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シンポジウム25
神経ペプチドと摂食・エネルギー代謝
S25-1
様々な生物種のオーファンGPCRを起点とする新しい摂食調節ペプチドの探索
児島 将康
久留米大学分子生命科学研究所遺伝情報研究部門

 ほ乳類から、線虫やショウジョウバエなどのモデル生物まで、その生体内にはリガンド不明なオーファン受容体が数多く存在する。申請者らはこれまでほ乳類において、いくつかの新規の生理活性ペプチドを発見してきた。1999年に胃から発見したグレリンは、摂食行動をコントロールする生理活性ペプチドである。申請者らは最近、ショウジョウバエにおいて新規の生理活性ペプチドを3群5種類発見した。そのうちCCHamide-1は、ほ乳類摂食抑制性ペプチドのボンベシン様受容体タイプ3(BRS3、リガンドは現在まだ不明)に類似したショウジョウバエ受容体の内因性リガンドであり、摂食抑制性のペプチドではないかと考えられる。ここではオーファン受容体をターゲットにした新規生理活性ペプチドの探索法とその展開について話していく。
S25-2
MCH受容体阻害剤によるエネルギー代謝調節研究
長崎 弘,小谷 侑,金子 葉子,中島 昭,太田 明
藤田保健衛生大学医学部生理学講座Ⅰ

メラニン凝集ホルモン(MCH)系は中枢神経系においてエネルギー代謝、報酬、不安など多彩な情動、行動調節に関与する。視床下部外側野に位置するMCHニューロンは、大脳の広範囲な領域に投射している。そのレセプターであるMCH1Rもまた、対応する広汎な領域に発現がある。末梢においてMCH1Rは膵島、消化管、迷走神経節に存在し、それぞれ細胞増殖や、免疫応答、エネルギー代謝に関与する。多くの知見が集積しつつあるものの、MCH系についての包括的な理解には未だ至っていない。一般に未知のペプチド研究のツールとして遺伝子改変動物が用いられるが、生体の代償機構により解釈を誤る危険がある。一方、阻害剤研究は、in vitro、in vivoどちらにも適用され、実験期間も自在に設定可能である。我々は数百万の化合物を含むコンビナトリアルライブラリーについて、細胞基盤アッセイによるスクリーニングを行ない、MCH1R特異的阻害剤、TPI1361-17を同定した。この化合物は血液脳関門を通過しないが、げっ歯類において末梢投与が中枢投与よりも、強力な摂食抑制効果を示した。食餌誘発肥満マウスへの長期間腹腔内投与で有意な体重及び摂食量減少効果を示すことと併せて、エネルギー代謝調節におけるMCHの作用点が中枢だけではないことが示唆される。また、報酬系の中枢である即坐核被殻においてMCH1Rはドーパミン受容体と共存しているが、TPI1361-17の中枢投与は、コカイン自己投与行動、コカイン探索行動の再発を抑制する。今後、このような阻害剤による研究が、MCH系の生理機能の理解だけでなく、肥満関連疾患や薬物依存などの臨床にも貢献することが期待される。
S25-3
ニューロメジンU関連ペプチドの新規生理機能の解析
花田 礼子
京都大学大学院医学研究科 メディカルイノベーションセンター

 ニューロメジンU(NMU)は1985年に平滑筋収縮アッセイにより豚の脊髄から単離された生理活性ペプチドであり、2000年に2種類のNMU受容体が同定されたのを機に生理機能の解析が進められている。我々はNMU遺伝子欠損マウスを用いた解析により、NMUが摂食・エネルギー代謝調節に関与し抗肥満作用を有すること、自律神経系の調節、中枢性骨量調節、サーカディアンリズムの調節ならびに炎症反応の制御に関与する事を見いだしてきた。さらに2005年にはNMU受容体の新たな内因性リガンド・ニューロメジンS(NMS)が同定され、現在さらにこれらNMU関連ペプチドの新たな生理機能の解析を進めている。NMUシステムの抗肥満作用に関しては、全身発現型NMUトランスジェニックマウスにおける体重減少作用が報告されており、また当初中枢神経系を介する作用による抗肥満作用と考えられていたNMUが、末梢投与においても抗肥満作用を有する事が報告されたことから、現在ではNMUシステムは抗肥満の創薬ターゲットとして期待されている。これらの知見をもとに、我々は、hydrodynamic法を用いて肝臓にNMUを高発現させたところ、コントロールマウスに比べ、有意に体重が減少する事を確認した。一方で、両グループ間で摂食量に変化は認められないことから、末梢におけるNMUの新たな作用機序の存在が示唆され、現在詳細な解析を行なっている。さらにNMUシステムと炎症作用との関連について、肥満関連疾患の中でも炎症作用が強く関与しているといわれている非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に着目して解析を行なった。食事誘導性NASHモデルマウスの肝臓組織においては、本来マウスの肝臓組織にて発現を認めないNMUならびにNMU受容体1(NMUR1)の強い発現が認められた。また、NASHモデルマウスの肝臓の免疫組織染色にて、マクロファージがNMUの主な産生細胞であることを見いだした。これらの結果より、活性化マクロファージから分泌されたNMUがNASHの病態機構に何らかの役割を担っている可能性が示唆された。本講演では、NMU関連ペプチドと「エネルギー代謝ならびにその関連疾患」における新たな側面に焦点をあて、現在解析している知見について紹介する。
S25-4
視床下部で発見した小タンパク質によるエネルギー代謝制御機構
浮穴 和義
広島大学大学院総合科学研究科行動科学講座

我々は、鳥類の摂食調節機構に着目し、新規の摂食調節因子の探索を試みた。その過程で、ニワトリの視床下部に特異的に発現する新規遺伝子を発見した。この新規遺伝子は、80アミノ酸残基からなる分泌性の小タンパク質をコードすると推測しており、この小タンパク質をC末端配列に因み、neurosecretory protein GL(NPGL)と名付けた。さらに、ホモログ遺伝子がヒトやラットを含めた脊椎動物に広く存在していることを見出している。当初、摂食行動に着目してラットを用い機能解析を行ったが、顕著な影響は認められなかった。そこで、NPGLの脳室内慢性投与及びNPGL遺伝子の視床下部内での過剰発現を行い、生じる表現型を解析した。その結果、どちらの解析でも脂肪蓄積促進効果が認められた。この脂肪蓄積効果のメカニズムを解明するために、白色脂肪組織、褐色脂肪組織、肝臓での脂質代謝関連遺伝子のmRNA発現解析を行った。さらに、褐色脂肪組織中のノルアドレナリン含量、熱産生に関わるUCP-1の発現解析、脂肪滴の形態解析を行った。また、呼吸代謝を測定した。これらの解析から、NPGLは次の現象を引き起こすことで脂肪蓄積を促進させることが明らかとなった。1)脂質合成の亢進、2)交感神経の抑制を介した熱産生の低下、3)脂質消費の減少、である。これらの結果から、NPGLはエネルギー代謝調節因子として機能していることが示唆された。