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シンポジウム18
rTMSによるニューロモデュレーションの基礎と臨床
S18-1
反復経頭蓋磁気刺激法による精神・神経変性疾患への効果の検討
池田 哲朗1,2,3,貫名 信行2,4
東京大学・医科研・免疫病態1,理化学研究所2,高知大学 医学部3,順天堂大学大学院 医学系研究科4

経頭蓋磁気刺激法(rTMS)は非侵襲的に脳内に電流を発生させ、うつ病、統合失調症、神経変性疾患等に効果があると考えられている。我々は、rTMSがマウス脳内でモノアミン・トランスポーターを調節することを報告した。しかしながら、rTMSの効果の基礎的なメカニズムは、未だ不明な所が残されている。我々は、Affymetrix社製GeneChipを使用し、20日rTMS刺激後マウス脳内におけるmRNA発現変動を解析した。20日rTMS刺激後、多数の遺伝子がマウス脳内で変動していた。サーカディアン・リズムに関与するPeriod2、Period3のmRNAが減少しており、それに続いて、摂食・節水量の減少が観察された。一過性ならびに慢性rTMS刺激後、HSP70 mRNAの発現が増加していた。ハンチントン病細胞モデルとして、ポナステロン誘導性に150Qを強発現するN2A細胞に、慢性rTMS刺激後、HSP70 mRNAおよび蛋白の発現が認められ、細胞保護効果が観察された。さらに、ドーパミン受容体2のmRNAの減少が慢性rTMS刺激後認められ、[3H]racloprideの結合も減少していた。これらの結果から、マウス脳rTMS刺激後変動する遺伝子群が、精神・神経変性疾患患者の慢性rTMSの治療効果メカニズムと関連している可能性が示唆された。
S18-2
反復経頭蓋磁気刺激による神経興奮特性の変化
伊良皆 啓治,野嶋 和久
九州大学大学院システム生命科学府

 TMSは単発パルスの強度、あるいは連続パルスの強度や周波数を制御し、脳神経の興奮を時間的また空間的にも自由に妨害したり遮断したり自由に制御することができる。特に刺激を繰り返し与える反復経頭蓋磁気刺激は、刺激の周波数や刺激のパターンを変化させることにより、脳神経の可塑性を導き神経の興奮特性を促進したり抑制したりすることが可能である。ここでは、反復経頭蓋磁気刺激の脳神経系へ与える影響として、事象関連電位P300、認知心理課題の多義図形に対する知覚交代等について、我々の研究結果について紹介し、刺激の効果と刺激のパラメータとの関連性について言及する。さらに、rTMSの刺激条件である刺激周波数を1Hzと限定し刺激強度とパルス数を変化させた時、神経の興奮特性がどのように変化するか調べ、その興奮特性の変化を予測するモデルを作成した。対象は運動野刺激とし刺激の興奮特性はMEPで評価した。刺激周波数が1Hzの反復刺激では、通常抑制的に作用するが、実験の結果、刺激の条件によって抑制性に働いたり、興奮性に働いたりする効果が一定しない群と、刺激の条件によらず抑制性に働く2群に分かれ、抑制性に働く群においては、刺激パラメータを変化させたときの刺激効果を表現するモデル作成が可能であった。
S18-3
前頭前野rTMSによる神経可塑性様変化の定量化
中村 元昭1,2,3,4
神奈川県立精神医療センター 芹香病院1,昭和大学医学部 精神医学教室2,横浜市立大学大学院医学研究科 精神医学部門3,ATR脳情報通信総合研究所4

前頭前野へのrTMSによる抗うつ効果発現のメカニズムは未だ明らかにされていない。しかしこれまでの研究からは、ドパミン神経系の賦活、神経可塑性の誘導、機能結合の正常化などの関与が推測される。本発表では、神経可塑性様変化に焦点を当てて、自験例を中心に研究データを紹介したい。具体的には、TMS誘発電位を指標に用いた可塑性誘導効果の経時的変化、覚醒時ならびに睡眠時の基礎律動の可塑的変化、脳構造における可塑的変化について報告し、一部臨床的改善との関連性を報告する予定である。TMS誘発電位は、TMSと脳波の同時記録により測定される誘発反応で、TMSパルスから約45msec後に誘発されるN45成分を中心に解析を行った。シータバースト刺激(TBS)の前後でTMS誘発電位を経時的に測定したところ、TBS群はベースラインとの郡内比較でも、シャム群との群間比較においても、N45成分の振幅においてTBSによる増幅効果が40分程度確認された。脳波基礎律動の変化は、10回のrTMSセッションの前後で主に脳波パワーの縦断的変化を検討した。覚醒時には脳波パワーが全般的に増加し、中でもデルタ、シータ、ガンマ帯域のパワー増加が認められた。さらには、シータ・ガンマカップリングの増強効果を認めた。自然睡眠中にはノンレム睡眠期において睡眠徐波のデルタパワーの縦断的増加が刺激部位周囲に限局して認められた。脳構造の変化としては、10回のrTMSセッションの前後で灰白質体積の局所的増加、灰白質拡散係数の局所的減少などを認めた。これらの縦断的変化は神経可塑性を反映する指標となりうるのではないかと推測された。縦断的変化の一部と抗うつ効果との関連性も示され、抗うつ効果発現メカニズムとの関連性も示唆された。なお発表するデータに関する全ての研究計画は事前に神奈川県立精神医療センターの倫理審査委員会ならびに昭和大学医学部の医の倫理委員会での審議の上で承認を得たものであり、全ての被験者から事前にインフォームドコンセントを取得している。
S18-4
反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)によるうつ病の治療と機能的結合性の変化:rTMS-EEG研究
鬼頭 伸輔
杏林大学医学部精神神経科学教室

複数の二重盲検ランダム化試験によって、反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation、rTMS)は、うつ病の治療に有効であることが実証されている(e.g., Slotema et al., 2010)。最近のうつ病を対象とした脳機能画像研究は、神経ネットワークや脳領域間の機能的結合性などの探索に注力している(Castrén, 2013)。演者らは、既存の抗うつ薬に反応しないうつ病患者の左前頭前野にrTMS(NeuroStar TMS Therapy System、Neuronetics)を行い、その開始前と4週間後にhigh-density EEG(Geodesic EEG System 300、Electrical Geodesics)を用いて安静閉眼時の脳波を5分間記録した。次にstandardized low-resolution brain electromagnetic tomography(sLORETA、Pascual-Marqui, 2002)を用いて解析し、左背外側前頭前野と楔前部からなる神経ネットワークが逆相関をもって強化されることを報告した(Kito et al., 2014)。このシンポジウムでは、sLORETAの機能的結合性に関する解析手法であるfunctional independent component analysis(fICA)、wire connectivity analysis(WCA)、isolated coherence analysis(iCohA)などを用いて、rTMSによる機能的結合性の変化を評価し、神経生理学的なアプローチからrTMSの作用機序を考察する。
S18-5
rTMSによるヒトの皮質内GABA、グルタミン酸機能の変化
鵜飼 聡,高橋 隼
和歌山県立医科大学 医学部 神経精神医学教室

近年、脳機能画像がうつ病・統合失調症をはじめとする精神疾患の病態や治療機作の検討に応用されるようになり、特定の脳領域の活動の変化が症状の改善と関連する可能性が指摘され、rTMS、ECT、DBSなどの電気生理学的な治療法はニューロモデュレーションによって症状に関連するこれらの脳領域や神経回路網の機能回復・可塑的変化をもたらすことにより治療効果を得るとの仮説がある。本シンポジウムでは、我々のヒトを用いた神経生理学的手法・脳機能画像によるrTMSの作用機作の基礎的・臨床的検討の知見を基に、rTMSによるニューロモデュレーションやrTMS治療の作用機作について、特に皮質内のGABA、グルタミン酸機能の変化に注目して考察する。GABA作動性抑制性介在ニューロンの機能を反映するヒトの体性感覚誘発電位の高周波振動(HFOs)は、体性感覚野への低頻度rTMSによって増強されることを報告したが、これは、低頻度rTMSが刺激部位直下の皮質領域に与える抑制性の機能変化に皮質のGABA機能の増強が関与することを示唆している。さらに、難治性の耳鳴りに対して第一次聴覚野に低頻度rTMSを連日施行した症例において、多くの皮質領域では血流が低下し皮質下領域では増加すること、さらに2連発磁気刺激(ppTMS)を用いて運動皮質の興奮性が低下すること、その低下には皮質内の抑制性のGABA機能の増強と促通性のグルタミン酸機能の減弱が関与している可能性を報告した。これらの結果は、低頻度rTMSが遠隔の脳領域に対して抑制性・興奮性の機能変化をもたらすこと、その抑制性の機能変化は皮質内のGABA機能の増強、グルタミン酸機能の減弱と関連して生じている可能性があることを示唆している。