タイトル
2013年受賞 最優秀奨励賞 村松 里衣子
概要
村松 写真

新生血管による神経回路修復機構の解明
Neovessel formed through CNS inflammation promotes axonal rewirin
村松 里衣子 Rieko Muramatsu
大阪大学大学院医学系研究科分子神経科学
Department of Molecular Neuroscience, Graduate School of Medicine, Osaka University


様々な原因により脳脊髄が傷害されると、重篤な神経症状があらわれる。この症状の回復には、傷ついた神経回路の修復が求められる。かつて、脳脊髄の神経回路の修復は困難であり神経機能の改善は望めないと捉えられていた。しかし最近の研究によって、神経症状は時間が経つにつれて僅かではあるが自然回復し、それは傷害後に残存した神経細胞がその神経回路を修復させるためであることがわかってきた。成体の中枢神経細胞に備わる修復ポテンシャルを活かすことで様々な神経疾患の治療へ繋がると期待されているが、何が神経回路の修復を促すか、そのメカニズムには不明な点が多かった。

神経回路の修復を促す生体システムを探索することを目的として、神経回路の修復に先立ち病巣で何が生じているか、組織学的な解析を行った。マウスに局所的に脳脊髄炎を誘導すると、病巣の近傍の軸索が分枝する。この軸索枝の形成の前に、病巣周囲では旺盛な血管新生が観察された。そこで血管が神経回路の修復を促す可能性を考え、in vitroで脳血管内皮細胞と大脳皮質神経細胞を共培養した。培養後の神経突起長を計測したところ、血管と共培養した神経細胞では突起の伸長が促されていた。このことから、血管は神経突起の伸長を促す分子を産生すると考え、その分子の探索を行ったところ、プロスタサイクリンという生理活性物質がcAMP依存的に神経突起の伸長を促すことがわかった。マウスの神経細胞でプロスタサイクリンのシグナル伝達を抑制させる処置を施し、さらに脳脊髄炎を誘導すると、軸索枝の形成が阻害され神経回路の修復に基づく神経機能障害の自然回復も抑制された。また、プロスタサイクリンのシグナルを高める処置を施すと、軸索枝の形成が促進し神経機能障害からの回復も加速した (Muramatsu, et al., Nature Medicine, 2012)。

以上の結果は、中枢神経傷害後に病巣で形成する血管が神経回路の修復を促すものであることを示すとともに、生体に備わる中枢神経回路の修復機構を初めて示唆するものである。

村松 図