TOPポスター発表
 
統合失調症
P1-51
抗精神病薬のマウス神経新生に対する影響について
山田 英孝1,2,近間 浩史2,塚本 竜生2,中別府 雄作3,内村 直尚2
久留米大学医療センター精神科1,久留米大学神経精神医学講座2,九州大学・生医研・脳機能3

目的:神経新生は胎生期に爆発的に起きるが、側脳室上衣下層(SVZ)および海馬歯状回顆粒細胞下層(SGZ)などの特定の部位では出生後も生じていることが近年明らかになっている。特に海馬は記憶学習や感情制御、ストレス応答に重要な働きをしており、成体の神経新生は双極性障害など精神疾患との関連性が示唆されているが、統合失調症との関連については一致した結論には至っていない。抗精神病薬の成体マウスの神経新生に与える影響について検討した。
方法:実験には8-10週齢の雄性マウス(C57BL/6、n=10-12)を用いた。浸透圧ポンプ(Alzet製、Model 2004;投与速度:0.25 μl/hr、投与期間21日間)内に薬物を封入し、ペントバルビタール麻酔下でマウスの腹腔内に埋め込んだ。日常的に臨床に用いられる薬剤としてハロペリドール(1 mg/kg/day)、クエチアピン(20 mg/kg/day)、アリピプラゾール(3 mg/kg/day)、クロザピン(20 mg/kg/day)、オランザピン(2 mg/kg/day)、リスペリドン(0.5 mg/kg)を用いた。21日間の持続投与後に、最後の3日間連続でBrdU(5-bromo-2'-deoxyuridine;50mg/kg/day)を腹腔内投与し、新生細胞の標識を行った。最後のBrdU投与の24時間後に麻酔下で生理食塩水とパラホルムアルデヒドで還流し、脳を摘出した。24時間パラホルムアルデヒドで後固定し、30%ショ糖液で脱水処理後に-80℃で凍結保存した。その後、クリオスタットで40μmの連続切片を作成し、浮遊法で抗BrdU抗体による免疫染色を行った。BrdU陽性細胞数はsterelogyにより半定量的に計測した。
結果:非定型抗精神病薬の投与により対照群に比べBrdU陽性細胞数は28-73%増加した。特にクエチアピン投与群とアリピプラゾール投与群では対照群に比べて統計的に有意なBrdU陽性細胞数の増加を認めた。一方、ハロペリドール投与群では対照群に比べ2BrdU陽性細胞数が23%減少していた。
結論:非定型抗精神病薬は海馬での神経新生を促進することが示され、認知機能改善効果を含めた薬物特性を説明する可能性が示唆された。
P1-52
TPH2遺伝子と日本人統合失調症との2段階関連解析
布川 綾子1,2,渡部 雄一郎1,飯嶋 良味3,江川 純1,金子 尚史1,2,澁谷 雅子1,有波 忠雄3,氏家 寛4,稲田 俊也5,岩田 仲生6,栃木 衛7,功刀 浩8,糸川 昌成9,尾崎 紀夫10,橋本 亮太11,染矢 俊幸1
新潟大・院・精神医学1,大島病院2,筑波大・院・遺伝医学3,岡山大・院・精神神経病態学4,神経研究所清和病院5,藤田保健衛生大・精神医学6,帝京大・精神医学7,国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第三部8,東京都医学総合研究所統合失調症・うつ病プロジェクト9,名古屋大・院・精神医学10,大阪大・院・子どものこころの分子統御機構研究センター11

【はじめに】セロトニン神経系の機能障害が、統合失調症の病態に関与すると考えられている。脳内セロトニン合成の律速酵素であるトリプトファン水酸化酵素2(TPH2)をコードするTPH2遺伝子と統合失調症との関連について、先行研究の大多数は小規模のサンプル・サイズおよび限られたマーカーを用いて行われており、さらなる研究が必要である。そこで、TPH2遺伝子と日本人統合失調症との関連を明らかにするために、タグ一塩基多型と稀なミスセンス変異に加えコピー数多型をマーカーとしたスクリーニング解析の結果を大規模サンプルで確認する2段階関連解析を実施した。
【方法】本研究は新潟大学医学部遺伝子倫理審査委員会およびすべての参加研究機関の倫理委員会で承認されており、対象者からは書面にて同意を得た。対象者はすべて日本人であり、DSM-IVにより統合失調症と診断された患者および精神疾患の既往と家族歴のない対照者からなる。スクリーニングサンプルは患者626人と対照者620人、確認サンプルは患者2007人と対照者2195人である。タグ一塩基多型16個、翻訳領域のリシーケンスで同定されたミスセンス変異2個、イントロンに存在するコピー数多型2個、計20個のマーカーを調査した。
【結果】スクリーニング解析では、3個の一塩基多型(rs2129575、rs1487275、rs17110747)が、統合失調症と名目上有意に関連していた。また、ミスセンス変異rs139896303(p.R225Q)は、患者2人でのみ同定された。これら4個のマーカーについて確認解析を行ったが、統合失調症との有意な関連は認められなかった。
【結論】TPH2遺伝子が日本人統合失調症の発症脆弱性に寄与することを示す証拠は得られなかった。
P1-53
統合失調症患者の臨床経過と転帰に関与する遺伝要因の検討
酒本 真次1,高木 学1,岡久 祐子1,水木 寛1,稲垣 正俊1,氏家 寛1,池田 匡志2,岩田 仲生2,内富 庸介1
岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 精神神経病態学教室1,藤田保健衛生大学医学部 精神神経科学講座2

【諸言】統合失調症患者で完全寛解者は2割で、多くの患者は寛解増悪を繰り返し、徐々に社会機能が障害される。統合失調症患者の臨床経過や転帰と遺伝要因の関連について検討した研究は少ない。我々は、統合失調症の発症に関わる遺伝要因が統合失調症患者の臨床経過や転帰に関与するかを検討した。【方法】日本人統合失調症患者455名について、初診から5年後時点での臨床全般印象度-重症度(CGI-S)、臨床全般印象度-改善度(CGI-I)、就労の有無を評価し、CGI-Sを重症群(≧4)と非重症群(≦3)、CGI-Iを反応不良群(≧3)と反応良好群(≦2)、就労を非就労群と就労群の2群に分けた。これまでの日本人統合失調症のGWAS解析において強い関連が指摘されたSNPsのうち、レプリケーションサンプルにおいても発症リスクの方向性が一致した46SNPsについて、発症リスクアレルが重症群、反応不良群、非就労群に関与しているかをχ2乗片側検定で検討した。また多遺伝子的影響を見るため、46SNPsについてリスクアレル保持数を患者毎に計算し、重症群、反応不良群、非就労群との関係について、年齢、性別、薬剤量、入院日数を共変量とした共分散分析を行った。本研究は岡山大学大学院医歯薬学総合研究科倫理委員会の承認を受け、対象者全員から書面で同意を得た。【結果】解析した46SNPsのうち、重症群で3SNPs(rs8116303、rs3129601、rs2623659)、反応不良群で5SNPs(rs10495547、rs2294424、rs2031872、rs3129601、rs2623659)、非就労群で5SNPs(rs2294424、rs8116303、rs6550146、rs2031872、rs2623659)において、発症リスクアレル頻度が有意に高かった。rs2623659は、重症群、反応不良群、非就労群の全てにおいて発症リスクアレル頻度が高かった。またリスクアレル保持数は、重症群、反応不良群、非就労群全てにおいて対照群より多かったが、共分散分析では有意差はなかった。【結論】統合失調症の発症リスクアレルが、環境など様々な要因に左右されることが予想される、重症度、治療反応性、就労などの要因に関連する可能性が示唆された。
P1-54
統合失調症発症前駆期におけるバイオマーカーの検索
岡久 祐子1,池田 匡志2,酒本 真次1,高木 学1,氏家 寛1,岩田 仲生2,内富 庸介1
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科精神神経病態学教室1,藤田保健衛生大学医学部精神神経科学2

【目的】統合失調症の発症前には不安、焦燥などの神経症的症状や、抑うつ気分などの気分変調、意欲低下、注意・集中力の低下、食欲低下や不眠などの身体症状、社会的引きこもりなど幅広い兆候が認められる。こうした発症危険状態(At Risk Mental State;ARMS)の段階に介入することで良好な予後の獲得、さらには精神病への移行そのものを阻止できる可能性が示唆されており、早期介入・早期治療を行う試みが活発化している。早期介入の重要性は明白であるが、現時点では前駆期の特異的診断法は確立されていないため、操作的にARMSと診断して介入する方法が一般的である。しかし、ARMSから統合失調症への移行率は10~50%程度なので、この方法ではかなりの率で偽陽性(ARMSと診断されるものの、実際には統合失調症を発症することのない一群)が存在するという問題がある。この偽陽性のために、実際には統合失調症に移行しないARMSの患者に対して薬物投与することへの倫理的な問題も残されている。そこで我々はARMSから統合失調症への移行リスクを予測するバイオマーカーを検索することを目的として、発症前駆期のRNAをサンプルとしてトランスクリプトーム解析を行った。【方法】発症リスク状態の包括的評価(CAARMS)によりARMSと評価された患者を、初診時から1年間にわたって精神症状の経過観察を継続し統合失調症発症への移行の有無を評価した。同時に、初診時に得たRNAを用いてHuman Genome U133 Plus 2.0 Arrayで網羅的に遺伝子発現解析を行った。なお、本研究は岡山大学大学院医歯学総合研究科ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会において承認を受け、対象者全員から文書による同意を得て行った。【結果】6人のARMS患者のうち、初診より1年後に統合失調症に移行した患者は3名であった。統合失調症に移行した3名と、移行しなかった3名について遺伝子発現を比較したが、genome-wide significanceを満たすP値は得られなかった。今回の研究では統合失調症を発症前駆期に予測可能なバイオマーカーは同定できなかったが、今後もサンプル数を増やして解析する予定としている。
P1-55
統合失調症様症状発現薬に発達依存的に発現応答を示す細胞間基質遺伝子と統合失調症との関連解析
小野 恵子1,山本 直樹1,治徳 大介1,岩山 佳美2,吉川 武男2,西川 徹1
東京医科歯科大学大学院1,理化学研究所脳科学総合研究センター2

統合失調症は思春期以降に発症し、生涯罹患率は0.8%と高く、発症には多くの遺伝・環境要因が複雑に関与すると考えられている。また、ドーパミン作動薬のメタンフェタミン(MAP)やNMDA型グルタミン酸受容体遮断薬のフェンサイクリジン(PCP)などの投与によっても統合失調症様症状が認められる。これらの薬物による症状も思春期以降に生じ、薬物投与した実験動物での行動変化も一定の発達期(臨界期)以降に成立する。我々は先行研究において、ラットの臨界期以降にのみMAP及びPCPに発現応答を示す遺伝子Cを検出した。そこで本研究では、ヒトC遺伝子の20か所の一塩基多型(SNP)を選択し統合失調症との関連解析を行った。症例対照研究として日本人の患者1808名と健常対照者2170名、伝達不平衡試験として日本人の患者204名とその親408名の末梢血由来ゲノムDNAを用い、TaqMan法によりTag SNPsおよびインスレーター上のSNPsを解析した。その結果、遺伝子型頻度またはアレル頻度にノミナルな有意差が認められるSNPsが確認された。さらに、発症年齢・性別ごとに階層分けし解析したところ、特定の階層群において多重検定補正後も有意差が認められた。連鎖不平衡の検定により、3つの組換え頻度が非常に少ない領域が示唆されたが、いずれも有意差は認められなかった。伝達不平衡試験では、いずれのSNPsにおいても有意差は認められなかった。今回の解析より、C遺伝子のいくつかのSNPsは、本症の発達依存的な発症脆弱性に影響する可能性が示唆された。C遺伝子は細胞外基質をコードしており、脳では主に脈絡叢上皮基底膜に発現し血液―脳関門や軸索誘導などを担うとされることから、これらの機能異常が一部の統合失調症の発現に関与することが推察される。なお、本研究はヘルシンキ宣言に則り、東京医科歯科大学医学部及び理化学研究所の遺伝子解析研究に関する倫理審査委員会の承認を受けた後、対象者に本研究に関して十分な説明を行い、書面による同意を得て実施した。
P1-56
統合失調症患者および健常者におけるDISC1多型と眼窩前頭皮質の脳溝脳回パターン
中村 美保子1,高橋 努1,中村 由嘉子3,アレクシク ブランコ3,木戸 幹雄1,笹林 大樹1,高柳 陽一郎1,古市 厚志1,西川 祐美子1,野口 京2,尾崎 紀夫3,鈴木 道雄1
富山大・医・神経精神1,富山大・医・放射線医学2,名古屋大院・医・精神医学3

Background:Increasing evidence has implicated the role of Disrupted-in-Schizophrenia-1(DISC1), a potential susceptibility gene for schizophrenia, in early neurodevelopmental processes. However, the effect of its genotype variation on brain morphologic changes related to neurodevelopmental abnormalities in schizophrenia, such as an altered sulcogyral pattern in the orbitofrontal cortex(OFC), remains largely unknown.
Methods:This magnetic resonance imaging study examined the association between DISC1 Ser704Cys polymorphism and the OFC sulcogyral pattern(Type I, II, III and IV)in a Japanese sample of 75 schizophrenia patients and 87 healthy comparisons. This study was approved by the Committee on Medical Ethics. After a complete description of the study, written informed consent was obtained from all participants.
Results:The Cys carriers exhibited a decrease in Type I and increase in Type III pattern on the right OFC compared to the Ser homozygotes in healthy controls, but not in schizophrenia patients.
Conclusions:These findings suggest that the genotype variation of DISC1 is partly related to normal development of the OFC sulcogyral pattern. However, we did not observe its specific role in schizophrenia, supporting that abnormalities of the OFC in schizophrenia might also be associated with other genetic and/or environmental factors.
P1-57
Subchronic Pharmacologic NMDA Receptor Antagonism with MK801 Activates Akt Signaling Pathways.
高木 俊輔1,2,Darrick Balu1,Joseph Coyle1
Laboratory for Psychiatric and Molecular Neuroscience, Harvard Medical School, McLean Hospital1,東京医科歯科大学 大学院精神行動医科学分野2

NMDA receptor(NMDAR)hypofunction is a powerful hypothesis for the pathophysiology of schizophrenia. NMDAR antagonists cause symptoms in healthy subjects that are similar to schizophrenia. Therefore, NMDAR antagonists have been used as a tool to induce NMDAR hypofunction in animals as a pharmacologic model of schizophrenia. Our laboratory has previously generated serine racemase-null mutant(SR-/-)mice, which display constitutive NMDAR hypofunction due to the lack of the NMDAR co-agonist, D-serine. SR-/- mice have deficits in multiple pathways, including V-akt murine thymoma viral oncogene(Akt)signaling and glycogen synthase 3 kinase(GS3K), which parallel what is observed in schizophrenia. Although some pharmacological NMDAR hypofunction models utilize sub-chronic NMDAR antagonist administration(5-7 days), our SR-/- mice have life-long NMDAR hypofunction. Thus, we analyzed intracellular signaling pathways in MK801 sub-chronically(0.15 mg/kg;o.d;5 days)treated adult wild-type mice that are reduced in SR-/- mice and schizophrenia. We found that in contrast to SR-/- mice, the phosphorylation states of Akt1 and GS3K were increased in MK801 treated mice. Furthermore, there is a notable age-dependent change in the behavioral reaction of people to NMDAR antagonists. We therefore administered the same dosing regimen of MK801 to juvenile mice(3-4 weeks old)and compared them to juvenile SR-/- mice. Our findings demonstrate that sub-chronic, pharmacologic NMDAR antagonism has different effects on Akt/GS3K/mTOR signaling than constitutive NMDAR hypofunction caused by a deficit in D-serine. Considering the concordance with schizophrenia, our results suggest that SR-/- mice are a more accurate NMDAR hypofunction model of schizophrenia.
P1-58
統合失調症とQT間隔の両方に関連する可能性のある遺伝子の血液中mRNA発現量の検討とQT間隔との比較
藤井 久彌子1,尾関 祐二1,2,岡安 寛明1,高野 有美子1,篠崎 隆央1,秋山 一文3,下田 和孝1
獨協医科大学 精神神経医学講座1,国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第三部2,獨協医科大学 精神生物学講座3

【はじめに】一般に統合失調症患者(SZ)は健常被験者(NC)よりQT間隔が延長しておりその原因は抗精神病薬(AP)の服用であると考えられている。一方近年SZとQT間隔の両方に関連する可能性のある遺伝子が複数報告されている。そこで我々はAPを服用していない状態でもSZのQT間隔は延長しているのではないかと予測を立て検討し、SZではAPを服用せずともNCよりQT間隔が延長しており、AP服用でさらに延長が増加することを見出した。今回我々はSZにおけるQT間隔延長の遺伝学的な背景を調べる一環としてQT間隔とSZ両方に関連する可能性がある遺伝子の末梢血内発現量を測定して比較したため報告する。【対象と方法】SZ患者83名(平均年齢 52.1±13.5男性49)、NC61名(平均年齢 47.7±12.7歳 男性34)を対象にSZとQT間隔の両方に関連がある可能性のある遺伝子KCNH2、neuregulin1(NRG1)AKAP9977、AKAP9978の血液中mRNA発現量を測定しβ-actin、GAPDHを対象として半定量法で得られた発現量をMann-Whitney U検定で比較した。また、SZ患者を対象にこれら遺伝子の発現量とQT間隔との関連をSpearmanの順位相関係数で比較検討した。なお本研究は獨協医科大学生命倫理委員会の承認を得て行った。【結果】AKAP9977、NRG1の2つの遺伝子で、β-actinとGAPDHのどちらを対象とした場合にも、両者ともSZ患者におけるmRNA発現量の低下が認められた(全てp<0.001)。NRG1と脈拍の間だけ相関が認められたが(ρ=0.34、p=0.01)、QT間隔と遺伝子発現量の間に差は認めなかった。【考察】SZとQT間隔の両方に関係があると考えられる遺伝子の一部で血液中mRNA発現量が低下しており、こうした遺伝子に関連した問題がSZ患者で生じている可能性が示された。しかし、NRG1と心機能との関連を示唆する可能性は見いだされたものの、QT間隔自体との関連認められなかった。今後NCとの比較を行うとともに、遺伝情報の詳細な検討など通してSZ患者のQT間隔延長の生物学的な機構を検討してゆく。
P1-59
統合失調症患者におけるface matching taskを用いたNIRS研究
綿貫 俊夫1,松尾 幸治1,江頭 一輝2,中島 麻美3,原田 健一郎1,平田 圭子1,松原 敏郎1,高橋 幹治4,渡邉 義文1
山口大学大学院医学系研究科高次脳機能病態学分野1,産業医科大学病院精神医学教室2,長門一の宮病院3,片倉病院4

【目的】統合失調症(SZ)患者では顔認知の障害や表情認知の障害が存在することが知られているが、そのメカニズムに関してはいまだ十分明らかにはなっていない。今回われわれは、近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)を用いて、SZ患者に対し表情認知課題の一つであるmatching taskを行い、課題施行中の前頭側頭部における酸素化ヘモグロビン濃度の変化が健常者と異なるかどうか検討した。【方法】対象は年齢、性別、利き手、推定IQをマッチさせたSZ患者19名と健常者19名。この研究は山口大学医学部附属病院Institutional Review Boardの承認を得て行われた。また、すべての参加者に対して文書、口頭で研究に関する説明を行い、文書での同意を得た。課題はEmotional faceとNon-emotional faceを用いたmatching taskを行い、NIRSはETG-4000(Hitachi Medico.)を用いて前頭側頭部の31CHにおける酸素化ヘモグロビン濃度変化を測定し、両群間で比較した。また、課題成績の平均反応時間と正答率を両群間で比較した。【成績】健常者群においてEmotional taskでは両側側頭部で有意に酸素化ヘモグロビンが増加し、そのチャンネル部位に関して、SZ患者群は健常者群と比べ、左側頭部で有意に増加が小さかった。Non-emotional taskにおいては、健常者群では左側頭部で有意に酸素化ヘモグロビンが増加し、そのチャンネル部位に関して、SZ患者群は健常者群と比べ、Emotional taskの時と同様に左側頭部において有意に増加が小さかった。課題成績は、SZ患者群が健常者群に比べて、Emotional taskでは有意に平均反応時間が延長し正答率も低下していたが、Non-emotional taskにおいては、平均反応時間のみ有意に延長し、正答率は有意差を認めなかった。【結論】SZ患者群では健常者群に比べてmatching task中の左側頭部の活動性が悪いことが示された。また、課題成績においてSZ患者群では健常者群に比べてEmotional taskの方がNon-emotional taskのそれより成績が悪かったことから、顔認知よりも表情認知がより障害されている可能性が示唆された。
P1-60
統合失調症におけるGABA/グルタミン酸機能の進行性変化と認知機能障害の関連
高橋 隼,鵜飼 聡,小瀬 朝海,辻 富基美,篠崎 和弘
和歌山県立医科大学医学部神経精神医学教室

【目的】統合失調症における認知機能障害は社会機能予後と強く関連し、進行性に増悪することが知られている。認知機能障害の病態生理としてGABA/グルタミン酸神経系の障害が注目されているが、GABA/グルタミン酸機能の発症早期からの進行性変化の知見は十分ではない。2連発経頭蓋磁気刺激(ppTMS)はGABA/グルタミン酸機能を評価できる神経生理学的手法であり、統合失調症においてもppTMSの障害が報告されている。そこで今回我々は、ppTMSを用い、発症早期から慢性期におけるGABA/グルタミン酸機能と認知機能障害の関連を横断的に検討した。【方法】対象は健常(HC)群25名、統合失調症発症後1.5年以内のEarly Stage(ES)群9名、発症後1.5年から5年以内のLate Stage(LS)群8名、発症後5年以上のChronic Stage(CS)群9名である。ppTMSを用い、GABA性皮質抑制を反映するshort-interval intracortical inhibition(SICI)とGABA/グルタミン酸機能により調整されるintracortical facilitation(ICF)を測定し、各群間を比較した。また、統合失調症群全体(ES群+LS群+CS群)でSICI、ICFと統合失調症認知機能簡易評価尺度、罹病期間の相関を検討した。本研究は和歌山県立医科大学倫理委員会の承認を得ており、すべての対象者から書面による同意を得て実施した。【結果】ES群、LS群、CS群のSICIはHC群と比較して有意に減弱していたが、ES群、LS群、CS群の間に有意な差は認めなかった。LS群、CS群のICFはHC群と比較して有意に増強していたが、ES群とHC群の間に有意な差は認めなかった。また、統合失調症群全体でICFと罹病期間に有意な相関が認められた。認知機能との関連では、統合失調症群全体でSICIの減弱と作動記憶課題の低成績に有意な相関が認められた。【結論】本研究の結果は、統合失調症においてGABA神経系は発症の早期段階から障害され、病期の進行とともにグルタミン酸神経系も障害されること、統合失調症におけるGABA機能障害が認知機能障害と関連することを示唆した。
P1-61
初発統合失調症患者及び精神病前駆期群における聴覚神経同期活動の縦断的研究
織部 直弥1,2,平野 羊嗣1,2,神庭 重信1,鬼塚 敏明1,マッカレー ロバート2,スペンサー ケビン2
九州大学大学院医学研究院精神病態医学1,ハーバード大学精神科2

ガンマ帯域(20~45Hz)の振動数で調節される神経の同期活動は、知覚の統合に大きな役割を果たしていると言われている。特に単純な感覚刺激に対して一定のタイミングで惹起されるsensory evoked oscillationは、確実に測定できるガンマ帯域神経同期活動の一つであり、統合失調症においてもその異常が指摘されている。しかし統合失調症初発群や、前駆期群での研究は限られており、またそのような症例を縦断的に評価した研究は我々の知る限りまだなされていない。今回我々は、統合失調症初発群(N=18)、前駆期群(N=19)及び背景情報を一致させた健常対照群(N=40)における純音刺激に対するevoked oscillationを脳波を用いて測定し(Baseline)、時間周波数マップを用いて特定した時間×周波数領域におけるevoked powerとphase lockingを計算した。さらに約一年後に再度同じ測定を行った(Follow-up)。初発患者群ではBaselineでは健常者群と比較してevoked power及びphase lockingの増加がみられたが、一年後のFollow-upでは健常者と比べて双方の値が減少していた。前駆期群でも同様の傾向はみられたが、統計的には有意ではなかった。また、Baselineでより重度の幻聴をきたしていた症例ではphase lockingのより大きな減少がみられた。以上より、発症直後の統合失調症患者の脳内では機能障害がダイナミックな変化を伴いつつ進行していることが示唆され、抑制系シナプスや興奮性シナプスの成熟過程が障害されていることを反映していると考えられる。今後も、統合失調症の発症や進行のメカニズム解明のためにはこのような発症周辺の時期に着目した研究が非常に重要である。今回の研究は、ハーバード大学倫理委員会の承認を得ている。
P1-62
急性期統合失調症薬物療法の傾向と生物学的背景
平田 亮人1,2,富田 秋沙1,2,富岡 大1,2,小金丸 泰史1,2,尾鷲 登志美1,稲本 淳子1,2,岩波 明1
昭和大学医学部精神医学講座1,昭和大学横浜市北部病院メンタルケアセンター2

【目的】近年、統合失調症患者の急性期治療において抗精神病薬と併せて気分安定薬が汎用されている。本研究では、昭和大学横浜市北部病院メンタルケアセンタースーパー救急病棟に入院した統合失調症患者に対する抗精神病薬及び気分安定薬の使用状況を後方視的に調査した。
【対象】平成25年4月から平成26年6月までの14ヶ月間にスーパー救急病棟に入院した統合失調症患者67名のうち、抗精神病薬のみで加療された症例は35例(男性19例、女性16例、平均年齢46.6±13.0歳)で、抗精神病薬に気分安定薬を併用し加療された症例は28例(男性14例、女性14例、平均年齢38.5±13.3歳)であった。
【方法】まず、抗精神病薬治療群(単独群)、気分安定薬併用群(併用群)において各症例の背景とその転帰を集計した(入院期間、罹病期間、累計入院回数、入院形態、入院時現症)。次に、各症例における抗精神病薬及び気分安定薬の使用状況と効果を調べ、血液検査、心電図検査、脳画像検査の結果と薬物使用状況との関連性を検証した。
【結果】期間中入院した全患者において併用群は全体の41.8%であった。気分安定薬としてはバルプロ酸ナトリウム(VPA)が最も多く使用されていた。入院時現症は両群とも幻覚妄想状態が最も多く、併用群の方が年齢が若かった。両群とも、最も多かった身体異常はCK高値であった。併用群では単独群より入院時の炎症反応高値が有意に多かった。心電図異常、脳画像検査では両群で有意な差が認めなかった。
【まとめ】統合失調症急性期治療において抗精神病薬と気分安定薬の併用が有用な患者群には、血液検査上の炎症反応の有無との関連が示唆された。今後、統合失調症急性期治療の際の薬物選択の指針を得るために、更なる前方視的検討が必要であると考えられた。
【倫理面への配慮】
当研究は全て通常診療行為で経験した症例を後方視的に解析したものである。研究にあたっては昭和大学横浜市北部病院の倫理委員会にて承認を受け、個人情報の管理に関しても十分な配慮を行った。