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一般、大学院生、若手研究者(ポスター)
ストレス
P-160(2)
神経細胞における結合型イオウの抗カルボニルストレス作用の検討
小池 伸,小峰 大典,山元 繁秀,小笠原 裕樹
明治薬科大学 分析化学研究室

[背景と目的]近年、治療抵抗性の統合失調症患者の約2割がカルボニルストレスを受けている事が示された。カルボニルストレスとは体内で生じたカルボニル化合物がタンパク質と反応してカルボニルタンパク質を生成し、反応が進むと終末糖化産物(AGEs)が蓄積する状態である。また、反応性カルボニル化合物(RCOs)のスカベンジャーであるピリドキサミンがカルボニルストレス性統合失調症に対する治療効果を有することが報告された。従って、RCOsと反応して消去する成分はカルボニルストレス性統合失調症の治療薬となる可能性がある。本検討では、RCOsの新規スカベンジャーとして、結合型イオウに注目して検討を行った。[結果]SH-SY5Y細胞に、代表的なRCOsであるメチルグリオキサール(MG)を処理するとき細胞毒性が見られるが、典型的な結合型イオウ種であるポリサルファイドの前処理によりこの毒性は軽減された。更に、細胞内MG濃度を蛍光HPLC法で測定したところ、MG処理によりSH-SY5Y細胞内のMG濃度が顕著に上昇することが分かったが、ポリサルファイドを前処理するとMG濃度の上昇は抑制された。また、MGをSH-SY5Y細胞に処理するとき、ウェスタンブロット法により細胞内にアルグピリミジンなどのAGEsの蓄積が認められるが、ポリサルファイドの前処理によりこの蓄積が抑制された。一方、ポリサルファイドをSH-SY5Y細胞に処理すると細胞内グルタチオン濃度の上昇が見られるが、グルタチオン生合成阻害剤で前処理を行ってもポリサルファイドによるMGに対する抗カルボニルストレス作用は消失しなかった。更に、リン酸バッファー中でポリサルファイドとMGを37℃で反応させると、MGが消失することが分かった。[考察]以上から、ポリサルファイドは抗カルボニルストレス作用を有しており、そのメカニズムとしてポリサルファイドの直接的なMG消去能とAGEs生成抑制効果と、間接的なグルタチオン合成促進作用が関与するものであることが示唆された。今後はin vivoでの検討を行い結合型イオウのカルボニルストレス性統合失調症に対する関与を検証する予定である。
P-161(2)
Escitalopram Attenuates Fear Stress-Induced Amygdala Dopamine Increased According to Dopaminergic Sensitization:Implications of Fine-Tuning Action of SSRIs on Emotional Processing
村岡 寛之,押淵 英弘,稲田 健,河野 敬明,高岡 洋平,島本 啓輔,石郷岡 純,西村 勝治
東京女子医科大学神経精神科教室

The stress vulnerability hypothesis is a hypothesis for the pathology of psychiatric disease. Previous studies on methamphetamine-sensitized rats as models of stress vulnerability revealed that dopamine release is enhanced in the amygdala, which is the central region of emotional memory and gives rise to conditioned fear stress. A hypersensitive emotional context was suggested to explain these biochemical abnormalities. In this study, we examined the effect of the antidepressant drug, escitalopram, on fear response, basal dopamine release, and dopamine response to conditioned stress in the amygdala of model rats. Male Sprague-Dawley rats received 2 mg/kg/day of methamphetamine for 10 days to sensitize them to the drug, and a fear-conditioning paradigm was conducted to model psychological stress. Dopamine changes in response to conditioned fear stress in the amygdala were measured by microdialysis and high-performance liquid chromatography. Dopamine release in response to conditioned stress was suppressed after escitalopram administration. However, although basal dopamine release in the amygdala increased in untreated rats, basal dopamine release was constant in methamphetamine-sensitized rats. Hypersensitive emotional processing was observed in the amygdala in methamphetamine-sensitized rats subjected to conditioned fear stress. Escitalopram exerts an action on the serotonin nervous system, but its effect on the dopaminergic nervous system is yet to be elucidated. The findings of this study suggest that although escitalopram directly affects the serotonin nervous system and indirectly acts on the dopamine nervous system, it may also exert an stabilizing emotional effect.
P-162(2)
アミノ酸アラニン/セリン比の上昇で合成誘導される神経毒性スフィンゴ脂質doxSLと精神疾患メカニズムとの関連の解明
江崎 加代子1,2,古屋 茂樹2,3,平林 義雄1,吉川 武男1
1理研・BSI,2九州大学大学院・生資環,3九州大学バイオアーク

統合失調症は、複数の遺伝的要因や環境要因により発症すると考えられており、多くの臨床研究より近年スフィンゴ脂質が疾患病理に関連する因子の一つとして報告されている。本研究では、スフィンゴ脂質が精神疾患の発症・進行などの病態に関与するメカニズムを明らかにし、精神疾患の治療および予防に向けた臨床応用のための知見を得ることを目指している。
スフィンゴ脂質はセリンパルミトイル転移酵素(SPT)によるL-セリンとパルミトイルCoAの縮合反応から開始して合成される。近年、スフィンゴ脂質合成酵素SPTの遺伝子突然変異による基質特異性の変化によって、L-セリンではなくL-アラニンと縮合した異常スフィンゴ脂質(1-deoxy-sphingolipids:doxSL)が産生されること、またdoxSLが神経細胞に対して突起退縮等の神経毒性を示すことが報告された。そこで我々はセリン合成不全がスフィンゴ脂質代謝に及ぼす影響を検討した。
まず、スフィンゴ脂質の量および質的変化を解析するため、三連四重極質量分析装置を用いた高感度一斉測定系を確立した。セリン合成不全のPhgdh欠損線維芽細胞(KO-MEF)ではL-セリン欠乏条件培養24h後にL-セリン由来のスフィンゴ脂質量が減少し、一方でL-アラニン由来のdoxSLがL-セリン添加条件の30倍にまで顕著に増加することが明らかになった。さらに、脳特異的セリン合成不全マウスの脳でもdoxSLの有意な含量増加を検出した。これらのin vitroおよびin vivoのセリン合成不全モデルでは細胞内のアラニン/セリン比の上昇が見られたためL-アラニン添加条件でKO-MEFを培養したところ、顕著にdoxSL量が増加することも確認した。これらの結果から、アラニン/セリン比の上昇により正常SPTによってdoxSLが合成されることを見いだした。
また、統合失調症などの精神疾患の一部において血中セリン低下が報告されている。このことから、精神疾患とdoxSLの産生に関連が見られるのかについて、統合失調症患者の死後脳サンプルを用いて検討した結果を今回の発表で報告する予定である。
P-163(2)
大学生における抑うつ状態およびストレス対処方法と脳機能の関連
山本 亞実1,辻本 江美1,竹谷 怜子1,辻井 農亜2,白川 治2,小野 久江1
1関西学院大学大学院文学研究科総合心理科学専攻心理科学領域,2近畿大学医学部精神神経科学教室

【目的】抑うつ状態には生物学的背景があることが指摘されている。また、大学生の抑うつ状態と未熟なストレス対応能力との関係が示唆されている。本研究では、大学生における抑うつ状態およびストレス対処方法と、Stop signal task中の脳機能に関連がみられるかをnear infrared spectroscopy:NIRSを用いて検討した。
【方法】健常大学生24名(20.6±0.8歳、男性5名、女性19名)を対象とした。抑うつ状態の評価はZung Self-rating Depression Scale:SDS合計点を、ストレス対処方法の評価はCoping Inventory for Stressful Situations:CISSの3得点(課題優先対処得点、情緒優先対処得点、回避優先対処得点)を用いた。脳機能の評価には、日立ハイテクノロジーズ製光トポグラフィ装置WOT-100(10チャンネル)を使用し、抑制機能課題による賦活検査としてStop signal taskを用い、課題負荷による酸素化ヘモグロビン変化量:Oxy-Hb変化量(m(mol/l)*mm)を求めた。なお、チャンネル:CHは、右前頭のCH7から左前頭のCH16へ配置されている。SDS合計点およびCISSの3得点と、Oxy-Hb変化量との相関をPearsonの相関係数を用いて求めた。また、個人情報は収集せず、対象者の同意を得た。本研究は関西学院大学「人を対象とした臨床・調査・実験研究」倫理委員会の承認を受けた。
【結果】対象者のSDS合計点は37.3±8.2点、CISSの3得点は課題優先対処59.8±9.1点、情緒優先対処43.1±9.2点、回避優先対処46.6±12.5点であった。SDS合計点とOxy-Hb変化量は、CH10とCH15にかなりの負の相関を示した(r=-0.588,p=0.003;r=-0.451,p=0.031,respectively)。CISSの課題優先対処得点と情緒優先対処得点は、Oxy-Hb変化量と有意な相関を示さなかった。回避優先対処得点とOxy-Hb変化量では、CH9、CH14、CH15にかなりの正の相関が示された(r=0.503,p=0.015;r=0.532,p=0.009;r=0.481,p=0.020,respectively)。
【結論】健常大学生において、抑うつ状態が高いほど抑制機能課題賦活時の前頭部の脳機能変化が小さく、回避的なストレス対処方法を用いるものほど変化が大きいことが示唆された。今後のさらなる検討が必要である。
P-164(2)
発達期ストレスによる成熟期脳機能異常のin vitro再現
木村 聡志,冨永-吉野 恵子,小倉 明彦
大阪大学 大学院 生命機能研究科

幼児期に虐待やネグレクトなどのストレスを受けると、成熟後に情動障害を起こしやすいことが臨床的にいわれている。脳のストレス応答システムは、生後発達に伴い形成されるが、発達期にストレスを受けることで、応答システムが正常に形成されないか異常を生じている可能性がある。動物モデルでこれを再現し、対処法を考えようとするとき、個体での解析は、動物自身の全身的な恒常性維持機構と、それに対する脳の二次的応答が錯綜して、結果の解釈が難しい。そこで今回、生体脳の神経回路を保存しつつ、薬理学的な介入の可能な脳切片培養系を用いて、培養初期にストレスを負荷し、成熟後の神経回路機能に異常が生じていないかを検討した。もし異常が認められれば、これを新たなモデル系として、発達期脳ストレスの長期的影響とその細胞基盤を明らかにできる可能性がある。生後7日のマウス脳から海馬切片を作成して培養し、切片中の回路が発達途中にある培養7日にストレス模擬として糖質コルチコイド(デキサメタゾン;Dex;1000 nM)を24時間投与した。この時期は、生体マウスの海馬で、糖質コルチコイド受容体の発現が増加する時期にあたる。その後培養を継続し、対照群の神経回路が成熟・安定する培養14日以降に、機能と形態の評価を行った。機能の評価には、電気生理学的手法によるCA3→CA1の集合シナプス電位を、形態の評価には、CA1錐体細胞のシナプス後構造(樹状突起棘)密度を用いた。その結果、基底状態でのシナプス電位、棘密度ともに差は認められなかったが、培養14日にテタヌス刺激でLTPを誘発すると、Dex投与群のLTPの持続時間は対照群よりも短かった。また、ホルスコリン誘発LTPの繰り返しによって生じるはずのシナプス新生(RISE)も起きなかった。さらに、培養7日に100 nMのDexを投与した群では、培養14日の試験でLTPはむしろ増強され、RISEの成立も阻害されなかった。このように、培養脳切片を用いた実験系は、発達期脳ストレスの長期的影響を検討するモデル系となりうる。なお、本研究は大阪大学産学連携プロジェクトMEETの助成を受けて行われた。
P-165(2)
児童虐待が原因となる精神疾患のモデルラット確立の試みと豊環境飼育による治療効果
石原 康平1,一坂 吏志1,國石 洋2,松田 紗依2,太等 恵里1,原田 里穂1,畠 義郎2,窪堀 希3,福田 世実3
1鳥取大院・医・生命科学,2鳥取大院・医・生体高次機能,3鳥取大・医・神経生物

 Nurturing environment is important for the development of personality. Maltreatment and related adverse and stressful experiences in childhood increase a risk of psychiatric disorders in later life. Therefore, establishment of the animal model of childhood maltreatment is important for development of a therapeutic method. In this study, we examined the effects of the combination of two stresses, post weaning social isolation and post weaning electric foot shock stress(PW-I+S)on behaviors of rats. In male rats, PW-I+S model showed altered behaviors after maturation, an increase of impulsive aggression and escape behavior from the environment in which they have suffered stress by electric foot shock in early life. In female rats, PW-I+S model exhibited an increase of anxiety-like behavior and the escape behavior, and a decrease of social behaviors. These behavioral changes are similar to the psychiatric symptoms observed in abused children such as impulsive aggression, running away from home, social withdrawal and increased anxiety. Thus PW-I+S model could be an animal model of the psychiatric disorders caused by childhood maltreatment. Furthermore, we examined treatment effect of environmental enrichment(EE)on the model in female rats. EE has improved anxiety-like behaviors of PW-I+S model, but not the other behaviors.