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一般、大学院生、若手研究者(ポスター)
ジェノミクス、エピジェネティクス、非コードRNA、神経系の代謝
P-102(3)
統合失調症罹患同胞対・両親3家系のエクソーム解析および3段階関連解析
布川 綾子1,2,渡部 雄一郎1,澁谷 雅子1,池田 匡志3,菱本 明豊4,近藤 健治3,江川 純1,金子 尚史1,2,村竹 辰之1,5,齊藤 竹生3,岡崎 賢志4,島崎 愛夕3,井桁 裕文1,井上 絵美子1,保谷 智史1,須貝 拓朗1,曽良 一郎4,岩田 仲生3,染矢 俊幸1
1新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野,2大島病院,3藤田保健衛生大学医学部精神医学,4神戸大学大学院医学研究科精神医学分野,5古町心療クリニック

【はじめに】
統合失調症の多発罹患家系には、その発症に大きな効果をもつ稀なリスク変異が存在する可能性が高いと考えられる。今回我々は、統合失調症の発症に大きな影響力をもつ稀なリスク変異を同定するために、罹患同胞対・両親3家系のエクソーム解析および3段階関連解析を行った。
【倫理的配慮】
本研究は全参加施設の倫理委員会で承認されており、対象者からは書面にて研究参加の同意を得た。
【エクソーム解析】
統合失調症罹患同胞対・両親3家系、計12人のゲノムDNAから作製されたエクソームライブラリをHiSeq2000でシーケンスし、各家系内で罹患同胞2人が共有する稀な短縮型(ナンセンスおよびフレームシフト)変異を15個同定した。
【関連解析】
15個の短縮型変異のうちTaqMan法によるタイピングが可能だった13個の変異について、3つの症例・対照サンプル(計2617対2396)を用いた3段階関連解析を行った。1次サンプルでは4個の変異が症例群に多く認められた。これらの変異を2次サンプルでタイピングしたところ、いずれも症例群に多く認められ、さらに3次サンプルでタイピングした。しかし、これら4個の変異と統合失調症との関連は、全サンプルにおいても有意ではなかった。
【結論】
統合失調症罹患同胞対・両親3家系のエクソーム解析により同定された稀な短縮型変異が統合失調症の発症に関与している可能性は支持されなかった。
P-103(3)
向精神薬の薬理ゲノム学的研究:クロザピンの薬理ゲノム学的研究
齋藤 竹生1,池田 匡志1,莚田 泰誠2,大関 健志2,近藤 健治1,島崎 愛夕1,川瀬 康平1,山森 英長3,安田 由華3,藤本 美智子3,橋本 亮太3,4,岩田 仲生1,日本クロザピン 薬理ゲノム学コンソーシアム3
1藤田保健衛生大学医学部精神神経科学,2理化学研究所統合生命医科学研究センターファーマコゲノミクス研究グループ,3大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室,4大阪大学大学院連合小児発達学研究科附属子どものこころの分子統御機構研究センター疾患関連分子解析部門大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学講座精神医学教室

<背景>精神科における薬理遺伝学・ゲノム学では、向精神病薬の副作用に関わる遺伝子多型や治療反応性に関わる遺伝子多型の検討がなされている。クロザピン(CLZ)は治療抵抗性統合失調症に対して唯一適応のある抗精神病薬であるため、本邦での普及が望まれているが、CLZ誘発性無顆粒球症・顆粒球減少症という重篤な副作用を認めることなどから、治療抵抗性統合失調症の1%ほどにしか使用されていない。この副作用に対する、薬理ゲノム学的研究がなされ、遺伝的リスクとして、HLA-B*59:01(オッズ比=10.7)が同定された(Saito et al. 2016, Biol Psychiatry)。この成功は安全なCLZ投与方法を構築するための基盤となる可能性がある。同様にCLZの治療反応性を予測する、大きな効果量を持った遺伝子多型を同定することがでれば、CLZのより適正な使用と普及につながる可能性がある。そこで本研究では、CLZ治療反応性に関わる遺伝子多型を同定することを目的に、日本人を対象とした全ゲノム関連解析を施行した。<方法>416名(男性230名、女性189名)のCLZ治療患者を対象とした。治療に対する反応の評価はClinical Global Impression-Improvementで行い、CLZ投与後に「1:著名改善」、「2:中等度改善」と評価されたものを治療反応群(ケース:285名)と定義し、それ以外を治療非反応群(コントロール:131名)として、全ゲノム関連解析(Illumina HumanOmniExpressExome)を行った。本研究は、十分なインフォームド・コンセントを得て、プライバシーに関する守秘義務を遵守し、匿名性の保持に十分な配慮をして行った。<結果>全ゲノム関連解析の結果、最も低いP値を示したSNPでも、P値は10-6レベルであり、確定的有意水準を下回るSNPは同定されなかった(有意水準P<5×10-8)。<考察>本研究における全ゲノム関連解析では、CLZ治療反応性を予測する遺伝子多型は同定することはできなかった。本研究結果より、CLZ治療反応性の予測においては、CLZ誘発性無顆粒球症・顆粒球減少症の遺伝的リスクのような大きな効果量をもつ遺伝子多型は存在する可能性が低いと考えられた。しかし、サンプル数が少ない為に、より小さな効果量をもつ遺伝子多型を見逃している可能性は否定できない。したがって治療反応性を予測する遺伝子多型の同定のためには、今後より多くのサンプルを用いた検討を行うことが必要である。
P-104(3)
UNC13B遺伝子の稀な変異と統合失調症の発症リスク
渡部 雄一郎1,江川 純1,保谷 智史1,布川 綾子1,澁谷 雅子1,池田 匡志2,井上 絵美子1,奥田 修二郎3,近藤 健治2,齊藤 竹生2,金子 尚史1,村竹 辰之1,井桁 裕文1,岩田 仲生2,染矢 俊幸1
1新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野,2藤田保健衛生大学医学部精神科,3新潟大学大学院医歯学総合研究科バイオインフォーマティクス分野

【はじめに】統合失調症の発症に大きな影響を与えるリスク遺伝子が存在する場合には、家系内に多くの罹患者が認められる可能性が高いと考えられる。したがって、効果の大きなリスク遺伝子を同定するためには、多発罹患家系を用いたエクソーム解析を行うことが重要である。そこで今回われわれは、日本人統合失調症多発罹患家系のエクソーム解析およびフォローアップ解析を行った。
【倫理的配慮】本研究は新潟大学医学部および共同研究機関の遺伝子倫理審査委員会により承認されており、対象者からは書面にて研究参加の同意を得た。
【エクソーム解析】統合失調症罹患者が10人存在する多発家系内の15人(罹患者6人、非罹患者8人、罹患状態不明者1人)からゲノムDNAの提供を受けた。罹患者2人と非罹患者1人のゲノムDNAから作製されたエクソームライブラリをHiSeq2000でシーケンスした。フィルタリングにより6個の候補リスク変異が選択され、これらを家系内の15人においてサンガーシーケンスしたところ4個は存在が確認された。その中でUNC13B遺伝子V1525M変異は、罹患者5人に認められた一方、非罹患者8人と罹患状態不明者1人には存在せず、最も良く疾患と共分離していた。
【フォローアップ解析】UNC13B遺伝子のタンパク質コード領域(39エクソン)を、多発罹患家系内の15人および両親サンプルが利用可能な統合失調症患者111人でリシーケンスし、5個の稀なミスセンス変異(T103M、M813T、P1349T、I1362T、V1525M)を同定した。これらの変異を2つの症例・対照サンプル(計1753対1602)でタイピングしたが、統合失調症との有意な関連は認められなかった。
【結論】UNC13B遺伝子の稀なミスセンス変異が、統合失調症の発症に大きな効果をもつ可能性は支持されなかった。
P-105(3)
遺伝子発現を用いたうつ病マーカーの疾患特異性の検証
渡部 真也1,沼田 周助1,石井 一夫2,大森 哲郎1
1徳島大学院医歯薬学研究部精神医学分野,2東京農工大学農学府・農学部

【目的】うつ病は生涯有病率が6.5%のcommon diseaseであるが、うつ病の診断は面接に基づいており客観的な診断バイオマーカーは未だ確立されていない。このような状況の中、早期発見と治療導入を促進する簡便で侵襲の少ない診断マーカーの確立は、急務の課題である。これまでに、我々は末梢血白血球中の5つ遺伝子(PDGFC,SLC6A4,ARHGAP24,PRNP,HDAC5)の発現量を組み合わせて判別分析を行い、うつ病群と対照群の2群の区別が可能であることを見出した(感度80%、特異度92%)(Watanabe et al. J Psychiatr Res. 2015)。本研究では、我々の見出したうつ病マーカーの疾患特異性ついて検証を行った。【方法】統合失調症患者18名、双極性障害患者36名について、うつ病の診断マーカーとして用いた5遺伝子の末梢血白血球中の発現をPCR-arrayで定量した。つづいて、これまで測定したうつ病患者25名と健常対象者25名の結果とあわせて判別分析を実施し、うつ病群が他群(統合失調症群と双極性障害群と健常対照群)から弁別可能の検討を判別分析法で行った。【結果】うつ病患者群と他群の弁別は、感度:76%,特異度94.8%であった。【結論】他の精神疾患サンプルを加えることにより、うつ病群の検出感度の低下を認めた。今後、遺伝子発現マーカーの組み換えを行い、より精度の高いうつ病マーカーの開発を行っていく。
P-106(3)
Hippocampal microRNA-124 enhances chronic stress resilience in mice
樋口 文宏,内田 周作,山形 弘隆,渡辺 義文
山口大院・医・高次脳機能病態学分野

Chronic stress-induced aberrant gene expression in the brain and subsequent dysfunctional neuronal plasticity has been implicated in the etiology and pathophysiology of mood disorders. In this study, we examined if altered expression of small regulatory non-coding microRNAs(miRNAs)contributes to the depression-like behaviors and aberrant neuronal plasticity associated with chronic stress. Mice exposed to chronic ultra-mild stress(CUMS)exhibited increased depression-like behaviors as well as reduced hippocampal expression of the brain-enriched miRNA-124(miR-124). Aberrant behaviors and dysregulated miR-124 expression were blocked by chronic treatment with an antidepressant drug. The depression-like behaviors are likely not conferred directly by miR-124 downregulation because neither viral-mediated hippocampal overexpression nor intra-hippocampal infusion of an miR-124 inhibitor affected depression-like behaviors in non-stressed mice. However, viral-mediated miR-124 overexpression in hippocampal neurons conferred behavioral resilience to CUMS whereas inhibition of miR-124 led to greater behavioral susceptibility to a milder stress paradigm. Moreover, we identified histone deacetylase 4(HDAC4), HDAC5, and glycogen synthase kinase 3β(GSK3β)as targets for miR-124 and found that intra-hippocampal infusion of a selective HDAC4/5 inhibitor or GSK3 inhibitor had antidepressant-like actions on behavior. We propose that miR-124-mediated post-transcriptional controls of HDAC4/5 and GSK3β expressions in the hippocampus have pivotal roles in susceptibility/resilience to chronic stress.
P-107(3)
統合失調症と双極性障害におけるエピゲノム要因の共通性と特異性についての検討
菅原 裕子1,2,3,文東 美紀4,池亀 天平5,近藤 健治6,池田 匡志6,岩田 仲生6,石郷岡 純2,笠井 清登5,加藤 忠史7,岩本 和也4
1熊本大学医学部付属病院・神経精神科,2東京女子医科大学・神経精神科,3東京女子医科大学 女性医師・研究者支援センター,4熊本大学大学院生命科学研究部 分子脳科学,5東京大学医学部 精神医学教室,6藤田保健衛生大学医学部 精神科,7理化学研究所脳科学総合研究センター 精神疾患動態研究チーム

【背景】エピジェネティクスの主要な分子基盤であるDNAメチル化は環境要因により変化し、遺伝子発現調節に寄与することから、精神疾患の発症における遺伝環相互作用の分子メカニズムに深く関与していると考えられる。大規模なgenome-wide association study(GWAS)により、統合失調症と双極性障害は遺伝要因の重なりが大きいことが明らかにされている一方で、エピゲノム要因の重なりについては十分に検討されていない。本研究では、統合失調症患者の大規模なmethylome-wide association study(MWAS)で同定されたDNAメチル化変化領域について、多数例の双極性障害患者試料を用いて解析を行い、両疾患におけるエピゲノム要因について検討を行った。
【方法】統合失調症のMWASでいずれもメチル化率の低下が検出された上位5ヶ所の候補領域に関して、双極性障害患者448名ならびに健常者458名の末梢血由来DNAを用いて、pyrosequencing法によるメチル化率の定量を行った。なお、本研究は関連する研究機関の倫理委員会の承認を受けており、試料提供者に対しては事前に研究の意義、目的、方法、不利益とそれに対する配慮を十分に説明し、書面による同意を得たうえで、個人情報は厳重に管理している。
【結果】5ヶ所の候補領域のうち3ヶ所(FAM63BTBC1D22A、染色体16番intergenic領域)において、双極性障害患者と健常者間で有意なメチル化率の差異が検出された。染色体16番intergenic領域の2つのCpG部位では男女ともに双極性障害において有意なメチル化率の低下が認められたが、FAM63Bの3つのCpG部位では男性のみで有意なメチル化率の低下が認められた。TBC1D22Aの3つのCpG部位では、統合失調症ではメチル化率の低下が報告されているのに対し、女性の双極性障害患者において有意にメチル化率が高かった。
【考察】FAM63Bと染色体16番のintergenic領域のメチル化変化は統合失調症と双極性障害における共通のエピゲノム要因である可能性が考えられる一方で、TBC1D22Aのメチル化変化は疾患特有のエピゲノム要因である可能性が示唆された。
【結論】本研究において、統合失調症と双極性障害において共通ならびに特有のエピゲノム要因が存在する可能性が示唆された。
P-108(3)
冬眠期のシマリス神経細胞におけるAMPKを上流とした翻訳の抑制
山田 新太郎1,関島 恒夫3,武井 延之2
1新潟大学大学院・自然科学研究科・環境科学専攻,2新潟大学・脳研究所・分子神経生物学分野,3新潟大学・農学部・生産環境科学科

シマリスなどの一部の哺乳類が行う冬眠という生理現象は、体温や代謝が著しく低下する。そのため、冬眠時の神経細胞においても、冬眠に伴い代謝が減少し、神経活動が低下することが考えられる。しかし、冬眠時における神経細胞の代謝活動についてはわかっていないことが多い。本研究では、代謝センサーとして知られるAMP activated kinase(AMPK)に着目して、冬眠期のシマリス神経細胞において、タンパク質合成がAMPKを上流としたシグナル伝達系により調節される可能性を示す。まず、エネルギー状態の指標として血糖値の測定を行ったところ、活動期と比較して冬眠期の血糖値は低下していた。次に、活動期と比較した冬眠期の神経細胞のAMPKのシグナル系の状態を評価したところ、大脳皮質の細胞におけるAMPKのリン酸化は亢進されていた(活性の亢進)。また、翻訳伸展因子eukaryotic elongation factor 2(eEF2)のリン酸化も亢進されていた(活性の低下)。このことは翻訳の抑制を意味している。一方、末梢組織である肝臓ではAMPK、eEF2ともに変化は見られなかった。各組織におけるタンパク質合成能を調べたところ、活動期と比較して、冬眠期における大脳皮質のタンパク質合成能は低下していた。一方で、肝臓においては、タンパク質合成能は低下していなかった。以上のことから、冬眠している状態の神経細胞において、AMPKの活性の変化により、翻訳段階が抑制されることにより、タンパク質合成が抑制される可能性が示された。