TOPポスター発表
 
方法論・イメージング法
P2-65
シナプス後肥厚部(PSD)とシナプス膜ラフトの分離・精製の解析
鈴木 龍雄1,趙 麗エイ1,阪上 洋行2
信州大学・院・医・神経可塑性学1,北里大学・医学部・解剖2

【目的】シナプス後部には二つの主要な機能ドメイン、シナプス後肥厚部(PSD)とシナプス後部膜ラフト(postsynaptic membrane raft、PSR)、が存在している。この二つのドメインは生化学的に分離して精製されうるが、in vivoでは相互作用して存在していると考えられる。発表者らはPSD-PSR複合体の存在を同定している(1)。また、シナプス伝達や、その制御、シナプス可塑性の発現において、PSDはそれらに関わる細胞内情報伝達処理を行うための必須の細胞内構造体ではあるが、PSDの形成やPSDの十分な機能発現のためにはPSRとの相互作用が必須であると提唱した(2)。しかし、PSRの詳細や、PSDとPSRの構造的および機能的な連携についてはほとんど明らかにされていない。本発表では、シナプス内のPSDとPSRの構造な関係を明らかにするために、シナプス膜を界面活性剤処理後にPSDとPSRとが分離される過程をシステマティックに解析した。【方法】3種類の界面活性剤(TX-100、オクチルグルコシド[OG]、CHAPSO)を用いてシナプス膜を処理後、ショ糖密度勾配遠心法(SDG)にて沈渣を含む12分画を得た。事前に上清と沈渣に分けたものもSDG分離した。それらの分画に対してWestern blotting解析、電子顕微鏡観察を行った。【結果】3種の界面活性剤で異なる分離パターンが得られた。PSD-PSR複合体(この場合type I PSD)はTX-100の場合でのみ得られた。type II PSD成分はほとんどが容易に可溶化されてしまったが、一部がraftとSDG分画上、共局在していた(OG、CHAPSOの場合)。従来の精製法によるPSDはtype II PSDを含まないものであることが明らかになった。CHAPSO-SDG分画処理によりPSDとraft以外の新規なシナプス内構造が分離された。【結論】本研究によりシナプス構造に関する、新たな有用な基礎情報が明らかになった。1)Suzuki, T. et al., (2011)J. Neurochemistry, 119, 64-77. 2)Suzuki, T., Yao, W.-D. (2014)J. Neurorestoratology, 2:1-14.
P2-66
プロテオームによるラット唾液中の精神ストレスマーカータンパク質の探索
大城 聰1,森岡 勝樹2,名和 眞紀子3,蕪木 智子4,田中 博2,菅澤 威仁5,岩沢 勇也2,西山 伸夫2,門脇 真也2,田邉 いくみ2
大東大院・スポーツ健康科学・細胞生物1,東医歯大・難研・生命情報学2,東医歯大・難研・細胞プロテオーム3,大東大・スポ健・健康・栄養4,筑波大院・人間総合科学・スポーツ医学5

 唾液は非侵襲的に採取できるあらゆる臨床的なサンプルとして優れている。今回はラットに精神的なストレスを負荷し、唾液を無麻酔、無固定下で採取した唾液タンパク質のプロテオーム解析を行った。ストレス負荷によって体重は10%減少するが、遺伝子の網羅的発現解析をした結果、小胞体ストレスが認められない3日間を水浸拘束の実験条件とし、各唾液腺から集まる口腔内唾液をヒト唾液採取用脱脂綿にて吸収し、遠心分離によって唾液を採取し、また対照ラットも無負荷で同様に唾液採取し、プロテオーム解析用のサンプルとした。唾液タンパク質の分離はゲル濃度10%SDS-PAGEを一次元電気泳動し、泳動後のタンパク質サンプルは25KDa以下、25-75Da、75KDa以上の3グループに分けて、インジェル消化を行った後、高速液体クロマトグラフィによってペプチド断片を分離し、溶出したペプチドは2台のタンデム質量分析装置(MS)で測定を行った。1台目のMSでペプチドイオンに解離させてペプチドフラグメントにし、2台目のMSで選別後にそのパターンからアミノ酸配列を決定するなどの方法で解析を進めている。解析の結果、精神ストレス負荷群を分子量によって3群のM25、M25-75、M75に分け、対応する対照群と比較すると、既知の唾液ストレスマーカーと候補マーカー、未知タンパク質群が検出された。現在、唾液ストレスマーカーの増減、候補マーカー及び未知タンパク質群について再現性を検討中である。尚、本研究は本学スポーツ・健康科学部及びスポーツ・健康科学研究科動物実験委員会の審査を受け承認された。本研究は文部科学省科学研究費助成事業補助金基盤研究(C)(学術研究助成基金助成金、課題番号:25350824)助成の元、実施された。
P2-67
低分子量ルシフェラーゼを用いたMANF分泌機構の高感度スクリーニングシステムの構築
則定 純平1,平田 洋子1,2,天谷 文昌3,木内 一壽1,2,大橋 憲太郎1,2
岐阜大学大学院工学研究科生命工学専攻1,岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科創薬科学専攻2,京都府立医科大麻酔化学教室3

Mesencephalic astrocyte-derived neurotrophic factor(MANF)has been reported to prevent neuronal cell death caused by certain stimuli. Accordingly, the molecular features of MANF have been intensively investigated since the reporting of its cytoprotective actions. In addition to the characterization of the transcriptional regulation of MANF under pathophysiological conditions, it is important to understand its intracellular transport and secretion after translation. In this study, we developed a convenient and quantitative assay to evaluate the post-translational regulation of MANF using NanoLuc, a highly active and small luciferase. We inserted NanoLuc after the putative signal peptide sequence(SP)of MANF to construct NanoLuc-tagged MANF(SP-NL-MANF). Similar to wild-type(wt)MANF, SP-NL-MANF was secreted from transiently transfected HEK293 cells in a time-dependent manner. Using INS-1 cells stably expressing SP-NL-MANF, we found that the biosynthesis and secretion of SP-NL-MANF can be evaluated quantitatively using only a small number of cells. We further investigated the effects of several stimuli responsible for the expression of ER stress-induced genes on the secretion of SP-NL-MANF from INS-1 cells. Treatment with thapsigargin and high potassium significantly increased NanoLuc activity in the culture medium, but serum withdrawal dramatically down-regulated luciferase activity both inside and outside of the cells. Collectively, these results demonstrate that our method for measuring NanoLuc-tagged MANF as a secretory factor is highly sensitive and convenient not only for characterizing post-translational regulation but also for screening useful compounds that may be used to treat ER stress-related diseases such as neurodegenerative disease, ischemia and diabetes.
P2-68
発達期および成体マウスにおける小脳顆粒細胞選択的NMDA受容体欠損は運動障害を引き起こす
Fei Peng,阿部 学,薄井 宏,夏目 里恵,崎村 建司
新潟大・脳研・細胞神経生物

我々はCre/loxP組換え系を用いてマウス小脳皮質シナプスの分子機構を解析するため、小脳顆粒細胞選択的Cre発現マウス(E3CreN系統)を作製した(Miyazaki et al.2012)。まず本研究においては、Cre活性に依存してlacZを発現するレポーターマウスを用い、小脳の発達段階(生後5日から28日齢(P5-P28))でのCre活性をE3CreNヘテロ及びホモマウスで比較して検証した。その結果、P5で組換えの生じたLacZ陽性細胞がVII-IX小葉から出現し始め、徐々に陽性細胞数が増えてその出現範囲が広くなってゆき、P28では全小葉の顆粒細胞がほぼ完全に陽性細胞となったが、P10からP14の間ではE3CreNホモマウスは同じ日齢のヘテロマウスと比較して組換え効率が明らかに高いことが示された。これらの結果は、E3CreN系統のCre活性が小脳の発達時期において小葉により異なることと、Cre遺伝子の数により活性が調節可能であることを表している。そこで、小脳皮質におけるNMDA受容体の生理機能解明のために、E3CreNヘテロ及びホモマウスを用いて小脳顆粒細胞選択的(GC-)GluN1 KOマウスを作製した。8週齢においてはGC-GluN1 KOマウス小脳のGluN1タンパク発現量はコントロールマウスと比較して大幅に減少しており、E3CreNヘテロマウスとホモマウスでは差が無いことがウエスタンブロットにより示された。この結果は、成体のGC-GluN1マウスにおいては小脳顆粒細胞に発現するGluN1はほぼ完全に消失していることを示唆する。また、ローターロッドテストではGC-GluN1 KOマウスは顕著な運動障害を示し、さらにE3CreNホモマウスの方がヘテロマウスよりも有意に運動能力が低いことが明らかとなった。E3CreNホモマウスの発達期小脳ではヘテロマウスよりも早くGluN1タンパクが欠損していることが予想されるので、この結果は、成体の小脳顆粒細胞で発現するNMDA受容体のみならず、発達期で発現するNMDA受容体が成体での運動機能に何らかの役割を果たす可能性を示している。以上の結果より、E3CreN系統は、発生過程及び成体での小脳皮質シナプスの分子機構の解析に有効なツールになると考えられる。
P2-69
不安関連遺伝子FKBP5遺伝子多型と脳容積の関連研究
室長 祐彰1,穐吉 條太郎1,丸山 義博1,田中 悦弘1,石飛 佳宣1,井上 綾子1,大下 晴美2,藍澤 早恵子1,増田 幸司1,日隈 晴香1,兼久 雅之1,二宮 大雅1,小林 俊輔1,河野 義久3
大分大学医学部精神神経医学講座1,大分大学医学部応用言語学講座2,河野脳神経外科病院3

【背景と目的】FKBP5は、ストレス反応に関連したグルココルチコイド受容体(GR)の感受性に影響を与える遺伝子であり、不安障害や気分障害との関係が指摘されている。一方、Alzheimer病や双極性障害などの精神疾患で特定の脳領域の容積の変化が報告されている。本研究では、不安に関連が強いとされるFKBP5の遺伝子多型と脳容積との関連を調べ、遺伝子多型が不安と脳容積にどのように影響を与えるかを検討した。【方法】2010年9月から2013年9月までに頭部MRI撮影をした健常成人104人を対象とし、採取した血液からreal-time PCRによってFKBP5(rs992105、rs2766534、rs1360780、rs9296158、rs9470080)の遺伝子多型について、それぞれ3群のgenotypeに分類した。頭部MRI画像から脳の各領域の容積をAtlas-based VolumetryおよびVBMによって求め、各遺伝子型と比較するとともに、不安尺度を検査するSTAIおよびTCIの点数との関連も調べた。本研究は、大分大学医学部倫理委員会・ヒトゲノム研究倫理審査委員会の承認のもと被験者から書面にて同意を得ている。【結果】健康正常人において、rs992105の右扁桃体(p=0.03)、rs1360780の右扁桃体(p=0.007)、rs9470080の右下眼窩前頭皮質(p=0.005)で群間に有意差が認められた。いずれの場合も左側(反対側)の同名領域では差が見られなかった。またrs2766534では、TCIの項目:NS(新奇性追求総合点)の点数において群間で有意差が見られた。【考察】本研究ではFKBP5の遺伝子多型により、不安・うつに関連する扁桃体の容積に差が認められた。右扁桃体が最も大きい値となったrs992105のCC群およびrs1360780のTT群では、有意な差とはならなかったがSTAIの状態不安および特性不安の項目がそれぞれの3群中で最も高い点数を示した。遺伝子型を介した右扁桃体の体積と不安の強さとの関連が考えられる。