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若手道場(大学院生口演、若手研究者口演、学部学生口演)
グリア、ミエリン
2F-道場2-1
ラットパーキンソン病モデルにおける大脳基底核出力部でのマイクログリアの活性化とシナプス貪食によるドーパミン神経細胞死の代償メカニズム Microglial cells in the basal ganglia outputs may participate in compensation for dopaminergic neuron loss in Parkinsonism by eliminating glutamatergic synapses
宮西 和也,武田 遥奈,檜垣 ひろみ,EM チョウドリー,矢野 元,田中 潤也
愛媛大院・医・分子細胞生理

黒質緻密部ドーパミン神経細胞の半数以上が変性脱落しなければ、パーキンソン病症状は現れないとされる。この説明として、神経細胞による代償メカニズムが提唱されてきたが、十分な説明になっていない。今回我々は、6-ヒドロキシドーパミン線条体注入によるラットパーキンソン病モデル脳でのマイクログリア活性化を観察した。マイクログリアの活性化は、神経細胞死の生じる黒質緻密部より生じない網様部で顕著であった。網様部の活性化マイクログリアは、貪食性マイクログリアマーカーのCD68とNG2コンドロイチン硫酸プロテオグリカンを発現していた。活性化マイクログリアの集積部位では、シナプシンIとPSD95の免疫反応性が減弱していた。ウエスタンブロッティングや定量的RT-PCRにより、中脳腹側でシナプスおよび代謝型グルタミン酸受容体mGluR1、mGluR4、NMDA受容体2Dの減少が確認された。mGluR1免疫反応の減弱は、活性化マイクログリアの集積部位に一致して観察され、その免疫反応がマイクログリア細胞質で検出された。また、そのファゴソーム内にシナプトフィジン免疫反応を認めた。順行性トレーサーとして視床下核に赤色蛍光色素DiIを注入すると、2日後にDiI蛍光が淡蒼球と網様部マイクログリア細胞質において確認できた。これら活性化マイクログリアのファゴソーム内には、NMDAR2D免疫反応がDiIとともに局在していた。培養マイクログリアはグルタミン酸負荷により、貪食能が亢進し、デキサメサゾンはグルタミン酸の作用を打ち消した。パーキンソン病モデルラットにデキサメサゾンを皮下投与すると、パーキンソン病症状が悪化した。【結論】パーキンソン病病態においては、過活動になる視床下核グルタミン酸作動性神経細胞が症状出現に寄与する。しかし、過剰に放出されるグルタミン酸が網様部・淡蒼球のマイクログリアを活性化させる結果、グルタミン酸作動性シナプスの貪食除去が起こる。これは一種のネガティブ・フィードバック制御であり、症状発現を遅らせる機序の一つと考えられる。
2F-道場2-2
睡眠―覚醒リズムに関するマイクログリア関与の可能性;青斑核ノルアドレナリンとの関連
武田 遥奈,エマムッセライン チョードリ,宮西 和也,矢野 元,田中 潤也
愛媛大院・医・分子細胞生理

私たちは、正常成熟ラット大脳皮質のマイクログリア細胞体が入眠時(7AM)に大きく、覚醒時(7PM)に小さくなる日内変動を示すことを観察した。貪食関連分子、メタロプロテアーゼ(MMPs)、Eat-me signal関連分子の大脳皮質での発現は7AMに高く、また、シナプス関連タンパクが減少していた。共焦点顕微鏡により、7AMでマイクログリアのCD68陽性ファゴソーム内にシナプトフィジン陽性反応が検出され、CD11b/Synapsin1二重陽性である面積は7AMで有意に増加していた。以上の結果は、マイクログリアが入眠時に貪食により、シナプスを減少させることを示唆する。マイクログリアに日内変動を生じさせる因子について、青斑核から大脳皮質へのノルアドレナリン(NA)投射に着目し、培養実験を行った。グルタミン酸(Glu)をラット一次培養マイクログリアに負荷するとMMPsと貪食関連マーカーmRNAの発現が上昇、赤色蛍光微粒子PKH26の取り込みが上昇したが、NAはGluの効果を消失させた。また、HPLCによって大脳皮質のNA濃度を測定したところ、5PMで最も高い明瞭なサーカディアンリズムを示した。以上のことから、大脳皮質でのマイクログリアの日内変動には、GluとNAが関与すると考えられた。そこで、脳内NA濃度を低下させるレセルピン、マイクログリア活性化を抑制する合成グルココルチコイド、デキサメサゾンをラットに投与し、脳波測定を行った。その結果、レセルピンはラットの睡眠時間を増加させ、デキサメサゾンは減少させた。また、CD11bを使った免疫染色により、マイクログリアの細胞面積はレセルピン投与により増加し、デキサメサゾン投与では減少した。以上の結果より、マイクログリアは定常的にシナプス間隙より漏れ出すグルタミン酸により弱い活性化状態にあり、サーカディアンリズムを持つNAがこれを打ち消す。その結果マイクログリアによるシナプス貪食に日内変動を生じさせる可能性が示唆された。我々は、これが睡眠覚醒リズム形成や記憶の定着の一端を担う過程なのではないかと考え、更なる検討を進めている。