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企画シンポジウム
脳イメージング:マクロからミクロまで、動物モデルから臨床応用への道
第2回日本神経化学会優秀賞受賞者企画シンポジウム
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ミクロスコピックからメゾスコピックのカルシウムイメージング・計測
田中 謙二
慶應大・医・精神

マウスを用いる限り、潅流をしっかり行って電子顕微鏡サンプルの作成まで可能になる。免疫電顕で分子の局在を見ても良し、超解像顕微鏡で分子の局在を見ても良い。生きたまま見たければ二光子顕微鏡で観察するも良しである。解像度をどんどんあげていくことは出来るわけだが、解像度を上げれば上げるほど、カバーする領域が減ってしまい、全体を見るのが苦しくなってくる。本シンポジウムでは、アストロサイトの細胞内カルシウムイメージングの高解像度化についての取り組みについてまず取り上げ、機能イメージングの一つであるカルシウムfiberphotometryについて紹介する。
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全脳イメージングによる脳機能・疾患機序の解析
橋本 均1,2,3,勢力 薫1,4,丹生 光咲1,中 雄一郎1,笠井 淳司1
1大阪大院・薬・神経薬理,2大阪大・連合小児発達・子どものこころセンター,3大阪大・薬・iPS脳神経毒性プロジェクト,4生体統御ネットワーク医学教育プログラム・大阪大・未来戦略機構

 脳は、複雑な構造と高度な機能分化・局在が特徴であり、その仕組みを理解し、脳疾患の機構を解明するためには、脳を広範囲に捉えつつ、ミクロな情報も同時に得て、スケーラブルな解析を実現する全脳イメージング法に期待が高まっている。
 我々は、最近、サブミクロンレベルの空間分解能の精細さで、高速に全脳を蛍光イメージングする装置(block-face serial microscopy tomography、FASTと名付けた)を開発した。FASTは、組織固定のみで観察可能であり、組織透明化などの前処理が不要である。このため、FASTイメージングと、通常の免疫組織化学や超解像技術を組合せることも可能である。これまでに、細胞種に特異的な標識法を用いた全脳イメージングや、ストレス後の神経活動の全脳マッピングなどを実施した。
 全脳イメージングにより、今後は、生理的あるいは病態生理的に重要な脳領域・細胞を見出し、FASTの高精細画像による結合性や機能連関解析に加え、その領域等での種々のオミックス解析、トレーシング、光遺伝学などの研究への展開が容易になると思われる。一方、全脳イメージングから得られる大規模な画像データは、様々な関連データと結びつけることによって、統計学的な解析も可能である。これらによって、現在主として解析中のマウスに加え、大型の非ヒト動物モデルの脳や、ヒト脳のイメージング研究など、ヒト・動物モデル双方向の橋渡し研究へ展開も期待される。
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MRIによる脳画像研究―トランスレーショナル研究への応用と実際―
福永 雅喜1,2
1自然科学研究機構・生理学研究所・システム脳科学研究領域・心理生理学研究部門,2総合研究大学院大学・生命科学研究科

 近年、ニューロイメージング技術の発展は、生体を対象に、脳の形態的構造のみならずその機能、活動状態も捉えることを可能にした。非侵襲的画像法の1つ、磁気共鳴画像法(MRI)は、日常臨床の画像診断法としてはもちろんのこと、脳研究へも広く応用され、in vivoニューロイメージング研究の主要な技術となった。臨床研究で広く応用されるようになった、3次元的脳構造画像によるボリューメトリー、拡散画像による白質神経線維束解析、機能画像(functional MRI:fMRI)による各種課題下および安静下の脳活動計測(resting state fMRI)も、ヒトおよび動物で類似の条件下にて施行が可能である。遺伝的操作に優れるげっ歯類、ヒトに近縁でモデル開発が進む霊長類、さらに疾患をもつ患者まで、一貫した計測・解析プラットフォームを提供するMRIは、トランスレーショナル研究に優れた手法であり、いまだ病態や発症メカニズムに不明な部分が多い精神疾患理解への応用が期待される。MRIによる生体の観察は、空間分解能と信号雑音比(SNR)とともに、組織パラメータである緩和時間およびコントラストに依存する。近年、開発が進む超高磁場MRIがもたらす静磁場強度の上昇は、SNRの上昇に加え、核磁気共鳴(NMR)信号の位相分散やシフトを促進させる。超高磁場MRIでは、これらに鋭敏な測定手法を選択することで、優れた組織のコントラストノイズ比(CNR)が得られ、従来困難であった皮質層構造など脳微細構造の描出も可能となる。とくに小動物専用のMRI装置の高磁場化は、研究用も含めヒト用装置よりも先行しており、高感度、高解像度の利点を生かした分子イメージングとも呼ばれる選択的造影効果や細胞レベルの動態追跡などの研究が進められている。またヒト研究においてFunctional MRI(fMRI)は、非侵襲性、優れた空間分解能、簡便性などから、今日のヒト高次脳機能研究に欠かせない重要な技術となった。考案当初は、ターゲットとなる脳活動やそれを惹起する課題もシンプルであったが、近年はより高次な認知機能を探るため非常に巧妙な課題構成も多い。その中でもHyperscanning fMRIは、コミュニケーション中の二者を同時に測定するfMRIであり、2台のMRIに互いに通信可能なマイク、表情記録カメラなどを導入し、会話を含む言語、非言語コミュニケーション時の脳活動を計測・解析する手法である。ヒト社会的認知機能の神経基盤の理解は、fMRIが活用されるべき分野であり、発展が望まれる。これらMRIを用いた研究は、動物モデルからヒトまで同じ手法の適用が可能であると共に、それぞれのレベルで特徴的な発展も遂げている。本講演では、ヒト、モデル動物におけるMRI研究の実際と、両者間でどこが同じでどこが違うのか、どこまで同じ手法が用いられるかなど紹介したい。
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精神科臨床における脳MRI構造画像:診断応用への可能性と技術的な課題
根本 清貴
筑波大学医学医療系精神医学

近年、種々の精神疾患において脳構造に異常が認められるという報告が数多くなされている。脳構造MRIの解析方法はいくつかあるが、もっとも多く報告されているのは、SPMやFSLで利用できるボクセル・ベース・モルフォメトリー(Voxel based morphometry;VBM)を用いた脳灰白質容積を用いた解析と、FreeSurferで利用できる皮質厚(cortical thickness)を用いた解析である。両者は補完的な関係にあると考えられており、ともに結果の解釈が明快であることから多く用いられている。VBMは解析時間が比較的短時間(1症例あたり15-20分程度)であることから、早くから臨床応用が試みられてきた。特にアルツハイマー病の早期診断においては、VBMをとりいれたVSRADが松田らによって開発され、本邦で広く普及している。我々は、統合失調症でもVSRADと同じようなアプローチがとれないか検討してきた。統合失調症は、上側頭回、海馬、島などが健常者よりも容積が低下することがメタ解析でも示されているが、そのエフェクト・サイズはアルツハイマー病と比べると非常に小さい。そのため、結果が他の要因に影響されやすい。大きく影響する要因のひとつにMRIの機種間差がある。同一人物を異なるMRIで撮像すると全灰白質容積が約25ml~30ml異なる。これはエフェクトサイズから考えると非常に大きな差異であり、脳構造MRI解析を統合失調症の補助診断として実用化するためには、この壁を乗り越える必要がある。本シンポジウムでは、様々な脳構造画像解析の概要を紹介した後、精神疾患でどのような報告がなされているか、そして、臨床応用としてどのようなことが試みられているかを紹介する。