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神経疾患
P3-24
抑肝散はシステムXc-の遺伝子発現増強によりグルタミン酸誘発PC12細胞死を保護する
川上 善治,菅野 仁美,溝口 和臣,五十嵐 康,加瀬 義夫
株式会社ツムラ製品戦略本部ツムラ研究所

【目的】抑肝散は、アルツハイマー病、レビー小体型認知症および脳血管性認知症患者などにおける幻覚、興奮および攻撃性のような認知症の行動及び心理症状(BPSD)を改善する。我々は、これまでに興奮や攻撃性などのBPSD様症状に対する抑肝散の改善効果には脳内興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の神経興奮に対する是正作用が深く関与している可能性、即ちアストロサイトのグルタミン酸トランスポーター機能の改善作用およびグルタミン酸誘発神経細胞死抑制作用を報告している。グルタミン酸神経毒性に関しては、グルタミン酸受容体を介する神経毒性とシスチン/グルタミン酸アンチポーター(システムXc-)を介する2つのメカニズムが提唱されている。今回は、抑肝散のシステムXc-を介したグルタミン酸誘発細胞毒性に対する保護作用について報告する。【方法】初代培養神経細胞はNMDA型グルタミン酸受容体およびシステムXc-の両方を発現しているが、PC12細胞はシステムXc-を特異的に発現している。そこで、本試験ではPC12細胞を用いて抑肝散のシステムXc-を介したグルタミン酸誘発細胞毒性に対する保護作用を検討した。グルタミン酸誘発細胞死はMTT法、総グルタチオン量はグルタチオン還元酵素を用いた酵素リサイクル法、システムXc-サブユニットのxCTと4F2hcの遺伝子発現はリアルタイムRT-PCR法で測定した。【結果】抑肝散はグルタミン酸誘発PC12細胞死を抑制した。同様の保護効果は抑肝散の構成生薬の1つである釣藤鈎、およびその成分であるガイソシジンメチルエーテル、ヒルステイン、ヒルスチンおよびプロシアニジンB1に認められた。これらの成分はxCTと4F2hcの遺伝子発現を増強し、グルタミン酸誘発グルタチオン減少を改善した。【結論】これらの結果から、抑肝散の細胞保護効果は釣藤鈎成分のガイソシジンメチルエーテル、ヒルステイン、ヒルスチンおよびプロシアニジンB1のシステムXc-の遺伝子発現増強に起因している可能性が示唆された。
P3-25
胎生期ニコチン暴露は脳内のドパミン作動性神経機能を低下させる
吉田 あや1,青山 雄紀1,2,榊原 奈美1,宋 由香1,間宮 隆吉1,4,鍋島 俊隆3,4,平松 正行1,4
名城大学薬学部薬品作用学1,名古屋大学大学院医学系研究科医療薬学2,名城大学薬学部地域医療薬局学3,特定非営利活動法人 医薬品適正使用推進機構4

妊娠中の喫煙はその胎児の脳神経細胞の発達を障害し、生育後の認知機能障害や情動機能障害を引き起こすことが知られている。我々の先行研究において、胎生14日目(E14)から出生(P0)までニコチン暴露した母マウスから生まれた仔において衝動性の亢進が見られた。衝動性の亢進は行動制御機能の低下と考えられており、その調節には中脳ドパミン作動性神経系からの前頭皮質へのドパミン入力が重要な役割を果たすことが知られている。そこで本研究では脳内のドパミン作動性神経に対するニコチン暴露の影響について神経化学的に検討した。
ニコチン暴露群には0.2 mg/Lのニコチンを含む2%スクロース溶液を胎生14日目(E14)から出生(P0)まで母マウスに飲水させ、対照群には2%スクロース溶液を同期間に飲水させた。8週齢の雄マウスにおいて胎生期ニコチン暴露による1)前頭皮質におけるドパミンの細胞外基礎遊離量、脱分極性刺激に対する応答性への影響を、脳内微量透析法により評価した。また、2)前頭皮質、側坐核、線条体、腹側被蓋野におけるドパミン作動性神経への影響をチロシン水酸化酵素(TH)を、ドパミン作動性神経細胞のマーカーとして免疫染色法により評価した。
胎生期ニコチン暴露により、前頭皮質における細胞外ドパミン基礎遊離量は対照群と比較して有意に減少したが、神経終末の脱分極性刺激への応答性には変化が見られなかった。TH陽性細胞は対照群と比較して前頭皮質、側坐核、腹側被蓋野において有意に減少したが、線条体においては変化が見られなかった。
以上の結果より、胎生期ニコチン暴露は前頭皮質、側坐核、腹側被蓋野におけるドパミン作動性神経細胞数の減少および前頭皮質での細胞外基礎遊離量の減少を惹起することが明らかとなった。また、我々はこれまでに衝動性の亢進は、ADHD(注意欠如多動性障害)治療薬のアトモキセチン及びメチルフェニデートによって緩解されることを見出している。従って、胎生期ニコチン暴露による衝動性の亢進には、中脳ドパミン作動性神経系の機能低下及び前頭皮質におけるドパミン基礎遊離量の減少が関与していると考えられる。
P3-26
妊娠期高脂肪食は仔マウスの行動に影響する―餌の脂肪酸組成の検討―
山野 眞利子1,仙波 恵美子2,波平 昌一3
大阪府立大学・総合リハビリテーション学部・解剖生理1,大阪行岡医療大学2,(独)産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門、脳機能3

【目的】これまで我々は、妊娠中期以降(6日~出産まで)にラードを主成分とした脂肪エネルギー比率50%の高脂肪食を与えた母から生まれた仔において、オレキシン神経細胞数が増加し、さらに自発運動量も増加することを明らかにしてきた。このことから、自発運動量の増加、すなわち多動に影響するものが妊娠期の高脂肪食であることが示唆され、また多動であることから、ヒトのADHDのモデル動物になる可能性も考えられる。今回は高脂肪食の脂肪酸組成の影響について検討した。飽和脂肪酸を主とした餌(パルミチン酸食、バター食)、一価不飽和脂肪酸を主とした餌(オレイン酸食、オリーブ油食)、飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸を多く含むラード食、多価不飽和脂肪酸を主としたリノール酸食の6種類を用いて、普通食飼料(オリエンタル酵母社:MF/脂質12.8%Kcal)摂餌群と比較した。【方法】ICR妊娠マウスに妊娠6日目から14日目まで上記の6種類の餌をそれぞれ与えた。この期間以外は普通食MFを与えた。それぞれの仔マウスは生後2~4ヶ月にランダムに抽出して、自発行動量測定装置(MDC-WO1、ブレインサイエンス・イデア社製)を用いて約1週間継続して自発運動量を測定した。【結果】全期間普通食を与えた母親から生まれた仔マウスをND群、高脂肪食を与えた母親から生まれた仔マウスをHFD群とする。HFD群についてはパルミチン酸食をP-HFD群、バター餌をB-HFD群、オレイン酸食をO-HFD群、オリーブ油食をOl-HFD群、ラード食をL-HFD群、リノール酸食をLi-HFD群とする。ND群に対しL-HFD群とO-HFD群、Ol-HFD群の自発運動量はとも有意に増加していた。しかしP-HFD群、B-HFD群とLi-HFDの3群はND群と差は認められなかった。【考察】マウスの胎生6日~14日の間に一価不飽和脂肪酸を多く含むラードおよびオレイン酸、オリーブ油を過剰摂取すると、生まれてきた仔の成熟時の自発運動量の増加を引き起こすことが示唆された。脂肪酸の種類により、胎仔の神経系の形成に与える影響が異なると考えられる。
P3-27
脳弓下器官の血管による免疫応答時の物質透過制限
森田 晶子1,中原 一貴1,辰巳 晃子1,奥田 洋明1,蓬莱 敦2,宮田 清司2,和中 明生1
奈良県立医科大学医学部第2解剖学講座1,京都工芸繊維大学2

endotoxin toleranceはendotoxinの前投与によってその後のendotoxinの刺激に対して耐性を示す現象である。この現象は以前からよく知られ、過度の炎症反応に対する防御機構ではないかと予想されるが、そのメカニズムは不明な点が多い。脳は血液脳関門を持つことから免疫特権があり全身の免疫系から隔絶されていると考えられてきた。しかし、脳の中にも一般的な血液脳関門を持たず、血管が有窓性で高い物質透過性を示す「脳室周囲器官」という部位が存在し、全身との液性情報交換により生体恒常性維持を担う。endotoxinを投与すると、その情報は脳室周囲器官を介して脳へ入るといわれている。中でも脳弓下器官はその損傷により、炎症反応を引き起こすリポ多糖(LPS)投与後の発熱反応が低下することから、LPS投与後の免疫応答において重要な役割をもつと考えられている。最近我々は成体マウスの脳室周囲器官において持続的な血管新生が起きていることを見出した。この結果は脳室周囲器官の血管の可塑性が高いことを示唆する。そこで本研究では、LPS投与後脳弓下器官の感知機能が低下することがendotoxin toleranceの機構のひとつであるという仮説の元に研究を進めた。脳弓下器官では、正常状態で細胞増殖マーカーBrdU陽性の血管内皮細胞が多数認められ血管は高い透過性を示す。ところが、成体マウスにLPSを腹腔内投与して免疫応答を誘導すると、BrdU陽性の内皮細胞数が有意に減少し、血管の物質透過性はLPS投与後著しく低下した。原形質小胞1タンパク質(PV-1)は有窓性血管の隔膜に特異的に発現し、血管の物質透過性の指標にもされている。脳弓下器官ではPV-1の高い発現が認められるが、LPS投与後PV-1の発現が有意に低下した。さらに、血小板由来成長因子(PDGF-B)シグナリングは血管の透過性調節に重要であるといわれているが、LPS投与後PDGF-Bの一過性の発現上昇が認められた。以上のことから、脳弓下器官ではLPS投与後血管のリモデリングが生じ、物質透過性が低下することが明らかになった。本研究の結果は、脳弓下器官の血管の物質透過性変化や血管周辺の微小環境変化がendotoxin toleranceの機構のひとつであることを示唆する。
P3-28
methylphenidate徐放剤による治療前後の成人型ADHDのSPECTとCPT
石川 大道1,板垣 俊太郎1,宮下 伯容1,増子 博文1,丹羽 真一2,矢部 博興1
福島県立医科大学神経精神医学講座1,福島県立医科大学会津医療センター2

【目的】注意欠如・多動性障害(ADHD)は、不注意・多動性・衝動性を中核症状とする脳の生物学的機能不全が存在するとされ、様々な視点で研究が行われている。今回、成人ADHDに対して徐放性Methylphenidate(MPH)での治療前後でSingle photon emission computed tomography(SPECT)、Continuous Performance Test(CPT)を用いて比較検討を行った。

【方法】DSM-IVTRによるADHDと診断された成人13名(男7名:女6名 年齢:34.3±8.9歳)を対象とし、精神遅滞は除外した。未服薬の状態で初回のCPTとSPECTを実施し、治療開始後4週間以上の期間をあけて2回目を実施した。徐放性MPH服薬容量は平均22.2mg/日であった。治療前後にConners'Adult ADHD Rating Scales(CAARS)での評価も行った。SPECTはStatistical Parametric Mapping 2(SPM2)、easy Zscore Imaging System(eZIS)を用いて解析した。
尚、対象者には説明の上、書面による同意を得ている。

【結果】徐放性MPHの投与前では、成人ADHD群は対照群に比べて両側下前頭回と右小脳に血流低下部位を認め、両側帯状回・両側頭頂葉内側面・右下頭頂小葉等に血流上昇部位を認めたが、MPH服用下ではそれらの有意差が消失した。
成人ADHD群では左下前頭回の血流とCPT変動係数に負の相関(r=-0.700 p=0.008)、右小脳の血流とCPT反応速度に負の相関(r=-0.5809 p=0.037)を、右下頭頂小葉とCPT変動係数(r=0.5673 p=0.043)、CAARS-S不注意症状尺度(r=0.7147 p=0.006)、CAARS-O不注意症状尺度(r=0.6671 p=0.013)に正の相関を認めた。

【考察】徐放性MPH治療後にSPECT、CPT、CAARSの各パラメータにも改善が認められているが、治療前に正常対照群に比較して血流が上昇している部位を認め、その領域がCAARSやCPTとの相関が認められ、治療後において血流が低下している。
近年、fMRIの研究などで安静時に活動が上昇している領域がDefault Mode Networkとして各種精神疾患との関連が注目されているが、当日はそれらの先行研究の結果も踏まえ、若干の考察を加えて発表する。

【倫理的配慮】本研究は福島県立医科大学の倫理委員会の承認を得ている。
P3-29
ジストニア症状と感覚性ニューロパチーを示す新規遺伝子改変マウスの作製と解析
竹林 浩秀1,堀江 正男1,渡辺 啓介1,荒木 喜美2,佐野 裕美3,知見 聡美3,南部 篤3,小野 勝彦4,池中 一裕5,柿田 明美6,山村 研一2
新潟大・医・神経解剖1,熊本大・生命資源2,生理研・生体システム3,京都府立医・生物4,生理研・分子神経生理5,新潟大・脳研・病理6

dystonia musculorumdtマウス)は、生後の感覚神経の変性とジストニア様の運動症状を示す自然発生変異マウスである。その病態を明らかにするため、原因遺伝子であるDystonin遺伝子のコンディショナル・アリールをもつ遺伝子改変マウスを作製した。Dystoninホモマウスは、出生後2週ほどから特徴的なジストニア様運動症状を示した。この表現型は、dtマウスと同様であった。末梢神経系において、後根神経節が小さく、感覚ニューロンの一部が骨格タンパクのニューロフィラメントの抗体に対して、野生型には見られない強陽性反応を示した。中枢神経系においても、脊髄運動ニューロンの一部がニューロフィラメント強陽性反応を示したほか、ニューロフィラメント陽性の軸索腫大が認められた。X-gal染色によりDystoninタンパクの中枢神経系における発現を観察すると、Dystoninタンパクは大脳基底核、中脳赤核、小脳、橋および延髄網様体や脊髄前角ニューロンなどの運動性領域のみならず、感覚性領域、辺縁系領域など、神経系に広く発現することがわかった。ジストニア症状の発現は、末梢神経系が変性することにより二次的に中枢神経系の細胞に異常が生じる可能性に加えて、中枢神経系の細胞が細胞自律的に異常を生じる可能性も考えられる。
P3-30
脳損傷時におけるCSPGの硫酸基修飾は調節転写因子OASISにより調節される
奥田 洋明,辰巳 晃子,森田 晶子,和中 明生
奈良医大・医・第二解剖

OASIS, (Old Astrocyte Specifically Induced Substance;also referred to as CREB3L1)can play important roles in the endoplasmic reticulum(ER)stress response and ER protein quality control in particular tissues or cells. In the injured brain, OASIS is specifically expressed in reactive astrocytes in the region surrounding an injured area and activates the transcription of target genes such as Bip. Reactive astrocytes, which constitute the major cellular component of glial scars, enmesh a lesion and produce anti-regenerative molecules such as chondroitin sulfate proteoglycans(CSPGs). In this study, we focus on the potential role of OASIS in CSPG production in the adult mouse cerebral cortex. CS-C immunoreactivity, which represents chondroitin sulfate moieties, was significantly attenuated in the stab-injured cortices of OASIS-knockout mice compared to those of wild type mice.The levels of chondroitin 6-O-sulfotransferase 1(C6ST1, one of the major enzymes involved in sulfation of CSPGs)mRNA and protein increased after cortical stab injury of wild type, but not of OASIS-knockout, mice. A C-terminal deletion mutant OASIS overexpressed in rat C6 glioma cells increased C6ST1 transcription by interacting with the first intron region. Next, we examined whether OASIS is a pro- or anti-regenerative transcription factor. Neurite outgrowth of cultured hippocampal neurons was inhibited on culture dishes coated with membrane fractions of EGF-treated astrocytes derived from wild type but not from OASIS-knockout mice. These results suggest that OASIS regulates the transcription of C6ST1 and thereby promotes CSPG sulfation in astrocytes. Through these mechanisms, OASIS may modulate axonal regeneration in the injured cerebral cortex.
P3-31
プラミペキソールはラット線条体へのピロカルピン投与によって誘導されるパーキンソン病様振戦を減弱させる
保田 和哉1,4,安部 博史1,小金丸 剛1,蛯原 功介1,池田 哲也2,松尾 寿栄1,倉増 亜紀1,船橋 英樹1,武田 龍一郎3,有森 和彦4,石田 康1
宮崎大学医学部臨床神経科学講座精神医学分野1,宮崎大学医学部解剖学講座神経生物学分野2,宮崎大学安全衛生保健センター3,宮崎大学医学部附属病院薬剤部4

Pramipexole is a dopamine D2 and D3 receptor agonist and widely prescribed for Parkinson's disease. Pramipexole has a higher affinity for D3 over D2 receptors. The role of D3 receptors has recently been focused as a possible mediator of movement disorders. Therefore, we compared the effect of pramipexole to apomorphine, a non-specific dopamine receptor agonist, on suppression of"tremulous jaw movements(TJMs)"model in rodents, to elucidate the effect of D3 receptor activation in parkinsonian tremor. The TJMs were induced by the micro-infusion of pilocarpine into the ventrolateral neostriatum(VLS)and ameliorated effects of intraperitoneal injection of pramipexole or apomorphine were examined. All experiments were conducted in accordance with the regulations of the ethical committee of animal experimentation at the University of Miyazaki. We used adult male Sprague-Dawley rats. Guide cannulae were fixed into the bilateral VLS before behavioral experiments. In experiment 1, rats received intraperitoneal administration of either apomorphine(0.25, 1.0, 4.0 mg/kg)or vehicle immediately before the infusion of pilocarpine(100 μg/1 μL/side)into the VLS via guide cannulae. The number of rapid vertical deflections of the lower jaw movement was counted for 20 min, beginning from 10 min after pilocarpine treatment. In experiment 2, either pramipexole(0.25, 1.0, 4.0 mg/kg)or vehicle was intraperitoneally administered, followed immediately with infusion of pilocarpine into the VLS, and the number of TJMs was counted. Pramipexole(1.0 and 4.0 mg/kg)and apomorphine(4.0 mg/kg)significantly reduced the number of TJMs. These findings suggest that activation of D3 receptors would play important roles in the suppression of parkinsonian tremor.
P3-32
性自認・性指向が顔形態への選好性に与える影響
土居 裕和1,木村 真優子1,5,石丸 径一郎2,3,松本 高明4,針間 克己2,篠原 一之1
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科神経機能学分野1,はりまメンタルクリニック2,東京大学大学院教育学研究科3,国士舘大学大学院スポーツ・システム研究科4,国士舘大学ウェルネス・リサーチセンター5

 性別違和のない成人男女を対象とした先行研究から、顔・身体の形態的特徴に対する選好性は、脳性分化・性ホルモンの影響を反映して変化することが明らかにされている。一方、性自認・性指向と脳性分化・内分泌機能との関連性が多くの研究により示唆されている。以上を踏まえると、他者の顔形態特徴に対する選好性は、性自認・性指向により影響を受ける可能性が考えられる。本研究では、同仮説の妥当性を検証するため、性別違和のない同性・異性愛女性とFTM(Female-to-Male;生物学的には女性だが、男性としての性自認を有する)における顔形態特徴に対する選好パターンを、行動学的検査により客観的に評価した。本研究は、長崎大学倫理委員会の承認を経て、研究参加者本人から書面によるインフォームドコンセントを得た上で実施した。研究1では、生物学的同性を性的対象とするFTMと性別違和のない異性愛女性を対象に、顔形態特徴に対する選好性を比較した。その結果、FTMは性別違和のない女性に比べ、幼児的特徴をもった顔形態に対し、有意に強い選好性を示すことが明らかになった。研究2では、性別違和のない異性愛・同性愛女性間で顔形態特徴への選好性を比較した。その結果、同性愛女性は、異性愛女性に比べ、幼児的特徴を有する顔形態に強い選好性を示したが、そのパターンの詳細はFTMとは異なっていた。また同性愛女性は、異性愛女性に比べ、女性的特徴を顕著に呈する顔形態に強い選好を示した。以上の結果は、性自認・性指向が、半ば独立に顔形態特徴に対する選好性に影響を与えることを示唆している。