【結果】7週齡のSlc38a1synI-/-マウス脳組織を大脳皮質や海馬などの8部位に分画し、Western blotting法により検討した結果、いずれの脳内部位においても内在性のSlc38a1タンパク質の減少が認められた。対照群マウスおよびSlc38a1synI-/-マウスにそれぞれ2時間のMCAOを実施し、再灌流24時間後にTTC染色を行ったところ、前者では虚血同側において染色陰性の梗塞巣が広範囲に認められたのに対して、後者では前者と比較して梗塞巣体積の有意な減少が確認された。また、MCAO処置後再灌流4日目において、Slc38a1synI-/-マウスでは対照群マウスの場合と比べて、虚血同側で神経細胞の脱落体積の有意な減少が観察された。【考察】神経細胞に発現するSlc38a1は、脳梗塞時に観察される神経細胞死に対して促進的な影響を与える可能性が示唆される。
O16-5
てんかん発症に関わるシアル酸転移酵素ST3Gal IVについて
加藤 啓子1,パイトゥーン シーモントリー1,遠藤 昌吾2,坂本 敏郎3,中山 良明1,黒坂 光1,糸原 重美4,平林 義雄5
京都産大・総合生命1,東京都健康長寿医療センター、老化脳神経科学2,京都橘大・健康科学3,理研脳センター、行動遺伝学技術開発4,理研脳センター、神経膜機能5

側頭葉てんかんは、難治性てんかんの約50%を占めるてんかんで、扁桃体・海馬・側頭葉に発作の発火点を持つ。また、側頭葉てんかん患者は高い頻度で不安障害、うつ、統合失調症といった症状を示すが、未だ、てんかんやてんかんと共に併発する精神神経疾患の治療に有効な新規分子の探索は重要な課題である。我々は以前より、シアル酸転移酵素(ST3Gal IV)が扁桃体キンドリング刺激の伝搬する神経回路上で、その発現を亢進することを見つけていた。今回、このST3Gal IV遺伝子欠損マウスに扁桃体キンドリング刺激を与えたところ、マウスはてんかん発作を発症しなかった。具体的には、刺激誘導18日後の同腹子野生型マウスすべてがてんかん発作を示す一方で、ST3Gal IV遺伝子欠損マウスの80%が発作を示すことはなかった。以上の知見は、ST3Gal IVはマウス側頭葉てんかんの原因分子であることを示している。その一方で、このST3Gal IV遺伝子欠損マウスは、オープンフィールド試験での中央へのアクセス数の減少、強制水試験では不動化の亢進、恐怖条件付け試験での音(手がかり)への恐怖記憶を増強した。こうした行動試験は、ST3Gal IV遺伝子欠損マウスが不安やうつ様行動を示すことを提示しており、ST3Gal IVが不安やうつ様行動の誘導に関与することが示唆された。以上の知見より、ST3Gal IVが、てんかん及び、てんかん併存症の発症に関わる重要な分子であることがわかった。
O16-6
VNUTは神経損傷を起因とする神経障害性疼痛発症に必要である
増田 隆博1,2,大園 由衣1,御厨 颯季1,高露 雄太1,齊藤 秀俊1,2,岩槻 健3,畝山 寿之3,市川 玲子3,津田 誠1,4,井上 和秀1,2
九州大院・薬・薬理学1,科学技術振興機構CREST2,(株)味の素イノベーション研究所3,九州大院・薬・ライフイノベーション4

Adenosine triphosphate(ATP)is the well-known energy currency found in all living cells, and is also a signaling molecule that has emerged as a key player for several neurological disorders. We have previously shown that activation of ATP-gated purinergic P2X4 receptor in the spinal cord, the expression of which is upregulated in reactive microglia following peripheral nerve injury(PNI), is crucial for producing neuropathic pain. However, the mechanism of ATP supply in the spinal cord remains unknown. In this study, we examined the role of vesicular nucleotide transporter(VNUT), which is required for accumulation of ATP in the secretory vesicles of cells. In the spinal cord of normal mice, VNUT expression was detectable but low;however, the expression of which was markedly increased in the ipsilateral spinal cord after PNI. Interestingly, PNI-induced pain hypersensitivity was markedly suppressed in VNUT-deficient(Slc17a9-/-)mice compared to wild-type littermates. Furthermore, knockdown of VNUT expression by spinal administration of small interference RNA alleviated pain hypersensitivity after PNI. Importantly, PNI-induced increase in ATP content within the spinal cord was markedly suppressed in Slc17a9-/- mice. Together, these findings suggest that the VNUT may play an important part in supplying ATP in the spinal cord that drives neuropathic pain.