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一般(口演)
神経免疫、神経内分泌、栄養因子、サイトカイン たんぱく質・核酸分解、分子シャペロン
2B-一般2-1
うつ病における脳脊髄液fibrinogen亢進:精神疾患384症例を用いた検証
服部 功太郎1,2,太田 深秀1,篠山 大明1,宮川 友子2,横田 悠季2,松村 亮2,吉田 寿美子2,功刀 浩1
1国立精神・神経医療研究センター・神経研究所・疾病三部,2国立精神・神経医療研究センター・メディカル・ゲノムセンター

【目的】うつ病は単一の疾患ではなく複数の病態を含む可能性が高い。前回、我々はうつ病の一部症例で脳脊髄液(CSF)中のfibrinogenが亢進していることを報告した(Hattoriら2015)。すなわち、うつ病合計66症例のうち15例ではCSF中fibrinogenが異常高値(健常対照群の99パーセンタイル以上)を示していた。またfibrinogen亢進うつ病群では側頭葉の白質が障害されていることが拡散テンソルイメージングにより分かった。本研究では、より大規模な症例数を用いて解析をするとともに、疾患特異性や治療による変化についても検討した。【方法】研究目的の髄液採取に同意した、患者および健常対照者を対象に腰痛穿刺を行いCSFを得た。まず、384検体(うつ病103例、統合失調症96例、双極性障害67例、健常対照118例)のCSFを用いELISAにてfibrinogenの測定を行った。次に、電気痙攣療法前後にCSFを採取したMDD14例(28検体)についても同様に測定解析を行った。【結果】うつ病19例(18.4%)、統合失調症14例(14.6%)、双極性障害6例(5.0%)でfibrinogenの異常高値(健常対照群の平均値+2×標準偏差以上)が認められた。Fibrinogen亢進例の頻度は健常群と比較して、うつ病群(p=0.002、フィッシャーの直接確率検定),統合失調症群(p=0.016)、双極性障害群(p=0.024)で増加していた。うつ病の非寛解群(HAM-D17が8点以上)は寛解群よりもfibrinogenが高く(p<0.01、年齢・性を統制したANCOVA)、統合失調症におけるfibrinogen亢進例は非亢進例に比べPANSSの陰性症状が高かった(p=0.04)電気痙攣療法前後の脳脊髄液14組を用いた測定では治療後に減少していた(p=0.02、ウィルコクソン検定)。【考察】うつ病の一部症例におけるCSF中fibrinogen亢進は、より大きい症例数の解析によっても再確認された。一方、fibrinogen亢進例は、うつ病だけでなく統合失調症や双極性障害でもみられた。したがってfibrinogen亢進は、疾患横断的病態を反映している可能性がある。今後、fibrinogen亢進例の臨床的特徴を明らかにするとともに、fibrinogen亢進のメカニズム解明と治療法の開発を進めていきたい。
2B-一般2-2
恐怖記憶の持続におけるミクログリア由来TNF-αの発現
兪 志前1,4,福島 穂高2,小野 千晶1,坂井 舞1,笠原 好之1,高橋 雄太3,松岡 洋夫3,喜田 聡2,富田 博秋1,4
1東北大・災害研・災害精神医学,2東京農大・バイオサイエンス・応用生物科,3東北大・医・精神神経学,4東北大・東北メディカル・メガバンク

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は心的外傷体験への暴露後に再体験,回避,過覚醒症状などを生じる精神疾患である.PTSD罹患者の末梢単球における異常なサイトカインの分泌など,PTSDの病態に免疫系が関与することが示唆されているが,免疫機能変化と中枢神経系のPTSD病態への関与については不明のままである.恐怖記憶の過度な固定化や消去不全がPTSDの病態を説明するモデルと考えられる.マウスモデルは電気刺激への暴露後に恐怖記憶の想起時間が短い場合は恐怖記憶の再固定化を促進し,長い場合は恐怖記憶の消去が誘導される.一方,グリア細胞であるミクログリアは,中枢神経系における免疫担当細胞であり,急性ストレス傷害に対する免疫応答に重要な役割を果たすことが示唆されている.ミクログリアはM1とM2のフェノタイプが存在し,M1は炎症性サイトカインを産生して神経細胞に毒性があり,M2は抗炎症性サイトカインを産生して神経組織の修復などを促す作用を持っている.本研究ではマウスを用いて条件付け恐怖記憶の固定および消去に伴ってミクログリアに生じる炎症性サイトカインの発現変化を検討した.マウスを電気刺激チャンバーに入れてfootshockを与えた.24時間後にマウスを3群に分け,同じ電気刺激チャンバーに0分,3分(固定)または30分間(消去)に再暴露した.24時間後にフリージング反応を評価し,各マウスの脳からミクログリアを単離して遺伝子発現プロファイルを検討した.その結果,恐怖記憶の固定に伴うTNF-αの増加および恐怖記憶の消去に伴うTNF-αの減少が見られた。さらに,M1およびTNF-αの阻害薬による恐怖記憶消去の促進が見られた.本研究で得られた情報はPTSDの治療薬・予防法の開発に有用であると考えられる.
2B-一般2-3
脳梗塞後の炎症とその収束
七田 崇1,2,伊藤 美菜子1,吉村 昭彦1
1慶應義塾大学医学部 微生物学免疫学教室,2科学技術振興機構さきがけ

脳梗塞後の炎症は、病原体が関連しない非感染性炎症(sterile inflammation)の典型例である。sterile inflammationでは、組織傷害によって産生されるDanger associated molecular patterns(DAMPs)が炎症を惹起するが、脳梗塞後の炎症の意義については議論の余地がある。また、sterile inflammationが収束するメカニズムについてもほとんど明らかになっていない。ペルオキシレドキシン(Peroxiredoxin:Prx)は脳梗塞後に生じるDAMPsであり、脳内に浸潤した炎症細胞を活性化して炎症性サイトカインを産生させる。60分一過性脳虚血モデルマウス(suture MCAO)における解析では、Prxの細胞外放出は虚血誘導24時間後のペナンブラ領域に多く見られるが、4日目になるとPrxの産生が見られなくなる。細胞外に放出されたPrxは、マクロファージやミクログリアによって細胞内に取り込まれて分解処理される。我々はRAW264.7細胞(macrophage-like cell line)をENU処理することによって高効率なランダム変異を導入し、Prxを取り込まない変異RAW細胞株を樹立した。これを用いてマイクロアレイによる遺伝子発現プロファイルの解析を行い、変異RAW細胞株で欠損する数十種類の遺伝子の中から、Prxの認識と、選択的なエンドサイトーシスに関わる遺伝子を見出した。DAMPsの処理機構は、脳梗塞後の炎症の収束と組織修復の開始に重要なプロセスであることが明らかとなった。炎症を抑制する薬剤の開発が進んでいる一方で、炎症が誘導する組織修復の効果にも注目が集まっている。次世代の脳卒中医療には、脳に備わっている修復機能を促進する薬剤の開発が期待されている。
2B-一般2-4
BDNF-Lucマウスを利用したBDNF遺伝子発現変化の可視化およびBDNF遺伝子発現誘導剤の探索
福地 守1,前畑 陽祐1,森 寿2,牧 昌次郎3,田渕 明子1,津田 正明1
1富山大院・医薬・分子神経生物,2富山大院・医薬・分子神経科学,3電気通信大・情報理工・先進理工

脳由来神経栄養因子(BDNF:Brain-derived neurotrophic factor)は、記憶の固定化を含む高次脳機能発現に関与する神経栄養因子である。様々な神経・精神疾患において、BDNF発現異常が認められており、BDNFは、これら疾患のバイオマーカーや創薬ターゲットとしても着目されている。近年、我々は、ホタルの発光酵素ルシフェラーゼを用いて、発光の強弱を指標としてBDNF遺伝子発現変化を計測可能なトランスジェニックマウス「BDNF-Lucマウス」を作成し、大脳皮質ニューロン初代培養系におけるBDNF遺伝子発現変化の可視化に成功した(Fukuchi et al(2015)J Neurosci)。本研究では、生体BDNF-LucマウスにおけるBDNF遺伝子発現の変化を可視化するため、in vivoイメージングを行った。ルシフェラーゼの基質であるルシフェリンをBDNF-Lucマウスに投与した結果、発光を検出することに成功した。しかし、ルシフェリンを基質として用いた場合に得られる発光は組織透過性が悪いため、特に脳部位での発光を計測する場合、組織透過性が比較的高い長波長発光が得られる基質を用いる必要性が示された。一方で我々は、96ウェルフォーマットを用いてBDNF-Lucマウス由来大脳皮質ニューロン初代培養系を調製し、BDNF遺伝子発現誘導活性を有する薬剤や化合物などを簡便に探索可能な多検体スクリーニング系を構築した。この方法で得られたある薬剤について詳細に解析したところ、この薬剤をマウスに連続投与することで、スコポラミン誘発性記憶障害が軽減する予備的な結果が得られた。したがってこの方法は、将来的にBDNF遺伝子発現誘導能を指標とした神経・精神疾患治療薬のスクリーニング法として発展可能であることが期待された。
2B-一般2-5
RNA結合タンパクによるC9orf72-FTD/ALS病原性リピートRNAおよびジペプチドリピートタンパクの発現調節
森 康治1,2,Haass Christian2,3,4
1大阪大学大学院医学系研究科 精神医学,2ミュンヘン大学バイオメディカルセンター,3ドイツ神経変性疾患センター,4Munich Cluster for System Neurology(SyNergy)

 C9orf72遺伝子のイントロン領域に存在する6塩基GGGGCCの数百回にもおよぶ異常な繰り返し配列は、家族性の前頭側頭型認知症(FTD)や筋萎縮性側索硬化症(ALS)を引き起こす。このイントロンリピートは転写を受けてリピートRNAとなり、RNA fociと呼ばれるRNA凝集体を形成する。我々はこのリピートRNAが、開始コドン(AUG)非依存性にジペプチドのポリマーであるジペプチドリピート(DPR)タンパクへと翻訳されてC9orf72-FTD/ALS患者の脳内に凝集していることを明らかにした。続いてin vitro RNA binding assayにより、一連のGGGGCCリピート結合タンパクを同定した。我々はそれらのRNA結合タンパクのうち、核内外を行き来し、RNAの輸送や代謝に関与することが知られるhnRNPA3が、リピートRNAの発現レベルを低下させることを見出した。すなわち、我々が新規に開発したGGGGCCリピート発現細胞系において、hnRNPA3の発現を低下させると、リピートRNAの発現レベルが増強し、RNA fociの形成が促進され、DPRタンパクの産生、蓄積が亢進した。この効果はsiRNA耐性の野生型hnRNPA3によりrescueされたが、変異型hnRNPA3ではrescueされなかった。ラット初代培養神経細胞系や内因性のGGGGCCリピート異常延長を有するC9orf72患者由来の線維芽細胞系においても同様の結果を得た。C9orf72患者の脳においてもhnRNPA3発現レベル低下とDPRタンパクの蓄積レベルの間に関連を認めた。以上より、hnRNPA3はGGGGCCリピートの不安定化に関与している可能性が示唆され、hnRNPA3の発現低下によりC9orf72の異常リピートRNAの発現レベルが増加し、その翻訳産物であるDPRタンパクの産生、蓄積が亢進すると結論づけた。
2B-一般2-6
神経分化時に発現が増加する膜貫通型ユビキチンリガーゼRNF182のオートファジーへの関与
金子 雅幸,高井 知子,呉 艶,今泉 和則
広島大院・医歯薬保・分子細胞情報

タンパク質のユビキチン化は、細胞内における不要なタンパク質の分解に限らず、ユビキチン鎖の様式を変えることで、様々なシグナル調節に関与し、生体機能調節に重要な役割を果たしている。そのユビキチン化を触媒する酵素として、ユビキチンリガーゼがある。これまでに我々は、ヒトにおける膜貫通型ユビキチンリガーゼを新規に37種類同定した。さらに、ヒト・マウス組織を用いた発現解析により、中枢特異的な発現パターンを示すRNF182を見いだした。本研究では、膜貫通型ユビキチンリガーゼRNF182の中枢における機能を明らかにすることを目的とした。RNF182は、マウス胚性腫瘍幹細胞P19の神経分化誘導や、胎生期および新生仔マウス脳組織において、神経分化過程で最も顕著な発現上昇が認められた。RNF182は小胞体や後期エンドソームおよびライソゾームに局在していたが、ショットガンプロテオーム解析により、RNF182結合タンパク質としてライソゾームタンパク質LAPTM4Aを同定した。つぎに、RNF182によるLAPTM4Aのユビキチン化様式について検討したところ、RNF182はK48とK63を介するユビキチン鎖を形成することが判明した。また、LAPTM4Aはそのファミリータンパク質であるLAPTM4Bと結合し、LAPTM4Bは、オートファジー経路においてオートファゴソームとライソゾームの融合に関連することが報告されていることから、つぎにRNF182のオートファジー経路への関与を検討した。神経芽細胞腫SK-N-MCにおいてRNF182をノックダウンすると、LC3-IIが増大した。また、オートファジーの基質タンパク質であるp62が増加したことから、RNF182の発現低下により、オートファジーによるタンパク質分解過程が抑制されることが判明した。以上の結果より、RNF182は神経分化時に発現が変化することで、LAPTMファミリーのユビキチン化を介してオートファジーの活性を制御している可能性が考えられる。