第64回日本神経化学会に期すること
2022年9月21日 15時50分 理事長 岡野 栄之
神経化学会・会員の皆様、本年3月に理事長に就任しました慶應義塾大学医学部・生理学教室の岡野栄之でございます。理事長に就任して、あっという間に半年が経ちました。コロナ禍のため、理事会や様々な会議で皆様に対面でお会いすることが残念ながら出来ませんでしたが、WEBやメールを介して多くの方々と意見を交わし、学会の今後の方向性を考えてきました。
評議員会、総会で理事長・大会長の連名の皆様へのメッセージをお送りしたいと考えております。理事長という立場に立ち、学会として何をすべきか?脳科学連合の一員として行うのか?本学会独自のアクション・プランを考えるべきなのか?とても悩みましたが、前理事長、副理事長、将来計画委員会委員長、大会長と話し合う内にやっとその方向性が見えてきました。第64回大会を是非楽しみにして頂きたいと思います。
評議員会、総会で理事長・大会長の連名の皆様へのメッセージをお送りしたいと考えております。理事長という立場に立ち、学会として何をすべきか?脳科学連合の一員として行うのか?本学会独自のアクション・プランを考えるべきなのか?とても悩みましたが、前理事長、副理事長、将来計画委員会委員長、大会長と話し合う内にやっとその方向性が見えてきました。第64回大会を是非楽しみにして頂きたいと思います。
さて、日本神経化学会が1957年に生まれて、今年でまさに64年になります。実に毎年大会をやって来たのですね!1957年といえば、神経伝達物質の阻害薬の開発でイタリア人のDaniel Bovet博士がノーベル生理学・医学賞を受賞した年です。この受賞によるenthusiasmが、学会設立に繋がったのかどうかは判りませんが、そのころの本学会の大きなテーマの一つが神経伝達物質やその受容体の生化学的な研究であったので、大きなインパクトがあったのではないかと思います。そして、神経伝達物質やその受容体の研究は、今も本学会において脈々と続いています。
一方、脳内や末梢神経において最も豊富に含まれるタンパク質分子群がミエリン蛋白質であるため、神経系を生化学的な手法で研究することを目指した本学会にとって、必然的にミエリン蛋白質が重要な研究対象となり、これを発端にグリア細胞研究が本学会の大きなテーマとなって行きました。今やミエリンの重要なマーカーとして世界中で用いられているCNPaseという分子が、本学会の先輩方によって見出されたことを誇らしく思っております。さらに、「神経伝達物質」も、「グリア」も、精神・神経疾患と深い関わりがあるため、「疾患研究」が自然と本学会の目指すところとなりました。
その後、分子生物学的研究手法が、医学・生命科学全体を席巻しましたが、分子から神経を理解することを目指す本学会との相性も良く、ナトリウムチャネル、 I P3受容体、グルタミン酸受容体など、神経系で重要な役割を果たす分子の遺伝子が単離され、それをもとに分子全体の構造や機能の解析が爆発的に進みました。2000年にヒトゲノムが解読され、GWAS研究やパーソナル・ゲノム解析の進展とともに、神経伝達物質の受容体や合成酵素、神経系の細胞骨格蛋白質、接着因子、転写因子、RNA結合蛋白質など神経系で重要な役割を果たす分子の遺伝子の多型と疾患の関連性が明瞭となり、本学会や関連した臨床系の学会が目指す「疾患研究」も俄然面白くなってきています。また、ここに我が国発の技術であるiPS細胞技術を組み合わせると、遺伝子の多型と表現型を因果関係として証明することが可能になってきています。一方、Optogenetics、ゲノム編集、シングルセル解析、AI技術など新しい技術が怒涛のように開発されてきています。
例えば、深層学習をベースとしたAI技術を専門として、AIソフトのAlphaGOで有名になったDeepMind社は、Alphafold2というアルゴリズムを開発し、これを用いると(種を限定すれば)あらゆる蛋白質さらにはその変異体の3次元構造をかなりの精度で予測してくれるまでになっています。今後この手法を用いた創薬研究や病態研究が飛躍的に進むでしょう。
一方、脳内や末梢神経において最も豊富に含まれるタンパク質分子群がミエリン蛋白質であるため、神経系を生化学的な手法で研究することを目指した本学会にとって、必然的にミエリン蛋白質が重要な研究対象となり、これを発端にグリア細胞研究が本学会の大きなテーマとなって行きました。今やミエリンの重要なマーカーとして世界中で用いられているCNPaseという分子が、本学会の先輩方によって見出されたことを誇らしく思っております。さらに、「神経伝達物質」も、「グリア」も、精神・神経疾患と深い関わりがあるため、「疾患研究」が自然と本学会の目指すところとなりました。
その後、分子生物学的研究手法が、医学・生命科学全体を席巻しましたが、分子から神経を理解することを目指す本学会との相性も良く、ナトリウムチャネル、 I P3受容体、グルタミン酸受容体など、神経系で重要な役割を果たす分子の遺伝子が単離され、それをもとに分子全体の構造や機能の解析が爆発的に進みました。2000年にヒトゲノムが解読され、GWAS研究やパーソナル・ゲノム解析の進展とともに、神経伝達物質の受容体や合成酵素、神経系の細胞骨格蛋白質、接着因子、転写因子、RNA結合蛋白質など神経系で重要な役割を果たす分子の遺伝子の多型と疾患の関連性が明瞭となり、本学会や関連した臨床系の学会が目指す「疾患研究」も俄然面白くなってきています。また、ここに我が国発の技術であるiPS細胞技術を組み合わせると、遺伝子の多型と表現型を因果関係として証明することが可能になってきています。一方、Optogenetics、ゲノム編集、シングルセル解析、AI技術など新しい技術が怒涛のように開発されてきています。
例えば、深層学習をベースとしたAI技術を専門として、AIソフトのAlphaGOで有名になったDeepMind社は、Alphafold2というアルゴリズムを開発し、これを用いると(種を限定すれば)あらゆる蛋白質さらにはその変異体の3次元構造をかなりの精度で予測してくれるまでになっています。今後この手法を用いた創薬研究や病態研究が飛躍的に進むでしょう。
では、このような状況を踏まえ、本学会は何を目指し、どこに向かうのでしょうか?そこには、本学会発足当時からのテーマと伝統とスピリッツ、そして仲間達が大きな羅針盤になるのは、間違いありません。分子・物質・細胞そして疾患を追い続けた日本神経化学会の良さ、強さを武器に、そして新しい技術を取り込む、いや開拓して、この学会が新しい時代の科学の先導者となることを祈念しております。
第64回大会では、本学会の未来について皆様と一緒に考えてみたいと思っております。