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若手道場(大学院生口演、若手研究者口演)
神経細胞死、アポトーシス たんぱく質・核酸分解、分子シャペロン
1F-道場1-1
ATP誘発性神経細胞死に対するP2X7受容体の発現量の影響 Expression level of P2X7 receptor is a determinant of ATP-induced death of mouse cultured neurons
大石 晃弘,毛野 祐花,丸宮 彩香,須藤 悠悟,西田 健太朗,長澤 一樹
京都薬科大学衛生化学分野

【目的】Death receptorとして知られるP2X7受容体(P2X7R)は神経細胞に発現し、高濃度のATP暴露によるその活性化は細胞死を惹起する。しかし、神経細胞のATP感受性とP2X7Rとの関係は不明である。本研究において我々は、SJL及びddY系マウス大脳皮質由来初代培養神経細胞系、アストロサイトとの共培養系及びマウスP2X7R強制発現細胞株を用いて、高濃度のATPに暴露した際の神経細胞の生存率に対するP2X7R発現量の影響について検討した。【方法】神経細胞生存率はMAP2陽性細胞数を生細胞数として計数することにより評価した。P2X7Rのタンパク質発現は免疫細胞染色法及びWestern blotにより、P2X7R splice variantsのmRNA発現量はreal-time PCRにより解析した。マウスP2X7R強制発現細胞株はpcDNA3.1/mP2X7RをHEK293T細胞に導入し、ゼオシンにて選択を行い、安定発現細胞株を得た。P2X7R強制発現細胞株を用いた検討での細胞生存率はMTT assayにより評価した。【結果・考察】SJL及びddY系神経細胞を5 mM ATP処理することにより細胞死が惹起され、それはP2X7R特異的アンタゴニストの同時処理によって抑制された。SJL及びddY系神経細胞において、ATP誘発性神経細胞死はミトコンドリア膜透過性遷移孔阻害剤であるシクロスポリンA処理により阻害されたことから、この神経細胞死へのミトコンドリア機能異常の関与が示唆された。ATP誘発性神経細胞死の程度はSJL系神経細胞の方がddY系の場合よりも有意に高く、その程度はそれぞれのP2X7Rタンパク質発現量と相関しており、マウスP2X7R発現細胞株を用いた検討でも同様の傾向が認められた。神経細胞とアストロサイトとの共培養系においても5 mM ATP処理は神経細胞死を惹起したが、その程度は神経細胞純培養系の場合より高かった。以上の結果より、ATPに対する神経細胞の脆弱性はP2X7Rの発現量に依存すること、そしてその際に共存するアストロサイトは神経細胞死を増悪させることが示された。
1F-道場1-2
アストロサイトの細胞老化における小胞体膜貫通型転写因子OASISの働き
浅田 梨絵,崔 旻,今泉 和則
広島大学大学院医歯薬保健学研究院分子細胞情報学

細胞老化はテロメアの縮小や活性酸素などによるDNA損傷に起因しており、異常を持った細胞の増殖を防ぐ癌抑制機構である。しかし一方で、老化細胞では炎症性サイトカインや細胞外マトリックス分解酵素の発現・分泌が亢進し、神経系疾患の発症の一因となる可能性が指摘されている。このように、細胞老化は個体老化に伴って生じる疾患の分子機構を理解する上で重要な現象である。我々が同定した小胞体ストレストランスデューサーOASISは、アストロサイトの細胞老化に伴って発現が転写レベルで増加する膜貫通型転写因子である。OASISタンパク質の特徴は小胞体ストレスに応答して膜内切断を受け、N末断片が核内へ移行して標的遺伝子の転写を誘導するところにある。本研究では、アストロサイトの細胞老化におけるOASISの働きについて解析した。ドキソルビシン(Doxo)など一部の抗癌剤は、はDNA損傷を起こし細胞老化を誘導する。アストロサイトにDoxoを処理すると、細胞老化マーカーである酸性βガラクトシダーゼ活性が亢進した。その際、Doxo処理後12時間からOASISが転写レベルで発現上昇した。一方、BipやXbp1スプライスドフォームなど小胞体ストレスマーカーの発現量に変化は無かったことから、OASISの発現は細胞老化の過程で起こるDNA損傷に依存している可能性が示唆された。DNA損傷時には、DNA修復を行うためにATR、ATM、CHK1、CHK2が活性化して細胞増殖を一時的に停止させる。各種阻害剤により、これらの機能を抑制することでOASISの上流分子の同定を試みた。その結果、ATMを阻害したときのみDNA損傷依存的なOASISの転写誘導が抑制された。また、OASISの標的遺伝子である細胞周期抑制因子p21の発現も同様に抑制された。従って、ATMの下流でOASISが発現上昇し、p21の転写を誘導することで細胞増殖を停止させることが明らかとなった。次に、OASIS欠損アストロサイトにDoxoを処理した際のDNA損傷応答を調べた。DNA損傷応答に関わる分子群の活性化が極めて亢進したことから、ATM-OASIS経路はDNA修復に重要な役割を担っていることがわかった。以上より、アストロサイトにおけるDNA損傷によって生じる細胞老化の際に、OASISはP21の転写を促進して細胞増殖を停止させるとともにDNA修復にも働くことが明らかとなった。