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若手道場(大学院生口演、若手研究者口演、学部学生口演)
イオンチャンネル、興奮膜、受容体、輸送体 細胞内・細胞間、情報伝達、変換、修飾 神経ネットワーク、認知機能・行動
2F-道場1-1
分子動力学的シミュレーションによるGPCR LPA1受容体の解析:アゴニストによる受容体膜貫通領域を介した水分子輸送
原田 将光,植田 弘師
長崎大学・薬・創薬薬理

リゾホスファチジン酸(LPA)はG蛋白質連関型LPA受容体を介して、がん転移など生体にとって好ましくない多様な生物学的作用を有することが知られている。我々はこれまでの系統的な研究からLPA1受容体によるシグナル伝達が難治性の慢性疼痛の形成と維持に共通した鍵となる役割を果たすことを見出してきた。こうした背景のもと、LPA1受容体をターゲットとした慢性疼痛治療薬の開発の一つの戦略として、我々は分子動力学的シミュレーションを用いた化合物創製の基礎研究を行っている。シミュレーションに利用したLPA1受容体の分子モデルは、Chrencik et al.(Cell 161,1633-1643, 2015)により報告されている結晶構造を元にホモロジーモデルを作成した。本報告では第一の研究成果としてアゴニストLPA18:1及びアンタゴニストのLPA1受容体における結合領域の解明を行った。第二の研究成果としては、周辺溶媒の動態について200ns程度の分子動力学シミュレーションにより解析から、LPA18:1による受容体膜貫通領域を介した水分子輸送を見出した。また、アンタゴニストがこの水分子輸送効果を抑制することを証明することができた。以上のことより計算科学を用いてGPCRの機能解析ができる可能性を示唆している。
2F-道場1-2
レゾルビンD1、D2の抗うつ作用メカニズムの解明 Resolvin D1 and D2 attenuate lipopolysaccharide-induced depression-like behaviors via mTOR pathway
石川 由香1,出山 諭司2,3,吉川 琴美1,霜田 健斗1,人羅(今村) 菜津子2,井手 聡一郎2,4,佐藤 公道5,南 雅文2
1北海道大学薬学部薬理学研究室,2北海道大学大学院薬学研究院薬理学研究室,3イェール大学医学部精神科分子精神医学部門,4公益財団法人東京医学総合研究所,5京都大学大学院薬学研究院

ドコサヘキサエン酸(DHA)は抗うつ作用が報告されているが、その作用メカニズムには不明な点が多い。本研究では、DHAの活性代謝物であるレゾルビンD1(RvD1)及びD2(RvD2)に着目し、リポポリサッカライド(LPS)誘発うつ病モデルを用いて、その抗うつ作用とメカニズム解明を目的に検討を行った。雄性BALB/cマウスにLPS(0.8 mg/kg)を腹腔内投与し、その22時間後にRvD1(10 ng)またはRvD2(10 ng)を側脳室内に投与した。投与2時間後に尾懸垂試験を行い、無動時間を抗うつ作用の指標として検討したところ、LPSにより惹起された無動時間の延長は、RvD1またはRvD2の側脳室内投与により有意に抑制された。RvD1はPI3キナーゼ(PI3K)を活性化することが報告されていることから、PI3K阻害薬LY294002(3 μg)をRvD1またはRvD2と同時に側脳室内投与したところ、LY294002はRvD1の抗うつ作用を有意に抑制したが、RvD2の抗うつ作用には影響を与えなかった。またMEK/ERK経路及びmTORの関与を検討したところ、MEK阻害薬U0126(5 μg)の側脳室内投与、あるいはmTOR阻害薬ラパマイシン(10 mg/kg)の腹腔内投与により、RvD1、RvD2の抗うつ作用はともに有意に抑制された。さらにmTOR経路の活性化を介して抗うつ作用を示すことが報告されているケタミンの作用に内側前頭前野(mPFC)が重要であることから、RvD1、RvD2の抗うつ作用におけるmPFCの関与について検討を行った。RvD1(0.3 ng)あるいはRvD2(0.3 ng)を両側mPFC内に局所投与したところ、LPS誘発抑うつ様行動が有意に抑制された。以上より、RvD1、RvD2は抗うつ作用を示し、RvD1の抗うつ作用にはPI3K、MEK/ERK、mTORの活性化、RvD2の抗うつ作用にはMEK/ERKおよびmTORの活性化が重要であること、さらにmPFCがRvD1、RvD2の抗うつ作用に重要な脳部位であることが示唆された。
2F-道場1-3
Diosgeninによるアルツハイマー病の記憶回復にHSC70の減少が関与する
楊 熙蒙,久保山 友晴,東田 千尋
富山大学和漢医薬学総合研究所病態制御部門神経機能学分野

アルツハイマー病(AD)は、脳内におけるAβやPHFタウの蓄積が原因と考えられているが、我々はこれらの異常を改善することに加えて、より重要なこととして神経軸索変性の修復に着目している。これまでに我々は、山薬成分であるdiosgeninに軸索変性の改善作用、ADモデルマウス(5XFAD)に対する記憶改善作用、脳内のAβやPHFタウの減少作用があることを発見し、さらに、diosgeninの受容体が1,25D3-MARRSであることを明らかにした。(Sci Rep,2;535,2012;Sci Rep,3;3395;2013)本研究では、diosgenin刺激によって変化する細胞内のシグナル分子を探索し、軸索変性や記憶障害の改善に対する作用を解明することを目的とした。野生型マウス、5XFADマウス(雄性、24-27週齢)にdiosgenin(0.1 μmol/kg/day)を15日間経口投与すると、物体認知記憶が有意に改善した。その後、大脳皮質からタンパク質を抽出し、diosgenin投与によって発現量が変化するタンパク質を二次元電気泳動で比較した。MALDI-TOF/MS解析を行ったところ、Heat shock cognate 70(HSC70)が減少することがわかった。マウス胎児大脳皮質神経細胞(ddY,E14)にAβ25-35(10 μM)を処置すると、細胞中のHSC70は増加し、軸索が萎縮した。その後からdiosgenin(0.1,1 μM)、及びHSC70の活性阻害剤VER-155008(0.05,0.5,5 μM)を処置すると、HSC70は減少し、軸索が伸長した。野生型マウス、5XFADマウス(雌性、32-38週齢)に溶媒、diosgenin(0.1 μmol/kg/day)及びVER-155008(10 μmol/kg/day)を18日間投与したところ、diosgenin投与群と同様にVER-155008投与群でも物体認知記憶が改善した。これらのマウスの大脳皮質及び海馬中ではAβやPHFタウ、変性軸索の減少が認められた。本研究は、diosgeninによるHSC70の減少が軸索変性や記憶の改善に関係している可能性を示唆するものである。