タイトル
2014年度受賞 奨励賞 塩田倫史
概要

塩田 倫史 
旧所属;東北大学大学院 薬学研究科 薬理学分野
現所属;岐阜薬科大学 生体機能解析学大講座 分子生物学研究室

<研究題目> ATR-X 症候群モデル動物における脳機能解析に関する研究
Research of brain function in ATR-X syndrome rodent model

ATR-X 症候群は X 染色体上の原因遺伝子 ATRX の変異により X 連鎖劣性遺伝形式をとる精神遅滞症候群である。罹患率は不明であるが、 Juberg-Marsidi 症候群や Chudley-Lowry 症候群等の様々な精神遅滞症候群の家系でも変異が同定されていることから、遺伝子検査により診断される患者が増加するに伴い、臨床症状のスペクトラムが広がることが予想される。ATR-X 症候群の軽症型である Chudley-Lowry 症候群の患者家系では、 ATRX の exon2 の変異が存在し、クロマチンリモデリング因子である ATRX の発現量が約 80 % 減少していることが報告されている。私達は、Atrx exon2 欠損マウス (Atrxマウス) を用いて、このマウスが Chudley-Lowry 症候群と同様に発現量が約 80 % 減少していることを確認した。さらに Atrxマウスは認知機能の低下、海馬 LTP の減弱、前頭皮質内側部の樹状突起スパイン形態異常を呈することを明らかにした (J. Neurosci. 2011; Hippocampus. 2011)。樹上突起スパインはシナプスネットワークに必須の構造である。精神遅滞や自閉症患者の死後脳ではスパインの形態に異常がみられる。私達はこれまでの研究で、精神疾患のスパイン形態異常が起こる原因として、シナプス伝達に重要な役割を担う CaMKII 活性異常と、その下流である Rac1-GEF/PAK シグナルの過剰な活性化が起こることを明らかとしてきた。しかしながら、なぜ核内で機能するクロマチンリモデリング因子 ATRX の減少が、スパイン形態異常や精神遅滞を引き起こすのか不明である。現在、ATR-X 症候群の治療薬開発を目的として、その認知機能障害機構の解析を行っている。