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一般、大学院生、若手研究者(ポスター)
その他
P-178(3)
抗酸菌感染後の末梢神経の修復とシュワン細胞における脂肪滴蓄積との関係について
遠藤 真澄
国立感染症研究所ハンセン病研究センター

結核菌に代表される抗酸菌の一種である、らい菌の感染により引き起こされる疾患がハンセン病であり、東南アジア等の発展途上国に於いては、依然多くの発症が認められている。らい菌はマクロファージに脂肪滴を形成して、その細胞質内に寄生する。また、らい菌はシュワン細胞にも高親和性を示し、それにより重篤な末梢神経障害が生じる。末梢神経障害発症の機序は依然不明であるが、シュワン細胞においても、らい菌感染後に脂肪滴が形成されることが示唆されており、この脂肪滴の蓄積がシュワン細胞の脂質代謝を調節し、その結果ミエリン化等の末梢神経修復機構に影響を及ぼすことが考えられる。そこで今回は、らい菌感染シュワン細胞における脂肪滴形成についてin vitroの系で検討した。
方法
シュワン細胞は、ラット坐骨神経由来細胞株を用いた。らい菌は、当研究センターで維持しているThai53株を使用した。培養シュワン細胞にMOI=10,50または100(MOI=multiplicity of infection、感染効率)のらい菌または他の抗酸菌を、24時間、48時間、あるいは72時間感染させた後、細胞を4% PFAで固定した。脂肪滴の検出は、FITC標識抗adipophilin抗体(American Research Products, Inc.)、またはBODIPY493/503(Molecular Probes)を用い、共焦点レーザー顕微鏡にて細胞内局在の評価を行った。また一部の培養細胞においてはトリプシン処理の後、固定・染色後、フローサイトメーターを使用して、脂質蓄積量の評価を行った。
結果および考察
らい菌感染シュワン細胞における脂質の蓄積を、蛍光抗体法で解析した。らい菌の感染によりシュワン細胞の細胞質内に脂肪滴の形成が認められ、細胞膜周囲や核内への形成は見られなかった。脂質の蓄積量はMOI並びに感染期間に依存した。また形成された脂肪滴内に多量のらい菌の存在を認めた。シュワン細胞における脂肪滴形成は、らい菌感染時にのみ顕著に観察され、BCG等の他の抗酸菌感染時には認められなかった。らい菌感染により形成されるシュワン細胞の脂肪滴の脂質成分について分析し、細胞全体の脂質代謝に与える影響、それに伴う末梢神経修復機構に及ぼす影響について考察する。
P-179(3)
ビタミンB6欠乏がマウスの行動及びモノアミン神経系に与える影響について
鳥海 和也1,2,宮下 光弘1,小堀 晶子1,堀内 泰江1,野原 泉1,小幡 菜々子1,糸川 昌成1,Konopka Genevieve2,新井 誠1
1東京都医学総合研究所精神行動医学研究分野統合失調症プロジェクト,2テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンター・神経科学

統合失調症は陽性症状と陰性症状を主症状とし、認知機能障害を伴う深刻な精神疾患である。当研究室では、統合失調症患者の約2割から、終末糖化産物(AGEs)のひとつであるペントシジンが血中に蓄積し、ビタミンB6(VB6)の低下している病態を見出し報告してきている。このVB6の低下は蓄積したカルボニル化合物及びAGEsの除去に動員された可能性が示唆されており、特に興味深いことにはVB6の減少とPANSSスコアの間に有意な関連性を見出している。そこで本研究ではVB6欠乏マウスを作成し、行動学的・神経化学的解析を行うことにより、VB6の欠乏がどのような統合失調症の病態に関与しているのかについて明らかにすることを目的とした。VB6は一部が腸内細菌により合成されるが、主には食物の摂取により供給される。そこで本研究では、8週令のC57BL/6J雄マウスにVB6欠乏餌(VB6含有量5μg/100gペレット)を4週間給餌し、VB6欠乏マウスを作成した。一方、通常通りVB6を1.4mg/100gペレットで含む餌を与えたものを、コントロールマウスとして用いた。給餌4週間後に血漿中のVB6濃度を測定したところ、VB6欠乏マウスでは通常マウスの約3%にまで減少していた。さらに、VB6欠乏食を給餌してから体重の増加が認められず、コントロール群に比べ有意な体重差が認められた。次にこれらマウスを用い統合失調症様行動障害に関する各種行動試験を行ったところ、3チャンバーを用いた社会性行動試験において他マウスとの接触時間の有意な減少が認められた。さらに、HPLCにより脳内のモノアミン及びその代謝物について定量を行ったところ、脳全体を通して3-Methoxy-4-hydroxyphenylglycol(MHPG)の顕著な増加が認められ、ノルアドレナリンの代謝回転の増加が認められた。多くの先行研究で、MHPGの増加と統合失調症との関連については報告されており、VB6欠乏がノルアドレナリン系の亢進を介して、統合失調症病態に関与している可能性を示唆するものである。
P-180(3)
Overexpression of MARCKSL1 induces anxiety-like behavior via hyperactivation of the basolateral amygdala
田中 貴士1,清水 尚子1,遠山 正彌1,2,宮田 信吾1
1近畿大・東医・分子脳科学,2大阪府立病院機構

It is well known that the hyperexcitability of neural circuits between the amygdala and hypothalamus are implicated in psychological illnesses such as anxiety disorders. The extensive spinogenesis of pyramidal neurons in the basolateral nucleus of the amygdala(BLA)is also caused by anxiety-related activation of amygdala-hypothalamus neural circuits. Myristoylated alanine-rich C-kinase substrate-like 1(MARCKSL1)is an actin binding protein that has been reported as one of the factors related to dendritic spine formation in the brain. We observed that MARCKSL1 expression was localized in emotional centers, such as the hypothalamus and amygdala, in the adult brain. MARCKSL1-overexpressing transgenic(Tg)mice exhibited anxiety-like behavior in the light/dark transition test, open field test, and marble burying test. Furthermore, MARCKSL1-Tg-mice were shown to have increased dendritic spine density in pyramidal neurons of the BLA, which is particularly relevant to hyperactivity of the BLA neurons. In addition, these changes are involved in increased corticotropin-releasing hormone mRNA levels in the paraventricular nucleus of the hypothalamus, the output of the amygdala-hypothalamus complex. In vitro experiments, overexpression of constitutive phospholylated-MARCKSL1 increased the number of neural tips in individual Neuro2a cells. These findings suggest that MARCKSL1 might play important functional roles in anxiety by controlling dendritic spine formation in the adult brain.
P-181(3)
自閉症者血清中の糖脂質:MALDI-TOF-MSによる網羅的糖鎖分析
原田 陽子1,渡邊 賢1,松崎 秀夫2
1紘仁病院,2福井大学子どものこころの発達研究センター

自閉症は、社会性・コミュニケーション能力の障害・想像力の低下を主徴として3歳以前に顕現化する発達障害の一型である。その病因は未だ不明で、病態には脳内シナプス機能の異常、セロトニン・グルタミン酸などの神経伝達物質の異常、免疫機能・エネルギー代謝異常の関与が指摘されている。我々は自閉症者の血清を200例以上収集して、同年齢層の健常者血清を対照に血清中の脂質プロファイルを調べた結果から、超低密度リポ蛋白質(VLDL)に含まれる中性脂肪・コレステロールの血中濃度が年少者ほど減少しており、特に中性脂肪VLDL分画は自閉症の生物学的早期診断マーカーとして有望であることを見出した。その一方で全血中に含まれる血中遊離脂肪酸は概ね増大していたため、自閉症では血中のVLDL分解が亢進しており、その結果得られる遊離脂肪酸が血中で増大すると結論した。しかし、自閉症者にみられるVLDL脂質の特異的な分解、そのためにおこる末梢血中の遊離脂肪酸の増大が、どのようなメカニズムで中枢神経に関与し、自閉症の臨床所見とリンクしているのか、現時点では説明がつかない。自閉症者に認められている脳内シナプス機能の異常、神経伝達物質トランスポーターの膜発現低下から、自閉症者の末梢血中の遊離脂肪酸の増大は、神経細胞膜上の脂質ラフトの構成要素である糖脂質の代謝を介して、中枢神経の機能に影響を及ぼしている可能性がある。近年、浜松医大の佐藤らは、バイオマーカー探索のための網羅的かつ定量的なMALDI-TOF-MS糖鎖解析法(グライコブロッティング解析)を用いて、臍帯血中に同定されたN-glycanのうち、m/z 3414が子宮内低栄養を反映するマーカーである可能性を報告した(Sato et al 2016)。本研究では、このグライコブロッティング解析手法を用いて、10歳未満の自閉症児童と同年齢層の健常児童の末梢血血清中の血中ガングリオシドおよび血中N-glycanプロファイルの解析を進め、自閉症者にみられる特異的な末梢血中脂質代謝異常との関連を調べたので報告する。
P-182(3)
慢性疼痛維持期におけるリゾホスファチジン酸(LPA)産生におけるグリア細胞の役割
見山 知穂1,永井 潤2,迎 武紘2,居塚 詔子1,植田 弘師2
1長崎大学薬学部薬科学科,2長崎大学大学院医歯薬学総合研究科生命薬科学専攻分子創薬科学講座創薬薬理学分野

我々は脂質メディエーターであるリゾホスファチジン酸(LPA)が、神経障害性疼痛の原因分子であることを見出している。興味深いことに、脊髄で産生されたLPAはミクログリア細胞におけるLPA受容体を介して自身の産生を増強しており、このLPA誘発性LPA産生機構が慢性疼痛の増強機構に必須であることを明らかにしてきた。本研究では、LC-MS/MSを用いて神経障害後3週間にわたる脊髄LPA産生を定量したところ、LPAの神経障害3-6時間後(早期)と2-3週間後(後期)をピークとする二相性のLPA産生増強が見られることが明らかになった。実際、LPA1受容体拮抗薬のKi16425を30 mg/kg i.p.を障害後1週間から1日2回投与することにより、慢性疼痛の完治が観察された。そこで、神経障害後2週間のLPA産生と疼痛維持に対するグリア細胞の役割について阻害剤を用いて評価したところ、ミクログリア阻害剤Mac1-saporinにより有意な抑制は観察されたが、アストロサイト阻害剤であるL-AAでは無効であったが、両阻害剤はともに、慢性疼痛に対して抑制効果を示した。以上の結果から、神経障害性維持期にはミクログリアを介したLPA産生が生じ、ついで産生されたLPAがアストロサイトを活性化し、痛みを誘発していることが示唆された。本研究発表では、LPA受容体によるアストロサイト活性化機構と疼痛維持における役割についてより直接的な証拠について議論する予定である。
P-183(3)
母子双方の前頭前野を活性化させる気持ちいい触感とは?―母子同時NIRS計測による検討―
菊野 雄一郎1,丹下 明子2,菅 文美2,石川 浩樹2,篠原 一之1
1長崎大院・医歯薬学・神経機能学,2ユニ・チャーム株式会社

気持ちいい触感は、うつ病やストレスの軽減などヒトの精神状態改善に重大な効果をもたらすと考えられている。特に、触覚を介した母子相互作用の多い乳児期において、どのような触感が母子双方にとって気持ちいいのかを明らかにすることは、良好な母子の精神状態を保つ上で重要である。これまでに、気持ちいい触感を識別する客観的指標として前頭前野(眼窩前頭皮質・前帯状皮質)などの報酬系脳領域の活性化が知られてきた。しかし、どのような触感が母子双方の前頭前野を活性化させるかは明らかではない。そこで本研究では、母子双方に触覚刺激を与える実験環境を構築し、NIRS(近赤外線分光法)を用いて母子の前頭前野の活動を同時測定した。実験参加者は、NIRSプローブを前頭前野(国際10-20法に従い、左Fp1、右Fp2)に装着後、30秒間のベースライン(安静状態)後に、3種の触覚刺激(skin-to-skin contact:乳児の腰部から臀部の肌を母親が撫でる条件、おむつR:柔らかい素材で構成されたおむつを装着した乳児の腰部から臀部を母親が撫でる条件、おむつQ:おむつRよりさらに柔らかく改良された素材で構成されたおむつを装着した乳児の腰部から臀部を母親が撫でる条件)が30秒間ランダムに提示された。各触覚刺激条件は3回ずつ繰り返された。なお、本研究は長崎大学医学系倫理委員会の承認を受け、実験内容についての十分な説明を行い、書面による実験参加者の同意を得て行った。前頭前野におけるΔoxyHb値を指標に課題遂行中の脳活動を解析した結果、skin-to-skin contact及びおむつQに対する母子両方のΔoxyHb値が有意に高まった。一方、おむつRについては、母のΔoxyHb値でのみ有意な高まりが見られた。以上のことから、母子の肌と柔らかく改良された素材で構成されたおむつには、母子双方に気持ちよさを感じさせる効果があることが示唆された。
P-184(3)
過眠を主訴に来院した1型筋強直性ジストロフィーの2症例
浦田 結嘉1,片野田 和沙1,安庭 愛子1,石塚 貴周1,春日井 基文1,中村 雅之1,今西 彩2,神林 崇2,佐野 輝1
1鹿児島大学大学院医歯学総合研究科精神機能病学分野,2秋田大学医学部 神経運動器学講座 精神科学分野

1型筋強直性ジストロフィー(DM1)は、成人で最も多い筋ジストロフィー症であり、筋症状だけでなく中枢神経系を含む多臓器に多彩な症状を呈する。DM1は、19番染色体上のDMPK遺伝子の3'非翻訳領域に存在するCTG反復配列の異常伸長を原因とし、常染色体優性遺伝形式をとる。前回我々は、過眠を主訴に来院した症例とその母親において、遺伝子解析によるDM1の確定診断を行い、表現促進現象による表現型の差異について考察し報告した。今回新たに、過眠を主訴として来院しDM1の確定診断を行った症例を経験したため、遺伝子解析と表現型の差異について合わせて考察を行った。症例は32歳女性。学生時代より授業中や実習中の居眠りが出現し、23歳頃より易疲労感や握力低下を自覚していた。徐々に勤務中の居眠りが頻回となり、過眠の精査のため当科へ入院した。高次脳機能障害も疑われたため画像や神経心理学的検査を含めた精査を行った。終夜睡眠ポリグラフでは特記すべき異常所見はなく、髄液中オレキシン濃度は正常域であったが、反復睡眠潜時検査で入眠時レム期を頻回に認めた。また、両拇指に把握性ミオトニアと叩打性ミオトニアを認めたためDM1が疑われ、本人から文書による同意を得て遺伝子解析を施行した。DMPK遺伝子のCTG反復配列領域に対するTriplet repeat primed PCR法による解析の結果、CTG反復配列の異常伸長が確認されDM1と分子的に確定診断した。前回報告した母娘例と合わせて表現型の差異について比較し考察した。過眠を主訴に精神科を受診する症例の中に、中枢神経障害を合併症に有する疾患が隠れていることがあるため、これらを念頭に置き、丁寧な身体診察や詳細な家族歴の聴取を行うことが重要と考えられた。尚、遺伝子解析は鹿児島大学大学院医歯学総合研究科遺伝子解析研究倫理委員会の承認を得て行った。また、個人情報は全て匿名化し、経過や症状を一部改変し個人が特定されないよう十分に配慮した。