精神疾患の双方向性トランスレーショナル研究
~Bridging the gap between bench and bedside~

EL9
精神疾患の双方向性トランスレーショナル研究
~Bridging the gap between bench and bedside~

○尾崎紀夫1
○Norio Ozaki1
名古屋大学大学院医学系研究科精神医学・親と子どもの心療学分野1
Department of Psychiatry, Nagoya University Graduate School of Medicine1

NIHは基礎医学研究の成果が臨床応用に繋がることが少ないことを指摘し、The Valley of Deathを克服するTranslational Researchを、今後の中心研究課題と位置づけた(Nature 453,7197 p840-2,2008)。WHOが発表している疾病がおよぼす「死亡」と「生活の障害」の二つを合計したdisability adjusted life years(DALY)によれば、わが国を含む先進諸国では精神神経疾患がDALYのトップであり、Translational Researchを推進すべき重要領域である。一方、前臨床から得られた候補薬剤のうち、ヒトを対象にした臨床試験によって有用性が確認され開発に成功する割合が、向精神薬は他に比べて極めて低く、多くのMega Pharmaが向精神薬開発からの撤退を宣言しており(Science 329,5991 p502-4,2010)、The Valley of Deathが最も深刻な分野である。
向精神薬を含む精神疾患の治療法開発が困難な要因として、現在の精神症候学に依拠した精神医学診断体系によって生じる問題が挙げられる。例えば、統合失調症という診断基準が包含する患者群は病因・病態としては多様と想定されており、「(多様な)統合失調症」全体に有用な治療法は見出し難い。さらに、検査による診断・評価法が確立していないため、診断や適切な治療の開始が遅れ、その結果、二次的に難治化している症例も少なくない。
以上を鑑みると、患者のゲノム、タンパク質、画像などから得られる生体情報を用いた、客観的かつ妥当性の高い診断・評価法を確立することが、新規治療法開発の実現に必要である。患者由来の生態情報を網羅的に検討することが出発点であるが、得られた統計学的に有意な結果は生物学的意義の検証が必須である。臨床上真に有用な成果の達成には、”From bench to bedside”と”From bedside to bench”をあわせた双方向性研究を、多様かつ多数の臨床研究者、基礎研究者の協同で実施することが必要であり、今後の緊密な連携・協同を願うものである。


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