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一般、大学院生、若手研究者(ポスター)
神経ネットワーク、認知機能・行動
P-128(2)
実験動物を用いたガン病態下・治療後の脳機能障害の評価
新谷 紀人1,尾中 勇祐1,2,木野村 元彦1,中澤 敬信1,3,橋本 均1,4
1大阪大院・薬,2摂南大・薬,3大阪大院・歯,4大阪大・金沢大・浜松医科大・千葉大・福井大連合小児発達

がん患者では情動や認知など種々の高次脳機能の障害が認められるが、これらの障害はがんの治療後も遷延するため、その生活の質の低下が、現在、社会的な問題となっている。一方で我々は、末梢にがん細胞を移植した担がんマウスが著しい社会性の低下を示すことや、プロスタノイド受容体の1つであるCRTH2の阻害が、同障害を含め、様々な精神疾患モデルの情動・認知機能障害を改善することを見出している。今回、がん病態下・治療後の高次脳機能障害の解明に有用な動物モデルの作製を目的とし、担がんマウスおよび同マウスから外科的にがんを摘出したマウスの表現型解析を行った。実験には8~9週齢のBALB/c系雄性マウスを用いた。がん病態のモデル動物として、大腸がん細胞であるcolon26細胞を腹部に皮内接種したマウス(がん移植群)、がん治療後のモデル動物として、colon26細胞の接種後3日目に腫瘍を切除したマウス(がん摘出群)を用い、これらのマウスを用いて社会性行動試験と新奇物体認識試験を行った。がん移植群、摘出群ともに、colon26細胞による社会性行動の減少は接種後3日目以降、少なくとも7日目まで、また認知機能障害は少なくとも接種後10日目には認められた。一方、体重減少に関しては、がん移植群では、colon26細胞により時間依存的に認められたのに対し、がん摘出群ではこのような体重減少は認められなかった。本研究により、がんによって誘発される体重減少と脳機能障害とは独立したものであることが示されたと共に、がん治療後の高次脳機能障害のメカニズム解明に有用な動物モデルが作製されたと考える。
P-129(2)
豆つかみゲーム施行時の前頭前野機能測定と認知機能訓練への応用の可能性
山内 美帆,苅田 千里,関川 香穂,長谷川 涼,成田 奈緒子
文教大学教育学部学校教育課程特別支援教育専修

【はじめに】高齢化が進んでいる日本では、認知症予防として脳機能訓練プログラムの開発が多く試みられている。中でも、手指を使う微細運動である箸を使った豆つかみ運動は、腹外側前頭前野や運動野など前頭葉の活性化を伴うことが以前より知られているが(J Nov Physiother S1:009. doi:10.4172/2165-7025.S1-009.理学療法科学 26(1),117-122,2011.)、年齢によるその差異については報告は少ない。今回、豆つかみゲーム施行中の、前頭前野酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)濃度を年齢の異なる被験者で測定し解析することで、前頭前野の賦活パターンの違いから、認知症予防としてのこの運動の有用性を検討した。【方法】健康な男女10名に実験の主旨を説明し、同意を得て実験を行った。近赤外線酸素モニター(OEG-16 Spectratech社)を被験者の前額に装着し,ゲーム施行時のoxy-Hb濃度相対値を1ポイント/0.655359秒の割合で連続的に測定した。ゲームでは、大豆を箸でくぼみに1つずつ移動させる作業を1分間行った。今回の実験ではこれをタスクとして1分間行い、タスク開始前に前レスト1分間、タスク終了後に後レスト30秒間を測定した。得られたデータはノイズキャンセルを行い、oxy-Hb濃度相対値の変化として解析した後、前レスト-25秒~-15秒において0点補正を行い、前レスト-15秒から0秒をpre-task、タスク前半をfh-task、タスク後半をsh-task、そして後レスト開始から15秒間をpost-taskとして、それぞれの時間相ごとにΔ[oxy-Hb]値の平均値を求め、タスク遂行率と合わせて検討を行った。【結果】OEG-16を用いたoxy-Hb濃度相対値変化においては、一人を除き、タスク開始と共にoxy-Hbの上昇が見られたが、左右差、タスク遂行率と年齢層との関連は明確ではなかった。また、タスクにおいて豆を20粒以上つかめた被験者のみで検討すると、特に左側において年齢に関係なく同様のΔ[oxy-Hb]値の推移を示す、すなわちpreからfhにかけてoxy-Hbが大きく上昇し、shで下降傾向、そしてpostでは速やかに下降し負の値を示した。【考察】先行研究(PLOS ONE 9(6), e98779, 2014)における、WMタスク中のΔ[oxy-Hb]値変化では、タスク施行前には青年被験者が高値を示し、老年被験者は低値を示す傾向があり、またタスク施行中は逆に老年被験者が青年被験者に比較して、特にタスクの難易度が高くなると高値を示す有意な差異があることが報告されている。今回の我々の実験からは、年齢に関係なくタスク遂行率が高い被験者において、タスクに呼応した前頭前野でのoxy-Hbの活性の分離及び賦活パターンが、特に左側で類似していた。繰り返し本タスクによる脳機能賦活訓練を行い、同時にNIRSによる測定評価を行うことは認知機能訓練としての有用性があると考えられる。被験者を増やしさらに検討を行った結果を報告する予定である。
P-130(2)
ドパミン神経賦活薬の慢性投与は胎仔期バルプロ酸曝露マウスの自閉症様行動を改善する
長谷部 茂1,原 雄大2,樋口 桃子2,吾郷 由希夫2,中澤 敬信1,2,橋本 均2,3,松田 敏夫4,田熊 一敞1,3
1大阪大院・歯・薬理,2大阪大院・薬・神経薬理,3大阪大院・連合小児発達,4大阪大院・薬・薬物治療

自閉症スペクトラム障害(ASD)は,社会性行動の障害,コミュニケーション障害,常同行動や反復行動,興味・行動の限局化を主症状とする神経発達障害である.我々はこれまでに,胎生12.5日目にてんかん治療薬であるバルプロ酸を投与したマウスが,自閉症様行動異常を示すことを明らかにし(Kataoka et al., Int. J. Neuropsychopharmacol., 2013),その行動異常発現に前頭前皮質ドパミン(DA)神経機能低下が関与することを明らかにした(Hara et al., Behav. Brain Res., 2015).本研究では,前頭前皮質DA遊離を促進させる注意欠陥/多動性障害(ADHD)治療薬の影響について解析した.胎仔期VPA曝露マウスは,妊娠12.5日目のICR系雌性マウスへVPA 500 mg/kgを腹腔内投与することにより作製した.薬物の急性投与は試験の30分前に,慢性投与は1日1回2週間行い,最終投与24時間後に行動解析を行った.マウス前頭前皮質DA遊離はin vivo脳透析法により測定した.ADHD治療薬であるメチルフェニデートやアトモキセチンは胎仔期バルプロ酸曝露マウスの前頭前皮質DA遊離を促進させた.また,メチルフェニデート,アトモキセチンおよび非定型抗精神病薬のアリピプラゾールの慢性投与は,胎仔期バルプロ酸曝露マウスの社会性行動障害や認知機能障害を改善させ,前頭前皮質の樹状突起スパイン密度の低下を回復させた.これらADHD治療薬の改善効果は,D1およびD2受容体アンタゴニストにより拮抗されたが,アドレナリンα2受容体アンタゴニストの影響は受けなかった.以上の成績は,胎仔期バルプロ酸曝露マウスの自閉症様行動異常の改善にD1およびD2受容体の慢性的な刺激が重要であることを示し,前頭前皮質のDA受容体活性化がASDの新たな治療戦略となることが示唆される(Hara et al., Autism Res., in press).
P-131(2)
双極性障害におけるリチウム反応良好群と不良群の認知機能、社会的転帰、抗精神病薬の影響の比較
齋藤 聡1,藤井 久彌子2,尾関 祐二2,大森 健一3,森 玄房4,加藤 和子4,黒田 仁一5,朝日 晴彦6,佐藤 勇人7,下田 和孝2,秋山 一文1
1獨協医科大学精神生物学講座,2獨協医科大学精神神経医学講座,3医療法人至誠会 滝澤病院,4医療法人生々堂厚生会 森病院,5栃木県立岡本台病院,6医療法人朝日会 朝日病院,7医療法人緑会 佐藤病院

[目的]近年、統合失調症のみならず双極性障害の寛解期においても認知機能障害が存在するというエビデンスが蓄積されている。また、治療薬剤は双極性障害の認知機能に影響を及ぼし得る。リチウムは古くから双極性障害の第一選択薬であるが、近年使用頻度が増加している抗精神病薬に対する認知機能障害への優位性は良く分かっていない。様々な交絡因子の影響を加味しつつこれらの薬剤の認知機能や機能的転帰に及ぼす影響を調べ、比較した。さらに、リチウムに対する反応性は個人差があり、良好反応群と不良反応群に2分する先行研究が存在する。リチウム反応群は一般に機能的予後が良好な傾向があるが、併用薬や臨床経過などいずれの因子が影響しているかを調べた。[方法]107人の双極性障害患者と196人の健常対象者に対し統合失調症簡易認知機能評価尺度(BACS-J)及び社会機能評価尺度(SFS-J)を施行し、さらにリチウム及び抗精神病薬を含む交絡因子を独立変数として重回帰分析を施行し、これらの交絡因子が認知機能や機能的転帰にどの程度影響を及ぼすかを調べた。さらに、リチウムの有効性を調べる際に用いられる指標であるAldaスケールを用いてリチウム反応良好群と不良群に二分し、二群間比較及びロジスティック回帰分析を施行した。[結果と考察]BACS-Jの結果から健常者に対し双極性障害患者の認知機能は中~高程度の効果量の低下を認めた。重回帰分析ではリチウムはいずれの認知ドメインに対しても正負いずれの影響も及ぼさなかったのに対し、抗精神病薬は一部の認知ドメインに小さいが負の影響を及ぼす結果であった。SFS-Jを従属変数とした重回帰分析では認知機能と機能的転帰は正の相関を示し、さらに陰性症状や残遺のうつ症状が機能的転帰に負の相関を示す結果であったが、使用薬剤単独では機能的転帰と相関しなかった。以上から、一部の治療薬剤は認知機能に負の影響を及ぼし得るものの、気分症状を安定した寛解状態にすることが重要と考えられた。リチウム反応良好群と不良群の2群間比較では、社会機能評価はリチウム反応良好群において有意に高かった。ロジスティック回帰分析の結果からは、PANSS-Nの高得点と第二世代抗精神病薬(SGA)の高用量がリチウム反応不良と関連した。また認知機能全体では両群間に有意差は無かったが、各認知ドメインにおいてはトークン運動試験の高得点と反応良好群が関連した。リチウム反応不良群は情報処理速度が遅く、陰性症状が強いこと、社会機能評価が低く、より多くのSGAが使われる傾向があることが示された。
P-132(2)
抗うつ薬によって誘導されるプロトカドヘリンArcadlinがうつ・不安関連行動ならびに海馬スパイン形態に及ぼす影響
秦 侑希1,内村 尚登1,伊藤 麻衣1,原田 利沙子1,高坂 和芳1,冨永 恵子2,竹宮 孝子3,山形 要人4,田中 秀和1
1立命館大学大学院・生命科学・生命医科,2大阪大学大学院・生命機能研究科,3東京女子医科大学・総合研究所,4東京都医学研究所・シナプス可塑性プロジェクト

うつ病患者の海馬は萎縮し、それには樹状突起の形態やスパイン密度の変化が関与していることが報告されている。Arcadlin(Activity-regulated cadherin-like protein,Acad)は、神経活動により海馬などの辺縁系で発現が誘導されるプロトカドヘリン型接着分子であり、接着分子N-cadherinと結合し、co-endocytosisを起こすことで樹状突起スパイン密度を減少させる。抗うつ薬の効果が発揮されるまでに2週間以上の期間を要するが、その1つであるFluoxetine(Flx)投与によりAcadがマウス海馬に誘導され、それにも同程度の期間を要することを我々は見出した。そこで本研究では、AcadがFlxの抗うつ作用に関与する可能性を検討するため、うつ・不安関連行動ならびに海馬スパイン形態にAcadが及ぼす影響をacad-/-マウスを用いて検討した。野生型マウス(C57BL/6J,♂)にFlx 25 mg/kg体重を18日間以上または35 mg/kg体重を14日間連日腹腔内投与することでAcadが海馬で誘導され、その発現は投与中断後も24時間以上続いた。免疫染色では、歯状回の顆粒細胞体、CA3、CA1の錐体細胞体、さらに樹状突起内での点状染色が観察された。これらの点状染色とSynaptophysinとの共局在が観察されたことから、Acadはシナプスに局在していることが示唆された。次にacad+/-マウスならびにacad-/-マウスにFlx 25 mg/kg体重またはsalineを18日間連日腹腔内投与後、行動実験を実施した。高架式十字迷路試験では特異的な差は見られなかった。尾懸垂試験では、acad-/-マウスの無動時間が減少し、さらにそれがFlxの投与によって有意に減少した。オープンフィールド試験では、Flxを投与したacad-/-マウスが中央に開けた場所に進出する傾向が見られた。このことから、Flxの抗うつ・抗不安作用にAcad発現が必須ではないことが示唆され、むしろacad遺伝子欠損がうつ傾向の減少に関与している可能性が示唆された。acad遺伝子の有無が海馬スパイン形態に及ぼす影響を検討するため、脳スライスのCA1錐体細胞をLucifer Yellowで可視化して、樹状突起スパイン密度を計測する予定である。
P-133(2)
ADHDにおける視線計測―アイトラッカーを用いたToM(心の理論)の検討
森田 哲平,新井 豪佑,幾瀬 大介,佐賀 信之,徳増 卓宏,森井 智美,太田 真里絵,佐藤 綾夏,太田 晴久,岩波 明
昭和大学医学部精神医学講座

【目的】注意欠如・多動性障害(ADHD)は不注意症状、多動・衝動性症状を中核症状とする発達障害の一群である。しかし、患者に知的・言語発達の遅れが目立たない場合は、思春期以降に初めて事例化することも多く、臨床的には診断が困難となることが少なくない。DSM-5ではADHDは自閉症スペクトラム障害(ASD)と併存診断が可能とされているように、ADHDとASDには特性や臨床所見の重なっている部分が多くみられる。ASDでは、対人的なコミュニケーションにおけるアイコンタクトは不良であり、健康成人と比較して目よりも他の部位に視線が向く傾向がある。また、他者の心の状態を理解する能力としてのToM(心の理論)が障害されているという仮説が提唱されている。これまでの研究においては、ToM(心の理論)の障害の評価として、非言語的な手段(課題動画視聴時の視線計測)を用いた誤信念課題に関する研究がなされているが、われわれの研究においても、ASDは予測される方向と別方向に視線を向ける時間が長かった。本研究では、ASDにおいて用いた課題を使用し、ADHDの症状の評価や診断の一助となることを目的として、知的の遅れの無いADHD患者を対象に、ToM(心の理論)課題に関する動画を注視している際の視線計測をアイトラッカーを用いて行い、健常者との差異を検討した。【方法】対象は、DSM-5の基準を満たすADHD患者および健常成人である。他の精神疾患を併存しているもの、精神症状が不安定なもの、知的機能の低下がみられるものは除外した。本研究は、昭和大学附属烏山病院研究倫理委員会で承認されたものであり、対象者の本研究への参加にあたっては十分な説明が行われた後、自由意思により参加の是非が決定された。対象者に対しては、AQ、CAARSを施行し、臨床症状を評価した。また、JARTにより推定IQを求めた。アイトラッカーはトビー社の製品を用いて記録し、Senjuら(2009)の課題と類似の動画を注視している際の視線を計測した。【結果と考察】ADHD群17例においては、健常者と比較し顔を見る時間が有意に短かったが、ToM(心の理論)は保たれていた。この結果は、視線計測は、ADHDとASDの鑑別に有用であることを示唆している。