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一般(口演)
ストレス その他
3C-一般-1
精神的ストレスに対するバイオマーカーとしての血清中脳型脂肪酸結合タンパク質の検討
古賀 農人,中川 伸,若槻 百美,北川 寛,加藤 亜紀子,久住 一郎
北海道大院・医・精神医学分野

統合失調症や双極性障害、うつ病といった精神疾患において診断補助に有用な決定的なバイオマーカーは存在せず、また、その責任器官が脳であることから生体検査はほぼ不可能である。この問題に対して、肝疾患に対する血清γ-GTP活性のように本来発現する細胞種から逸脱して細胞外で検出される性質の分子の同定が一つの突破口となると考えられるが、精神疾患と関連が認められるこのような特性を持つ分子は今のところ報告されていない。既報の研究結果から血清中脳型脂肪酸結合タンパク質(B・FABP)がアルツハイマー型認知症や脳梗塞患者における血清中の濃度上昇が認められ神経変性疾患や脳血管障害のマーカーとしての有用性が示された。しかしながら、B・FABPの精神疾患における関与は報告されていない。発表者が最近行った拘束ストレスによる抑うつ状態を形成したモデルマウスにおける血清中B・FABP濃度を解析したところ、明らかな神経変性あるいは脳組織の障害が引き起こされない精神的ストレスによっても血清中の濃度の上昇が認められた(ストレス負荷群、35.1±13.5pg/mL;対照群0.0±11.7pg/mL、t-test p=0.0042)。また、経時的な動態を分析したところ、繰り返されるストレスに応じて血清中濃度の上昇が認められ、蓄積する精神的ストレスを評価可能であることが示唆された。これらのことから血清中B・FABPが精神疾患の発症や再発の予測などの診断補助に有用なバイオマーカーになる可能性が考えられた。また、少数例ではあるが、統合失調症、双極性障害及びうつ病患者の血液におけるB・FABP濃度を測定したところ、対照群と比較して概ね上昇していた。B・FABPを精神疾患のマーカーとして確立することを目指して、今後は各疾患の病期や臨床評価尺度との相関について検証し、血清中B・FABP濃度の変化が示す病態との相関を明らかにする必要がある。本研究における動物実験に関しては動物の愛護及び管理に関する法律及び北海道大学動物実験に関する規程に従って、必要な承認を得た上で行われた。また、ヒト検体を用いる研究は北海道大学病院の医の倫理委員会の承認を得た上で行われた。
3C-一般-2
疲労によって誘導されるウイルス因子が関与するうつ病発症メカニズムの解明
岡 直美,小林 伸行,高橋 麻弓,嶋田 和也,近藤 一博
東京慈恵会医科大学 ウイルス学講座

【目的】近年、疲労やストレスによるうつ病が大きな社会問題となっている。しかし、疲労やストレスがうつ病の発症に寄与するメカニズムは明らかになっていない。私たちはHHV-6が疲労やストレス依存的に再活性化し、唾液中に分泌されることを発見した。さらに、HHV-6がアストロサイト特異的に発現するタンパク質SITH-1を同定し、うつ病患者は血清中の抗SITH-1抗体価が高いことを発見した。このことから、SITH-1タンパク質はうつ病に関連すると考えられるが、その作用機序は未だ明らかではない。そこで私たちは、唾液中に分泌されたHHV-6がうつ病を発症させるメカニズムを解明することを目的とした。【方法】アストロサイト特異的発現プロモーターであるGFAPプロモーターの下流にSITH-1コード領域を組み込んだアデノウイルスベクター(SITH-1/Adv)を構築し、マウスの鼻腔に投与した。対照は組み換えていないアデノウイルスベクター(control/Adv)を用いた。投与から1週間後に、尾懸垂試験(TST)を行い、TSTの24時間後に嗅球、脳を採取した。嗅球・脳のRNAを精製し、うつ病およびアポトーシスに関連する因子のmRNA量をreal-time RT-PCRで定量した。【結果】SITH-1/Adv投与マウスはうつ病様行動を示し、この行動は抗うつ薬SSRIの投与によって抑制された。SITH-1/Adv投与マウスの遺伝子発現を調べたところ、脳内においてCRHの発現が優位に増加していた。また、嗅球におけるBcl-2の発現が低下しており、TUNEL染色で上顎部切片を染色した結果、嗅球での染色が確認された。【結論】以上の結果から、唾液中に分泌されたHHV-6は嗅上皮細胞に感染し、嗅球のアポトーシスを誘導することで、うつ病様行動を引き起こす可能性が示唆された。
3C-一般-3
抑うつエピソードを自発的に繰り返すモデルマウスのエピソード発現頻度に関わる内的要因
笠原 和起,加藤 忠史
理研・脳センター・精神疾患動態研究チーム

ミトコンドリア病患者において気分障害が高頻度でみられることから、メンデル型遺伝性ミトコンドリア病の原因遺伝子の変異体を神経特異的に発現する変異マウスを作製した。この変異マウスの行動量を半年間という長期間にわたって観察し続けたところ、しばしば2~3週間の低活動エピソードを示すことを見出した。この低活動期間の行動や生理を詳細に調べ、DSM-5の抑うつエピソードの診断基準を満たすことを明らかにした。この自発的な抑うつエピソードは、半年間の観察中に約7割のモデルマウスが経験し、複数回のエピソードを発症する個体もいてエピソード頻度は平均1.0回/半年/匹であった。このモデルマウスを用いて創薬やエピソード依存的な生理変化・脳内変化の研究を行いたいが、エピソード頻度が低く、また予測不能なので、実験が困難な状況である。つまり、エピソード頻度を高めることができたら、またエピソード発現の要因を明らかにすることができたら、気分エピソードに関する理解や創薬が進むだろう。我々は数十匹のマウスを同時に測定することが多いが、複数匹が同時にエピソードを発症することはほとんどなく、床敷きの交換や気圧の変化、地震等の外的要因によってエピソードが引き起こされているとは考えにくい。このエピソードは実はメスマウスでのみ観察され、オスや卵巣を摘除したモデルマウスはエピソード性の行動変化を示さない。このことから性ホルモンがエピソード発症や頻度に影響を与えていると考えられた。我々はマウスのコルチコステロン(CORT)を長期間にわたって測定するため、糞を数日おきに回収して糞中のホルモンを定量する方法を開発し、抑うつエピソードの期間に特異的にCORTが増加することを見出した。ただし、行動量が低下し始めた日よりも3日ほど遅れてCORTが増加し始めた。そこで、性ホルモンであり、副腎皮質におけるCORT前駆体であるプロゲステロン(PROG)に注目して糞中濃度を定量したところ、行動量が低下し始めた日か、それよりも早く増加していた。また、エピソード中の増加率もPROGの方がCORTよりも非常に大きかった。PROGは卵巣の黄体や胎盤から分泌されるホルモンとして知られているが、男性や雄性マウスでも検出される。前述の卵巣を摘除したモデルマウスも、糞中PROGの量は減少した(ただし、統計学的に有意な変化ではなかった)。そこで、PROG受容体選択的アゴニストを長期投与したところ、エピソード頻度が4.5倍に増加した。投与中の糞中ホルモンについては、PROGは変化しなかったが、CORTは増加していた。これらの結果から、卵巣や副腎皮質から分泌されるPROGを介したシグナル伝達が、CORTの合成分泌の増加や抑うつエピソードの発症に関わっている可能性が示唆された。
3C-一般-4
D-セリンおよびD-セリン割合と統合失調症陰性症状の関連
石渡 小百合1,2,服部 功太郎1,3,篠山 大明1,寺石 俊也1,宮川 友子3,横田 悠季3,松村 亮3,太田 深秀1,西川 徹2,功刀 浩1
1国立精神・神経医療研究センター 疾病三部,2東京医科歯科大・精神行動,3国立・精神神経医療研究センター トランスレーショナル・メディカルセンター

D-セリンは、NMDA型グルタミン酸受容体(NMDA受容体)の生理活性化に不可欠な内在性のコ・アゴニストであり、統合失調症の脳で推測されている本受容体機能低下との関連が注目されている。すなわち、統合失調症患者の血漿、血清および脳脊髄液(CSF)中のD-セリン濃度の減少が報告されている。しかし、これらの結果に関しては研究者間での不一致も多い。そこで我々は、健常者と統合失調症患者のCSFおよび血漿を用い、D-セリンとD-セリンの前駆体であるL-セリン濃度を、高速液体クロマトグラフィーで測定した。さらに、これらのアミノ酸と症状との関連を検討した。
対象は統合失調症患者27例および年齢、性がマッチした健常者27例である。健常者群と比較して統合失調症患者群の血漿中D-セリン量は、有意に減少していた(P=0.04)。一方、CSF中のD-セリン、L-セリン量およびD-セリン比(全セリン濃度に対するD型セリン濃度の割合)には有意な変化は認められなかった。次に、統合失調症の評価尺度の一つであるPositive and Negative Syndrome Scale(PANSS)とD-セリン濃度あるいはD-セリン比との関連を検討した。その結果、PANSS negative scoreと、血漿およびCSF中のD-セリン比に逆相関(血漿:R=-0.4,P=0.049,CSF:R=-0.6,P=0.001)が認められたが、PANSS positiveおよびgeneral psychopathology scoreとの間に関連は見られなかった。一方、D-セリン濃度とPANSS各種項目には相関はなかった。血漿、CSFともに、D-セリン濃度もしくはD-セリン比と、クロルプロマジン換算値の間に相関は認められていない。
今回の研究では、統合失調症患者では血漿およびCSF中のD-セリン比がPANSS Negative scoreと逆相関し、陰性症状が重度であるほどD-セリン比が低いことが初めて明らかとなった。服薬の影響をさらに検討する必要があるが、この結果は、統合失調症の陰性症状の病態にD-セリンとL-セリンのバランスの変化が関与する可能性が示唆された。