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一般、大学院生、若手研究者(ポスター)
シナプスの形成、シナプスの成熟、シナプスの可塑性、細胞内・細胞間、情報伝達、変換、修飾
P-019(2)
kirrel3遺伝子欠損マウスは注意欠陥・多動性障害(ADHD)を伴う自閉症様行動を示すDeletion of kirrel3 gene in mice causes autistic-like behaviors with ADHD-like behaviors
久岡 朋子1,小森 忠祐1,形部 裕昭1,北村 俊雄2,森川 吉博1
1和歌山県立医大・医・第二解剖,2東京大・医科研・先端医療研究センター・細胞療法分野

免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであるkirrel3は中枢神経系や感覚器官などに発現していることが知られている。最近、kirrel3遺伝子の変異や欠損がヒトの自閉症(Michaelson et al., Cell 151, 2012;Guerin et al., Am J Med Genet 158A, 2012)や知的障害(Bhalla et al., Am J Hum Genet 83, 2008)に関連することが報告されたが、kirrel3遺伝子異常がこれらの神経発達障害を惹起する分子メカニズムは不明である。以前に我々は、kirrel3遺伝子が海馬歯状回の顆粒細胞や小脳のバスケット細胞などに強く発現していることを報告しており、今回、これらの細胞におけるkirrel3蛋白の細胞内局在を免疫染色法により検討した。その結果、海馬顆粒細胞や小脳バスケット細胞の軸索終末でkirrel3蛋白の強い発現がみられたことから、kirrel3がシナプス部で機能している可能性が示唆された。さらに、kirrel3遺伝子ホモ欠損(kirrel3-/-)マウスが神経発達障害の表現型を示すかを検討するために、行動学的解析を行った。3チャンバー社会的相互作用テストを行なった結果、kirrel3-/-マウスは社会的相互作用に異常はみられなかったが、社会認知機能が野生型と比較して低下していた。成獣間での超音波発声の解析によりコミュニケーション機能を検討したところ、kirrel3-/-マウスは超音波発声の回数が低下していた。オープンフィールドテストにおいては、kirrel3-/-マウスでは多動と常同行動がみられ、音声驚愕反射では、音刺激に対する過剰反応がみられた。これらの結果から、kirrel3-/-マウスは、社会的行動やコミュニケーション機能の障害、常同行動、知覚異常(聴覚過敏)といった自閉症様行動に加えて、多動という注意欠陥・多動性障害(ADHD)様行動を伴う自閉症のモデルマウスとなることが示唆された。
P-020(2)
An attempt to establish a synapse imaging-based in vitro evaluation system to predict adverse effects of new drugs on cognition
清水 英雄1,2,小針 彩奈3,須知 由未子3,関口 敬洋3,花村 健次4,白尾 智明4,田辺 光男3,関野 祐子2,佐藤 薫2
1AMED・臨床研究治験基盤事業・規制科学臨床研究支援,2国衛研・薬理,3北里大・薬・薬理,4群馬大・院医・神経薬理

In the preclinical stage of the drug development, the parameters reflecting irreversible changes such as cell death and neurite retraction are used in the in vitro evaluations of adverse effects(AEs)on the central nervous system(CNS). However, most of CNS AEs precede such irreversible changes. We therefore are attempting to establish novel in vitro parameters to predict the CNS AEs especially focusing on the adverse effects on cognition. For this purpose, we focused on drebrin, an actin-binding protein, which clusters within spine heads of functional synapses. Drebrin forms a unique stable actin structure and facilitates the accumulation of other postsynaptic proteins in dendritic spines. After immunostaining, we quantified the number of drebrin clusters inside the circle having a radius of 20 μm from the cell body, the dendritic area(in 1259.52 μm×1259.52 μm), and the number of survived cells(in the same area as the dendritic area). We first treated cultured hippocampal neurons with L-glutamate(L-Glu)(10 nM-100 μM)for 24 hr at 21 days in vitro. L-Glu decreased these parameters in a concentration dependent manner and EC50s for drebrin cluster, neurite retraction and cell death were 191, 589, and 2818 nM, respectively, indicating the decrease in the number of drebin clusters surely precede neurite retraction and cell death. We then treated 21-day-cultured hippocampal neurons with the drugs which have already reported to cause cognitive impairment(diazepam, triazolam and zolpidem tartrate). Triazolam had no effects on these three parameters. On the other hand, both of diazepam and zolpidem tartrate decreased the numbers of drebrin clusters in a concentration dependent manner. EC50s of diazepam and zolpidem tartrate were 51.81 nM and 27.57 nM, respectively. These data have a trend similar to incidences of AEs relating to cognition such as drowsiness. These results suggest that the parameter that we have determined based on the number of drebrin clusters can be applied to the in vitro evaluation to predict adverse effects of new drugs on cognition.
P-021(2)
ドーパミン罰信号がスパイン形態可塑性と学習に作用する時間枠
中里 亮介,飯野 祐介,柳下 祥,河西 春郎
東京大院・医・疾工・構造生理

条件づけ学習は知覚入力を報酬や罰と連合する過程であるが、知覚入力の数秒以内の時間枠で報酬や罰が与えられないと効率的に学習しない。脳内で定常発火しているドーパミン(DA)神経は報酬・罰によって一過性に発火がそれぞれ上昇・抑制され、この信号が側坐核に投射し可塑性を通して学習を引き起こすと考えられてきた。報酬・罰が作用できる時間枠に対応したドーパミン作用の時間枠は長らく不明であったが、我々は最近、側坐核のD1受容体発現中型有棘細胞のスパインがDAの一過性上昇を秒単位の時間枠で検出し、スパイン頭部増大(シナプス可塑性)を引き起こすことを発見した(Science, 2014)。一方罰による学習には側坐核のD2受容体発現中型有棘細胞(D2MSN)の関与が知られているが、実際にD2MSNが罰信号であるDA一過性減少を検出して可塑性を起こすかは不明である。我々は側坐核の2つの細胞種からシナプス可塑性に基づく学習基盤の全貌理解を目指し、DA罰信号によるD2MSNの可塑性機構を検証した。
側坐核脳スライスではDA神経の定常的な発火は消失しているので、光遺伝学によりスライス上でDA神経軸索を定常的に刺激しDAを放出させ、さらに一過性に刺激を停止することでDA罰信号を模倣する系を構築した。次にDA罰信号がD2MSNのスパイン頭部増大を引き起こす時間枠があるか、2光子グルタミン酸アンケージング法による単一スパイン刺激とDA罰信号模倣系を組み合わせて検証した。その結果、DA一過性抑制をグルタミン酸刺激と同時に起こすとスパイン頭部増大が観察され、4秒程度の時間枠になければ可塑性は生じないことが分かってきた。今後、この時間枠を形成する分子機序を調査する。このスライスでのDA罰信号の時間枠依存的な可塑性と罰による動物個体の学習を対応させるため、罰頭部固定下で罰によるパブロフ条件づけを行う系を新規に構築した。その結果、音の1秒後に罰を与えると学習が起こるのに対し、音の1秒前に罰を与えると学習はほとんど起きないことから、秒単位の罰学習時間枠が存在することが示唆された。今後、時間枠を詳細に調べ、スライスでの時間枠や分子基盤との対応をとる。
P-022(2)
デルタ型グルタミン酸受容体サブユニット機能とその量的関連
中本 千尋1,川村 名子1,夏目 里恵1,阿部 学1,渡辺 雅彦2,崎村 建司1
1新潟大学院・脳研究所・細胞神経生物学,2北海道大学院医学研究科解剖発生学

デルタ型グルタミン酸受容体は、アミノ酸の相同性からイオン透過型グルタミン酸受容体に分類されていたが、イオン透過能がなくその機能は長い間不明だった。この受容体はGluD1とGluD2の2種類のサブユニットから構成され、GluD2は小脳プルキンエ細胞に非常に高い発現を示す一方、GluD1は大脳皮質や海馬などに広範囲に発現していた。GluD2はプルキンエ細胞のポスト側に発現し、平行線維―プルキンエ細胞シナプスにおいてCbln1を介してシナプスの細胞接着因子としてシナプス形成とその維持に必須であることが報告されている。他方GluD1は、統合失調症や自閉症、双極性障害のリスク因子であり、そのことを反映するGluD1-KOマウスは、多動や不安の低下、社会性の低下、うつ様行動などの情動異常を示すことが報告されてきた。我々は、GluD1とGluD2の量的な関係を明らかにするために、キメラタンパク質を用いた定量的ウエスタンブロット法により、脳の各部位と細胞画分でGluD1およびGluD2タンパク質の量を測定した。その結果、小脳においてGluD2はGluD1の10倍以上発現しているのに対し、大脳皮質および海馬ではGluD1とほぼ等量に発現していた。各脳部位におけるデルタ型グルタミン酸受容体の機能を明らかにするため、高次脳機能解析に適したC57BL/6N系統由来ES細胞株RENKAよりGluD1-およびGluD2-floxedマウスを作製した。GluD1-full KOマウスを作製し各行動解析をおこなった結果、これまで報告されている129系統由来ES細胞より樹立されたGluD1-KOマウスに比べその情動異常の程度は軽かった。このGluD1-KOマウスの表現型の違いは遺伝的背景の差異を反映している可能性が示唆される。さらに脳部位特異的なGluDサブユニット-KOマウスの解析結果についても報告する。
P-023(2)
培養視床下部神経細胞におけるCaMキナーゼファミリーによるPYK2の活性化反応
山本 秀幸,仲嶺 三代美,澳津 志帆,鳥原 英嗣
琉球大学大学院医学研究科生化学講座

私達は、視床下部神経細胞由来のGT1-7細胞を用いて、G蛋白質共役受容体(GPCR)の一つであるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)受容体の刺激によるERKの活性化にCaMキナーゼIIδ2が関与することを見いだした1)。今回、ERKの活性化に関与する細胞内情報伝達機構について詳細に検討した。阻害剤とsiRNAを用いた実験から、CaMキナーゼIIδ2に加えてDキナーゼ1(PKD1)も関与することが明らかになった2)。GT1-7細胞ではFynが恒常的に活性化されていたが、GnRH受容体刺激によりFynによるPYK2の活性化が認められた。このPYK2の活性化がCaMキナーゼIIδ2とPKD1の阻害剤とsiRNAによって阻害された。さらに、siRNAを用いた実験からPYK2の活性化はERKの活性化を促進することが明らかになった。これらの結果は、CaMキナーゼファミリーに属するCaMキナーゼIIとPKD1が、PYK2の活性化を介して、ERKを活性化させることを示唆している。1)Yamanaka et al., Arch. Biochem. Biophys., 2007, 234-241.2)Higa-Nakamine et al., J. Biol. Chem., 2015, 25974-25985.
P-024(2)
統合失調症におけるGABA神経細胞に蓄積するDNAダメージ
塩飽 裕紀,西川 徹
東京医科歯科大学大学院 精神行動医科学分野

統合失調症は幻覚妄想とともに、進行する陰性症状や認知機能低下を呈し、その進行して蓄積する病態の解明が必要である。我々はNMDA受容体阻害薬であるphencyclidineやMK-801の投与による統合失調症のモデルマウスを用いて、統合失調症におけるDNAダメージの蓄積を解析した。その結果、特にGABA神経細胞でDNAダメージが蓄積することを見出した。その結果としてGABA神経細胞の転写活性が下がることが予想され、実際複数の遺伝子のGABA神経細胞での発現低下が確認された。GABA神経細胞のDNAダメージの蓄積には脳部位の差もあり、特に海馬でのDNAダメージの蓄積が顕著であった。これらの結果に一致したGABA神経細胞の活動変化を示唆する所見も得られている。統合失調症ではGABA神経細胞の機能不全が指摘されてきたが、どのようにして機能不全に至るかの詳細は不明であった。本研究でNMDA受容体の機能低下によって、GABA神経細胞にDNAダメージが蓄積することにより、GABA神経細胞の機能不全が進行することが示唆された。