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若手道場(大学院生口演、若手研究者口演)
神経ネットワーク、認知機能・行動
3G-道場1-1
性ホルモンによる雄マウスの社会行動選択の調節Sexual hormones modulate social behavioral choice of male mouse
伊藤 和貴1,進藤 さやか2,吉原 千尋2,黒田 公美2,南 雅文1,天野 大樹1,2
1北海道大学大学院薬学研究院 薬理学研究室,2理化学研究所脳科学総合研究センター黒田研究チーム

交尾未経験の雄マウスは、仔マウスと対面した際、喰殺と呼ばれる攻撃行動を示すが、交尾および、雌マウスとの同居を経験し父親となった雄マウスは養育行動を示すようになる。この行動変化には性ホルモンの関与が考えられているが、その作用機構は明らかでない。そこで、去勢手術を施した雄マウスに対し、ジヒドロテストステロンあるいはエストラジオールを持続的に処置し、仔マウスに対する行動選択への影響を検討した。その結果、ジヒドロテストステロンの処置は去勢群の行動に影響を与えなかったのに対し、エストラジオールの処置は去勢群の喰殺を有意に増加させた。この結果から、エストラジオールが喰殺を誘導している可能性が示唆された。テストステロンをエストラジオールに変換する酵素であるアロマターゼは、内側扁桃体に多く発現していることが報告されている。さらに、内側扁桃体では、喰殺を示した交尾未経験の雄マウスにおいて、最初期遺伝子陽性細胞数が有意に増加する一方、父親マウスにおいては増加しないことが報告されている。そこで、性ホルモンと喰殺を始めとする社会性行動選択とを結びつける脳領域として内側扁桃体に着目し、興奮性神経毒であるN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)を用いて破壊し喰殺行動を検討した。その結果、内側扁桃体破壊群で喰殺の遅延が認められた。以上より、脳内に運ばれたテストステロンが内側扁桃体においてエストラジオールに変換され、喰殺を誘導している可能性が考えられる。
3G-道場1-2
大うつ病性障害と双極性障害における光トポグラフィー(NIRS)を用いたEmotional stroop taskでの前頭前野における血流変化
西澤 由貴1,金沢 徹文1,山内 繁1,川野 涼1,米田 博1
1大阪医大院・医・神経精神,2新淡路病院

近赤外分光法は、組織中の酸素化、脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化に起因する近赤外域の吸収変化を検出することで、組織内の血液量や酸素代謝を測定する方法である。その近赤外光の特徴を利用した近赤外光脳計測装置、光トポグラフィー(Near-Infrated Spectroscopy:NIRS)は、頭皮上の複数の入射、検出ファイバー対を配置することで多点におけるヘモグロビン濃度変化、ひいては脳機能を同時計測することが可能な医療機器である。NIRSの精神科領域での応用は、すでにうつ病や統合失調症の鑑別診断補助として、厚生労働省の定める先進医療技術を経て、2014年より保険適応となっている。また、本学精神神経科においてもこれまで多くの患者の要望に応えてきた経緯がある。研究面でも応用は進んでおり、山口大学精神神経科の松原らによる研究では、寛解期の気分障害圏の患者(双極性障害【BD:Bipolar Disorder】、うつ病性障害【MDD:Major Depressive Disorder】)と健常者を対象に、ストループ課題を使用してNIRSにて前頭葉の脳血流を計測した。その結果、BDとMDDは感情的な処理をする際、異なる神経回路が存在する可能性があるとした。しかしながら先行研究の問題点としては、BDやMDDの診断はあくまで臨床所見のみで診断されていることなどが挙げられる。山口大学と共同で行う本研究はこの先行研究に対して、ストループ課題を用いてNIRSにて脳血流を計測し、心理学的諸検査結果(WCST、WAIS、JART)に、脳構造画像を加えてより精緻な情報を基盤とした研究を行う。本研究はすでに倫理委員会の承認を経て、健常者を含めたサンプル収集中である。本研究会では現在まで収集を行ったサンプルにおける途中経過を報告し、先行研究との比較や、新しい情報を加えた解析結果を発表する。