TOP一般、大学院生、若手研究者(ポスター)
 
一般、大学院生、若手研究者(ポスター)
たんぱく質・核酸分解、分子シャペロン、ストレス
P-166(1)
SSRIおよびSNRIの長期投与後の脳におけるP糖蛋白の検討
浅利 翔平,長田 賢一,芳賀 俊明,渡邉 高志,古茶 大樹
聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室

P糖蛋白は、脳血液関門を形成している脳毛細管内皮細胞上に広く分布するATP依存性の薬物輸送蛋白である。P糖蛋白は当初、薬物抵抗性の癌細胞において発見され、全身の正常組織にも広く分布していることが判明した。脳血液関門では、P糖蛋白は向精神薬の脳内からの排出において重要な機能を果たしている。抗うつ薬ではvenlafaxine,nortriptyline、citalopram、sertraline、fluvoxamine等が、抗精神病薬ではolanzapine、risperidone、aripiprazole等がP糖蛋白の基質となることが知られているが、向精神薬の長期投与が、生体においてP糖蛋白とどのように関連するかを調べた研究は少ない。そこで我々はvenlafaxine、sertralineをマウスに長期投与し、脳におけるP糖蛋白の機能に及ぼす影響について調査した。C57BL/6マウスに対し、venlafaxine、sertralineをそれぞれ10mg/kg/日の用量で、毎日経口投与を行った。最終投与より6時間後に採血・断頭し、P糖蛋白のmRNAであるabcb1a、abcb1bをrealtime PCRを用いて測定しmRNAレベルについて検討した。
P-167(1)
うつ病治療の新たなターゲットとしてのNLRP3インフラマソーム
岩田 正明,山梨 豪彦,神谷 南帆,三浦 明彦,梶谷 直史,常冨 恭平,兼子 幸一
鳥取大学医学部脳神経医科学講座精神行動医学分野

うつ病の発症にはストレスが大きな役割を果たしていると考えられており、ストレスが脳に与える影響を評価しそのメカニズムを解明することは、うつ病治療における新たなターゲットを見出すことに繋がる可能性がある。ストレスは神経新生やシナプス新生を障害することでうつ病様の行動を引き起こすことがモデル動物で示されているが、ストレスが神経障害を引き起こすメカニズムは明らかにされていない。我々はこれまでインターロイキン1β(IL-1β)が神経新生を減少させ、うつ病様の行動変化を引き起こすことを報告してきた。またストレスは脳内でATPを増加させ、ATPはマイクログリア上のP2X7受容体を介してNLRP3に感知されることによりIL-1βを放出させること、またこれらの変化はP2X7受容体の阻害剤を投与することで改善することを明らかにした。NLRP3は細胞内受容体の一つであり、実にさまざまな物質を感知して炎症のスイッチを入れることで知られる。NLRP3は活性化されるとインフラマソームと呼ばれる蛋白質複合体を形成し炎症を引き起こす。うつ病の好発併存症である糖尿病やリウマチ性関節炎、アルツハイマー型認知症などの疾患も、NLRP3が内因性の危険物質を感知して炎症を引き起こすことが病態の一つと考えられている。従って、ストレスのみならずうつ病の好発身体併存疾患は、NLRP3という共通の受容体を介してうつ病を発症させる可能性が考えられる。我々はNLRP3の阻害剤であるβ-Hydroxybutyrate(BHB)の慢性投与が、慢性ストレスモデル動物に対して抗うつ作用を持つことを示した。今回我々は、末梢投与したBHBが確実に脳内に移行していることを確認し、またBHBは脳内でストレス因性のIL-1βの上昇を抑制することを示した。BHBの抗うつ効果は未解明な部分も多いが、一つの可能性としてBHBは脳内に移行し、NLRP3の活性化を阻害することでIL-1βの産生を抑制し、ストレス因性の神経障害を改善させる可能性が考えられた。
P-168(1)
Hippocampal SIRT1 signaling mediates stress resilience and susceptibility in mice
内田 周作,樋口 尚子,山形 弘隆,樋口 文宏,芳原 輝之,原 久美子,古林 亜由美,渡辺 義文
山口大・医・精神

BACKGROUND:Although depression is the leading cause of disability worldwide, its etiology is poorly understood. Recent evidence has suggested that sirtuins(SIRTs)play a key role in cognition and synaptic plasticity, yet their role in mood regulation remains controversial. Here, we aimed to investigate whether SIRT function was associated with chronic stress-elicited depression-like behaviors. METHODS:We measured SIRTs expression and activity in a mouse model of depression. We injected mice with a SIRT activator or inhibitor and measured their depression-like behaviors. To assess the role of SIRT1 directly, we used a viral-mediated gene transfer to overexpress the wild-type SIRT1 or dominant negative SIRT1 and evaluated their depression-like behaviors. Finally, we examined the role of extracellular signal-regulated protein kinases 1 and 2(ERK1/2), a potential downstream target of SIRT1, in depression-like behavior. RESULTS:We found that chronic stress reduced SIRT1 mRNA in the hippocampus. Pharmacological or genetic inhibition of hippocampal SIRT1 function led to an increase in depression-like behaviors. Conversely, SIRT1 activation blocked the development of depression-related phenotypes elicited by chronic stress exposure. Furthermore, viral-mediated downregulation of hippocampal ERK2 led to depression-like behavior. CONCLUSION:Our results suggest that the hippocampal SIRT1 pathway contributes to the chronic stress-elicited depression-related phenotype.
P-169(1)
急性ストレスによって海馬ミクログリアから産生されるTNF-αはワーキングメモリを障害する(TNF-α from hippocampal microglia induces working memory deficits by acute stress in mice)
扇谷 昌宏1,加藤 隆弘1,2,神庭 重信1
1九州大学大学院医学研究院精神病態医学,2九州大学レドックスナビ研究拠点

The role of microglia in stress responses has recently been highlighted, yet the underlying mechanisms of action remain unresolved. The present study examined disruption in working memory due to acute stress using the water-immersion resistant stress(WIRS)test in mice. Mice were subjected to acute WIRS, and biochemical, immunohistochemical, and behavioral assessments were conducted. Spontaneous alternations(working memory)significantly decreased after exposure to acute WIRS for 2 h. We employed a 3D morphological analysis and site- and microglia-specific gene analysis techniques to detect microglial activity. Morphological changes in hippocampal microglia were not observed after acute stress, even when assessing ramification ratios and cell somata volumes. Interestingly, hippocampal tumor necrosis factor(TNF)-α levels were significantly elevated after acute stress, and acute stress-induced TNF-α was produced by hippocampal-ramified microglia. Conversely, plasma concentrations of TNF-α were not elevated after acute stress. Etanercept(TNF-α inhibitor)recovered working memory deficits in accordance with hippocampal TNF-α reductions. Overall, results suggest that TNF-α from hippocampal microglia is a key contributor to early-stage stress-to-mental responses.
P-170(1)
ラットにおける側脳室下帯及び海馬歯状回での神経新生とうつ病評価の行動テストとの関連性
金 恭平,安原 隆雄,亀田 雅博,馬越 通有,金 一徹,桑原 研,守本 純,岡崎 三保子,竹内 勇人,豊嶋 敦彦,佐々木 達也,上利 崇,伊達 勲
岡山大学大学院脳神経外科

【背景・目的】うつ病は頻度の高い疾患であるが、その病態は十分に解明されていない。治療抵抗性のうつ病患者は依然として存在し、新たな治療法の開発が期待される。また、基礎研究の結果や実臨床での知見からうつ病と神経新生の間に何らかの関連性があるものと推察されている。本研究では、うつ病モデルラットの評価に使用される行動テスト(sucrose preference test:SPT;open field test:OFT;forced swim test:FST)と側脳室下帯(subventricular zone:SVZ)及び海馬歯状回(dentate gyrus:DG)における神経新生の関連性を検討した。【方法】雄性Wistarラット(5-7週齢:n=30)を行動テスト群とコントロール群へと分け、動物飼育施設への順応期間を5日間設けた。行動テスト群に対して、SPTをday 6に、OFTをday 6に、FSTをday 7、8に施行した。また、細胞分裂を評価するために、BrdU(50mg/kg,i.p.)を最後の3日間、12時間ごとに計5回投与した。その後灌流固定を行い、脳を摘出し、BrdUとDoublecortinによる免疫染色で神経新生を評価した。【結果・考察】免疫染色の結果、行動テストはSVZ及びDGでの神経新生に影響を及ぼさなかった。また、FST day 2のimmobility timeはSVZ(r=-0.447,p=0.048)及びDG(r=-0.504,p=0.023)における神経新生と負の相関を認めた。その他の行動テストは相関を認めなかった。FST day 2のimmobility timeはうつ病モデルラットの評価として頻用され、FST day 1の回避不可能なストレスによって惹起されるlearned helplessnessを反映するとされる。本研究では、FST day 2のimmobility timeとSVZ及びDGにおける神経新生との間に負の相関がみられた。すなわち、FST day 2のimmobility timeが長いラットほど、SVZ及びDGでの神経新生が低下していた。本研究により、Wistarラットにおいて、SVZ及びDGでの神経新生とストレス耐性との間に関連性があることが示唆された。
P-171(1)
母子分離ストレスはシャトル箱法によるPTSDモデルパラダイムにおける学習性無力行動を増強する
谷知 正章1,戸田 裕之1,清水 邦夫2,榎本 真悟1,長峯 正典2,丹生谷 正史1,吉野 相英1
1防衛医科大学校精神科学講座,2防衛医科大学校防衛医学研究センター行動科学研究部門

背景:従来から、われわれはシャトル箱型行動解析システム(シャトル箱)による学習性無力(learned helplessness,LH)パラダイムを改変・発展させ、心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder,PTSD)モデルラットを用いた研究を行ってきた(Takahashi et al, 2014;Kikuchi et al, 2008;Wakizono et al, 2007)。シャトル箱法によるPTSDモデルラットは、トラウマに相当する逃避不能フットショック(Inescapable shock,IS)から2週間後、PTSDの「回避・麻痺」様および「過覚醒」様の相反する2方向性の行動変化を呈する。一方、母子分離(Maternal Separation,MS)は、うつ病との関連性が指摘されている幼若期ストレスの一つであり、生育後のストレス脆弱性を惹起すると言われている。そこで今回、MSがシャトル箱法によるPTSDモデルにもストレス脆弱性を惹起するのか、検討した。
方法:Wistar系妊娠ラットから出生した仔ラットに対し、PND(post natal day)2よりPND14まで連日、1日3時間のMSを雄性ラットに負荷する。7週齢でISを負荷し、2週間後にシャトル箱による従来通りの方法で行動評価を行う。行動評価は、試験前5分間の順応期に回避・麻痺様行動を、その後80トライアルの回避・逃避試験セッションで過覚醒様行動を測定することにより実施する。
結果:MSにより、試験前5分間の自発運動量(中央ゲート通過数)が通常のPTSDモデルよりも有意に減少し(p<0.05)、低活動性の回避・麻痺様行動の増強効果を認めたが、回避・逃避試験セッションでは、各トライアル間における中央ゲート通過数や回避数(光刺激への過剰反応)は有意差を認めず、MSによるPTSDモデルラットの過覚醒様行動に対する影響は確認されなかった。一方で、逃避失敗数(p<0.01)や総刺激時間(p<0.01)、逃避成功までに要した時間(p<0.05)は有意に増加した。すなわち、シャトル箱を用いたPTSDモデルパラダイムにおいて、MS負荷により、従来の方法よりも有意にLH状態を惹起させた。
考察:MSは、われわれが用いてきたシャトル箱法によるPTSDモデルの各種設定条件下では、PTSDというよりもむしろ、「うつ病」の脆弱性を惹起させると考えられた。