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企画シンポジウム
白質高信号の意味を解く
1D-企画2-1
放射線学的にみた中高年の白質T2高信号を呈する神経・精神疾患
平井 俊範
宮崎大・医・放射線

MRIのT2強調像での大脳白質高信号は神経・精神疾患において認めることが多いが、中高年の健常者においてもしばしばみられる。その白質高信号の放射線学的鑑別においては、まず、日常よく遭遇する陳旧性ラクナ梗塞、白質病変、拡大した血管周囲腔の3つをMRIで区別する必要がある。中高年の健常者にみられる白質病変は以前は病的意義が少ない加齢性変化などとされていたが、現在は高次機能に影響すると考えられている。白質T2高信号を呈する中高年の神経・精神疾患には、1)脱髄性疾患(多発性硬化症、視神経脊髄炎)、2)遺伝性疾患(CADASIL、HDLS、神経核内封入体病)、3)感染性疾患(HIV脳症、進行性多巣性白質脳症)、4)自己免疫性疾患(シェーグレン症候群関連白質脳症)、5)腫瘍性疾患(gliomatosis cerebri、lymphomatosis cerebri)、6)中毒性疾患(一酸化炭素中毒による遅発性脳症)などがある。本講演では最近の放射線学的知見を含めた画像診断について解説する。
1D-企画2-2
白質高信号の神経病理
池田 研二
香川大学医学部炎症病理学

中高年にみられる大脳白質高信号の神経病理は単一ではない。最も多いのは持続する高血圧による穿通枝の細・小動脈硬化に基づくビンスワンガー型病変(深部皮質下白質病変)である。認知症を呈するビンスワンガー病では白質にびまん性の髄鞘と軸索の消失を示す。グリア細胞が傷害され、オリゴデンドログリアの明らかな減少があり、アストロサイトも減少・変性する。病変形成機序として、古典的には病変領域血管壁の肥厚(リポヒアリノーシスほか)により血液脳関門の障害が起こり、血管透過性が高まり血漿成分の漏出により周囲組織に浮腫が起こり組織が障害されると説明する。動物実験では慢性の脳血流低下(虚血)によりビンスワンガー型病変が再現されるという。ビンスワンガー病は特殊な病態ではなく、加齢性要因の強い高血圧性の細・小動脈硬化に伴って形成されるので、多数の高齢者脳を観察すると無症状の生理的と言ってよい状態から認知症を呈するビンスワンガー病に至るまでの連続性が観察される。脳室周囲高信号域(脳室周囲病変)として側脳室の前角や後角に認められるCaps、側脳室体部に沿って観察されるものとしてRimsが知られている。これらは動脈硬化を基礎に形成されるものではないが、ビンスワンガー型病変の形成機序と類似性がある。Capsは若年者にも認められることがあるが、通常は白質の萎縮がある高齢者の「まるみ」を帯びた側脳室隅角部、即ち慢性の脳水腫状態にある場合にみられる。このような状態では脳脊髄液のハンマー効果により上衣細胞に離解や破壊が起こり欠損する。その結果、髄液が脳室周囲組織に浸出し、髄鞘の希薄化に加えて軸索の減少、線維性のグリオーシスを起こすと考えられている。Rimsは側脳室体部に沿って観察されるが、その機序もcapsと同じように脳脊髄液の漏出によると考えられている。上衣下白質は脳軟膜下とならんで生理的に線維性グリオーシスの強い部位である。これらの所見は加齢変化のひとつであるが進行すると癒合し、さらに進行するとビンスワンガー型病変と癒合して白質に広がる。このほか白質高信号を呈する病理所見として、病的意義はないがクリブレとして知られる血管周囲腔(Virchow-Robin腔)の拡大は高血圧により血管が伸張し蛇行すること、拍動による周囲組織への圧力、さらに加齢に伴う周囲組織の萎縮により腔が拡大して形成されると考えられている。何らかの病変に伴う二次的なグリオーシスや虚血性傷害によりびまん性に組織が疎となり、海綿状態を示すいわゆる不全軟化も白質高信号を示す。
1D-企画2-3
うつ病における白質構造変化について~MRI-T2強調画像における白質高信号とDiffusion tensor imageとの関連~
浅見 剛,平安 良雄
横浜市立大学精神医学教室

脳画像技術の著しい発展により、精神疾患における脳画像研究が盛んになっている。とりわけMR装置を用いた脳画像研究に関する報告数は飛躍的に増え、疾患における特徴的な変化も報告されるようになってきている。うつ病ではT2強調画像において高信号を示す脳領域の存在が指摘されており、特に、高齢初発のうつ病では、脳室周囲や前頭葉深部白質領域において、有意にその頻度が高く発現していることが分かってきている。また、これらの白質領域の変化が多ければ多いほど治療抵抗性となることも報告されている。近年では白質構造の評価のためにDiffusion tensor image(DTI)を用いた解析が主流になってきている。これは水分子の動きを可視化し、Fractional anisotropy(FA)などの指標を用いて群間差を検討する技術である。一貫した結果が得られているとは言えないものの、若年のうつ病では前頭前野や頭頂葉領域などにおいてFAの低下が認められたこと、一方で、高齢者のうつ病では前頭前野を中心に側頭葉領域などでもFAの低下が認められたことが報告されている。また、前頭葉のFAが低ければ低いほど罹患期間が長かったという報告もある。先行研究では、上述の2つの技術(T2強調画像、DTI)に関して個別に報告されているものが多いが、最近の研究ではT2強調画像における深部白質領域の高信号とDTIとの関連を述べた報告も散見されるようになってきている。本シンポジウムでは、うつ病におけるT2強調画像・深部白質領域の高信号の臨床的意義、DTI研究の意義と成果、今後の画像研究の展望について概括したい。
1D-企画2-4
大脳白質梗塞治療法開発の試み―血管内皮細胞を利用して―
石崎 泰樹
群馬大院・院・医・分子細胞生物

中高年初発うつ病では、大脳深部白質の高信号がしばしば認められ、虚血性梗塞による脱髄変化を反映していると考えられている。この脱髄変化の治療法が開発されれば、中高年初発うつ病の予防法や治療法の開発に繋がる可能性が考えられる。我々はラット大脳内包にエンドセリン1注射で白質梗塞を誘導し、その脱髄部位にラット大脳から調製した微小血管内皮細胞を移植すると、脱髄軸索の再髄鞘化が劇的に促進されることを見出した(Puentes et al., 2012)。また血管内皮細胞移植によって脱髄巣周辺のオリゴデンドロサイト前駆細胞数が増加すること、この増加が細胞増殖促進ではなく細胞死抑制によるものであることを明らかにした(Iijima et al., 2015)。さらに血管内皮細胞の培養上清中に含まれる細胞外小胞(エクソソーム)には、オリゴデンドロサイト前駆細胞の生存・増殖・運動能を有意に促進する活性があることを見出した。細胞外小胞に含まれる責任分子の同定により、中高年初発うつ病に対する有効な治療戦略構築が促進されることが期待される。