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若手道場(大学院生口演、若手研究者口演、学部学生口演)
イオンチャンネル、興奮膜、受容体、輸送体 突起進展、回路網形成
2D-道場1-1
海馬依存性記憶形成におけるT型カルシウムチャネルの関与
矢吹 悌1,松尾 和哉1,若森 実2,福永 浩司1
1東北大院・薬・薬理学,2東北大院・歯・口腔生理学

[目的]T型電位依存性カルシウムチャネル(T型カルシウムチャネル)は低閾値で活性化され、一過性に開口するカルシウムチャネルである。Cav3.1、Cav3.2およびCav3.3の3つのいサブタイプが存在し、睡眠やてんかん発作に関与している。しかし、記憶・学習におけるT型カルシウムチャネルの機能については不明である。本研究では海馬におけるT型カルシウムチャネル、Cav3.1の局在と私達が開発したT型カルシウムチャネル活性化薬SAK3を用いて、海馬のおけるシナプス伝達長期増強(LTP)発現とアセチルコリン遊離に対するチャネルの機能について検討した。[実験方法]マウス神経芽細胞Neuro2AにCav3.1、Cav3.2およびCav3.3を発現させ、whole-cell patch-clamp法により、SAK3の電気生理学的特性を調べた。急性マウス海馬スライス標本を作製し、CA1領域LTPに対するSAK3(100 pM)の促進作用を検討した。免疫組織化学的にCav3.1の海馬における局在を検討した。さらに、in vivoマイクロダイアリシス法により、海馬アセチルコリン遊離作用について検討した。[結果]Cav3.1およびCav3.3を過剰発現したNeuro2A細胞において、SAK3(100 pM)はT型カルシウム電流を促進した。しかし、Cav3.2の電流には影響しなかった。SAK3はT型カルシウム電流の活性化及び不活性化機構に影響しないことから、チャネルの開口頻度及び時間を亢進すると考えられる。海馬CA1領域におけるLTPの誘導に対して、SAK3(100 pM)は有意に促進した。この効果はCA1領域におけるCaMKII活性化とよく相関した。マウス海馬CA1領域において、Cav3.1は錐体ニューロン細胞体とアセチルコリン神経終末に局在し、SAK3(0.5 mg/kg,p.o.)急性投与により、海馬アセチルコリン遊離が促進した。このアセチルコリン遊離促進作用はT型カルシウムチャネル阻害薬で完全に消失した。[考察]本研究により、海馬におけるT型カルシウムチャネルはアセチルコリン神経終末に存在し、アセチルコリン遊離に関与することが明らかとなった。実際、SAK3(0.5 mg/kg,p.o.)急性投与は嗅球摘出マウスの記憶・学習障害を改善する。今後は、海馬CA1領域LTP発現におけるT型カルシウムチャネルの作用について解析し、海馬依存性記憶形成における役割を解明する。
2D-道場1-2
成長円錐におけるメカノセンサーTRPV2の活性化機構と軸索伸長を促す分子基盤
杉尾 翔太,石崎 泰樹,柴崎 貢志
群馬大院・医・分子細胞

これまでに我々は、熱センサーとして侵害刺激受容に関わることが報告されていたTRPV2がマウス胎仔において既に発現を開始しており、この時期には膜伸展刺激によって活性化し、発生期の脊髄運動神経や感覚神経の軸索伸長を促進させることを明らかにしている(柴崎ら、J Neurosci 2010)。今回、我々は機械刺激によるTRPV2活性化機構と軸索伸長を促す分子基盤を解析した。神経分化モデル細胞であるPC12細胞には内在性のTRPV2発現が認められなかったため、TRPV2をPC12細胞に導入し、コントロール群との形態の差を比較検討した。TRPV2導入群では、コントロール群に比べて軸索長が有意(約1.2倍)に増加した。TRPV2の細胞内局在を詳細に解析したところ、SurfaceTRPV2の分布は細胞体と比較し、成長円錐で4倍程度高く濃縮されていることを突き止めた。さらに成長円錐上のTRPV2は成長円錐運動に伴う膜伸展刺激に伴いダイナミックにその局在を変化させ、より機械刺激が負荷する領域へと集積する性質を持つことを見いだした。また、PC12細胞にActin-EGFP融合蛋白質を共発現させ、成長円錐の運動能を蛍光イメージング法で解析したところ、TRPV2導入群で成長円錐の運動性が向上することも見出した。これらの効果は、機械刺激を付加した環境下でより増強された。続いて、機械刺激依存的なTRPV2活性化がどのようなメカニズムを介して生じるのかを調べた。近年cryo-EMを用いたTRPV2結晶構造解析結果からTRPV2アンキリンドメインが細胞骨格と結合する可能性が示唆されている。そこで、我々が既にTRPV2が発現することを見いだしている(柴崎ら、J Neurosci 2010)マウス胎仔由来感覚神経を用いて免疫沈降実験を行った。その結果、TRPV2が細胞骨格であるアクチンと相互作用することが明らかになった。さらに、このアクチンとの相互作用が機械刺激依存的なTRPV2活性化にどのような影響を与えるのかを電気生理学的に調べた。成長円錐にホールセルパッチクランプを施し、機械刺激負荷により生じるTRPV2活性化電流を測定した。その結果、アクチン重合阻害剤の投与によってTRPV2とアクチンの相互連関を打ち消すことで、TRPV2活性化電流の有意な減少が認められた。以上の結果から、成長円錐における機械刺激依存的なTRPV2活性化には細胞骨格とTRPV2の相互作用が重要で、成長円錐の自発的運動や外界からの機械刺激などによって生じる細胞骨格の変動がTRPV2活性化を惹起し、細胞外からCa2+を流入させ、細胞内シグナリングが活性化することで細胞骨格の再編成(運動性)が亢進し、軸索伸長が促進する可能性を見いだした。