TOPポスター発表
 
方法論・イメージング法
P3-65
ヒト血中におけるストレス応答バイオマーカーの探索
常石 和瑚1,馬渕 亮史1,鈴木 圭祐1,佐藤 俊哉2,蛭田 啓之2,黒木 宣夫2,増尾 好則1
東邦大学大学院理学研究科生物学専攻神経科学研究室1,東邦大学医療センター佐倉病院2

【目 的】最近我々は、ストレスによって実験動物の脳内と血中の双方で発現変化するストレス応答バイオマーカー(ストレスマーカー)候補遺伝子群を複数見出した。本研究では、ストレスからうつ病発症に至る過程で発現変化するストレスマーカーを見出すことを目的とし、ヒト血液におけるストレスマーカー候補遺伝子群の検証を行った。
【方 法】東邦大学医療センター佐倉病院の医療従事者140人(男性19人、女性121人)から採血を行った(東邦大学医学部倫理委員会承認済)。また、個人のストレス度を問診票によって評価した。凍結保存させたヒト血液(全血)からRNAを抽出した後、RT-PCR法を用い、ストレスマーカー候補遺伝子群の発現量を解析した。被験者に対して行われた問診票によるストレス度調査の結果によって、高ストレス者と低ストレス者の2群に分け、ストレスマーカー候補遺伝子群の発現量との相関を調べた。
【結 果・考 察】ハウスキーピング遺伝子であるβ-actinの発現量は、高ストレス者と低ストレス者の間で有意な差が認められなかった。Brain-derived neurotrophic factor(BDNF)発現レベルは有意な変化を示さなかったが、高ストレス者では低ストレス者に比し、減少傾向が認められた。高ストレス者のmitogen-activated protein kinase phosphatase 1(MKP-1)発現量は低ストレス者と比べ、有意に高かった。また、白血球数において低ストレス者と高ストレス者の間で有意な差は認められなかった。MKP-1はヒト血中においてストレスマーカーになり得る可能性が示唆された。BDNFはうつ病によって発現が低下することが報告されているが、本研究の結果から、未病段階においても低下傾向を示すことが示唆された。また、各遺伝子は白血球数に非依存的に変化することが示唆された。本研究は、ストレスレベルの客観的評価を可能にし、うつ病の早期発見に資するものである。
P3-66
AMPA受容体サブユニットGluR2発現減少を介した神経毒性候補物質の探索
杉山 千尋,古武 弥一郎,津山 由美,奥田 勝博,太田 茂
広島大学大学院医歯薬保健学研究科

【目的】従来の神経毒性試験は大量の動物を用いたin vivo試験が主流である。神経毒性の有無で変動する生体内物質があれば、それを指標としたin vitro試験系を構築しin vivo試験の前段階で使用することで、効率的に探索が行えると期待される。当研究室ではAMPA受容体サブユニットGluR2の発現減少が神経脆弱化を惹起すること、数種の環境化学物質で神経細胞のGluR2発現が減少することを明らかにしている。そこで、GluR2を指標物質としたin vitroスクリーニング試験を構築する目的で、ELISAをより簡便化した手法であるAlphaLISAを利用した新規GluR2発現簡便評価系の構築を行った。また、本測定系で新たに見出したGluR2発現減少物質を曝露した場合の神経脆弱化について検討した。

【方法】AlphaLISAを用いたGluR2発現測定系を構築し、現段階のGluR2定量法であるwestern blotting(WB)との比較検討を行った。本評価系を利用してGluR2発現をスクリーニング評価することでGluR2発現減少を惹起する新規環境化学物質を探索した。サンプルとして、細胞死を起こさない低濃度の環境化学物質を9日間曝露したラット胎仔由来大脳皮質初代培養神経細胞の可溶化液を用いた。

【結果・考察】各種条件検討後、現在のGluR2発現測定系であるWBと比較検討したところ正の相関が得られたことから、WBの代用となる評価系として、新規GluR2発現測定系となる本評価系が利用できることを確認した。本評価系を用いて環境化学物質をスクリーニング評価したところ、新規GluR2発現減少物質として、ネオニコチノイド系農薬の一種であるアセタミプリドを見出した。そこでアセタミプリドを神経細胞に低濃度・長期曝露したところ、単独では細胞死を起こさなかったが、グルタミン酸で神経細胞を刺激した条件下では有意な細胞死が確認された。以上より、アセタミプリドは「神経細胞が死にやすくなっている」状態を引き起こしており、そのメカニズムにGluR2発現減少が関与している可能性が示唆された。
P3-67
大脳皮質ニューロンの不活性化はc-Mycのリン酸化を促進する
太等 恵里1,一坂 吏志1,國石 洋2,松田 紗衣2,加東 舞子1,原田 里穂1,畠 義郎2
鳥取大・医・生命・神経生物1,鳥取大・院・医・生体高次機能2

The proto-oncogene c-Myc is well-known to regulate not only cell cycle, but also cell growth, differentiation, and apoptosis as a transcription factor in many tissues including brain. However it is not determined yet whether neuronal activity regulates c-Myc activation. In this study, we examined the effect of neuronal inactivation on phosphorylation of c-Myc by infusing muscimol(GABAA receptor agonist)into the rat visual cortex using osmotic minipump. We found that neuronal inactivation induces phosphorylation of c-Myc(Thr58/Ser62)in the brain. This finding suggests that activity of c-Myc might be regulated by neuronal activity in the brain.
P3-68
ラットの社会行動および物体探索行動の3次元ビデオ行動解析システム
松本 惇平1,上原 隆2,浦川 将1,高村 雄策1,住吉 太幹3,鈴木 道雄4,小野 武年1,西条 寿夫1
富山大学大学院 医学薬学研究部 システム情動科学講座1,金沢医科大学 医学部 精神神経科学2,国立精神・神経医療研究センター 臨床研究推進部3,富山大学大学院 医学薬学研究部 神経精神医学講座4

 多くの研究で社会行動試験や新規物体探索試験を用いてラットやマウスの脳機能が調べられている。こうした研究では、しばしばコンピュータによるビデオ解析が用いられる。従来のビデオ解析では2次元のビデオを天井から撮影し、背景と動物の色のコントラストによって動物の輪郭を抽出し、行動が自動的に認識する。これらのシステムでは社会行動において動物同士が重なった時や、物体探索において動物が物体の上に乗った場合などに正しく認識できない問題があった。また動物の姿勢や移動を3次元的に解析できなかった。そこで我々は3次元ビデオ映像を用いたラットの行動解析システムを開発した。本システムでは、まず4台の距離カメラで撮影された映像が統合され、3次元映像が再構築される。次にラットの骨格モデルを3次元映像にフィッティングすることで、ラットの頭部、頸部、胴体、腰部の位置が推定される。最後にこれらの体部位位置とその時間変化から行動が認識される。我々はこれまで本システムでオスラットの性行動におけるAM-251(カンナビノイド受容体アンタゴニスト)の効果と新規物体探索試験におけるMK-801(NMDA受容体アンタゴニスト)の効果を解析した。性行動は動物が頻繁に重なるため従来の2次元システムでは解析が困難であり、コンピュータによる解析は報告されていなかった。性行動の解析の結果、AM-251によって性行動中の行動パターンが変化し、性行動前に待機している時の胴体の高さが低下することなどが明らかになった。胴体の高さの低下はラットが座って休んでいることを反映していると考えられる。これらの行動の変化は性機能の指標とされる射精に達するまでのイントロミッション(ペニスの挿入)回数と相関していた。また、物体探索試験の解析では、探索初期において物体の下部を探索する傾向が見つかり、MK-801がこの傾向を強めることが明らかになった。下部から上部へ物体の探索が移る傾向は、新奇性恐怖や空間のレイアウトの学習から物体の学習への遷移を反映している可能性がある。
 以上の結果は、3次元ビデオ解析により行動の詳細な解析が可能になり、薬物の作用を理解する上で有用であることを示唆する。
P3-69
At-risk mental stateにおける大脳皮質厚の変化
笹林 大樹1,高柳 陽一郎1,佐久間 篤3,片桐 直之2,中村 美保子1,高橋 努1,古市 厚志1,木戸 幹雄1,西川 祐美子1,松本 和紀3,水野 雅文2,鈴木 道雄1
富山大・医・神経精神1,東邦大・医・精神神経2,東北大・医・精神3

【背景】
統合失調症患者では側頭葉領域を含む大脳皮質厚の減少が報告されているが、精神病発症リスクの高いat-risk mental state(ARMS)群において大脳皮質厚を検討した研究は比較的少ない。
【方法】
本研究は3施設(東北大学、東邦大学、富山大学)における多施設共同研究である。75名のARMS群、43名の健常対照群において、1.5Tスキャナを用いて全脳3次元撮像を行った。ARMS群は臨床的追跡により1年以内に精神病性障害へ移行した発症群および非発症群に分類した。Free Surferを用いて全脳領域の大脳皮質厚を計測し、群間の比較を行った。用いられたスキャナの違いを含む交絡因子は一般線形モデルにおいて調整した。本研究はヘルシンキ宣言に基づき、各施設の倫理委員会の承認を得たうえで、すべての対象者に目的と方法を説明し文章での同意を得て行われた。
【結果】
75名のARMS群のうち、15名が後に精神病性障害を発症した。健常者群と比較して、ARMS群は両側海馬傍回、両側紡錘状回、両側側頭極、右島皮質、外側眼窩前頭皮質において有意な皮質の菲薄化を認めた。またARMS群は健常者群に比べて、後頭葉領域において皮質の肥厚を認めた。精神病発症群と精神病非発症群間で皮質厚において有意な違いは認められなかった。
【結論】
ARMS群において前頭-側頭-辺縁系領域に有意な大脳皮質厚の菲薄化を認め、これらの変化は精神病への脆弱性に関連する可能性がある。ARMS群における転帰(後の発症)と脳形態の関連については、さらに多数例での検討が必要と思われた。