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若手道場(大学院生口演、若手研究者口演)
グリア、ミエリン2
1G-道場4-1
酸化ストレス負荷によりアストロサイトにおけるP2X7受容体の機能的発現は減少する Oxidative stress decreases the functional expression of P2X7 receptors in astrocytes
古田 能裕,向井 あゆみ,山本 美菜,須藤 嵩史,大石 晃弘,西田 健太朗,長澤 一樹
京都薬科大学 衛生化学分野

【目的】P2X7受容体(P2X7R)は中枢神経系の情報伝達に重要な役割を担っている。これまでに我々はマウスアストロサイトのP2X7Rは無刺激条件下においても恒常的に活性化しており、それはアストロサイトのengulfing活性を制御することを明らかにした。さらにP2X7Rの機能的発現はそのsplice variantsとの共発現により制御され、これはマウスの情動制御に関与する可能性が示唆された。近年、気分障害の発症には酸化ストレスの関与が報告されている。しかしながら、アストロサイトに対する酸化ストレスの負荷がP2X7Rの機能的発現に影響するか否かは不明である。そこで今回、過酸化水素(H2O2)処理によりアストロサイトに酸化ストレスを負荷した際のP2X7Rの機能的発現が変動するか否かを検討した。【方法】ddY系マウス初代培養アストロサイトに対し、0.4 mM H2O2を24時間処理することにより細胞生存率に影響しないレベルで酸化ストレスを負荷した。P2X7Rの機能性はYO-PRO-1及びlatex beadの取り込みにより、その発現は免疫細胞染色、Western blot及びreal-time PCRにより評価した。【結果・考察】H2O2処理されたアストロサイトのYO-PRO-1及びlatex beadの取り込みはcontrol群と比較して有意に低かった。そこでタンパク質発現量を調べたところ、アストロサイトのP2X7R full lengthの総発現量はH2O2処理により変化しなかったが、その細胞膜における発現量は減少した。このとき、P2X7R full lengthのmRNA発現量はH2O2処理により減少したが、P2X7R splice variant-3及び-4のそれに変化はなかった。また、P2X7R安定発現細胞にそのsplice variantsを共発現させたところ、P2X7R full lengthの発現局在が細胞膜から細胞質へと変化した。以上より、アストロサイトへの酸化ストレス負荷はP2X7Rの機能的発現を減少させ、これは少なくとも一部、P2X7R splice variantsの相対的発現割合の増大が寄与することが示された。
1G-道場4-2
細胞外neuroleukinは脊髄損傷の運動機能障害を回復させる
谷江 良崇,田辺 紀生,久保山 友晴,東田 千尋
富山大学和漢医薬学総合研究所神経機能学分野

脊髄損傷では、交通事故や高所からの落下など脊髄組織に強い外力が加わり、脊髄の神経軸索が断裂する。それにより損傷部より下位の神経支配領域では、運動機能・感覚機能に障害が生じる。我々は、脊髄損傷の運動機能障害からの回復を図るには、損傷部における神経軸索の伸展を誘発させ、破綻した神経回路網の再構築が必要だと考えている。Neuroleukin(NLK)は、細胞内において解糖系に関与する酵素である一方、細胞外にも分泌される。分泌されたNLKは、神経保護作用を示すことが報告されており、神経栄養因子様の作用を持つことが予想されるが、その詳細は明らかになっていない。そこで本研究では、脊髄損傷に対するNLKの作用について検討した。ヒトrecombinant NLK(2 μg/mice)を脊髄損傷マウスの損傷部に単回注射したところ、溶媒投与群と比較して後肢運動機能の有意な回復が確認された。この結果から、NLKが軸索伸展促進因子として神経細胞に作用した可能性と、損傷部後に集積すると考えられるアストロサイトにも何らかの影響をもたらした可能性を考えた。そこで、NLK(100 ng/ml)を大脳皮質神経細胞(ddY mice,E14)に5日間処置したところ、溶媒処置と比較して軸索密度の有意な増加が確認された。さらにNLK(100 ng/ml)を脊髄アストロサイト(ddY mice,E14)に6日間処置した後、培養上清を得て大脳皮質神経細胞に処置したところ、軸索密度が有意に増加した。この培養上清中にはNLKの増加が認められた。以上、本研究は、細胞外NLKが脊髄損傷を改善することを初めて明らかとした。この作用には、NLKによる軸索伸展や、アストロサイトからのNLK分泌増加が関わっていると考えられる。