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一般、大学院生、若手研究者(ポスター)
神経細胞死、アポトーシス
P-046(1)
抗精神病薬の抗酸化活性および放射線誘発アポトーシス抑制効果について
伊藤 博子1,趙 慶利2,近藤 隆2,上原 隆3,鈴木 道雄1,倉知 正佳4,5
1富山大学・医・神経精神医学,2富山大学・医・放射線基礎医学,3金沢医科大学・精神神経科学,4有沢橋病院,5会津医療センター

昨年の本会で放射線をOHラジカル(.OH)発生源として利用し、1)水溶液系における抗精神病薬の.OH消去活性、2)細胞内で.OHおよび他の活性酸素種(ROS)の消去活性、3)放射線誘発アポトーシスに対する抑制効果について調べ、.OHとの反応速度定数はリスペリドン<ハロぺリドール<クロザピン<アリピプラゾール<オランザピンの順に高く、放射線照射直後の細胞内ROS消去活性は、オランザピンで優れること、照射6時間後のアポトーシス抑制効果はクロザピンが顕著であることを報告した。本研究ではクロザピンのアポトーシス抑制効果に注目し、その分子メカニズムについて検討した。アポトーシスモデル細胞としてヒトリンパ腫細胞U937を使用した。放射線としてX線(線量、10Gy)を使用した。照射6時間後にウエスタンブロット法により、アポトーシス関連分子を、2時間後にJNKおよびp38の発現を調べた。比較として、オランザピンについても調べた。アポトーシス関連蛋白質(Bax,Bid,cleaved caspase-8,および-3)を調べたところ、放射線照射群とクロザピン添加群に差はなかった。HSP70,Bip,p38の発現にも差はなかった。一方で、JNKは併用群で低下傾向を示した。従って、クロザピンによるアポトーシス抑制効果はカスパーゼ非依存性経路によるものと思われ、照射後の細胞死の様式を含め、現在、その機序について検討中であり、本大会ではこれらの結果を踏まえて、発表を予定している。
P-047(1)
双極性障害患者死後脳を用いた視床室傍部におけるチトクロームc酸化酵素陰性細胞の検討
窪田-坂下 美恵1,Turecki Gustavo2,磯野 蕗子1,加藤 忠史1
1理研・脳センター・精神疾患動態,2Douglas Mental Health Institute, McGill University, Quebec, Canada

[目的]双極性障害(BD)とミトコンドリア機能障害の関連性を検討する目的として、ミトコンドリアDNA(mtDNA)欠失をパラフィン固定組織標本において個々の細胞で検出するため、ミトコンドリア局在タンパク質に対する免疫組織化学的染色法を用いた方法を用い、9例のBD患者視床室傍部におけるミトコンドリア障害細胞の有無を検討した。
[方法]欠失ミトコンドリアDNA(mtDNA)が神経細胞に蓄積するトランスジェニックマウスにおいて、mtDNA欠失が多く蓄積していたことから、視床室傍核に標的領域を絞って検討した。ヒト視床室傍核については、領域を特定する適切なマーカーが存在しない。そのため、視床室傍部、基底核を含むパラフィン連続切片(4μ厚)を用い、アセチルコリンエステラーゼ、カルレチニン抗体染色により、両染色法で陽性となる細胞が存在する領域について解析した。ミトコンドリア呼吸鎖に局在するチトクロームc酸化酵素(cytochrome c oxidase:COX)低下はmtDNA欠失の影響として高頻度に検出される。一方、コハク酸脱水素酵素(succinate dehydrogenase:SDH)は呼吸鎖複合体蛋白質であるが、核DNAにコードされるため、mtDNA欠失の影響を反映しない。よって、抗COX抗体、抗SDH抗体による免疫組織化学的二重染色を行い、COX陰性、かつSDH陽性細胞をミトコンドリア障害細胞として探索した。
[結果]対照群9例、BD患者9例のうち、BD患者4例、対照群2例において、視床室傍部にCOX陰性細胞の存在を認めた。以前の研究からミトコンドリア遺伝子発現に影響しないとされているpH6.4以上のサンプルは、患者3例のみであり、pHによる影響ではないことが示唆された。
[結論]pH6.4以上のサンプルでは、8例のうち、3例のBD患者の視床室傍部においてCOX陰性細胞を認めた。6例の対照群には認められなかった。視床室傍部COX陰性細胞とBDの関連性は、例数を増やして確認する必要がある。本研究は、理化学研究所和光第一研究倫理委員会の承認を得て行った。
P-048(1)
PTSDの病態形成過程におけるGlucocorticoid Receptor(GR)活性化を介したBcl-2/Bax遺伝子の発現変化の検討(The changes of gene expression of the Bcl-2/Bax gene via glucocorticoid receptor activation in the pathophysiology of PTSD)
長嶋 信行1,淵上 学1,宮城 達博1,荒木 基亮1,大村 淳1,野嶌 真士2,片岡 努3,岡田 怜2,森信 繁4,山脇 成人1
1広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 応用生命科学部門 精神神経医科学,2国立病院機構 賀茂精神医療センター,3県立広島病院 精神神経科,4高知大学医学部 神経精神科学教室

外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)は、重篤なストレスに遭遇後1か月以後に診断される疾患であり、そのような環境因が発症に緊密に関連し、かつ経時的に変動する症状経過からはストレスによる脳内遺伝子の発現変動が病態の基盤にあると推測される。一方で、モデル動物を用いた脳局所の破壊実験や神経活動操作実験から、PTSDの病態形成に内側前頭前野や海馬の神経可塑性の障害が関与することが指摘されている。特に、海馬はPTSD患者のMRI研究においても萎縮が報告されている。また、ストレス負荷による海馬の萎縮のメカニズムとして、「GRの活性化を介したアポトーシス制御機構のホメオスターシス障害(抑制因子・Bcl-2/促進因子・Baxの相対的低下)」という機構が提唱されている。これらの知見から、PTSDの病態形成過程において海馬では、GR系の亢進に引き続いてアポトーシス関連遺伝子の発現変動が引き起こされ、アポトーシスの増加と海馬全体としての萎縮がもたらされることが想定され、モデル動物でストレス負荷1週後にBcl-2/Baxが最も低下し、アポトーシスが促進されるという報告もある。本研究ではPTSDの病態形成の契機を解明することを目的に、PTSDの臨床病像と類似した行動や神経生理・内分泌障害を示すsingle prolonged stress(SPS)パラダイムを用い、ストレス負荷後急性期におけるGRの核内移行、Bcl-2とBax遺伝子のプロモーター領域へのGR結合、GR活性化を介したBcl-2、Bax遺伝子の発現変化を検討した。まず、SPS負荷1、2、4時間後に海馬を摘出し、核内のGRをwestern blot法で定量した。核内GRは、SPS負荷2時間後において最も有意に増加していた。また、SPS負荷2時間後においてBcl-2とBaxのmRNA発現の比(Bcl-2/Bax)も有意に低下していた。当日は、ChIP-qPCRによる両遺伝子のプロモーター領域へのGR結合の解析や、Bcl-2・Baxタンパクの経時的変動も併せて報告する予定である。
P-049(1)
Effects of ER stress modulators on Caspase3-dependent apoptosis in NG108-15 cell
須賀 圭,齋藤 綾子,小野―中川 理沙,真田 ますみ,寺尾 安生,赤川 公朗
杏林大学医学部細胞生理学教室

Endoplasmic reticulum(ER)stress has been implicated in neurodegenerative diseases such as Alzheimer's disease(AD). We have been focusing on the neuronal function of ER-Golgi soluble N-ethylmaleimide-sensitive factor-attachment protein receptors(ER-Golgi SNAREs). We previously demonstrated that manipulation of Syntaxin5(Syx5)protein causes changes in the Golgi morphology and processing of AD-related proteins such as β-amyloid precursor protein(βAPP). We also showed that ER stress upregulates de novo synthesis of ER-Golgi SNAREs Syntaxin5(Syx5)and Bet1 in Neuroblastoma-Glioma hybrid cell line NG108-15(Suga K. et al., Exp. Cell Res., 2015). In addition, while ER stress caused the reduction of β-amyloid peptide(Aβ peptide)secretion during the adaptive stage of the response, knockdown of Syx5 proteins enhanced the secretion of Aβ. Furthermore, reduction in Aβ secretion by ER stress was significantly suppressed by Syx5 knock down. Importantly, caspase3 has been identified as a key mediator of neuronal cell death, and it has been implicated that caspase3 is a potential target for pharmacological therapy during early stages of AD. Here, we used long term real time imaging technique to analyze the effect of various toxins and reagents inducing ER stress on the caspase3-dependent apoptosis of neuronal cells. We show that sustained ER stress promotes caspase3-dependent apoptosis in NG108-15 cells. We found that ER stress caused upregulation of Syx5 proteins, and apoptosis induction using Staurosporine caused down regulation of Syx5 proteins due to the degradation by activated Caspase-3. In addition, we present here the effects of chemical compounds which modulate different sites in ER stress signaling on caspase3-dependent apoptosis.
P-050(1)
過栄養食が神経変性疾患モデルショウジョウバエの神経変性を増悪する分子メカニズムの探索
鈴木 マリ1,2,Neumann Anne-Marie2,斉藤 勇二2,藤掛 伸宏2,和田 圭司2,永井 義隆1,2
1大阪大学医学系研究科 神経難病認知症探索治療学,2国立精神・神経医療研究センター神経研究所 疾病研究第四部

近年、糖尿病がアルツハイマー病(AD)の発症リスクとなることが示され、食餌やエネルギー代謝異常が神経変性疾患の発症・進行に関与する可能性が考えられている。一方、多くの神経変性疾患では原因タンパク質がミスフォールディング・凝集して毒性を引き起こすという共通の分子メカニズムが考えられているが、AD以外の神経変性疾患における食餌の影響やその分子メカニズムは不明である。そこで、多数の神経変性疾患モデルが確立され遺伝学的解析に優れるショウジョウバエを用いて、食餌が神経変性に及ぼす影響とその分子メカニズムを検討した。まず、Aβ42を発現するADモデル、ポリグルタミン(polyQ)病モデルおよびTDP-43を発現する前頭側頭葉変性症モデルショウジョウバエを低栄養餌または高栄養餌で飼育し、それらの表現型を評価した。その結果、上記すべての疾患モデルにおいて高栄養餌飼育による運動機能障害、寿命短縮および複眼変性の増悪が認められた。アポトーシス誘導タンパク質の発現による複眼変性は栄養条件の影響を受けなかったことから、高栄養餌の影響は凝集性タンパク質による神経変性に特異的であることが示唆された。また、PolyQ病モデルショウジョウバエでは高栄養餌により凝集体が顕著に増加したが、蛋白質発現量には大きな変化がなかった。続いて、全身エネルギー代謝調節に重要であるインスリン様シグナルに着目して遺伝学的解析を行った結果、哺乳類insulin receptor substrateのホモログであるchico遺伝子変異やインスリン様ペプチド結合蛋白質のホモログであるImpL2のノックダウンにより、神経変性に対する食餌の影響が相殺されることがわかった。以上から、高栄養餌による神経変性の増悪には、インスリン様シグナルが関与することが示唆された。
P-051(1)
ドパミン神経細胞死におけるミトコンドリア融合阻害因子p13の役割
新谷 紀人1,2,井上 直紀1,池田 和哉1,東 信太朗1,Scorrano Luca2,笠井 淳司1,早田 敦子1,4,馬場 明道1,4,橋本 均1,3
1大阪大院・薬,2パドヴァ大・生物学,3大阪大・金沢大・浜松医科大・千葉大・福井大・連合小児発達,4兵庫医療大・薬

近年、パーキンソン病などの神経変性疾患とミトコンドリアの形態変化との関連が注目されている。我々は近年、ミトコンドリアを断片化させる分子量約13kDaの分子を同定し、そのin vitro,in vivoにおける機能解明を進めている。本研究では、本分子の培養細胞における機能特性とドパミン神経細胞死における役割を解析した。まずCOS-7細胞の過剰発現系における検討を行ったところ、p13は蛋白質のN末のシグナル配列を利用してミトコンドリアの内部に局在すること、ミトコンドリア同士の融合を阻害することでミトコンドリアの形態を断片化させることが明らかになった。一方、ドパミン神経系の細胞株であるSHSY-5Y細胞を用いた検討では、ミトコンドリア呼吸鎖阻害剤の神経毒であるロテノンによってp13のmRNA発現が減少することや、ロテノンによって誘発される本細胞の細胞死が、p13の過剰発現で増悪する一方、ノックダウンでは抑制されることが明らかになった。またロテノンによって誘発される活性酸素種の増加やミトコンドリア膜電位の低下に関しても、p13が関与することが示された。これらの結果から、p13は少なくともロテノンで誘発されるSH-SY5Y細胞の細胞死に対して促進的に関与することが明らかとなり、パーキンソン病等の新たな創薬標的となる可能性が示された。