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若手道場(大学院生口演、若手研究者口演)
神経免疫、神経内分泌、栄養因子、サイトカイン 神経系の代謝
3F-道場-1
活性化ペリサイト研究を促進する新規ヒト不死化脳ペリサイト
梅原 健太1,孫 雨晨1,北村 啓太1,日浦 智史3,濱田 孝樹3,伊藤 素行3,安西 尚彦2,千葉 寛1,秋田 英万1,降幡 知巳1,2
1千葉大学大学院薬学研究院 薬物学研究室,2千葉大学大学院医学研究院 薬理学研究室,3千葉大学大学院薬学研究院 生化学研究室

【背景・目的】脳血管ペリサイトは、脳毛細血管内皮細胞に接着して存在しており、血液脳関門の機能恒常性維持に重要な役割を担っている。一方、炎症性刺激により脳ペリサイトが活性化して様々な炎症性サイトカインを放出することや、その増殖能や運動性が亢進することも近年報告されている。したがって、活性化脳ペリサイトは様々な中枢神経疾患の発症・進展に関与すると考えられるが、その詳細については明らかとなっていない。そこで本研究では、汎用性に優れた新たなヒト不死化脳ペリサイト(immortalized human brain vascular pericyte、iHBVP)を樹立し、その活性化脳ペリサイトモデルとしての有用性を明らかとすることを目的とした。
【方法】iHBVPはヒト初代培養脳ペリサイトへ不死化遺伝子を導入することにより作製した。活性化脳ペリサイトモデルは、炎症性サイトカイン(TNF-αおよびIL-1β)の曝露により構築した。細胞増殖能は細胞計数により、各種遺伝子発現は、RT-PCR、定量的PCR、および細胞免疫染色法により解析した。
【結果・考察】細胞不死化により得られたiHBVPは優れた増殖能を示し、かつ長期継代培養も可能であった。また、iHBVPにはPDGFR-βやNG2など複数の代表的なペリサイトマーカーのmRNAが発現しており、またこれらのタンパク質発現も認められた。そこで、iHBVPの炎症性刺激に対する活性化能を明らかとするため、TNF-αおよびIL-1βの曝露実験をおこなったところ、いずれのサイトカイン曝露時においてもiHBVPの増殖能の亢進が認められた。さらに、IL-1β暴露時ではCCL 5およびIL8 mRNA発現量が2.8倍および3.0倍に、TNF-α暴露時では、それぞれ31.0倍および15.7倍に増加した。以上より、本研究で樹立した新規iHBVPは、汎用性に優れたヒト脳ペリサイトモデルであり、さらに炎症性刺激に対する活性化能を有することが明らかとなった。したがって、iHBVPは活性化脳ペリサイトの機能解明を促進する新たなツールであると期待される。
3F-道場-2
軸索での加齢依存的なATP量減少とミトコンドリア分布の関係
岡 未来子1,鈴木 えみ子2,3,久永 眞市1,飯島 浩一4,5,安藤 香奈絵1
1首都大学東京大学院理工学研究科生命科学,2国立遺伝学研究所,3総合研究大学院大学生命科学研究科,4国立長寿医療研究センターアルツハイマー病研究部,5名古屋市立大学薬学部大学院薬学研究科

神経細胞の機能は、その極性に富んだ構造のため、エネルギー供給源が適切に分布することよって維持されている。エネルギー通貨ATPは、細胞質での解糖系とミトコンドリアによる酸化的リン酸化によって産生されている。局所的なエネルギー需要を満たすために、解糖系酵素は神経突起の隅々にまで拡散により分布し、またミトコンドリアは細胞体から軸索へ活発に輸送されている。認知や学習などの脳高次機能は加齢により低下するが、それには局所的なエネルギー恒常性の破綻が関与するのではないかと考えられている。ミトコンドリアの機能や軸索輸送は、加齢に伴って低下することが知られている。しかし、加齢によって神経細胞内の局所的なATP量がどう変化するか、またその変化がミトコンドリアと解糖系どちらの変化によるのかは、よくわかっていない。今回我々は、ショウジョウバエの脳で、神経軸索でのATP量が、加齢によってどう変化するかを調べた。局所的なATP量を測定するために、FRETを利用したATPバイオセンサーを神経細胞内で発現させた。解析は、細胞体(Kenyon Cell)、樹状突起(Calyx)、軸索(Lobe)の構造が区別しやすいキノコ体(Mushroom Body)で行った。若年ハエ(羽化5日目)と老年ハエ(羽化30日目)のATP量を比較したところ、細胞体、樹状突起、軸索全ての領域において、ATP量が加齢依存的に減少することがわかった。次に我々は、この加齢依存的なATP量の減少が、ミトコンドリアの変化によるものなのかを調べるために、軸索からミトコンドリアを減少させたトランスジェニックショウジョウバエモデルを用いた。これは、ミトコンドリアの軸索輸送モーターへのアダプタータンパク質であるmiltonをノックダウンすることで、軸索のみでミトコンドリアが減少している。野生型とmiltonをノックダウンしたハエを比較すると、若年時の軸索でATP量が減少していた。興味深いことに、miltonノックダウンの軸索では、加齢してもそれ以上にATPが減少することはなかった。一方細胞体では、miltonノックダウンでも、野生型と同様に加齢に伴ってATP量は減少した。これらの結果は、軸索での加齢依存的なATP量の減少が、軸索ミトコンドリアの減少または機能低下によるという可能性を示唆している。軸索でのミトコンドリアの減少や機能低下は、アルツハイマー病などの加齢性神経変性疾患の患者脳で報告されており、その発症原因の一つであることが示唆されている。今回の結果から、ミトコンドリアの分布が加齢に対するエネルギー恒常性維持に重要な役割を持つことが示唆された。今後、加齢に伴う疾患リスクが増加する機構とエネルギー恒常性の関連について検討していく予定である。