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若手道場(大学院生口演、若手研究者口演、学部学生口演)
ジェノミクス、エピジェネティクス、非コードRNA
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統合失調症における血漿CRP濃度のDNAメチル化修飾への影響検討研究
木下 誠,沼田 周助,井下 真利,大森 哲郎
徳島大学大学院医歯薬学研究部精神医学分野

【目的】統合失調症の病態仮説の一つに炎症仮説がある。我々は、近年、疫学観察研究のメタ解析により統合失調症群において高CRP血症を認めること、血漿CRPの高濃度と統合失調症の発病に因果関係があることを明らかにした(Inoshita et al.Sci Rep.2016)。DNAメチル化修飾は遺伝変異を伴わずに遺伝子発現に影響を与えるメカニズムで、近年精神科領域でも注目を浴びており、統合失調症患者の末梢組織におけるDNAメチル化修飾異常も複数報告されている(Kinoshita et al.Neuromolecular Med 2013、2014)。今回我々は、統合失調症患者から得た末梢血白血球を用いてゲノム網羅的DNAメチル化修飾解析を行い、血漿CRP濃度のDNAメチル化修飾への影響を検討した。【方法】39名の男性統合失調症患者(平均年齢51.31±6.69歳)から得た末梢血白血球を用いた。ゲノム網羅的メチル化修飾解析には、485577 CpG siteの解析が可能な、Illumina社Infinium HumanMethylation450BeadChipを用いた。DNAメチル化修飾はβ値(0~1)へと変換した。Rのminfiパッケージを用いて末梢血白血球の細胞分画を推定した。従属変数を標準化したDNAメチル化修飾、独立変数を血漿CRP濃度、年齢、クロルプロマジン換算後の抗精神病投与量、CD8T細胞、CD4T細胞、NK細胞、B細胞、単球、顆粒球とし、線形回帰分析を行った。有意水準はFDR q<0.05とした。本研究は徳島大学ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会の承認を得て行った。【結果】血漿CRP濃度のメチル化への影響を1635 CpG siteで認めた(FDR q<0.05)。【考察】我々は、統合失調症患者群において、血漿CRP濃度が特定の遺伝子の末梢血白血球のDNAメチル化修飾と関連している可能性を明らかにした。
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双極性障害および統合失調症患者末梢血で認められるSLC6A4プロモーターの高メチル化
池亀 天平1,文東 美紀2,菅原 裕子3,小池 伸介1,近藤 健治4,池田 匡志4,浅井 竜朗1,吉川 茜1,西村 文親1,河村 代志也5,垣内 千尋1,佐々木 司6,石郷岡 純7,岩田 仲生4,加藤 忠史8,笠井 清登1,岩本 和也2
1東京大学大学院医学系研究科精神医学,2熊本大学大学院生命科学研究部分子脳科学分野,3熊本大学大学院生命科学研究部精神神経医学分野,4藤田保健衛生大学医学部精神科,5湘南鎌倉総合病院精神科,6東京大学大学院教育学研究科健康教育学分野,7東京女子医科大学大学院医学系研究科精神医学分野,8理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チーム

セロトニントランスポーター(5-HTT)はシナプス間隙におけるセロトニン濃度調節に関わっており、精神疾患メカニズムに関連する重要な分子であると考えられている。5-HTTはSLC6A4遺伝子にコードされており、その発現はプロモーター領域におけるS型およびL型に分類される機能的多型領域(5-HTT gene-linked polymorphic region:5-HTTLPR)の影響を受ける。我々は、450例の双極性障害患者(bipolar disorder:BD)末梢血DNA試料を用いた症例対照DNAメチル化解析により、SLC6A4プロモーター領域内の特定のCpG部位(CpG3)が、S型および転写活性の低いL型サブタイプを持つ男性患者で有意に高メチル化していることを明らかにした。また、CpG3の高メチル化が転写活性能を著しく抑制することを見出し合わせて昨年度の年会で報告した。今回、我々は年齢・性別を適合させた440例の統合失調症患者(schizophrenia:SZ)末梢血DNA試料を用い同様の症例対照DNAメチル化解析を行ったところ、BD患者で見出されたのと同様にS型および転写活性の低いL型サブタイプを持つSZ患者で有意な高メチル化を確認した。以上より、もともと低活性のHTTLPR型を持つBD・SZ患者両群ではCpG3が高メチル化されることで、さらにSLC6A4の発現低下が引き起こされている可能性が示唆された。現在、SLC6A4プロモーター内のDNAメチル化状態が末梢血細胞種毎に異なるかを検証しており、本年会ではその一部を合わせて紹介したい。なお、試料提供者に対しては、事前に研究の意義、目的、方法、不利益とそれに対する配慮を十分に説明し、書面による同意を得たうえで、個人情報は厳重に管理している。本研究は東京大学医学部倫理委員会による承認を得ている。
2D-道場2-3
非定型精神病多発家系の次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析
岡山 達志1,金沢 徹文1,2,橋口 康之3,菊山 裕貴1,2,米田 博1,2
1大阪医科大・医・神経精神医学,2大阪精神医学研究所 新阿武山病院,3大阪医科大・医・生物学教室

遺伝子解析技術は飛躍的な進歩を遂げている。制限酵素を用いて得た一塩基多型の同定からGWAS、 CGH array、WES(Whole Exome Sequence)を経て現在は1000ドルで一個人の全ゲノム解析(WGS:Whole Genome Sequene)ができる時代が視野に入ってきている。次世代シークエンサー(NGS:Next-Generation Sequence)を使ったこの技術が一般化されることにより、精密な疾患感受性遺伝変異の同定のみならずオーダーメード医療やゲノム創薬が期待されている。当科では教室開設以来非定型精神病(Atypical Psychosis)の生物学的研究、なかでもその疾患提唱の基盤となった遺伝研究を続けてきた。非定型精神病は遺伝負因が高く、遺伝研究に適している。我々は以前に非定型精神病のGWASを行い、top hitの多型の一つであるrs2736172が6番染色体上のMHC領域で検出されたこと、非定型精神病の遺伝情報は二大精神病のうちより統合失調症に近接することを報告している。現在我々は近畿圏在住の非定型精神病が多発する3家系を対象にWGSを行っている。東北メディカル・メガバンク機構によるJapaneseの正常者WGSデータを参照配列として、非定型精神病罹患者から得られたWGSデータをマッピングし、その相違を検証する。そうして得られた候補遺伝変異についてJapaneseの他の精神疾患罹患者のGWASやWGSデータとの比較を行うことで、疾患寄与率の高い疾患感受性遺伝変異の絞り込みを行う。発表当日はデータの詳細について報告する。