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一般(口演)
グリア、ミエリン 神経系の発生・再生、神経幹・前駆細胞と細胞分化
3B-一般-1
てんかんと1型ミクログリア
川原 浩一,前田 武彦
新潟薬科大学・薬・薬効薬理

我々はこれまでに、ラット1型ミクログリアに対するモノクローナル抗体9F5を開発してきた(特許第4815610号,2011-09-09)。最近我々は、9F5抗体の抗原分子の同定、ならびにその抗原分子の遺伝子ノックアウト(KO)マウスの解析を行った。免疫沈降法、N末端アミノ酸シークエンサー、ならびに遺伝子発現系の実験手法により解析した結果、9F5の抗原分子は、170番目のLysから始まる1型膜貫通タンパク質GPNMB/osteoactivinであった(Kawahara et al., Glia, under revision)。その169番目と170番目を切断する酵素を解析したところ、furin様proteaseが切断酵素である可能性が高いことが判明した。また、IL-12で1型ミクログリアを処理したところ、furinタンパク質が発現増大するとともに、9F5抗原量も増大した。9F5抗原は、正常ラット眼に高発現しており、何らかの生理的機能が示唆された。Gpnmb KOマウスを観察したところ、生後10月齢~25月齢において、ケージ交換の際に「てんかん」を発症するマウスがいた(13匹中3匹観察された)。しかしながら、発症率が低いため、再現性を注意深くみる必要がある。また、てんかん誘発剤を用いて、KOマウスと野生型マウスで発症率に差が出るか調べる必要がある。アルツハイマー病モデルマウス(APP23)で観察されるてんかん様症状と比べ、KOマウスのてんかん様症状は重篤でなかった。すなわち、APP23マウスはてんかんを発症すると、数日~1週間後に死亡したが、KOマウスは、ケージ交換時に時々1~2分間てんかん様症状を呈するものの、生存し続けた。GPNMB陽性1型ミクログリアは、てんかんと関連することが示唆された。
3B-一般-2
ミクログリアにおけるmilk fat globule EGF factor 8を介したamyloid βの取込
河邊 憲司,高野 桂,森山 光章,中村 洋一
大阪府立大院・生命環境科学・獣医

“eat me signal”であるphosphatidylserine(PS)を認識する4つの系の中でもmilk fat globule EGF factor 8(MFG-E8)を介在蛋白質とするPS受容体/MFG-E8/PSの系がamyloid β(Aβ)で刺激されたミクログリアによるニューロン貪食に関与することが報告されている。また,ニューロン/ミクログリア共培養系にMFG-E8をAβと共に添加することにより,ミクログリアによるAβ取込が上昇してニューロン死が抑制されるという報告もある。一方,アストロサイトにもMFG-E8の発現が確認されているが,その作用は調べられておらず,中枢におけるMFG-E8の作用には不明な点が多い。
常法により培養したミクログリアとアストロサイトをAβで刺激し,MFG-E8の発現やAβ取込を比較した。MFG-E8はミクログリアに比べアストロサイトに強く発現していることが免疫染色法により明らかとなった。次に,western blottingにより両者を比較すると,ミクログリアではMFG-E8の長型(56 kDa)のみの発現であったのに対し,アストロサイトでは長型以外に短型(50 kDa)も発現していることが確認できた。また,ミクログリアにアストロサイトのコンディションドメディウムを添加するとミクログリアのMFG-E8発現が上昇した。Aβ凝集体(100 nM,37℃,7日間静置)でミクログリアとアストロサイトを24時間刺激したところ,両者ともMFG-E8発現の程度に変化はなかった。ニューロン/グリア細胞混合培養系にAβ(100 nM,用時調製)を3日間添加し免疫染色を行ったところ,Aβはミクログリアに取込まれ,AβとMFG-E8が共局在している像が観察された。
これらの結果から,中枢においてはアストロサイトがMFG-E8の主要な産生細胞であり,放出されたMFG-E8をミクログリアが利用してAβ凝集体を除去していることが示唆された。アルツハイマー病においても,ミクログリアはMFG-E8を介して神経保護的に働く可能性がある。
3B-一般-3
Erratic migration:a unique migratory behavior of astrocyte progenitors
田畑 秀典1,2,佐々木 恵2,稲熊 裕1,伊東 秀記1,竹林 浩秀3,依馬 正次4,池中 一裕5,永田 浩一1,仲嶋 一範2
1愛知県心身障害者コロニー・発達障害研・神経制御,2慶應大・医・解剖,3新潟大・院・医歯学・総合神経生物,4滋賀医大・動物生命科学研究セ,5生理研・分子神経

During cerebral cortical development, neurons and glia are produced directly or indirectly from neural stem cells in the ventricular zone and migrate to their final destinations. Although the migratory process and its molecular mechanisms of cortical neurons are well described, those of glial progenitors are largely unknown. During our observations of the cells migrating from the cortical ventricular zone, we have noticed that some cells moved in a very unique manner that had not been previously described:these cells moved very rapidly and almost randomly within the intermediate zone and the cortical plate and frequently divided. We named this migration“erratic migration”. The lineage analyses of them both in vitro and in vivo revealed that they were astrocyte progenitors destined for cortical gray matter. Interestingly, these cells frequently migrated along blood vessels, which are running radially in the cortical plate during the embryonic and perinatal stages, and reached superficial layers of the cortical plate. The molecular mechanism of the blood vessel-guided migration will be discussed.
3B-一般-4
Cdk5はId2リン酸化を介して神経分化を制御する Cdk5 regulates neuronal differentiation through Id2 phosphorylation
斎藤 太郎,比佐 稔典,安藤 香奈絵
首都大学東京・理工学研究科・生命科学専攻

 脳の発生においては神経とグリアの細胞運命が正しく決定されることが必須である。精密な脳の構造が完成するために、多くの転写因子とその制御因子による遺伝子発現、またそれらを調節する細胞内シグナル伝達系が協調して働くことで、細胞の増殖・分化が制御されている。特にbasic helix-loop-helix(bHLH)型転写因子は神経幹細胞からの神経分化に重要な役割を果たすことが知られている。しかし、それらを制御する細胞内シグナリングについてはよく分かっていない。Cyclin-dependent kinase 5(Cdk5)は哺乳動物の脳形成に必須であり、神経分化を促進することが示されているが、その働きについてはよく分かっていない。最近、発表者らはbHLH型転写因子の抑制因子であるInhibitor of DNA binding/differentiation(Id)の一つ、Id2の発現が、神経細胞内でCdk5により促進されることを見つけた。今回、Cdk5によるId2の機能調節と、その神経分化制御における役割についてさらに検討した。まず、Cdk5によりId2がリン酸化される可能性を新しいリン酸化解析技術であるphos-tag SDS-PAGEを用いて調べた。マウス神経芽細胞腫Neuro2a細胞にId2と活性化型Cdk5を共発現させると、Id2のリン酸化が増加したことから、Cdk5によるId2のリン酸化が示唆された。変異体を用いた解析から、Cdk5によるId2のリン酸化部位はSer5であることを同定した。このId2のSer5のリン酸化はマウス初代培養神経細胞でも見られた。次にCdk5によるSer5のリン酸化の機能を検討したが、神経細胞内におけるId2のタンパク質の安定性、転写因子E2Aとの結合、Id2の核局在には影響は見られなかった。一方、Id2の過剰発現により神経細胞数が増加したが、Ser5の非リン酸化変異体ではこれが見られず、Cdk5によるId2のリン酸化が神経幹細胞の増殖・分化を制御している可能性が示唆された。