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シンポジウム4
オルガネラ機能破綻と神経難病
S4-1
ATF6alphaの欠損は脳虚血後のアストロサイト活性化を抑制し、神経細胞死を増大させる
堀 修1,吉川 陽文2,上出 智也2,森 和俊3,高橋 良輔4,松山 知弘5,北尾 康子1
金沢大学・院・医・神経分子標的学1,金沢大学・院・医・脳外科学2,京都大学・院・理・生物物理学3,京都大学・院・医・神経内科4,兵庫医科大学・先端医学研究所5

To dissect the role of endoplasmic reticulum(ER)stress and unfolded protein response(UPR)after brain ischemia, we investigated the relevance of ATF6α, a master transcriptional factor in the UPR, after permanent middle cerebral artery occlusion(MCAO)in mice. Enhanced level of expression of GRP78, a downstream molecule of ATF6α, was observed both in neurons and glial cells in the peri-ischemic region of the wild-type mice after MCAO. Analysis using wild-type and ATF6α-/- mice revealed larger infarct volume and increased cell death in the peri-ischemic region of ATF6α-/- mice at day5 after MCAO. These phenotypes in ATF6α-/- mice were associated with reduced levels of astroglial activation/glial scar formation and spread of tissue damage into non-ischemic region after MCAO. Further analysis revealed that signal transducer and activator of transcription 3(STAT3)-Glial fibrillary acidic protein(GFAP)signaling was diminished in ATF6α-/- astrocytes. A chemical chaperone 4-phenylbutyrate(4-PBA)restored STAT3-GFAP signaling, while ER stressors, such as tunicamycin and thapsigargin, almost completely abolished it in cultured astrocytes. These results suggest that the ER environments determine the activating status of STAT3 pathway and astroglial activation after brain ischemia.
S4-2
パーキンソン病モデルメダカにおけるミトコンドリア異常
高橋 良輔
京都大院・医・臨床神経

パーキンソン病(PD)はアルツハイマー病に次いで多い、運動障害を主体とする神経変性疾患で、黒質ドパミン神経の選択的変性とLewy小体と呼ばれるアルファシヌクレインから成る蛋白性の凝集体を病理学的特徴とする。家族性PDはPD全体の5-10%と占めるにすぎないが、PDにおける神経変性の分子メカニズムを探る上で格好のツールとなる。常染色体劣性家族性PDであるPARK2、PARK6の病因遺伝子はそれぞれ、ユビキチンリガーゼのParkinとミトコンドリアの蛋白質キナーゼであるPINK1である。ParkinとPINK1はショウジョウバエではミトコンドリアの形態変化に、哺乳類では傷害ミトコンドリアのオートファジーによるクリアランス(Mitophagy)に必須の分子と考えられている。我々はメダカで家族性PD遺伝子をノックアウト(KO)することで、PDモデル作製を行った。ParkinとPINK1をKOしたメダカはそれぞれ目立った表現型を示さなかったが、ParkinとPINK1の2重KOメダカはPDの表現型を示した。年齢依存的に運動機能が低下し、黒質ドパミン神経が変性脱落した。さらにミトコンドリア形態異常と機能低下も観察された。これに一致して、ParkinまたはPINK1単独欠損MEFではミトコンドリア複合体1活性および膜電位が低下するが、Parkin-KOマウスのMEFでPINK1をノックダウンすると、さらにこれらのミトコンドリア機能が低下した。さらにParkin欠損MEFのミトコンドリア機能低下の表現型は、ヒトPINK1の野生型の過剰発現で回復したが、疾患関連変異では回復しなかった。以上より、ParkinとPINK1はMitopahgy制御とは別の機能として、ミトコンドリア機能維持にも必須であり、相補的に働いていることが推察された。
S4-3
新しく発見したオートファジー機構によるオルガネラ分解
清水 重臣
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 病態細胞生物

オートファジーは、リソソームを利用し、自己構成成分を大規模に分解する細胞機能である。この細胞機能は、栄養飢餓や様々な細胞ストレスによって活性化し、新陳代謝、細胞のストレス応答(外的環境変化に適応する為に、不要となった蛋白質を消化する)、細胞浄化(細胞内病的構造物の除去)などに貢献している。この機能は、生体の営みの基盤となっている為、その破綻は神経変性疾患や発癌、炎症性腸疾患等の発症原因となりうる。哺乳類におけるオートファジーの実行機構は、酵母を用いた遺伝学を敷衍する形で進められ、これまでに30余のオートファジー関連遺伝子が同定されてきた。特に、Atg5、Atg7、LC3などの分子は、オートファジーの実行に決定的な役割を果たしていると考えられてきた。しかしながら、最近我々は、Atg5やAtg7に依存しない新たなオートファジー機構の存在を発見し(Nature 2009)、その生命における役割を明らかにしつつある。このオートファジー機構は、赤血球のミトコンドリア等のオルガネラ分解に関わっている他、ポリグルタミン蛋白質の分解にも貢献できる。本講演では、新たなオートファジー機構によるオルガネラ分解に関して最新の知見を交えて議論したい。
S4-4
細胞核内でのタンパク質分解経路とポリグルタミン病
岩田 淳1,2
科学技術振興機構・さきがけ1,東京大学医学部附属病院神経内科2

 ポリグルタミン病では伸長したグルタミン鎖が含むタンパク質全体の構造が不安定となることで正常な構造を取れずに凝集ポリグルタミン・タンパク質となり、それらが細胞内に蓄積する事が病態の一端となっていることが想定される。ポリグルタミン凝集タンパク質は細胞核内に存在するとその毒性がより強く発揮されること、細胞質から細胞核内へのポリグルタミン凝集タンパク質の移行を阻害する事でモデル動物での病態が改善する事から、細胞核内でのポリグルタミン・タンパク質の分解のダイナミクスを詳細に解析することは病態理解のために重要と考える。
 細胞質ではユビキチン・プロテアソーム系(UPS)をオートファジー・ライソゾーム系が補完する事で凝集タンパク質の蓄積を抑制しているが、細胞核内ではオートファジーは機能しない(Iwata, PNAS, 2005)。一方で細胞核内におけるUPSについての知見はほとんどなかった。このため、我々は、細胞核内のUPSの働きに注目し、ユビキチンリガーゼUHRF2がポリグルタミン凝集タンパク質の認識と分解促進を行っていることを見いだした(Iwata, JBC, 2009)。
 一方で、細胞質に存在するポリグルタミン・タンパク質は細胞核内におけるUPSの機能を、細胞核に存在するポリグルタミン・タンパク質は細胞質におけるUPSの機能を互いに、かつ間接的に抑制していることが知られていたが(Bennett, Mol Cell, 2005)、その詳細なメカニズムは不明であった。今回我々は、細胞核内のポリグルタミン凝集タンパク質がヒストン脱アセチル化タンパク質HDAC3の機能抑制を通じて細胞質のUPSの機能を抑制していることを見いだした(Mano, under review)。
 このように、細胞質と細胞核の間の凝集タンパク質の分解能力のバランスとUPSの機能は密接に関わっていることが想定される。これらの全貌が明らかになることは疾患の病態理解を超えて生物学的なオルガネラとしての細胞核の機能解明に役立つと考える。
S4-5
ニューロンの1次繊毛と精神神経疾患
三好 耕1,2,松崎 伸介1,2,3,片山 泰一1
大阪大学大学院・連合小児発達学研究科・分子生物遺伝学1,大阪大学大学院・連合小児発達学研究科・子どものこころの分子統御機構研究センター2,大阪大学大学院・医学系研究科・神経機能形態学3

ほとんどの脊椎動物細胞が1本持つ不動性の繊毛(1次繊毛、primary cilia)は、長らく痕跡的なオルガネラと見なされていた。近年の研究により、1次繊毛が細胞外環境の化学的・機械的刺激を感知してそのシグナルを細胞体に伝達する「細胞のアンテナ」であることが明らかになった。また、ヒトの繊毛関連遺伝子の変異がBardet-Biedl syndrome、Joubert syndromeといった腎、網膜、認知機能などの異常を特徴とする「繊毛疾患(ciliopathy)」を惹起することが示された。齧歯類の神経系においては、1次繊毛を介したヘッジホッグの作用が発生期に重要であること、成獣の脳内で幾つかのGタンパク共役型受容体がadenylyl cyclase3型と共にニューロンの1次繊毛に局在することが報告されている。後者はニューロンの1次繊毛が繊毛内のGタンパク/cAMP系を介して非シナプス性の神経伝達を担い得ることを示唆する知見である。
我々は1次繊毛の機能異常が精神神経疾患の病態に関与する可能性について検討する過程で、以下の興味深い知見を得た。(1)気分安定薬である炭酸リチウムのマウスへの連続投与により、線条体や側坐核のニューロンの1次繊毛が伸長した。また塩化リチウムの添加により、NIH3T3細胞やラット線条体由来初代培養ニューロンの1次繊毛が伸長した。(2)黒質から線条体に投射するdopamineニューロンを片側だけ変性させた片側パーキンソン病モデルラットにおいて、傷害側の線条体ニューロンの伸長を認めた。この伸長はdopamine2型受容体アゴニストbromocriptineの連続投与により抑制されたことから、dopamine2型受容体へのinputの欠如が線条体ニューロンの伸長を惹起することが示唆された。