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一般(口演)
ジェノミクス、エピジェネティクス、非コードRNA
1C-一般1-1
統合失調症の高解像度ゲノムコピー数変異解析
久島 周1,2,アレクシッチ ブランコ2,中杤 昌弘3,島村 徹平4,椎野 智子2,吉見 陽2,木村 大樹2,高崎 悠登2,Wang Chenyao2,Xing Jingrui2,石塚 佳奈子2,大矢 友子2,岡田 俊2,山本 敏充4,新井 誠5,糸川 昌成5,Chen Chia-Hsiang6,鈴木 道雄7,高橋 努7,橋本 亮太8,渡部 雄一郎9,染矢 俊幸9,池田 匡志10,岩田 仲生10,吉川 武男11,沼田 周助12,大森 哲郎12,國本 正子2,森 大輔2,尾崎 紀夫2
1名古屋大学 高等研究院,2名古屋大学 医学系研究科 精神医学,3名古屋大学医学部附属病院,4名古屋大学 医学系研究科,5東京都医学総合研究所,6長庚大学,7富山大学,8大阪大学,9新潟大学,10藤田保健衛生大学,11理化学研究所,12徳島大学

疫学研究から統合失調症の発症に遺伝要因が強く関与することが明らかになっているが、その詳細は未だ十分に明らかになっていない。本研究では、ゲノム変異の一種であるゲノムコピー数変異(copy number variation)が発症に関与するとの仮説を立て、ヒト染色体全体を高解像度で解析できるアレイCGHを用いて統合失調症患者と健常者、合わせて約2500名を解析した。その結果、発症に関与するCNVを患者全体の約9%で同定し、健常者よりも有意に頻度が高いことを明らかにした。興味深いことに、患者で同定したCNVには、統合失調症だけでなく、自閉スペクトラム症、知的能力障害などの神経発達症の発症に関与するものが多数含まれていた。発症に関わるCNVをもつ統合失調症患者では、その40%で発症前に先天性あるいは発達上の問題が確認され、また統合失調症の薬物治療に抵抗性を示す割合が有意に高いことも明らかにした。以上から、ゲノム解析が統合失調症の早期診断に役立ち、また治療反応性を予測できる可能性が示唆された。さらに、バイオインフォマティクスの手法を用いてCNVデータを詳しく解析し、統合失調症の病因には、既に報告されているシナプスやカルシウムシグナルの異常に加え、ゲノム(DNA)の不安定性が関与する可能性を示し、新しい発症メカニズムの一端を明らかにした。本研究は、世界医師会によるヘルシンキ宣言、文部科学省、厚生労働省による人を対象とする医学系研究に関する倫理指針、厚生労働省による「臨床研究に関する倫理指針」、厚生労働省および文部科学省による「疫学研究に関する倫理指針」、あるいは文部科学省、厚生労働省、経済産業省による「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」、および日本精神神経学会の「臨床における倫理綱領」等に記載された倫理規約に則し、発表にあたっては十分なインフォームド・コンセントを得て、プライバシーに関する守秘義務を遵守し、匿名性の保持に十分な配慮をした。
1C-一般1-2
統合失調症における末梢血白血球DRD2遺伝子メチル化率を用いた診断バイオマーカーの検討
吉野 祐太1,河邉 憲太郎1,森 蓉子1,山崎 聖広1,沼田 周助1,2,伊賀 淳一1,大森 哲郎2,上野 修一1
1愛媛大学大学院医学系研究科精神神経科学,2徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部

統合失調症はドパミン仮説を代表としグルタミン仮説、グリア仮説など種々の仮説が提唱され、それに基づき様々な研究が行われているが、バイオマーカーとして有用なものは少ない。DNAメチル化は、遺伝子発現に関わるため、統合失調症においてもエピジェネティックなマーカーとして注目されており、育児環境やタバコなどの環境要因の影響を受けるが、内服治療では変化しないとされるため、興味が持たれる。今回我々は末梢血白血球DNAのDRD2遺伝子上流のCpG部位のDNAメチル化を測定し、統合失調症での診断バイオマーカーとなるかを検討した。対象として、抗精神病薬服薬中の統合失調症患者50例、過去一度も服薬していない統合失調症患者18例、年齢を一致させた健常者対照者の末梢血白血球由来の遺伝子DNAを用いた。DRD2遺伝子上流、転写因子が結合するとされる7CpG部位のメチル化率を測定した。内服グループ【CpG2(p<0.0001),CpG4(p=0.013),CpG7(p<0.0001),average:12.9±1.8 vs 14.1±2.2(p=0.005)】、非内服グループ【CpG1(p=0.006),CpG2(p=0.001),CpG3(p=0.001),CpG5(p=0.02),CpG6(p=0.015),CpG7(p=0.027),average:9.86±0.9 vs 11.2±1.3(p=0.002)】ともに健常対照群と比較して、有意にメチル化率が低下していた。今回の解析から、薬物服用の有無にかかわらず末梢血白血球でのDRD2遺伝子のメチル化率が低下していることがわかった。統合失調症患者においてDRD2遺伝子上流の低メチル化率は診断のバイオマーカーとなりうることが示唆された。なお、本研究は愛媛大学医学部の「人を対象とする医学的研究に関する倫理的指針」(平成26年12月22日)に基づいた研究倫理委員会の承認を受けている。
1C-一般1-3
自閉症死後脳縫線核メチル化状態の網羅的解析
松崎 秀夫1,岩田 圭子1,中林 一彦2,中村 和彦3,秦 健一郎2,森 則夫4
1福井大学子どものこころの発達研究センター,2国立成育医療研究センター周産期病態研究部,3弘前大学医学部神経精神医学講座,4大阪大学大学院連合小児発達学研究科

自閉症スペクトラム(ASD)は、対人的相互作用やコミュニケーションの障害、興味・活動の限定された反復的常同的な行動様式によって特徴づけられる発達障害である。双生児を対象にした研究からASDは遺伝要因が強いと考えられ、多くの候補遺伝子が探索されてきたが、責任遺伝子の同定には至っていない。近年、ASDの遺伝性はこれまで見積もられていたよりも低く、むしろ環境要因がASDにより大きな影響を与えている可能性が報告された(Hallmayer et al, 2011)。環境要因はDNAメチル化やヒストン修飾に影響を与え、エピジェネティック過程は遺伝要因と環境要因のインターフェースと考えられている。ASDやその類縁疾患(Angelman症候群、Prader-Willi症候群、Rett症候群、脆弱X症候群など)では明らかな性差を認めることから、DNAメチル化制御を受けるゲノムインプリンティングやX染色体不活性化によって解釈を試みる例も現れている。従って脳内遺伝子のエピジェネティック過程がASDの病態に関与している可能性を考え、特にDNAメチル化についてASD死後脳での変化の有無を検証した。本研究ではAutism Tissue Program(プリンストン、米国)より入手したASD死後脳のうち、6名のASD男性および年齢がマッチする7名の定型発達男性の凍結死後脳の縫線核をえらび、抽出したゲノムDNAの約45万CpGサイトのメチル化レベルをInfinium HumanMethylation450 BeadsChip(illumina社製、米国)で測定した。その結果、ASD特異的に81CpGサイトのメチル化変化を見出した。そのうち44サイトのメチル化は有意に増加し、37サイトのメチル化は有意に減少していた。さらにこの中には、ASDとの関連が示唆されている複数の遺伝子(DAB1やGRIA1など)の領域が含まれていた。本研究で明らかにされたASD脳におけるDNAメチル化異常、特にASD関連遺伝子のDNAメチル化異常は、環境要因がASDの発症や病態にどのように関与しているかを解明する重要な手掛かりとなる。今後、個々のメチル化異常に関して詳細な検討も必要である。
1C-一般1-4
HDAC3阻害はマイクログリア・マクロファージの活性を制御して脊髄損傷を改善する
久保山 友晴1,2,Huang Yong2,Wong Jamie2,3,Koemeter-Cox Andrew2,Martini Michael2,Friedel Roland2,Zou Hongyan2
1富山大・和漢研・神経機能,2マウントサイナイ医科大学,3Tisch MS Research Center of New York

損傷した脊髄ではマクロファージ・マイクログリアが凝集する。脊髄損傷後は抗炎症性のマクロファージ・マイクログリア(M2細胞)に比べて炎症性のM1細胞が増加(M1/M2比の増加)する。その結果、軸索再生や組織修復が阻害され、運動機能障害が永続する。脊髄損傷後の回復にはマクロファージ・マイクログリアをM2側へシフトさせることが重要であると考えられるが、これを制御する薬物は未だ明らかになっていない。我々は、ヒストン脱アセチル化酵素3(HDAC3)が損傷部位、特にM1細胞の核内で増加していることを発見した。さらにM1細胞の核内ではM2細胞の核内に比べてアセチル化ヒストンH3およびH4の発現量が減少していた。脊髄損傷マウスにHDAC3選択的阻害剤RGFP966を投与すると、損傷部位内でM1/M2比が有意に減少し、軸索密度が増加し、運動機能が改善した。また培養マイクログリア細胞において、LPSを処置するとM1/M2比が増加するが、RGFP966を前処置することによりこの増加を抑制した。さらに培養マイクログリアにおいて、HDAC3ノックダウンにより、LPS誘発のM1/M2比の増加が抑制された。以上のことから、HDAC3阻害によるエピジェネティックな遺伝子発現制御により、マイクログリア・マクロファージはM2側へシフトし、その結果脊髄損傷における運動機能障害が改善されることが明らかになった。