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統合失調症
P2-51
マイクロRNA138-2遺伝子の稀な変異と統合失調症との関連
渡部 雄一郎1,菱本 明豊2,澁谷 雅子1,布川 綾子1,3,金子 尚史1,3,井桁 裕文1,江川 純1,毛利 健太朗2,曽良 一郎2,染矢 俊幸1
新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野1,神戸大学大学院医学研究科精神医学分野2,大島病院3

【はじめに】マイクロRNAとはタンパク質をコードしない小分子RNAであり、統合失調症の病態への関与が注目されている。マイクロRNA遺伝子に着目し、頻度は低いが相対危険度の高い統合失調症リスク変異の同定を目的として、2つの独立した症例・対照サンプルを用いた関連解析を行った。
【方法】本研究は新潟大学医学部遺伝子倫理審査委員会および神戸大学大学院医学研究科遺伝子解析研究倫理審査委員会で承認されており、対象者からは書面にて研究参加の同意を得た。対象者はすべて日本人であり、DSM-IVにより統合失調症と診断された患者および精神疾患の既往および家族歴のない対照者からなる。新潟サンプルは患者678人と対照者667人であり、神戸サンプルは患者660人と対照者734人である。マイクロRNA遺伝子上に存在する4個の稀な変異をTaqMan法でタイピングした。4個の稀な変異とは、MIR30C2(chr6:72086719G>T)、MIR138-2(chr16:56892431G>T;rs139365823)、MIR217(chr2:56210123A>T)、MIR302A(chr4:113569394C>T)である。
【結果】新潟サンプルでは、MIR138-2変異のTアレル頻度が、対照群(0.011)よりも患者群(0.004)で低い傾向にあった(p=0.05)。神戸サンプルでは、MIR138-2変異のTアレル頻度が、対照群(0.008)よりも患者群(0.002)で有意に低かった(p=0.02)。両サンプルを合計すると、MIR138-2変異と統合失調症との有意な関連が認められた(オッズ比0.32、95%信頼区間0.15~0.71、p=0.003)。
【結論】MIR138-2遺伝子の稀な変異は、統合失調症の発症に対して保護的に働く可能性が示唆された。
P2-52
マイクロRNA137遺伝子のリシーケンスおよび統合失調症との関連解析
井上 絵美子1,江川 純1,布川 綾子1,2,澁谷 雅子1,渡部 雄一郎1,金子 尚史1,2,井桁 裕文1,染矢 俊幸1
新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野1,大島病院2

【はじめに】マイクロRNAとはタンパク質をコードしない小分子RNAであり、統合失調症の病態への関与が示唆されている。マイクロRNA137(MIR137)遺伝子は、ゲノムワイド関連解析のメタ解析により、統合失調症のリスク遺伝子であることが明らかにされた。さらなるリスク変異の同定を目的として、MIR137遺伝子のリシーケンスおよび関連解析を行った。
【方法】本研究は新潟大学医学部遺伝子倫理審査委員会で承認されており、対象者からは書面にて研究参加の同意を得た。対象者はすべて日本人であり、DSM-IVにより統合失調症と診断された患者647人(男性349人・女性298人、平均年齢39.8±13.8歳)、および精神疾患の既往と家族歴のない対照者674人(男性341人・女性333人、平均年齢38.4±10.8歳)である。全対象者について、直接シーケンス法によりMIR317遺伝子をリシーケンスした。リシーケンスにより同定されたVNTR(variable number of tandem repeat)は、フラグメント解析によりタイピングした。
【結果】リシーケンスによって、MIR317遺伝子の上流または下流に、3個の一塩基変異と1個のVNTRを同定した。すなわち、一塩基変異はg.98511534G>C(rs150014880)、g.98511769G>T、g.98511780T>Cであり、VNTRはg.98511779_98511780insCGCTGCCGCTGCTAC(rs58335419)である。これら4個の変異と統合失調症との有意な関連は認められなかった。
【結論】MIR137遺伝子のリシーケンスおよび関連解析を行ったが、さらなる統合失調症のリスク変異を同定することはできなかった。
P2-53
H2AFZ遺伝子と統合失調症との遺伝子関連研究
治徳 大介1,山本 直樹1,岩山 佳美2,上里 彰仁1,吉川 武男2,車地 暁生1,西川 徹1
東京医科歯科大学大学院・医歯学総合研究科・精神行動医科学分野1,理化学研究所・脳科学研究センター・分子精神科学研究チーム2

【目的】最近のゲノムワイド関連研究やヒト死後脳研究で、統合失調症とマイクロRNA(miRNA)との関連の報告が相次いでおり、miR-132とmiR-212も統合失調症との関連が報告されている。我々の先行研究においても統合失調症の薬物動物モデルの一つであるフェンサイクリジン(PCP、NMDA受容体アンタゴニスト)投与ラットにおいて、miR-132とmiR-212を含んだ転写領域の発現上昇とH2AFZH2A histone family、member Z)遺伝子の発現低下を見出している。H2AFZは、ヒストンH2Aバリアントのひとつとして、クロマチンリモデリングなどの機能に関わるが、その遺伝子発現はmiR-132とmiR-212の標的となることが推測される。そこで今回、H2AFZタンパク質の機能不全あるいは発現低下が統合失調症の病態に関連しているという仮説に基づき、統合失調症におけるヒトH2AFZ遺伝子の関連研究をおこなった。
【方法】2012人の統合失調症患者群および2170人の対照群からなる日本人末梢血由来DNAサンプルを用いて、H2AFZ遺伝子およびその近傍にある4個のtag SNPs(一塩基多型)と統合失調症との関連を精査した。さらに性別・発症年齢別解析をおこなった。なお、本研究は、ヘルシンキ宣言に則り、東京医科歯科大学医学部および理化学研究所の遺伝子解析研究に関する倫理審査委員会の承認を受けた後、対象者に本研究に関して十分な説明を行い、書面による同意を得て実施した。
【結果】全体の解析では、統合失調症との遺伝的関連を認めなかった。また、発症年齢別解析でも遺伝的関連を認めなかった。しかし、性別解析では、男性においてSNP02と統合失調症との強い関連を認めた(allelic P=0.003、genotypic P=0.008)。ハプロタイプ解析では、SNP02を含んだハプロタイプブロック(SNP02-03-04)と男性統合失調症患者群との強い関連を認めた(P=0.018)。これらの関連は、多重検定補正後も有意であった。
【結論】本研究から男性統合失調症患者において、H2AFZ遺伝子が疾患感受性遺伝子である可能性が推定された。miRNAsのターゲット遺伝子としてのH2AFZの発現制御ないし機能の障害が、一部の統合失調症の病態に関わる可能性が示唆された。
P2-54
統合失調症とHLA-DRB1*01およびHLA-DRB1*04の遺伝子関連解析
岡崎 賢志1,菱本 明豊1,渡部 雄一郎2,ラッタアーパー ウォラパット1,毛利 健太朗1,白岩 恭一1,笹田 徹1,江口 典臣1,大塚 郁夫1,布川 綾子2,澁谷 雅子2,染矢 俊幸2,曽良 一郎1
神戸大学大学院医学研究科精神医学分野1,新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野2

Aim:Previous studies reported that the HLA-DRB1*01 and HLA-DRB1*04 might be associated with schizophrenia. The present study was undertaken to investigate the association of HLA-DRB1*01 and HLA-DRB1*04 with schizophrenia in the Japanese population.
Methods:We selected 10 tag single nucleotide polymorphisms(SNPs)of HLA-DRB1*0101, *0401, *0403, *0405, and *0406 based on previous tagSNPs for HLA alleles. The allelic and genotypic distributions of ten SNPs were determined in 567 schizophrenic subjects and 710 control subjects using a Taqman probe assay. We replicated the result by genotyping 665 schizophrenic subjects and 668 control subjects for HLA-DRB1*0101.
Results:No significant differences in genotypic distributions or allelic frequencies of both HLA-DRB1 SNP markers between the both groups were observed. Using the previous report of tagSNPs for HLA alleles and haplotypes as predictors, no significant differences between these two groups were found. However, the differences of frequencies of case-control were observed among each allele.
Conclusions:The association between HLA and schizophrenia was not found in the present study. A larger sample association study is suggested for confirm this hypothesis.
This study was approved by the ethical committee for genetic studies of Kobe University Graduate School of Medicine and the Ethics Committee of Genetics at the Niigata University School of Medicine. Informed consent was obtained from all of the participants in writing. Retention of anonymity was sufficiently performed and confidentiality about the privacy of the participants was complied.
P2-55
HSPA1B遺伝子と統合失調症の関連解析
白石 知也1,山本 直樹1,治徳 大介1,岩山 佳美2,吉川 武男2,西川 徹1
東京医科歯科大学大学院1,理化学研究所脳科学総合研究センター2

統合失調症は約0.8%の高頻度で発症する精神疾患であり、一般に思春期以降に発症する。ドーパミン作動薬による統合失調症様症状も思春期以降に出現する。本研究では、ドーパミン作動薬のmethanphetamine(MAP)を投与したラットで統合失調症モデルが成立するようになる発達期以降に、MAP投与時に大脳皮質において転写産物量が増加する、統合失調症関連候補遺伝子として、Heat Shock Protein A1B(HSPA1B)が検出された。そこで、統合失調症とHSPA1B遺伝子の関連を調べた。日本人の統合失調症患者1808名(case)と日本人の健常対照者2170名(control)の末梢血ゲノムサンプルを用いて、HSPA1B遺伝子の上下流10kbの領域にあるほとんどのSNPs(一塩基多型)をカバーできるように選択された3箇所のTag SNPs(HS-I、II、III)に対して、TaqMan法を用いた関連解析を行った。さらに、統合失調症の疾患異質性の手がかりを得るため、性別および発症年齢別解析17歳以下と18歳以上)をおこなった。Case-controlの全体及び男女の別の比較では有意差が見られなかったが、発症年齢別解析において、18歳以降に発症した群でHS-IIで有意差が認められた(Allelic P=0.006、uncorrected)。この差異は多重検定補正後も有意であった。今回得られた結果から、フォールディングや細胞を酸化ストレスから保護する機能を持つHSPA1B蛋白質が、ある共通の発症機構を有する一群の統合失調症における脳病態分子基盤にかかわっている可能性が示唆される。本研究は、ヘルシンキ宣言に則り、本学医学部および理化学研究所の遺伝子解析研究に関する倫理審査委員会の承認を受けた後、対象者に本研究に関して十分な説明を行い、書面による同意を得て実施した。
P2-56
統合失調症の潜在抑制障害モデルを用いた、ブロナンセリンの改善効果に関する行動学的、形態学的検討
倉増 亜紀1,安部 博史1,小金丸 剛1,松尾 寿栄1,池田 哲也2,蛯原 功介1,船橋 英樹1,武田 龍一郎1,3,西森 年數1,2,石田 康1
宮崎大学医学部臨床神経科学講座精神医学分野1,宮崎大学医学部神経生物学分野2,宮崎大学安全衛生保健センター3

Latent inhibition(LI)is a process of learning where irrelevant stimuli are ignored. LI is disrupted by a dopamine releaser, methamphetamine, and this is reversed by treatment with typical and atypical antipsychotic drugs in rodents. Similar phenomena are also observed in schizophrenia patients. Therefore, disrupted LI is considered to provide an animal model of attention deficit in schizophrenia. We examined the psychopharmacological profile of a novel antipsychotic, blonanserin, by evaluating whether blonanserin could ameliorate the LI disruption caused by methamphetamine, and the neural activation related to this effect in rats. We used adult male Sprague-Dawley rats to measure LI, and used a conditioned emotional response in which a tone(2.8 kHz, 90 dB, 10s:conditioned stimulus)was paired with a mild foot shock(0.5 mA, 1.0s, foot shock via floor grid:unconditioned stimulus). This paradigm was presented to rats licking water. Administration of a higher dose(3.0 mg/kg, i.p.)of blonanserin significantly improved methamphetamine-induced(1.0 mg/kg, i.p.)disruption of LI. Not only was there improved disruption of LI, but a higher dose(3.0 mg/kg, i.p.)of blonanserin also potentiated LI, while 1.0-mg/kg of blonanserin and 0.2-mg/kg of haloperidol tended to improve methamphetamine-induced disruption of LI. On the other hand, blonanserin(3.0 mg/kg, i.p.)increased c-Fos expression in the shell area but not in the core area of the nucleus accumbens. These results indicated that blonanserin could improve the methamphetamine-induced disruption of LI, as other antipsychotics do. The mechanism by which blonanserin improves LI disruption would depend on, at least in part, theneuronal activation and/or modulation of neurotransmission in the nucleus accumbensshell.
P2-57
miRNAの発現変化による神経細胞分化への影響
豊島 学1,岡田 洋平4,赤松 和土2,3,岡野 栄之2,吉川 武男1
理化学研究所脳科学総合研究センター分子精神科学研究チーム1,慶應義塾大学医学部生理学教室2,順天堂大学医学部ゲノム再生医療センター3,愛知医科大学医学部内科学講座4

統合失調症の原因については、種々の状況証拠から神経発達障害仮説が考えられている。また、22q11.2の微小欠失(22q11.2欠失症候群)によって統合失調症の発症リスクが約20~40倍に増大することから、この欠損領域は統合失調症の責任領域の一つとして重要視されているが、決定的な発症機序解明には至っていない。欠失領域に存在するDGCR8遺伝子がコードするDGCR8は、miRNAのプロセッシングを行うことが知られており、DGCR8の発現変化は、直接miRNAの発現変化に繋がっている。実際、Dgcr8+/-マウスではmiRNAの発現低下が見られ、加えてPPI(プレパルス抑制)や空間的ワーキングメモリーの低下といった行動異常や、海馬の神経新生の低下が報告されている。上記背景から、我々は22q11.2欠失症候群における発症リスクの増加にはDGCR8遺伝子が関与していると考え、患者由来iPS細胞を用いて、DGCR8遺伝子の欠損が神経分化・発達に与える影響を解析した。統合失調症を合併した22q11.2欠失症候群患者2名からiPS細胞を樹立し、患者と健常者のiPS細胞及びNS(Neurosphere:神経幹細胞の細胞塊)に関して、DNAマイクロアレイを用いて欠損領域の遺伝子発現を解析した結果、NSにおいてDGCR8遺伝子の発現が半減していた。そこで、患者由来のNSに関してmiRNAアレイを用いてmiRNAの発現変化を解析した結果、miR-17 family(miR-17、miR-106a、miR-106b)の発現が低下していた。更に、患者由来の神経幹細胞においては、NSの縮小化や、神経細胞への分化効率の低下、それに伴ってアストロサイトへの分化促進が起こることを見出した。miR-17 familyのターゲットとなる遺伝子(E2F1、PTEN、BIM、p38、COUP-TF1/2等)は、細胞増殖、アポトーシス、神経幹細胞の「神経細胞:グリア分化比率」に関わっており、患者由来の神経幹細胞の異常には、miR-17 familyの発現低下が関与していることが示唆された。
本研究は、理化学研究所及び研究参加施設の倫理委員会の承認を得て被験者には十分な説明と文書による同意を得たうえ、プライバシーに関する守秘義務を遵守し、匿名性の保持に十分な配慮を行い実施した。
P2-58
統合失調症における病的多飲とアクアポリン遺伝子
新開 隆弘,山田 健治,得津 由紀,中村 純
産業医科大学 精神医学教室

Polydipsia, not explained by medically-induced polyuria, may be present in more than 20% of chronic psychiatric inpatients, notably in patients with schizophrenia. Polydipsia may lead to hyponatremic symptoms including vomiting, seizures, disturbance of consciousness and even death. The cause psychogenic polydipsia is poorly understood. However, we have reported a possible genetic contribution to the development of this condition. Aquaporin has an important role in water homeostasis of human brain. We examined the association between aquaporin polymorphism and polydipsia in a sample of schizophrenia with and without polydipsia. The SNP genotyping was determined by TaqMan assay. This study was approved by the Ethics Committee of the University of Occupational and Environmental Health and informed consent was obtained from all subjects. Although our preliminary data does not suggest a significant association, analysis with complete data set is currently undergoing to clarify the relationship between aquaporin genetic polymorphism and polydipsia in schizophrenia. Challenging steps towards clinical application of pharmacogenetics of polydipsia require further studies.
P2-59
統合失調症の聴覚野におけるγ帯域活動異常についての検討
平野 羊嗣1,2,織部 直哉1,2,鬼塚 俊明1,神庭 重信1,マッカーレー ロバート2,スペンサー ケビン2
九州大学大学院医学研究院精神病態医学1,ハーバード大学精神科2

【目的】精神医学におけるTranslational Researchの最終目標は、疾患モデル動物に応用可能な精神疾患の神経回路の異常を同定し、新たな治療法の開発を促進することである。その点、統合失調症で異常が報告されているγ帯域皮質活動は、種を問わずその発生基盤が明確で、抑制性及び興奮性ニューロンの両者の機能を反映するとされ、臨床応用の面でも注目されている。さらに、聴覚野の自発活動異常と、幻聴をはじめとした精神症状の関連も近年示唆されている。本研究は、統合失調症の聴覚野におけるγ帯域活動異常の包括的な解明を目的として行われた。【方法】統合失調症24名と健常者24名を対象に、多チャンネル脳波計を用い、聴覚野における刺激頻度の異なるclick音(20/30/40 Hz)に対する聴性定常反応(auditory steady-state response:ASSR)と安静時の脳波活動を記録し、両者のγ帯域皮質活動(位相同期性、[刺激に関連した]自発活動、安静時活動)を解析し、さらに症状との関連を調べた。本研究は、IRBの承認と被験者からインフォームドコンセントを得ている。【結果】健常者に比べ、統合失調症では:1)左聴覚野における40 Hz ASSRのγ帯域位相同期性が有意に減少していた、2)刺激提示に伴うγ帯域自発活動が、20 Hzと30 Hz刺激では両側で、40 Hz刺激では特に左聴覚野で有意に増加していた、3)対照的に安静時のγ帯域自発活動での違いは認められなかった。さらに、統合失調症では左聴覚野において:4)γ帯域自発活動と幻聴の重症度が正の相関を示した、5)40 Hz ASSRのγ帯域位相同期性とγ帯域自発活動に逆相関が認められた。【考察】以上の結果は、統合失調症の、抑制性及び興奮性ニューロンの両者の機能異常を、それぞれγ帯域の位相同期性と自発活動が反映し、且つ双方に関連していることを示しており、疾患モデル動物の知見とも一致する。さらに、幻聴の神経学的基盤が、γ帯域自発活動の異常な上昇に裏打ちされていることも示唆している。これらの新たな知見は、統合失調症の病態や発症機序を理解する上で、さらにはTranslational Researchの観点からも、非常に重要であると思われる。
P2-60
急性期の統合失調症における、横断面及び縦断面での末梢カルボニルストレスマーカー測定の重要性
勝田 成昌,大沼 徹,前嶋 仁,竹林 佑人,比賀 雅行,武田 真侑,中村 徹,西紋 昌平,三戸 高大,堀田 由梨,榛沢 亮,東山 涼子,柴田 展人,新井 平伊
順天堂大学医学部精神医学講座

【目的】近年、精神疾患の病態とカルボニルストレス(カルボニル化合物の体内蓄積)の関連性が示唆され、その後統合失調症との関連性も注目され、疾患の生物学的マーカーとしての役割も考えられている。今回我々は、カルボニルストレスを反映する血液中の終末糖化産物ペントシジンと、それを消去するビタミンB6(ピリドキサール)を、統合失調症の急性期と寛解期のそれぞれについて測定し、臨床症状や遺伝子との関連性を含め、横断的かつ縦断的な面から観察する事で、診断的及び治療経過的バイオマーカーとしての可能性を検討した。【方法】今回、入院した137例の急性期統合失調症の患者を対象とした。いずれも病状の増悪のために入院となり、ペントシジンが増加しうる糖尿病及び腎機能障害の既往のあるものは除外とした。臨床症状の評価はBPRSを用いた。健常者対照群は47例で、DSM-IVのI軸診断の精神疾患に該当しないことを条件とした。【倫理的配慮】本研究は順天堂大学医学部倫理委員会により承認され行なっている。すべての対象者あるいは家族に本研究の趣旨を説明して書面及び口頭で同意を得ている。【結果】急性期のペントシジン濃度は統合失調症群と健常対象群で有意差は無かった。また、統合失調症のうち14例ではペントシジン濃度が異常高値(健常者群の平均値より+2SD以上)であったが、その群では先行研究のように重症度に差はなかった。しかし、ペントシジン濃度は抗精神病薬の1日投与量と有意に相関していた。また、ピリドキサールの値は健常者群と比較して、統合失調症群では有意に低下しており、治療後に有意に上昇していた。さらに、ピリドキサールの値が入院中に逆に低下した18例を注目したところ、その患者群は低下率が強いほど、薬物治療に反応が乏しく、症状の改善が少なかったことが示された。【考察】カルボニルストレスのバイオマーカーであるペントシジンとピリドキサールは、今後、統合失調症における重要な生物学的指標となる可能性が再認識され、特にピリドキサールの測定は治療反応性との関連性が示唆された。
P2-61
尿路感染症に伴い悪化を示したクロザピン誘発性アステリキシスの一例
升谷 泰裕1,高橋 哲也1,上野 幹二1,渡邉 恵美1,渡辺 享平2,高橋 正洋3,森田 幸代4,東間 正人1,和田 有司1
福井大学医学部附属病院神経科精神科1,福井大学医学部附属病院薬剤部2,滋賀医科大学医学部精神医学講座3,滋賀医科大学医学部付属病院腫瘍センター4

【初めに】治療抵抗性統合失調症の治療薬であるクロザピンのまれな副作用としてアステリキシスの報告が散見されるが、他剤との併用例が中心である。今回、クロザピンの単独投与によってアステリキシスが出現した症例を経験したので報告する。【症例・経過】統合失調症の63歳女性。腎結石と腎機能低下の既往があり、尿路感染症を繰り返している。X年10月、陽性症状の悪化に加え、眼瞼痙攣や手指振戦など抗精神病薬による運動障害を認めたため、クロザピンの導入を目的に当科入院。抗精神病薬を漸減中止し、クロザピンを開始。クロザピン300mgにて陽性症状は軽快し、運動障害も消褪した。持続する陰性症状への効果を期待し、400mgに増量したところ、活動性の増加も認めた。その後尿路感染症に罹患し、増量10日後には手関節の背屈保持の困難が出現。脳波、MRIおよび血液検査で異常はみられず、クロザピン誘発性のアステリキシスと判断。尿路感染症の改善とともにアステリキシスも軽微に残存するも改善。精神症状に対してクロザピンが奏功していることから、400mgを維持し退院となった。しかし再び尿路感染症に罹患し、それを契機にアステリキシスが悪化し再入院となる。尿路感染症の治療に加え、クロザピンを300mgに減量したところ、アステリキシスは軽快したため退院。現在も安定した状態が維持されている。【考察】クロザピン誘発性のアステリキシスを含めたミオクローヌスは、用量依存的に出現することが知られている。一方、クロザピンはCYP450によって代謝され、また肺炎によるCYP450活性の低下とクロザピン血中濃度の上昇、さらにはそれに伴う副作用の出現が報告されている。本症例ではアステリキシスの出現・悪化に先行して尿路感染症を罹患していることから、尿路感染症がクロザピンの血中濃度に影響している可能性が指摘された。【結語】クロザピン投与においては、尿路感染症を含めた感染症に伴うクロザピン血中濃度の上昇、および副作用の悪化を念頭に治療を進めることが重要と考えられた。なお、本報告については書面を用いて患者およびその家族への説明を十分に行い、書面による承諾を受けている。
P2-62
統合失調症の生物学的マーカーとしての眼球運動スコアの開発
藤本 美智子1,橋本 亮太1,2,三浦 健一郎3,山森 英長1,4,安田 由華1,大井 一高1,梅田 知美4,岩瀬 真生1,武田 雅俊1
大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室1,大阪大院・大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科附属子どものこころの分子統御機構研究センター2,京都大学医学研究科認知行動脳科学3,大阪大学大学院医学系研究科分子精神神経学(大日本住友製薬)寄付講座4

1900年代初めから、統合失調症患者とその血縁者において眼球運動の異常が見られることが報告されている。統合失調症患者において、追跡眼球運動では円滑な追跡が障害され、注視課題は遂行困難であることが言われており、探索眼球運動では眼球の動きが少ないことが報告されている。過去には、このような眼球運動の違いによって統合失調症患者と健常者を判別した例も数件報告されている。しかし、両者について判別度の高い眼球運動指標は未だ確立されていない。今回我々は統合失調症の生物学的マーカーを探求するため、眼球運動検査によって得られたデータを基に眼球運動の特徴を示すスコアを決定し、統合失調症患者と健常者の比較を行った。まず統合失調症患者40名と健常者69名についてBensonら(2012)と同じく追跡眼球運動、注視、探索眼球運動の各課題を行い、EyeLink1000を使用して左眼の眼球運動や瞳孔部位を測定した。その後、ステップワイズ法を用いて65個の変数について判別分析を行い、線形判別分析から眼球運動の特徴を示すスコアを算出した。スコア算出の変数として、探索眼球運動における追跡距離、注視課題中の注視時間と信号雑音比、追跡眼球運動における垂直方向の速度と注視回数の5つを抽出した。その結果、眼球運動スコアによって88%以上の確率で統合失調症患者と健常者を判別することができた。5つの変数のうち眼球運動の変数として最も影響が大きかったのは、探索眼球運動における追跡距離であった。眼球運動スコアと数項目の臨床症状評価スコアについては、弱い相関がみられた。本研究において、我々は簡便な方法で眼球運動スコアを算出する方法を開発し、本スコアが統合失調症の生物学的マーカーになり得る可能性が示唆された。なお本研究は大阪大学研究倫理審査委員会の承認を得ており、発表にあたり十分なインフォームド・コンセントを得て、プライバシーに関する守秘義務を遵守し、匿名性の保持に十分な配慮をした。