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ストレス/気分障害
P2-39
慢性ストレス負荷BALB/cマウスの海馬における遺伝子発現マイクロアレイ解析
山形 弘隆,内田 周作,芳原 輝之,樋口 文宏,渡邉 義文
山口大学大学院医学系研究科高次脳機能病態学分野

うつ病の発症には遺伝的要因のみならず、養育環境やストレスなどの環境要因が関与していると考えられている。さらに最近、環境要因が引き金となるエピジェネティックな脳内遺伝子発現変化が神経可塑性異常を引き起こすことでうつ病を発症する可能性が示唆されている。以前、我々のグループは、遺伝的背景の異なるストレスに強いマウス(C57BL/6)とストレスに弱いマウス(BALB/c)を用いて、Mildな慢性ストレスに対するストレス脆弱性を比較解析し、腹側線条体におけるヒストンアセチル化を介したグリア由来神経栄養因子(GDNF)の調整機構が、BALB/cマウスのストレス脆弱性に関与していることを報告した。また、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬であるsuberoylanilide hydroxamic acid(SAHA)を5日間投与すると、ストレス負荷BALB/cマウスのうつ様行動が回復することを報告した。しかし、慢性ストレスやSAHA投与が、BALB/cマウスの海馬でどのような遺伝子発現変化を引き起こしているかは不明なままである。今回の研究では、マイクロアレイ解析を用いて、非ストレス群、ストレス負荷群、ストレス負荷+SAHA投与群の3群(各群N=6)で、海馬における遺伝子発現変化を網羅的に比較した。約3000プローブが有意に変化し、一部はストレス負荷後の遺伝子発現変化がSAHA投与で回復することが分かった。これらの遺伝子はうつ様行動や抗うつ効果に重要な役割を担っていることが示唆された。
P2-40
膠原病を基礎として症候性ナルコレプシーが強く疑われた一例
前田 冬海1,春日井 基文1,中村 雅之1,佐川 洋平2,神林 崇2,佐野 輝1
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 精神機能病学分野1,秋田大学医学部神経運動器学講座精神科学2

【はじめに】特発性ナルコレプシー以外に、遺伝性疾患、脳腫瘍、脳血管障害、炎症・自己免疫疾患、変性疾患などで、症候性ナルコレプシーや症候性過眠症が合併することが知られている。症候性過眠症の報告は非常に多いが、症候性ナルコレプシーの報告は稀である。今回私たちは、膠原病を基礎として有し、症候性ナルコレプシーが強く疑われた症例を経験した。【症例】症例は36歳女性。X-1年1月に脳梗塞を発症。精査の結果、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、シェーグレン症候群の診断に至り、同年2月プレドニゾロン内服が開始された。脳梗塞発症後、明らかな後遺症はなかったものの、同年12月末頃より、睡眠発作、入眠時幻覚、情動脱力発作、睡眠麻痺が出現し、X年3月には交通事故を起こした。臨床症状からナルコレプシーを疑われ、精査のため同年6月当科入院した。【結果と考察】MSLTにおいては平均睡眠潜時4.0分で5回中4回のSOREMPの出現を認め、睡眠覚醒は分断化され、HLAタイピングではDRB1*1501-DQB1*0602ハプロタイプを有していた。臨床的にはナルコレプシーの診断は満たすものの、発症年齢は一般的でなく、発症から半年ほどの短期間の間に睡眠発作のみ自然経過で軽減を認めているなど、典型的とはいえなかった。脳神経細胞における直接的神経傷害、もしくは免疫学的傷害が発症に寄与している可能性が考えられた。情動脱力発作や睡眠麻痺などのREM関連症状に対してはクロミプラミンを漸増し軽減が得られ、残存する睡眠発作に対しては日常生活に合わせてモダフィニルを導入し著しい改善が得られた。【結論】ナルコレプシーの病態に自己免疫が関わっていることが注目されており、本症例の膠原病の病態が、ナルコレプシーの症状に関与している可能性がある。(発表にあたっては十分なインフォームド・コンセントを得て、プライバシーに関する守秘義務を遵守し、匿名性の保持と倫理的側面に十分な配慮をした。)
P2-41
慢性ストレスを与えたマウスが示すうつ様行動に対する自発的運動の効果
八島 裕樹,室井 喜景,石井 利明
帯畜大・基礎獣医・薬理

【背景と目的】ランニングはうつ病の予防や改善の効果があるとされているがその機構についてはあまり良く理解されていない。また、正常マウスに長期間の回転かごによる自発的運動を課すとうつ様症状を引き起こすという報告があり、運動が精神に及ぼす影響についても不明な点が多い。そこで本研究では、ランニングの抗うつ効果とその機構を調べる目的で、慢性ストレス(CMS)を与えたマウスが示すうつ様行動に対する自発的運動の効果を調べた。【方法】6週齢のC57BL/6J系雄性マウスを4週間通常ケージで飼育した正常マウス(NSマウス)と4週間CMSを与えたうつ病モデルマウス(CMSマウス)を作製した。次に、これらのマウスに短期間の自発的運動を課した場合の効果を調べるために、回転かご付きケージあるいは通常ケージでさらに3日間飼育する以下の4群[NSマウスを通常ケージで飼育したNS-Sedentary(NS-S)群、NSマウスを回転かご付きケージで飼育したNS-Running(NS-R)群、CMSマウスを通常ケージで飼育したCMS-Sedentary(CMS-S)群ならびにCMSマウスを回転かご付きケージで飼育したCMS-Running(CMS-R)群]のうつ様行動を調べた。うつ様行動はSucrose consumption test(SCT)とForced swim test(FST)で評価した。海馬歯状回の新生細胞数は行動測定翌日から5-bromo-2'-deoxyuridine(BrdU)を1日2回、3日間腹腔内投与(100mg/kg)した後、免疫染色法により評価した。【結果】CMS直後のCMSマウスはNSマウスと比べ体重の有意な減少がみられ、SCTでスクロース消費割合の有意な減少とFSTで不動時間の有意な増加を示すうつ様行動が認められた。CMS-S群はNS-S群と比べFSTの不動時間は有意に増加したが、CMS-R群とNS-S群間に有意な差はなかった。また、BrdU陽性細胞数は各群間で差はみられなかった。以上の結果から、短期間の自発的運動はうつ様症状を改善することが明らかとなった。海馬歯状回の新生細胞数は自発的運動を課したマウスで増加するとの報告があるが、今回の短期間の自発的運動では新生細胞数に変化は認められなかった。今後は長期間(14日間)の自発的運動を課した場合の抗うつ効果と海馬歯状回の新生細胞数を調べる予定である。
P2-42
マウス側坐核のTMEM168過剰発現は不安および感覚運動制御障害を引き起こす
Fu Kequan1,宮本 嘉明1,斉鹿 絵里子1,鷲見 和之1,村松 慎一2,宇野 恭介1,新田 淳美1
富山大学・薬・薬物治療学1,自治医科大学地域医療学センター内科学講座神経内科学部門2

After repeated administration of methamphetamine in mice, we have found that a novel molecule, transmembrane protein 168(TMEM168)overexpressed in the nucleus accumbens(NAc). TMEM168 is a protein consists of 697 amino acid residues, including several putative transmembrane regions, but its function is not clarified. Accordingly, we investigated the functional role of TMEM168 in the NAc in vivo. In this study, we injected adeno-associated virus vector containing TMEM168 cDNA to the NAc of C57BL/6J mice, the accumbal TMEM168 mRNA in the TMEM mice increased approximately seven folds of the Mock mice. The TMEM mice showed no changes in locomotor activity, cognitive ability, social interaction and depression-like behavior. However, in the light/dark box and elevated-plus maze tests, the TMEM mice exhibited anxiety and this increased anxiety was reversed by anti-anxiety drug diazepam(0.3 mg/kg i.p.). The TMEM mice also exhibited decreased prepulse inhibition in the startle response test and this deficit was reversed by anti-psychotic drug risperidone(0.01 mg/kg i.p.). Furthermore, accumbal TMEM168 overexpression decreased the basal extracellular GABA levels in the NAc and the high K+(100 mM)-stimulated GABA efflux was also inhibited. Although the basal levels of extracellular dopamine in the TMEM mice were not different with the Mock mice, METH(1 mg/kg, s.c.)-induced dopamine elevation in the NAc was suppressed in the TMEM mice. These results suggested that TMEM168 in the NAc regulates GABAergic and dopaminergic neuronal systems, which control anxiety and sensorimotor gating.
P2-43
Heat shock protein 70によるうつ病の抑制
星野 竜也,水島 徹
慶應義塾大学 薬学部 分析科学

近年社会ストレスの増加に伴い、うつ病患者数が急激に増加し、大きな問題となっている。しかしながら、既存の抗うつ薬は約3分の1の患者に効果がないなどの問題があり、新規うつ病治療薬、治療法の開発が求められている。
近年、重度のうつ病患者において海馬の萎縮やスパインの減少などの器質的変化や炎症反応が観察され、精神ストレスによる神経細胞傷害や炎症反応がうつ病の病態に関与することが示唆されている。Heat shock protein 70(HSP70)は代表的なストレスタンパク質であり、細胞を種々のストレスに耐性化するだけでなく、異常タンパク質の凝集抑制作用、分解促進作用や抗炎症作用など様々な機能をもつ。そこで我々はHSP70が精神ストレスによる神経細胞傷害を抑制し、器質的な変化により発症するうつ病の病態を抑制するのではないかと考えた。
我々はChronic social defeat stress(CSDS)を用いたうつ病モデルに対するHSP70の効果を検討した。まず我々は野生型マウスにCSDSを負荷すると、海馬におけるHSP70の発現が亢進することを見いだした。また、野生型マウスとHSP70過剰発現マウス(HSP70 Tg)にCSDSを負荷したのち、うつ病様行動の発現をsocial interaction test、ショ糖嗜好性試験により比較した。その結果、野生型マウスでは社会回避行動の増加、ショ糖嗜好性の低下が観察された。一方、HSP70 Tgではこれらの行動変化は見られなかった。これらの結果より、HSP70がうつ病様症状の発症を抑制することが示唆された。次に器質的変化に対するHSP70の効果を調べるため、CSDSによる神経新生抑制、スパインの減少を調べたところ、HSP70Tgでは神経新生抑制やスパインの減少が抑制されることを見いだした。これらの結果からHSP70が精神ストレスによる神経細胞傷害などの器質的変化を抑制することにより、うつ病様症状の発症を抑制することが考えられ、HSP70による細胞保護効果が新たなうつ病治療のターゲットとなることが示唆された。
P2-44
精神活動におけるCdk5活性との関係
高橋 美由紀1,石田 真奈美1,斎藤 太郎1,小林 弘侑1,川上 有沙1,高杉 俊之1,大島 登志男2,久永 眞市1
首都大学東京大学院理工学研究科生命科学専攻神経分子機能研究室1,早稲田大学先進理工学部生命医科学科2

Mental disorders including depression are one of urgent issues to be addressed. To prevent the onset and develop the treatment, it is important to understand a pathogenic mechanism. It is generally thought that dysfunction of neuronal activities is an underlying mechanism. Cyclin-dependentkinase 5(Cdk5)is a neuron-specific Ser/Thr kinase, which is activated by regulatory subunit p35 or p39. Recent reports suggest its functions in synaptic activity and association with depression. We hypothesized that dysregulation of the Cdk5 activity could be a cause of mental disorders. To approach this question, we investigated the effect of valproic acid(VPA), a drug of choice for the psychiatric treatment, on the Cdk5 activity in mouse cortex primary neurons and mouse brains. VPA decreased protein and mRNA expression levels of p35 in primary neurons in a dose-dependent manner. The Cdk5 activity is also decreased by the VPA treatment. VPA is an inhibitor of histone deacetylase(HDAC). Since the similar effect was observed with another HDAC inhibitor, it is thought that VPA acted on Cdk5 via HDAC inhibition. When VPA was chronicity administrated to mice for two weeks, p35 was decreased in cerebral cortices. At that time, mice showed anxiety and depressive behavior. These results suggest the involvement of the Cdk5 activity in anxiety and depression. To validate the hypothesis, we are now studying an effect of VPA on mice lacking p39 another activator of Cdk5.
P2-45
GluN2Dサブユニット欠損が引き起こす情動及び社会性認識の障害
山本 秀子1,亀ヶ谷 悦子1,萩野 洋子1,高松 幸雄1,三品 昌美2,山本 敏文1,3,池田 和隆1
東京都医学研・依存性薬物1,立命館大学総合科学技術研究機構2,横浜市大・生命ナノシステム・分子精神薬理3

Background The N-methyl-D-aspartate(NMDA)receptor channel is involved in various physiological functions, including learning and memory. NMDA receptors are primarily composed of GluN1, GluN2(A-D), and GluN3 subunits. The physiological role of the GluN2D subunit is not fully understood because of its low expression in adults. In the present study, effects of GluN2D subunit deprivation on the emotional/cognitive functions were investigated using GluN2D knockout(KO)mice. Methods Using male mice, we performed behavioral measurements by using the sucrose preference test, the tail-suspension test. In addition, we measured social interaction/recognition test(three chamber sociability test). Results The motility in the tail-suspension test and the sucrose intake of male GluN2D KO mice significantly decreased. In GluN2D KO mice, the behavioral scores for anhedonia were correlated with those for the depressive-like state in the tail suspension test, but not in the wildtype mice. Acute treatment with GluN2B antagonist(Ro25-6981)increased the reduced motility but not restored the reduced sucrose intake in GluN2D KO mice. Subchronic treatments with a metabotropic glutamate receptor 5 positive allosteric modulator CDPPB or an antidepressant agomelatine increased motility in GluN2D KO mice. However, only agomelatine improved the sucrose intake in the GluN2D KO mice. Despite normal olfactory function and sociability, GluN2D KO mice lacked a preference for social novelty, suggestive of a deficit in social recognition or memory. Conclusion The present study suggests that GluN2D subunit is involved in the regulation of emotion and social recognition.
P2-46
大うつ病性障害における局所脳血流変化の検討―pCASL研究―
太田 深秀1,野田 隆政2,佐藤 典子3,功刀 浩1
国立精神・神経医療研究センター神経研究所 疾病研究第三部1,国立精神・神経医療研究センター病院 精神科2,国立精神・神経医療研究センター病院 放射線診療部3

従来、single photon emission computed tomography(SPECT)やPositron emission tomography(PET)による脳血流検査では放射性リガンドを投与する必要があった。撮影に長い時間がかかるなど繰り返し検査に適さない方法論であることや被験者の被ばくの問題もあり、放射線を用いない検査法の開発が望まれていた。今回我々は核医学的手法によらない脳血流測定法であるpseudo-Continuous Arterial Spin Labeling(pCASL)を用い、大うつ病性障害患者と健常者および統合失調症患者の局所脳血流を検討した。対象者には検査に関する説明を行い、文書にて同意を得た。なお、本研究は国立精神・神経医療研究センター倫理委員会の承認を得て実施した。説明と同意が得られた27名の大うつ病性障害、42人の統合失調症患者、43名の健常被験者を対象に3テスラMRIを用いてpCASLを撮影した。撮影された脳血流画像はSPM8を用いて標準化されたのち、同時に撮影された3次元T1強調画像から得られた大脳皮質のvolume画像や年齢、性別をcovariateにいれ制御され解析された。その結果、大うつ病性患者では前頭葉や前部帯状回の血流低下が認められた。大うつ病性障害患者と統合失調症患者の血流を比べたところ、大うつ病性患者では帯状回膝下部の血流が低下していた。これまでのSPECTやPETの結果でも大うつ病性障害で前頭葉や前部帯状回の血流低下は認められていることから、MRIを用いたpCASLによる脳血流測定が核医学的検査と同様の効果を持っていることが明らかとなった。また、大うつ病性障害では局所脳血流の変化パターンが統合失調症と異なることが明らかとなった。このことから大うつ病性障害における帯状回膝下部の血流低下をバイオマーカーとして用いることができる可能性が示唆された。
P2-47
海馬未成熟神経細胞の形態変化によるうつ様行動の変化
芳原 輝之,松ケ谷 佳代,内田 周作,山形 弘隆,樋口 文宏,渡辺 義文
山口大院・医・高次脳機能病態学

There is the growing evidence suggesting that the treatment with antidepressants enhance the hippocampal neurogenesis. However, little is known about the direct correlation between the adult neurogenesis and the depression-related behaviors and there is still argument.To clarify this subject, we examined whether depression-related behavioral abnormalities were occured with the deficit of neurogenesis by Cytosine b-D-arabinofuranoside hydrochloride(AraC)using C57BL/6 mice. The number of BrdU-positive cells and doublecortin-positive cells were severely decreased after AraC infusion. Contrary to our expectations, AraC treated group showed an increase of interaction time in the Social Interaction Test and a reduction of immobility time in the Forced Swim Test. Moreover, in the morphological study, dendritic length and the number of intersections of immature neurons were increased after AraC infusion compared with the vehicle group. These results suggest that structural plasticity of immature neurons such as dendrite elongation and dendritic branching may contribute to the antidepressant action.
P2-48
うつ病おける言語流暢性課題に対する光トポグラフィーによる脳機能と唾液アミラーゼ、コルチゾール反応
内田 真人1,丸山 義博1,田中 悦弘1,石飛 佳宣1,井上 綾子1,大下 晴美2,藍津 阜恵子1,増田 幸司1,日隈 晴香1,兼久 雅之1,二宮 大雅1,小林 俊輔1,穐吉 條太郎1
大分大学医学部精神神経医学講座1,大分大学医学部応用言語学講座2

【背景・目的】うつ病患者において光トポグラフィーで脳機能を検査し、心理テスト・唾液アミラーゼ、コルチゾール反応との関連について検討した。【方法】健康正常者(Control)、大うつ病性障害(DEP)を対象とした。言語流暢性課題(VFT)中の脳血流を光トポグラフィーで測定し、その前後にSTAI、POMSを実施し、唾液アミラーゼに関してはVFT実施の前・直後・20分後に測定した。以上により得られた値を群別、脳部位別に比較検討した。本研究は、大分大学医学部倫理委員会の承認と被験者の同意を得て行われた。【結果】VFT実施前のSTAI-trait、実施前後のSTAI-stateにおいて、DEP患者はいずれもControlに比べて有意に増加していた。POMSにおいてDEP患者はControlに比べてT-A、D、A-H、F、Cが有意に増加し、Vは有意に低下していた。VFTにおいて、DEP患者はControlと比較して、平均波形積分値が前頭部および左側頭部では有意に低下していたが、右側頭葉では有意な差は認められなかった。DEP患者では、唾液アミラーゼが有意に増加していた。【考察】STAIおよびPOMSの結果から、DEP患者は特性不安が強く、VFT前後に状態不安も惹起されると考えられる。唾液アミラーゼ反応の増加から、DEP患者はVFT実施前からSAM系が亢進状態にあると考えられる。本結果はDEPにおける前頭葉および左右側頭葉の機能低下を示唆している。DEPでは前頭葉の機能低下により抑うつ気分および認知機能障害が生じると考えられる。
P2-49
Oxytocin receptorの遺伝子多型と社会不安との関連研究
小野寺 まゆ子,丸山 義博,田中 悦弘,石飛 佳宣,井上 綾子,藍津 阜恵子,増田 幸司,日隈 晴香,兼久 雅之,二宮 大雅,小林 俊輔,穐吉 條太郎
大分大学医学部精神神経医学講座

【背景】Oxytocinは視床下部から下垂体後葉に輸送された後、様々な刺激によって血中に分泌される。それにより分娩時の子宮平滑筋の収縮や分娩の誘発、乳汁分泌などが起こる。一方で、脳内に直接分泌されたOxytocinはOxytocin receptorを発現するニューロンに働きかけることで、生理作用や生殖作用などの制御作用を果たすと考えられている。またOxytocin receptorは不安をつかさどる扁桃体と関連があり、不安やストレス反応などの行動を調整する。このように、Oxytocin系は生殖機能だけでなく社会行動にも重要な役割を担っている。【目的】本研究ではOxytocin receptorが社会不安に関連しているという仮説を立て、遺伝子多型を用いた遺伝子解析によってこの関連を検証した。【方法】対象は健康正常人211名(男性136名、女性75名、平均年齢24.9歳±4.2)。Real-time PCRを用いて遺伝子多型を調べた。SNPはOXTR rs53576を選択した。用いた心理検査は、Liebowitz Social Anxiety Scale日本語版(LSAS-J)とState-Trait Anxiety Inventory(STAI)の二種類である。本研究は、大分大学医学部ヒトゲノム倫理委員会の承認のもとに、被験者に書面にて承諾を得た。【結果】OXTRとSTAIの状態不安、特性不安の関連は認められなかった。LSASの恐怖感/不安感、回避とOXTRの関連が女性においてのみ認められた。しかし恐怖感/不安感、回避とOXTRの関連は男性において認められなかった。【考察】OXTR rs53576のG alleleが女性において恐怖や不安のみならず、回避に関連していることが示唆された。Oxytocin receptorと社会不安についての報告はない。血中Oxytocin濃度と社会不安の重症度に関連があり、白人女性において損害回避とOxytocin receptorとの関連が報告されていることと、本研究の結果から、OxytocinのみならずOxytocin receptorも社会不安に関連する可能性が示された。今後Oxytocinの測定や他の心理検査を組み合わせ、大規模な集団においでさらに検討する必要がある。【結論】OXTR rs53576のG/Gを持つ女性は不安を感じやすく、回避行動に出やすい可能性がある。女性は男性よりもOXTRの遺伝子多型が社会行動に影響する可能性がある。
P2-50
早期社会的隔離ストレスにおけるアルコール摂取量変化へのμオピオイド受容体の関与
森屋 由紀1,2,笠原 好之1,2,曽良 一郎2,3,富田 博秋1,2
東北大学 災害科学国際研究所 災害精神医学1,東北大学大学院医学系研究科 精神神経生物学2,神戸大学大学院 医学研究科 精神医学分野3

【目的】様々なストレスによりアルコール依存への罹患が増大することが知られている。阪神淡路大震災、東日本大震災の被災地の疫学調査でもストレスによる飲酒量の増加や飲酒習慣の変化が示されている。現在までにμオピオイド受容体(MOP)がストレス応答や依存形成・鎮痛において重要な役割を果すことを明らかにしてきたが、ストレス下でのアルコール依存の病態における機能的役割は不明であった。本研究では社会的孤立ストレス下におけるアルコール依存形成、病態機序にオピオイド神経伝達がどのように関与しているかについて、μオピオイド受容体欠損(MOP-KO)マウスを用いて解析することを目的とした。【方法】離乳後(生後3週間)のマウスを同胞マウスと隔離し単独にて飼育し、社会的孤立ストレスを6週間負荷した。多頭飼いマウスは1ケージに3~5匹で飼育したのに対して、単頭飼いマウスは同じ大きさのケージに1匹で飼育した。社会的孤立ストレス負荷後、二瓶選択実験(15mlのガラス瓶に8%エタノールあるいは水を入れ、14日間飲水量を測定)を実施した。雄性集団飼育野生型マウス(n=15)、単独飼育野生型マウス(n=14)、集団飼育MOP-KOマウス(n=14)、単独飼育MOP-KOマウス(n=10)。雌性集団飼育野生型マウス(n=15)、単独飼育野生型マウス(n=11)、集団飼育MOP-KOマウス(n=8)、単独飼育MOP-KOマウス(n=10)。【結果】集団飼育下において、雄性MOP-KOマウスは雄性野生型マウスと比較してアルコール摂取量が低値傾向であった。社会的隔離ストレス負荷により雄性MOP-KOマウスでは集団飼育条件に比較してアルコール摂取量が有意に高値であった。雄性とは逆に雌性MOP-KOマウスでは社会的隔離ストレス負荷がないとアルコール摂取量が有意に高値であった。一方で、野生型マウスでは性別に関わらずストレス負荷の有無によるアルコール摂取量の変化はなかった。【考察】以上の結果は、オピオイド神経伝達がストレスによるアルコール摂取量の変化に寄与することを示唆するとともに、その機能が性別によって異なることを示していると考えられる。