TOPポスター発表
 
細胞内シグナル
P3-1
培養視床下部神経細胞におけるErbB4の制御機構
山本 秀幸,仲嶺(比嘉) 三代美,前田 紀子,徳 誠吉
琉球大院・医・生化学

ErbB4は神経細胞に多いEGF受容体ファミリーの一つである。リガンドとしてHB-EGFやニューレグリン1(NRG1)が知られている。興味深いことに、ErbB4NRG1遺伝子は統合失調症の関連遺伝子として報告されている。ErbB4の機能異常が統合失調症の病態生理に関与している可能性がある。私達は、視床下部神経細胞由来のGT1-7細胞を用いて、GPCRの一つであるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)受容体の刺激時間の違いによって、ErbB4が異なる制御を受けることを見出した1)。すなわち、短時間ではErbB4が活性化され、長時間では切断されて脱感作が認められた。今回、これらの制御に関与する細胞内情報伝達機構について検討した。ErbB4の活性化は、MAPキナーゼの中のERKの活性化を指標にした。その結果、両反応にGq/11とCキナーゼが関与すること、ErbB4の活性化のみにPKDとSrcファミリーが関与することが明らかになった。さらに、神経細胞の分化刺激によりErbB4の発現上昇が認められた。GT1-7細胞は様々な神経伝達物質に対する受容体を有しており、ErbB4の制御機構を検討する上で極めて有用な細胞であると考えられる。1)J. Cell. Physiol., 2012, 2492-2501.
P3-2
柑橘類の精油成分limoneneによる侵害受容性TRPA1チャネルの活性化と抑制作用
太田 利男1,貝本 竜規1,畠山 由香里1,高橋 賢次1,齋藤 茂2,富永 真琴2
鳥取大・農・獣医薬理1,自然科学研究機構・統合バイオ・細胞生理2

【目的】Transient receptor potential ankyrin 1(TRPA1)は主に知覚神経に発現し、様々な刺激性化学物質や冷刺激により活性化するため、鎮痛薬の創薬ターゲットとして注目されている。近年、テルペノイド骨格を有する様々な化学物質がTRPチャネルを修飾することが報告された。柑橘類の果皮に含まれる精油成分limoneneも単環式モノテルペノイドの一種であり、マウス痛覚試験において鎮痛作用を示すことが報告されている。しかし、その分子メカニズムは明らかにされていない。そこで本研究では、マウス知覚神経細胞及び遺伝子発現細胞を用い、limoneneによる鎮痛作用におけるTRPA1チャネルへの関与について検討した。【方法】マウスより単離した背根神経節細胞(DRG)及び異所性遺伝子発現細胞を用い、Fura2を用いた細胞内Caイメージングを行った。マウス足底内への過酸化水素(H2O2)投与により生じる疼痛行動に対するlimoneneの作用について調べた。【成績】LimoneneはDRGニューロンの一部で濃度依存性に細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)増加反応を引き起こした。その反応は非選択的TRP阻害薬(ruthenium red)、TRPA1阻害薬(A967079、HC-030031)で抑制されたが、TRPV1阻害薬(BCTC)には影響を受けなかった。Limoneneに反応した細胞はTRPA1作動薬(allyl isothiocyanate)にも感受性を示した。Limoneneによる[Ca2+]i増加反応は、TRPV1欠損マウスでは生じたが、TRPA1欠損マウスで見られなかった。H2O2は野生型マウスDRGニューロンにおいて[Ca2+]iを増加させたが、TRPA1欠損マウスDRGニューロンでは引き起こさなかった。H2O2による[Ca2+]i増加反応は、limonene(0.1 mM)前投与により有意に抑制された。足底内へのH2O2投与(2.45 μmol)により、野生型マウスでは疼痛行動が生じ、この反応はlimoneneの腹腔内前投与(15 μmol)により減弱した。【考察】以上の成績から、limoneneはTRPA1の活性化に加えて、恐らく脱感作によりTRPA1を介した疼痛反応に対して抑制作用を示すことが示唆された。Limoneneは安全な天然由来物質であり、H2O2のような酸化ストレス誘発性疼痛を抑制したことから、TRPA1を介する痛みの制御に有効な薬物であると考えられる。
P3-3
内因性カンナビノイドシステム関連遺伝子の発現制御におけるMAPK経路の関与
越智 拓,平田 ゆかり,濱島 誠,中留 真人,磯部 一郎
藤田保健衛生大学医学部法医学講座

内因性カンナビノイドシステム(ECS)は、内因性カンナビノイド(AEA、2-AG)、それらが作用する受容体(CB1、CB2、TRPV1)、内因性カンナビノイドを合成および分解する酵素(NAPE-PLD、PLCβ4、DAGLα、FAAH、MGLL)から構成されるシステムである。このシステムは神経系、循環器系、免疫系組織などに広く存在し、様々な生体機能に影響を与えている。特に中枢神経系において、内因性カンナビノイドはシナプス後膜から遊離し、逆行性に作用することで、神経伝達物質の遊離を抑制することが知られている。このようなシナプスにはグリア細胞も存在しており、ECSを介したシナプスの機能調節に関与していると考えられている。我々は、中枢神経系におけるECS機能を規定する要素の一つとして、ECS関連遺伝子の発現状態に着目し、これに影響を及ぼす因子の探索を進めている。これまでの検討で、ラットグリオーマ細胞株C6において、ウシ胎児血清(FCS)およびホルボールエステル(PMA)により、CB1の発現上昇およびTRPV1の発現低下が誘導されることが示唆された。そこで今回、これらの遺伝子の発現変化をきたすメカニズムとして、MAPK経路の関与について検討を行った。C6を定法に従い培養し、血清除去後、MAPK経路に対する各種阻害剤で前処理した後、FCSあるいはPMAで刺激し、real time PCRにより各遺伝子の相対的定量を行った。FCS等によるCB1の発現上昇は、U0126およびSB203580による前処理により抑制された。このことから、CB1の発現上昇にはMEK-ERK経路、およびp38経路が関与していることが示唆された。さらに、ERK1、2の阻害剤であるFR180204では、CB1の発現変化は抑制されなかったことから、MEK-ERK経路の中でも、MEK5-ERK5経路の関与が特に重要である可能性が考えられた。一方、TRPV1の発現低下は、今回用いたMAPK系阻害剤では抑制されなかった。従って、TRPV1発現低下のメカニズムについては異なる観点から検討する必要があると思われる。
P3-4
PKAシグナル経路はPC12細胞における神経突起の伸長の促進と小胞体ストレス誘導型アポトーシスを抑制する
中川 一馬1,樽谷 和馬1,丸岡 弘規3,下家 浩二1,2
関西大学大学院・理工学研究科1,関西大学・化学生命工学部・生命生物工学科2,倉敷紡績株式会社 技術研究所 生化学グループ3

小胞体(ER)は、生産されたタンパク質のfoldingや糖鎖修飾を行う細胞小器官である。細胞が種々のストレスにさらされると、ER内にunfolded proteinが蓄積し小胞体ストレスが引き起こされる。また、GRP78はERに存在し、小胞体ストレス時にUPR(unfolded protein response)の一つとして発現上昇し、unfolded proteinのrefoldingを行う分子シャペロンとして機能する。小胞体ストレスが過剰な場合、caspase-3の活性化を介して、アポトーシスが引き起こされる。我々は、神経成長因子(NGF)が小胞体ストレス誘導型アポトーシスを抑制すること、その抑制作用はPI3-Kinase(PI3-K)を介した経路が働き、caspase-3の活性化を阻害することが重要であることを報告している。
このアポトーシスを回避し、細胞を生存維持させるために、我々はcAMP産生作用を持つadenylyl cyclase活性化剤forskolinが細胞生存率を上昇させることやforskolin存在下のPC12細胞においては、突起伸長作用が見られることに注目した。そこで、PC12細胞のアポトーシスを抑制しうるGRP78について解析を行った。それぞれLuciferase assayにて、GRP78のプロモーター活性を測定した結果、ラット副腎髄質褐色細胞腫由来PC12細胞(PKA-parent cell)ではforskolin未添加の細胞群に比べ有意なプロモーター活性上昇を確認したが、PC12細胞のPKA欠損株(PKA-deficient cell)ではforskolin未添加の細胞群に比べ有意な差が見られなかった。次に、cAMPを介して活性化するPKA経路について解析を行った。まず、それぞれの細胞にforskolinを添加し、24時間固定後に神経突起伸長度を測定した。PKA-parent cellではforskolin未添加の細胞群に比べると有意な突起の伸長が観察された。一方、PKA-deficient cellではforskolin未添加の細胞群と比較するとforskolin未添加の細胞群と同様であることが観察された。以上から、PKA経路を介してGRP78のプロモーター活性を上昇させる作用を持つことにより細胞を生存維持させることや神経突起伸長を促進させることが示唆された。
P3-5
脳脊髄液モノアミン代謝産物と気質・性格(TCI)との相関
横田 悠季1,3,服部 功太郎1,2,吉田 寿美子3,篠山 大明2,寺石 俊也2,松尾 淳子2,木下 裕紀子2,後藤 雄一1,功刀 浩2
国立精神・神経医療研究センタートランスレーショナル・メディカルセンター1,国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第三部2,国立精神・神経医療研究センター病院3

【目的】気質・性格は、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどのモノアミン伝達物質と関連することが遺伝子解析研究から示唆されている。脳脊髄液(CSF)は血液に比較して脳由来の物質を多く含んでおり、より脳の分子状態をより良く反映していると考えられる。しかし、CSF中のモノアミンとの関連を検討した研究はほとんど見あたらない。そこで我々はCSF中のモノアミン代謝産物の測定を行い、気質・性格との関連を検討した。【対象と方法】国立精神・神経医療研究センターのホームページなどの募集に応じ、研究同意の得られた健常被検者30名(年齢:平均=45.7,±15.47、男17、女13)を対象にした。精神疾患簡易構造化面接法で主要精神疾患を除外し、腰椎穿刺にてCSFを得た。気質・性格の評価は、Cloningerが開発したTCI(Temperament and Character Inventory)を用いて行った。CSF中のドーパミンの代謝産物であるHVA、ノルアドナリンの代謝産物であるMHPG、セロトニンの代謝産物である5-HIAAをSRL社にてHPLCを用いて測定した。本研究は当センター倫理委員会の承認を受けて実施している。【結果】モノアミン代謝産物量とTCIの因子得点の相関分析を行ったところ、報酬依存(RD)得点とHVA、5-HIAAの間に有意な正の相関が見られた(Spearman、r=.517、p=.0034、r=.554 p=.00015)。自己志向(SD)得点とHVA、5-HIAAも有意に正に相関していた(r=.411、p=.024、r=.416 p=.00223)。また、協調性(C)得点と5-HIAAの間に、有意に正の相関が見られた(r=.385、p=.0355)。【結論】これまでドーパミン・トランスポーターやセロトニン5HT2A受容体の遺伝子多型とRDとの関連等が報告されているが、本研究により、脳内のドーパミン、セロトニン放出量とRDがより直接的に相関することが示唆された。RD、SD、C得点といった社会性に関わる項目とモノアミンの代謝産物量との関連が高いことが示唆された。今後例数を増やしたうえ、遺伝子多型解析を同時に行うことで、気質・性格の分子基盤におけるモノアミンの関わり方をより明確に解析したい。また、薬物依存等の精神疾患のリスクファクターになりうるか臨床応用についても検討したい。
P3-6
精神疾患動物モデルにおけるトランスポゾンのDNAメチル化状態の検討
村田 唯1,2,文東 美紀1,窪田 美恵3,笠井 清登2,加藤 忠史3,岩本 和也1
東京大院・医・分子精神医学講座1,東京大院・医・精神医学分野2,理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チーム3

統合失調症では多くの遺伝学的解析が行われてきたが病因、病態は未だ解明されていない。近年、DNAメチル化やヒストン蛋白質の修飾など、ゲノム配列の変化を伴わないエピジェネティックな変化が精神疾患の病因・病態と関連している可能性が提唱されている。また我々は、統合失調症患者死後脳でレトロトランスポゾンLINE-1配列のコピー数が健常者と比べて増大していることを明らかにしている。現在、これらゲノム・エピゲノム変化の分子背景と病因・病態との関係を詳細に明らかにするため、マウスなど動物モデルを用いた検証を進めている。現在広く利用されているPyrosequencing法を用いたヒトLINE-1プロモーターのDNAメチル化測定は、ゲノム全体のメチル化レベルの近似値が得られるだけでなく、測定したプロモーターを持つLINE-1の機能変化に関する情報を得ることができる優れた手法である。しかし、マウスでは、(1)複数のLINE-1サブファミリーが転移活性を保持している、(2)転移活性を持つLINE-1の総数は約3000個と、ヒトの10倍以上と見積もられている、(3)プロモーターにはヒトには見られない約200bpのモノマーの繰り返し構造が認められる、などヒトとの差異が顕著であり、マウスゲノムに適した測定系の確立が必要である。今回、マウスLINE-1の包括的解析の最新の論文(Sookdeo et al, 2013)を基に、合計29種のLINE-1サブファミリーのコンセンサス配列を抽出し、転移活性を保持しているTf_I、Tf_II、A_I、A_II、Gf_I、Gf_II、及びLxタイプのプロモーターを持つ転移活性を失ったサブファミリーに関してDNAメチル化状態測定の系確立を試みた。本会では、予備的検討としてマウス脳組織におけるこれらサブファミリーのメチル化状態について報告したい。